【元従業員によるリフォーム事業の営業秘密持出しと転職先での利用】

 

投稿日:2026年7月17日

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著者:弁護士 大野 浩之
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

営業秘密/元従業員による営業秘密の持出し

ポイント

※原告の元従業員が、転職前にリフォーム事業に関する営業秘密を持ち出し、転職先において商品開発や利益率設定等に利用したとして、不正競争防止法第2条1項7号の不正競争が認定された。
※転職先企業についても、原告データであることを容易に認識できる情報を取得・利用していたとして、同項8号の不正競争が認定された。
※もっとも、当該営業秘密は「技術上の秘密」には当たらないとして不競法5条1項及び2項の適用は否定され、損害額は5条3項に基づく使用料相当額として1500万円と認定された。
 

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所民事第26部
判決言渡日 令和2年10月1日
事件番号 平成28年(ワ)4029号
事件名 不正競争行為に基づく損害賠償等請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
杉浦 正樹
杉浦 一輝
布目 真利子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件は、リフォーム事業をその事業の一環として営む原告が、原告の元従業員であり原告退社後に被告会社に勤務した被告P1が、原告のリフォーム事業に係る営業上の秘密を原告在籍中に不正の手段により取得して被告会社へ開示し(不正競争防止法(以下「不競法」という。)第2条1項4号)、又は原告から示されて取得した当該営業秘密を図利加害目的で使用して被告会社に開示し(同項7号)、被告会社が、当該営業秘密につき、被告P1による不正取得行為が介在すること又は同人が図利加害目的で開示したことを知って又は重大な過失によりこれを知らないで取得し、自らのリフォーム事業に使用した(同項5号、8号)として、被告らに対し、以下の請求をする事案である。
 

判旨

(1)営業秘密性の有無(争点2)(以下では資料1-1についてのみ示します。)
「イ 資料1-1の情報について
(イ) 秘密管理性
a 原告においては、前記(1)エのとおりの情報管理体制が定められているところ、その内容は、原告の事業規模等を踏まえても、合理的かつ十分なものといってよい。その運用状況についても、本件に係る被告P1の行為のほか、本件遠隔操作ソフトの無断インストールのように、一部これが遵守されていないことを示す事情は見受けられるものの、無断インストールを行った者の人数は、被告P1の供述を前提としても、同人以外に原告内部で7、8名、サンキューで20~30名というのであって、運用上原告の情報管理が十分に機能していないと評価すべき程度ではない。その他原告による情報管理体制の運用が秘密管理性を否定すべき程度に形骸化していたことをうかがわせるに足りる具体的な事情はない。
 したがって、一般的には、原告において、原告セキュリティポリシーに定める『情報資産』につき、原告セキュリティポリシー及び原告管理マニュアルに基づく情報管理が行われている限り、秘密として管理されているものと認め得る程度の管理が行われていたものと認められるものといってよい。
 b 原告の標準構成明細は、原告セキュリティポリシーの定める『情報資産』に該当すると見られるところ、原告データサーバに保存された情報については原告従業員に発行されるID及びパスワードによりこれにアクセスし得る者が制限され、インスイートに掲載された情報も、開示範囲及び保存期間を通じて適切に管理されていたものといえる。紙媒体に化体された情報についても、前記aのとおり、原告セキュリティポリシー及び原告管理マニュアルに基づいた情報管理が行われていたことがうかがわれる。」

「(ウ) 非公知性
 前記(イ)の事情を踏まえれば、資料1-1の情報は、保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にあるものといってよく、公然と知られていないものといえる。この点に関する被告らの主張は採用できない。」

「(エ) 有用性」
「また、後記3(1)ウ(エ)のとおり、被告P1は、P4らに対して本件比較表を作成、開示し、当時の被告会社の粗利率の低さ等を指摘したことが認められるところ、この事実は、これらの情報が競業他社にとっては経営効率の改善等に資するものであることをうかがわせる。」

「(オ) したがって、資料1-1の情報は、●(省略)●原告の『営業秘密』に当たる。」

(2)被告らの不正競争の成否(争点3)
「ア 資料1-1の情報について
(ア) 前記(1)ウ(エ)のとおり、被告P1は、被告会社において、パッケージリフォーム商品の商品開発や仕入交渉等を単独で担当するとともに、原告の標準構成明細を使用して本件比較表及びこれに添付された標準構成明細を作成し、これをP4等に示した。また、被告P1は、原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準構成明細のテンプレート(別紙2『営業秘密目録』資料1-1-2)を作成した(前記ウ(オ))。当該テンプレートは、原告の標準構成明細の書式とかなりの程度類似する上、その備考欄上部の記載は、これが原告の標準構成明細の書式をもとに作成されたことをうかがわせる
 被告P1も、当該テンプレート作成に当たり表としては原告の標準構成明細を使用したことを認めている(被告P1本人)。
 これらの事情に加え、被告P1がP1HDDに原告の標準構成明細のデータを保存していること(前記ア(イ))に鑑みると、被告P1は、被告会社のパッケージリフォーム商品の開発に当たり、その仕入価格、粗利率、粗利金額の設定のため原告の標準構成明細記載の原告の仕入価格等の情報を参考にしていたことが合理的に推認される。また、被告P1は、被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり、原告の標準構成明細の書式を使用したことが認められる。
 したがって、被告P1による上記原告の標準構成明細の使用は、別紙2『営業秘密目録』資料1-1の情報の使用といえる。
 また、資料1-1の情報は、被告P1が原告在職中に取得したものであるところ、その当時被告P1がこれにアクセスすることは原告においても許容されていたことから、その取得に不正の手段は使用されていない。もっとも、被告P1が、被告会社への転職に向けた就職活動と時期を同じくして、複雑な手順を経て原告データサーバの情報をP1私物パソコンやP1HDDに保存したこと、被告会社で現に上記のとおりその情報を使用したことに鑑みると、被告P1による原告データサーバ上の情報の取得は、転職後に転職先でリフォーム事業に使用する意図を少なくとも含んでいたことがうかがわれる。そうすると、被告P1による上記使用行為は、被告会社のリフォーム事業にこれを使用することで被告会社の利益を増大させ、ひいては自己の評価を高める等の目的があったものと見られるのであって、不正の利益を得る目的での使用といえる。
 以上より、被告P1による資料1-1の情報の使用及び同情報に基づき作成された資料1-1-2の情報の使用は、不正競争(不競法2条1項7号1)に当たる。
(イ) 前記(1)ウ(エ)及び(1)エのとおり、被告会社共有フォルダ内に原告の標準構成明細のデータが保存されており、同フォルダを通じてP4及びP8がこれに含まれるデータを業務上使用するUSBメモリに保存している。しかも、そのフォルダ名から、当該データが、本来は被告会社にあるはずのない原告のデータであることは容易に理解し得る
 これらの事情を総合的に考慮すると、被告会社は、資料1-1の情報につき、営業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに、これを取得したものと認められる。すなわち、被告会社による資料1-1の情報の取得は、不正競争(不競法2条1項8号2)に当たる。
 他方、被告P1は、被告会社において、その在籍中は被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等を単独で担当していたものであり、その際に使用する標準構成明細も、原告の標準構成明細のデータ及び原告在籍中の被告P1の経験に基づき、他の被告会社従業員の関与のないままに作成されたものとうかがわれる。そうすると、被告会社における標準構成明細(甲86、87)について、被告会社が、被告P1の営業秘密不正開示行為により作成されたものと知っていたこと又は知らないことにつき重大な過失があると認めるに足りる証拠はない
 したがって、資料1-1-2の情報については、被告会社の行為は、不正競争(2条1項8号)に当たらない。これに反する原告の主張は採用できない。
(ウ) 被告らの主張について
 被告らは、被告会社共有フォルダに保存されていた情報であっても、それをもって被告P1の被告会社に対する開示行為とはいえない、被告P1が自ら作成又は取得した情報については、同人による不正取得ではなく、また、原告又はサンキューから示された情報ともいえない、資料1-1の情報につき、被告P1のそれまでの知識や経験に鑑みれば原告の標準構成明細やそこに記載された仕入価格等の具体的数値に係る情報を使用する必要がないなどと主張する。
 しかし、被告P1の被告会社に対する開示が認められることは前記認定のとおりである。また、被告P1が自ら作成した情報が仮にあるとしても、原告及びサンキューの企業規模をも考えた場合、被告P1がその作成及び改訂を全て単独で行っていたとは考え難く、これを裏付けるに足りる証拠もない(被告会社の標準構成明細の作成等被告会社における商品開発等に関するものは除く。)。被告P1がサンキュー在籍時に取得した情報についても、サンキュー等が原告の完全子会社となりそのグループに属するに至ったことにより原告の情報管理体制の下に置かれた以上、被告P1もこれに基づく情報管理を行わなければならないことになる。さらに、被告P1の経験等を考慮するとしても、原告の標準構成明細と被告会社の標準構成明細テンプレート(甲86)の類似性は相当に高い。加えて、本件比較表の作成に当たっては、そもそも被告P1による原告データサーバからの各種情報の取得は転職後に被告会社で使用する意図の下に行われたと見られる上、いかに被告P1の経験等を考慮しても、対応する原告の標準構成明細を実際に確認しなければ正確な数値までは再現できないと思われることから、被告P1は、これを確認したものとうかがわれる。そのような被告P1が、被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり原告の標準構成明細を敢えて参考にしないと考えることは不合理である。」

「(エ) 小括
 以上より、被告P1については、資料1-1及び1-1-2の各情報に係る不正競争(不競法2条1項7号)が認められる。
 他方、被告会社については、資料1-1の情報に係る不正競争(不競法2条1項8号)が認められる。」

(3)損害額
「(ア) 不競法5条1項の適用について
a 不競法5条1項は、本件との関係でいえば、技術上の秘密である営業秘密に係る不正競争によって営業上の利益を侵害された者の侵害者に対する損害賠償請求の場合に、侵害者が侵害行為組成物(侵害行為により生じた物を含む。不競法3条2項)を譲渡した場合のその譲渡数量に、被侵害者の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の販売等の能力に応じた額を超えない限度で、被侵害者が受けた損害の額とすることができるとしつつ、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとしている。その趣旨は、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより、従前オールオアナッシング的な認定にならざるを得なかった販売数量減少について、より柔軟な認定を行うことにある。また、その基礎には、侵害行為組成物が市場において販売・譲渡されることによって被侵害者が市場機会を喪失するという関係が定型的に認められることがある。営業秘密に係る不正競争の場合に、当該秘密が『技術上の秘密』に関するものである場合に限って不競法5条1項3の適用が認められるのも、営業秘密が『技術上の秘密』である場合には、当該情報が『物』に化体されることで侵害者と被侵害者の各商品が市場において競合する可能性があるといい得ることから、それに係る不正競争に上記のような定型的関係が認められることに基づくものと理解される
 そうすると、『技術上の秘密』とは、上記の可能性を生じさせるような技術上の情報であることを要すると解される。」
→「技術上の秘密」に当たらない→不競法5条1項は適用されない。

「(イ) 不競法5条2項の適用について
 不競法5条2項4は、不正競争によって営業上の利益を侵害された者の侵害者に対する損害賠償請求の場合に、侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額をもって被侵害者が受けた損害の額と推定するものであり、その基礎には、侵害行為により生じた侵害者の商品等と被侵害者の商品等が市場において競合する定型的な関係にあることがあるものと理解される。
 前記(ア)のとおり、標準構成明細情報及びHORP関連情報は、いずれもパッケージリフォーム商品に化体されるものではない。そうである以上、被告会社のパッケージリフォーム商品の販売による利益は、標準構成明細情報及びHORP関連情報に係る不正競争によって得た利益とはいえない。また、原告及び被告会社のいずれにおいても、標準構成明細情報又はHORP関連情報それ自体を販売するなどして利益を上げているわけではなく、その点では市場における競合もない。
 したがって、本件においては、不競法5条2項は適用されない。これに反する原告の主張は採用できない。」

「(ウ) 不競法5条3項の適用について」
「b 『受けるべき金銭の額に相当する額』の算定方法
 不競法5条3項5は、本件に関していえば、不正競争により営業上の利益を侵害された者の侵害者に対する損害賠償請求の場合に、侵害に係る営業秘密の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額として賠償請求し得るとするものである。これは、侵害行為による使用料の喪失・減少をもって逸失利益と考えられることに基礎を置く。
 ここで、使用料の支払方法については、1回払いのもの、所定の期間ごとに所定の使用料率に基づいて算定した額を定期的に支払うもの、それらを組み合わせたものなどがあるところ、上記趣旨によれば、『受けるべき金銭の額に相当する額』の算定に当たっても、侵害行為である不正競争の具体的態様に応じて合理的な支払方法に基づき算定することが相当である。」
「以上の事情を総合的に考慮すると、『受けるべき金銭の額に相当する額』(不競法5条3項)としては、標準構成明細情報及びHORP関連情報の各使用を合わせて、1500万円とするのが相当である。」


1「営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」
2「その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」
3「第二条第一項第一号から第十六号まで又は第二十二号に掲げる不正競争(同項第四号から第九号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。」
4「不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。」
5「第二条第一項第一号から第九号まで、第十一号から第十六号まで、第十九号又は第二十二号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」

解説/検討

 本判決は、営業秘密侵害の立証において、どのような間接事実の積み重ねから「使用」を認定するかを示した点で参考になる。裁判所は、元従業員が退職直前に大量のデータを私物PC等へ保存していたこと、転職先で原告資料と酷似する資料を作成していたこと、比較表の作成や商品開発に原告情報が利用されていたことなどを総合して、営業秘密の使用を認定した。
 また、損害論については、不競法第5条1項及び2項の適用範囲を限定的に解した点が参考となる。裁判所は、仕入価格や粗利率等の営業情報は商品そのものに化体される「技術上の秘密」ではなく、市場において原告商品と被告商品が直接競合する関係にもないとして、5条1項及び2項の適用を否定した。その結果、損害額は5条3項の使用料相当額によって算定された。
 本判決は、営業秘密侵害が認められても当然に侵害者利益が損害と推定されるわけではなく、営業秘密の性質によってはライセンス料相当額による賠償にとどまることを示した事例として実務上参考になる。

 

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