【音楽教室における教師による演奏について、音楽教室事業者が行為主体となり、不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対し、「聞かせることを目的」として行われるものと判断し、音楽教室における生徒の演奏について、当該生徒が演奏の主体である旨判断しつつ、「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするものとはいえないとされた事例】
投稿日:2026年8月19日 |
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著者:弁護士 木村 広行
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参照条文/キーワード/論点 |
著作権法22条/演奏権/カラオケ法理/著作物の利用主体 |
ポイント
※本判決は、音楽教室事業者ではない教師が音楽教室において行う演奏について、音楽教室を運営する控訴人らは,教師に対し,本件受講契約の本旨に従った演奏行為を,雇用契約又は準委任契約に基づく法的義務の履行として求め,必要な指示や監督をしながらその管理支配下において演奏させているといえるのであるから,教師がした演奏の主体は,規範的観点に立てば控訴人らであるというべきであると判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和3年3月18日 |
| 事件番号 | 令和2年(ネ)第10022号 |
| 事件名 | 音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
菅野 雅之
本吉 弘行 中村 恭 |
事案の概要
(原判決の事実認定による。原判決における原告らは本判決における控訴人らであり、原判決における被告は本判決における被控訴人である。別紙A~C、別紙著作物使用態様目録1~4については原判決や本判決別紙を参照。)
⑴ 当事者
ア 原告ら
原告らは,音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術・歌唱技術を教授する契約(以下「本件受講契約」という。)を締結した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目的として,雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして,または個人事業主である原告については自らが上記の教授を行うレッスンを実施する音楽教室を運営する者である。
イ 被告
被告は,著作権等管理事業法に基づく文化庁長官の登録を受けた著作権管理事業者であり,作詞者,作曲家及び音楽出版社等の著作権者から著作権等につき信託を受けるなどしてこれを管理し,各種の分野における音楽の利用者に対して,被告が管理する音楽著作物(以下「被告管理楽曲」という。)の利用を許諾し,その対価として著作物使用料を徴収するとともに,これを著作権者に分配することを主たる目的とする一般社団法人である。
⑵ 原告らの音楽教室における演奏態様
ア 全ての原告が共通して行う演奏態様は,別紙著作物使用態様目録1記載のとおりであり(以下「本件使用態様1」という。),原告らが設営した教室において,教師及び生徒が1対1の個人レッスン又は1対最大10名程度以下のグループレッスンにおいて,課題曲を教師及び生徒が演奏するものであり,録音物の再生は行われない。
イ 原告ら(別紙A)が行う態様は,別紙著作物使用態様目録2記載のとおりであり(以下「本件使用態様2」という。),上記アにおける教師及び生徒の演奏に加え,教師の伴奏の代わりに,生徒の演奏の合奏の相手とするために,市販のCD等の録音物の再生が行われる。
ウ 原告ら(別紙B)が行う態様は,別紙著作物使用態様目録3記載のとおりであり(以下「本件使用態様3」という。),上記アにおける教師及び生徒の演奏に加え,教師の伴奏の代わりに,生徒の演奏の合奏の相手とするために,マイナスワン音源の再生が行われる。
エ 原告ら(別紙C)が行う態様は,別紙著作物使用態様目録4記載のとおりであり(以下「本件使用態様4」という。),生徒の居宅において,教師及び生徒が1対1のレッスンにおいて,課題曲を教師及び生徒が演奏するものであり,録音物の再生は行われない(以下,原告ら(別紙C)が運営する音楽教室を「個人教室」という。)。
争点
⑴ 音楽教室における演奏が「公衆」に対するものであるか(争点2)
⑵ 音楽教室における演奏が「聞かせることを目的」とするものであるか(争点3)
(その他の争点については省略)
判旨
争点2(音楽教室における演奏が「公衆」に対するものであるか)及び争点3(音楽教室における演奏が「聞かせることを目的」とするものであるか)について
『ア 演奏権について
(ア) 著作権法22条は,「著作者は,その著作物を,公衆に直接(中略)聞かせることを目的として(中略)演奏する権利を専有する。」として演奏権を定めている。著作権法は,「演奏」それ自体の定義規定を置いておらず,その内容は,辞書的,日常用語的な意味に委ねていると解されるところ,その意義は「音楽を奏すること」との意味合いであると理解するのが自然である。
そして,著作権法2条1項16号は,「上演」の定義中に「演奏(歌唱を含む。以下同じ。)」と定めているから,同法22条の「演奏」の中には歌唱が含まれている。また,著作権法2条7項は,「この法律において,「上演」,「演奏」又は「口述」には,著作物の上演,演奏又は口述で録音され,又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演,演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。」と定めているから,演奏には,録音されたものの再生や電気通信設備を用いた伝達(公衆送信に該当するものは除く。)が含まれることになる。
(イ) 著作権法は,演奏行為の聴衆である「公衆」の定義規定は置いていないが,少なくとも不特定者が「公衆」に含まれることは明らかであるところ,同法2条5項は,「この法律にいう「公衆」には,特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めているから,「公衆」とは,「特定かつ少数」以外の者(不特定又は多数の者)をいうことになる。
(ウ) 著作権法22条は,演奏を「直接」聞かせることを目的とするものとしているから,演奏行為は「直接」聞かせることを目的としてされるものを指すことは明らかである。したがって,著作権法は,演奏に際して,演奏者が面前(電気通信設備を用いる伝達を含む。)にいる相手方に向けて演奏をする目的を有することを求めているといえる。
・・・
ウ 著作物の利用主体の判断基準について
・・・控訴人らの音楽教室のレッスンにおける教師又は生徒の演奏は,営利を目的とする音楽教室事業の遂行の過程において,その一環として行われるものであるが,音楽教室事業の上記内容や性質等に照らすと,音楽教室における演奏の主体については,単に個々の教室における演奏行為を物理的・自然的に観察するのみではなく,音楽教室事業の実態を踏まえ,その社会的,経済的側面からの観察も含めて総合的に判断されるべきであると考えられる。
このような観点からすると,音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては,演奏の対象,方法,演奏への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当である(最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁〔ロクラクⅡ事件最高裁判決〕参照)。
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア) 「公衆に直接」について
前記ア(イ)のとおり,著作権法22条は,演奏権の行使となる場合を「不特定又は多数の者」に聞かせることを目的として演奏することに限定しており,「特定かつ少数の者」に聞かせることを目的として演奏する場合には演奏権の行使には当たらないとしているところ,このうち,「特定」とは,著作権者の保護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域に設定しようとする同条の趣旨からみると,演奏権の主体と演奏を聞かせようとする目的の相手方との間に個人的な結合関係があることをいうものと解される。
また,同(ウ)のとおり,著作権法22条は,演奏権の行使となる場合を,演奏行為が相手方に「直接」聞かせることを目的とすることに限定しており,演奏者は面前にいる相手方に聞かせることを目的として演奏することを求めている。
さらに,自分自身が演奏主体である場合,演奏する自分自身は,演奏主体たる自分自身との関係において不特定者にも多数者にもなり得るはずはないから,著作権法22条の「公衆」は,その文理からしても,演奏主体とは別の者を指すと解することができる。
(イ) 「聞かせることを目的」について
著作権法22条は,「聞かせることを目的」として演奏することを要件としている。この文言の趣旨は,「公衆」に対して演奏を聞かせる状況ではなかったにもかかわらず,たまたま「公衆」に演奏を聞かれた状況が生じたからといって(例えば,自宅の風呂場で演奏したところ,たまたま自宅近くを通りかかった通行人にそれを聞かれた場合),これを演奏権の行使とはしないこと,逆に,「公衆」に対して演奏を聞かせる状況であったにもかかわらず,たまたま「公衆」に演奏を聞かれなかったという状況が生じたからといって(例えば,繁華街の大通りで演奏をしたところ,たまたま誰も通りかからなかった場合),これを演奏権の行使からは外さない趣旨で設けられたものと解するのが相当であるから,「聞かせることを目的」とは,演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らし,演奏者に「公衆」に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる場合をいい,かつ,それを超える要件を求めるものではないと解するのが相当である。
(ウ) 本件について
前記(ア)及び(イ)によると,演奏権の行使となるのは,演奏者が,①面前にいる個人的な人的結合関係のない者に対して,又は,面前にいる個人的な結合関係のある多数の者に対して,②演奏が行われる外形的・客観的な状況に照らして演奏者に上記①の者に演奏を聞かせる目的意思があったと認められる状況で演奏をした場合と解される。
本件使用態様1ないし4のとおり,控訴人らの音楽教室で行われた演奏は,教師並びに生徒及びその保護者以外の者の入室が許されない教室か,生徒の居宅であるから,演奏を聞かせる相手方の範囲として想定されるのは,ある特定の演奏行為が行われた時に在室していた教師及び生徒のみである。すなわち,本件においては,一つの教室における演奏行為があった時点の教師又は生徒をとらえて「公衆」であるか否かを論じなければならない。
オ 以下,前記の基本的考え方を前提に,教師による演奏行為及び生徒による演奏行為がそれぞれ「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」行われたものに当たるかについて検討する。
⑵ 教師による演奏行為について
ア 教師による演奏行為の本質について
引用に係る原判決の第2の3⑴アのとおり,控訴人らは,音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目的として,雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行うレッスンを実施している。
そうすると,音楽教室における教師の演奏行為の本質は,音楽教室事業者との関係においては雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行として,生徒との関係においては本件受講契約に基づき音楽教室事業者が負担する義務の履行として,生徒に聞かせるために行われるものと解するのが相当である。
・・・
ウ 演奏主体について
(ア) 控訴人らのうち,教師を兼ねる個人事業者たる音楽教室事業者や,個人教室を運営する各控訴人(別紙C)らが教師として自ら行う演奏については,その主体が音楽教室事業者である当該控訴人らであることは,明らかである。
そこで,以下,音楽教室事業者ではない教師が音楽教室において行う演奏について検討する。
(イ) 前記アのとおり,控訴人らは,生徒との間で締結した本件受講契約に基づく演奏技術等の教授の義務を負い,その義務の履行のために,教師との間で雇用契約又は準委任契約を締結し,教師は,この雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行として,控訴人らのために生徒に対してレッスンを行っているという関係にある。そして,教師の演奏(録音物の再生を含む。)は,前記イのとおり,そのレッスンの必須の構成要素であり,音楽教室事業者である控訴人らが音楽教室において教師の演奏が行われることを知らないはずはないといえるし,そのレッスンにおける教師の指導は,音楽教育の指導として当然の手法であって,本件受講契約の本旨に従ったものといえる。また,音楽教室事業者である控訴人らは,その事業運営上の必要性から,雇用契約を締結している教師については当然として,準委任契約を締結した教師についても,その資質,能力等の管理や,事業理念及び指導方針に沿った指導を生徒に行うよう指示,監督を行っているものと推認され,控訴人らに共通する事実のみに従った判断を求める本件事案の性質上,これに反する証拠は提出されていない。さらに,教師の演奏が行われる音楽教室は,控訴人らが設営し,その費用負担の下に演奏に必要な音響設備,録音物の再生装置等の設備が設置され,控訴人らがこれらを占有管理していると推認され,上記同様に,これに反する証拠は提出されていない。
以上によれば,控訴人らは,教師に対し,本件受講契約の本旨に従った演奏行為を,雇用契約又は準委任契約に基づく法的義務の履行として求め,必要な指示や監督をしながらその管理支配下において演奏させているといえるのであるから,教師がした演奏の主体は,規範的観点に立てば控訴人らであるというべきである。
・・・
エ 「公衆に直接(中略)聞かせることを目的として」について
(ア) 前記⑴エ(ア)のとおり,演奏権の行使に当たるか否かの判断は,演奏者と演奏を聞かせる目的の相手方との個人的な結合関係の有無又は相手方の数において決せられるところ,この演奏者とは,著作権者の保護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域に設定しようとする著作権法22条の趣旨からみると,演奏権の行使について責任を負うべき立場の者,すなわち演奏の主体にほかならない。
そうすると,前記ウ(イ)のとおり,音楽教室における演奏の主体は,教師の演奏については控訴人ら音楽教室事業者であり,教師の演奏行為について教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがなく,生徒に聞かせるために演奏していることは明らかであるから,実際の演奏者である教師の演奏行為が「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏されたものであるといえるかは,規範的観点から演奏の主体とされた音楽教室事業者からみて,その顧客である生徒が「特定かつ少数」の者に当たらないといえるか否かにより決せられるべきこととなる。
(イ) そこで検討するに,引用に係る原判決の第2の3⑴アによると,生徒が控訴人らに対して受講の申込みをして控訴人らとの間で受講契約を締結すれば,誰でもそのレッスンを受講することができ,このような音楽教室事業が反復継続して行われており,この受講契約締結に際しては,生徒の個人的特性には何ら着目されていないから,控訴人らと当該生徒が本件受講契約を締結する時点では,控訴人らと生徒との間に個人的な結合関係はなく,かつ,音楽教室事業者としての立場での控訴人らと生徒とは,音楽教室における授業に関する限り,その受講契約のみを介して関係性を持つにすぎない。そうすると,控訴人らと生徒の当該契約から個人的結合関係が生じることはなく,生徒は,控訴人ら音楽事業者との関係において,不特定の者との性質を保有し続けると理解するのが相当である。
したがって,音楽教室事業者である控訴人らからみて,その生徒は,その人数に関わりなく,いずれも「不特定」の者に当たり,「公衆」になるというべきである。音楽教室事業者が教師を兼ねている場合や個人教室の場合においても,事業として音楽教室を運営している以上は,受講契約締結の状況は上記と異ならないから,やはり,生徒は「不特定」の者というべきである。
これに対し,控訴人らは,前記第2の5⑴イ(ア)ないし(オ)のとおり,①「特定」の者に当たるか否かは受講契約締結後の時点も含めて判断すべきであり,控訴人らが生徒と本件受講契約を締結し,受講を開始して以降の個人的な結合関係の形成の有無を基に認定すべきである,②音楽教室における教師の演奏及び録音物の再生は,全て個性のある演奏であり,レッスンでの演奏を聞く者は現にそのレッスンの行われている教室内にいる者のみであることから,「公衆」に対するものかどうかは,教室内の人数で決せられるべきである,③レッスンの場に演奏者以外の聴衆(公衆)はいないので,公衆に対する演奏には当たらない,④音楽教室におけるレッスンは,生徒が発表会等において他人に聞かせる準備として行うものなので,毎回のレッスンでの演奏について著作物利用料は発生しない旨主張する。
しかしながら,上記①については,音楽教室事業者の地位にある控訴人らと生徒とのつながりは,不特定者を相手方として形成された有償契約たる本件受講契約上の当事者間の関係を出ないのであり,音楽教室における授業の中で教師と生徒とが接点を持つ限り,その性質が変容するものではなく,この点は,音楽教室事業者が教師の地位を兼有しているとしても変わりはない。もとより,教師が生徒との間で個人的信頼関係を形成し,教室外で,音楽教室の指導を離れて生徒の教授に当たること等の個人的な結合関係を醸成することはあり得ることであるが,そのような過程で演奏が行われることがあるとしても,そのような演奏は,そもそも本件において審理の対象となっている音楽教室における演奏というべきではなく,当裁判所の判断の対象には当たらない。したがって,控訴人らの上記①の主張を採用することはできない。
また,たとえ生徒が1名であっても当該生徒は音楽教室事業者からみると不特定の者として「公衆」に該当するから,控訴人らの上記②の主張は,何ら結論を左右し得ないし,教師の演奏について生徒という「公衆」がいることは前示のとおりであるから,上記③の主張も採用することはできない。そして,本件受講契約の履行としての教師による演奏と生徒による発表会等の演奏とはその性質を全く異にするものであることは明らかであるから,上記④主張も採用することができない。
(ウ) 次に,「聞かせることを目的」とする点につき検討するに,・・・控訴人らの音楽教室におけるレッスンは,教師又は再生音源による演奏を行って生徒に課題曲を聞かせることと,これを聞いた生徒が課題曲の演奏を行って教師に聞いてもらうことを繰り返す中で,演奏技術等の教授を行うものであるから,教師又は再生音源による演奏が公衆である生徒に対し聞かせる目的で行われていることは,明らかである。
・・・
オ 小活
以上によれば,教師による演奏については,その行為の本質に照らし,本件受講契約に基づき教授義務を負う音楽行為事業者が行為主体となり,不特定の者として「公衆」に該当する生徒に対し,「聞かせることを目的」として行われるものというべきである。
⑶ 生徒による演奏行為について
ア 生徒による演奏行為の本質について
引用に係る原判決の第2の3⑴ア及び前記⑵アに照らせば,控訴人らは,音楽を教授する契約及び楽器の演奏技術等を教授する契約である本件受講契約を締結した生徒に対して,音楽及び演奏技術等を教授することを目的として,雇用契約又は準委任契約を締結した教師をして,その教授を行うレッスンを実施している。
そうすると,音楽教室における生徒の演奏行為の本質は,本件受講契約に基づく音楽及び演奏技術等の教授を受けるため,教師に聞かせようとして行われるものと解するのが相当である。
・・・
また,音楽教室においては,生徒の演奏は,教師の指導を仰ぐために専ら教師に向けてされているのであり,他の生徒に向けてされているとはいえないから,当該演奏をする生徒は他の生徒に「聞かせる目的」で演奏しているのではないというべきであるし,自らに「聞かせる目的」のものともいえないことは明らかである(自らに聞かせるためであれば,ことさら音楽教室で演奏する必要はない。)。被控訴人は,生徒の演奏技術の向上のために生徒自身が自らの又は他の生徒の演奏を注意深く聞く必要があるとし,書証(乙57の58頁)や証言(原審証人Q15頁)を援用するが,自らの又は他の生徒の演奏を聴くことの必要性,有用性と,誰に「聞かせる目的」で演奏するかという点を混同するものといわざるを得ず,採用し得ない。
イ 演奏態様について
レッスンは,別紙著作物使用態様目録1(本件使用態様1)に記載のとおり,控訴人らが設営した教室で行われ(ただし同目録4(本件使用態様4)の場合は生徒の居宅で行われる。),生徒は,教師の面前で,時には教師の伴奏を受けながら,課題曲を数小節ごとに区切って演奏し,教師から演奏上の課題及び注意を説明され,当該指導を聞いた上で再度演奏することを繰り返し,課題達成の確認のための演奏をするというものであり,演奏に際して利用される楽譜(課題曲が掲載されたものであり,グループレッスンにおいてはクラスの生徒を通じて同一のもの)は生徒が事前に購入してきたものである。
・・・
ウ 演奏主体について
(ア) 前述したところによれば,生徒は,控訴人らとの間で締結した本件受講契約に基づく給付としての楽器の演奏技術等の教授を受けるためレッスンに参加しているのであるから,教授を受ける権利を有し,これに対して受講料を支払う義務はあるが,所定水準以上の演奏を行う義務や演奏技術等を向上させる義務を教師又は控訴人らのいずれに対しても負ってはおらず,その演奏は,専ら,自らの演奏技術等の向上を目的として自らのために行うものであるし,また,生徒の任意かつ自主的な姿勢に任されているものであって,音楽教室事業者である控訴人らが,任意の促しを超えて,その演奏を法律上も事実上も強制することはできない。
確かに,生徒の演奏する課題曲は生徒に事前に購入させた楽譜の中から選定され,当該楽譜に被告管理楽曲が含まれるからこそ生徒によって被告管理楽曲が演奏されることとなり,また,生徒の演奏は,本件使用態様4の場合を除けば,控訴人らが設営した教室で行われ,教室には,通常は,控訴人らの費用負担の下に設置されて,控訴人らが占有管理するピアノ,エレクトーン等の持ち運び可能ではない楽器のほかに,音響設備,録音物の再生装置等の設備がある。しかしながら,前記アにおいて判示したとおり,音楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導を受けること自体にあるというべきであり,控訴人らによる楽曲の選定,楽器,設備等の提供,設置は,個別の取決めに基づく副次的な準備行為,環境整備にすぎず,教師が控訴人らの管理支配下にあることの考慮事情の一つにはなるとしても,控訴人らの顧客たる生徒が控訴人らの管理支配下にあることを示すものではなく,いわんや生徒の演奏それ自体に対する直接的な関与を示す事情とはいえない。
このことは,現に音楽教室における生徒の演奏が,本件使用態様4の場合のように,生徒の居宅でも実施可能であることからも裏付けられるものである。
以上によれば,生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意かつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法について一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受けるための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒であるというべきである。
(イ) これに対して,被控訴人は,引用に係る原判決の第3の2〔被告の主張〕⑴エ(イ)及び(ウ)並びに前記第2の5⑵ア(ウ)のとおり,音楽教室における生徒の演奏は,①控訴人らとの間で締結した本件受講契約におけるレッスンの一環としてされるものであり,レッスンの受講と無関係に演奏するものではないこと,②教師の指導の下,教育効果の観点から必要と考えられる場合にその限度でされること,③本件受講契約によって特定されたレッスンで使用される楽譜において課題曲として指定された音楽著作物を,教師の指導・指示の下で演奏することを原則とするものであること,④控訴人らが費用を負担して設営した教室において,控訴人らの管理下にある音響設備,録音物の再生装置等,録音物,楽器等を利用してされるものであること,⑤音楽教室事業が音楽著作物を利用せずに楽器の演奏技術を教授することは不可能であることに照らすと,本件受講契約に基づき支払う受講料の中に,音楽著作物の利用の対価部分が含まれていることに照らせば,生徒の演奏についても音楽教室事業者である控訴人らによる管理・支配及び利益の帰属が認められ,演奏の主体は控訴人らである旨主張する。
しかしながら,上記①ないし④において控訴人が主張する事情から直ちに,生徒が任意にする演奏の主体を音楽教室事業者であると評価することができないことは,前記説示から明らかである。なお,被控訴人は,前記第2の5⑵ア(イ)のとおり,カラオケ店における客の歌唱の場合と同一視すべきである旨主張するが,その法的位置付けについてはさておくにしても,カラオケ店における客の歌唱においては,同店によるカラオケ室の設営やカラオケ設備の設置は,一般的な歌唱のための単なる準備行為や環境整備にとどまらず,カラオケ歌唱という行為の本質からみて,これなくしてはカラオケ店における歌唱自体が成り立ち得ないものであるから,本件とはその性質を大きく異にするものというべきである。
さらに,上記⑤において被控訴人が主張する事情については,レッスンにおける生徒の演奏についての音楽著作物の利用対価が本件受講契約に基づき支払われる受講料の中に含まれていることを認めるに足りる証拠はないし,また,いずれにしても音楽教室事業者が生徒を勧誘し利益を得ているのは,専らその教授方法や内容によるものであるというべきであり,生徒による音楽著作物の演奏によって直接的に利益を得ているとはいい難い。
したがって,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。
(ウ) そのほかに被控訴人らが生徒の演奏行為に係る演奏主体について主張する点は,いずれもその前提を異にする,あるいは理由がないものであるから,前記判断を左右し得ない。
エ 小括
以上のとおり,音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒であるから,その余の点について判断するまでもなく,生徒の演奏によっては,控訴人らは,被控訴人に対し,演奏権侵害に基づく損害賠償債務又は不当利得返還債務のいずれも負わない(生徒の演奏は,本件受講契約に基づき特定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行われるものであるから,「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするものとはいえず,生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解される。)。
なお,念のために付言すると,仮に,音楽教室における生徒の演奏の主体は音楽事業者であると仮定しても,この場合には,前記アのとおり,音楽教室における生徒の演奏の本質は,あくまで教師に演奏を聞かせ,指導を受けることにある以上,演奏行為の相手方は教師ということになり,演奏主体である音楽事業者が自らと同視されるべき教師に聞かせることを目的として演奏することになるから,「公衆に直接(中略)聞かせる目的」で演奏されたものとはいえないというべきである(生徒の演奏について教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがない。また,他の生徒や自らに聞かせる目的で演奏されたものといえないことについては前記アで説示したとおりであり,同じく事業者を演奏の主体としつつも,他の同室者や客自らに聞かせる目的で歌唱がされるカラオケ店(ボックス)における歌唱等とは,この点において大きく異なる。)。』
解説/検討
本判決によれば、音楽教室における生徒の演奏の主体は当該生徒となるから、生徒の演奏について、音楽教室事業者が当該演奏について演奏権侵害の責任を負うことはないことになる。この点、本件では、本判決後、最判令和4年10月24日・令和3年(受)第1112号において、「レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない」として、音楽教室における生徒の演奏の主体が音楽教室事業者ではない旨判断されており、本判決の判断が維持されている。
また、本判決は、生徒の演奏は,本件受講契約に基づき特定の音楽教室事業者の教師に聞かせる目的で自ら受講料を支払って行われるものであるから,「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」とするものとはいえず,生徒に演奏権侵害が成立する余地もないと解されると指摘しており、生徒の演奏について、主体が生徒であると解しても、仮に音楽教室事業者であると解しても、いずれにしても、生徒の音楽教室における演奏については演奏権侵害が成立しないものと考えられる。
