【Tシャツ用イラストについて著作権侵害・商標権侵害をともに認めた事例】
投稿日:2026年6月30日 |
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著者:弁護士 大野 浩之
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参照条文/キーワード/論点 |
著作物性/Tシャツデザイン |
ポイント
裁判所は、Tシャツに使用されるイラストであっても、「実用品の機能」と分離して美的特性を把握できるとして著作物性を認め、被告イラストについて翻案権侵害を肯定した。また、原告が当該イラストをブランド表示として継続利用していた事情を重視し、Tシャツ中央の図柄についても「商標的使用」に当たるとして商標権侵害を認定した。
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判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第29部 |
| 判決言渡日 | 令和5年9月29日 |
| 事件番号 | 令和3年(ワ)第10991号 |
| 事件名 | 損害賠償請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
國分 隆文
間明 宏充 バヒスバラン 薫 |
事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、被告が販売するTシャツに付したイラストが原告の著作権侵害、商標権侵害等にあたるとして、差止等を請求した事案である。
[被告イラスト目録]


[原告イラスト目録](原告イラスト2)

[商標権目録]

[原告製品目録]

判旨
1 争点1(原告イラスト2の著作物性並びに著作権及び著作者人格権の帰属)について
(1)著作物性について
ア 原告イラスト2が「著作物」として保護されるためには、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であることが必要であるところ、著作権等の成立に審査及び登録を要せず、著作権等の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下において、上記の要件を充たすといえるためには、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解される(最高裁平成10年(受)第332号同12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁参照)。
そして、原告イラスト2は、実用性を有する有体物であるTシャツ等に印刷して利用することが予定されているところ(前提事実(4))、このような場合に上記の要件を充たすか否かを判断するに当たっては、実用性が当該有体物の機能に由来することに鑑み、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるか否かという基準によるのが相当である。
これを原告イラスト2についてみると、証拠(甲2、10)によれば、原告イラスト2は、Tシャツ等の衣類の胸元等に印刷されていたことが認められるところ、当該Tシャツ等が上衣として着用して使用するための構成を備えていたとしても、イラストとしての美的特性が変質するものではなく、また、当該Tシャツ等が店頭等に置かれている場合はもちろん、実際に着用されている場合であっても、その美的特性を把握するのに支障が生じるものでもないから、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美術鑑賞の対象となる美的特性を把握することが可能であるといえ、上記の要件を充たすものと認められる。
イ さらに、著作権法は、「著作物」について、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)と規定しているから、原告イラスト2が著作物性を有すると認められるには、同要件を充たす必要がある。
そこで検討すると、原告イラスト2は、水に浮かぶビーチマットの上で、サングラスをかけた水着姿の女性が、ハイヒールを履いたまま、うつ伏せで寝そべる様子をイラストにしたものである。そして、原告イラスト2は、①女性とビーチマットの輪郭を、あえて太目で丸みを帯びた黒線で描くとともに、細かい光の加減等による色味の差を捨象し、平面的で単一的な彩色を採用することにより、レトロ感とポップ感を表現し、イラストに明快な存在感を与えている点、②ビーチマットの下部に水や波を直接描かず、同ビーチマットの下部を波型に切り取ることにより、同ビーチマットが水に浮かんでいることを表現している点、③女性が足を前後させて、遠くを見ている仕草をあえて背後から描き、リゾート地で女性がリラックスしているという印象を与えている点、④女性の足元には、裸足やビーチサンダルではなく、あえてハイヒールを描き、常識に縛られないイメージを表現している点において、選択の幅がある中から作成者によって敢えて選ばれた表現であるということができるから、作成者の思想又は感情が創作的に表現されていると認められる。
したがって、原告イラスト2については、上記の要件を充たすものと認められる。
ウ 以上によれば、原告イラスト2は、著作権法2条1項1号の「著作物」に該当し、著作物性が認められるというべきである。
2 争点2(著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)侵害の有無)について
(1)複製権侵害及び翻案権侵害の判断枠組み
著作物の複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。
そうすると、被告イラストが原告イラスト2を複製又は翻案したものに当たるというためには、被告イラストが原告イラスト2に依拠し、原告イラスト2と被告イラストとの間で表現が共通し、その表現が創作性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要であり、原告イラスト2と被告イラストにおいて、アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合には、被告イラストは原告イラスト2を複製又は翻案したものに当たらないと解するのが相当である。
(2)創作的表現が共通するかについて
ア 前提事実(4)及び(5)によれば、原告イラスト2と被告イラストは、次の表現の点で共通していると認められる。
①サングラスをかけ、ハイヒールを履いたビキニ姿の女性が、うつ伏せでビーチマットの上に寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げて、左右の足を前後させ、頭部を上記ビーチマットから浮かせ、頭部は画面奥に向く体勢をとっている点
②上記の体勢をとった女性を右後方から見た図を描いている点
③ビーチマットの下部には水や波が直接描かれておらず、ビーチマットの下部が波型に切り取られている点
④女性とビーチマットの輪郭線は、いずれも太めの黒線で描かれている点
⑤女性の体、髪の毛、水着、ビーチマット、ハイヒールの色は、光の加減等による色味の差がなく、単一の彩色が使用されている点
上記①ないし⑤の共通点は、いずれも、アイデアにとどまらず、具体的な表現における共通点であるといえ、前記1(1)イにおいて説示したとおり、これらの共通する表現には原告の創作性が認められる。


イ これに対し、被告は、原告イラスト2と被告イラストには、色彩の違いがあることから、被告イラストから原告イラスト2の創作的表現を直接感得することはできないと主張する。
しかし、前記アのとおり、原告イラスト2と被告イラストは、多数の創作的表現が共通していることから、被告の主張する色彩の違いのみによって、原告イラスト2の本質的特徴が色あせた状態となり、それを直接感得することができなくなるとまでは認められない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(3)依拠の有無について
前記(2)において説示したとおり、原告イラスト2と被告イラストには、①ないし⑤の共通点が認められ、これらの点が全て偶然一致することは考え難いこと、原告イラスト2は、平成29年末頃に作成されたのに対し、被告イラストが印刷された被告製品は令和元年9月に発売されたこと(前提事実(4)及び(5))に照らすと、被告イラストは原告イラスト2に依拠して作成されたものと認めるのが相当である。
(4)翻案権侵害の成否について
以上によれば、被告イラストの作成について、原告の原告イラスト2に係る翻案権侵害が成立するものと認められる。
3 争点4(原告商標と被告標章の類比)について
(1)商標の類比の判断枠組み
商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、①商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、③商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2)原告商標及び被告標章について
ア 原告商標について
原告商標の構成は、別紙商標権目録記載の「登録商標」記載のとおりであり、黒色のサングラスをかけ、赤い靴を履いた黒色のビキニ姿の女性が、水の上に浮かぶ赤色のビーチマットの上にうつ伏せで寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げて、頭部は画面奥に向く体勢をとっている様子が描かれている。この絵柄からは、「水の上に浮かぶビーチマットに寝そべる女性」という観念が生じるが、特定の称呼は生じないものと認められる。
イ 被告標章について
被告標章の構成は、別紙被告イラスト目録記載のとおりであり、中心部に、黒色のサングラスをかけ、オレンジ色のハイヒールを履いた水色のビキニ姿の女性が、水の上に浮かぶ、同ハイヒールと同色のビーチマットの上にうつ伏せで寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げ足を前後し、頭部は画面奥に向く体勢をとっている様子が描かれた絵柄部分と、右下において、斜め右上がり方向に記載された「SOLVANG」の文字部分からなる結合標章である。
被告標章の構成中、絵柄部分は、中心に大きく描かれているのに対し、文字部分は右下において図形部分と重なることなく配置されているから、絵柄部分と文字部分とでは、商標全体に占める大きさ、態様が異なっており、視覚的に分離して把握されるものであるといえる。また、絵柄部分と文字部分が観念的に密接な関連性を有しているとは認められないし、一連一体として何らかの称呼が生じるとも認められない。これらの事情を考慮すると、絵柄部分と文字部分が分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められない。そして、絵柄部分は、被告標章の約8割を占めている上、中心に大きく描かれ、オレンジ色や水色といった明るい色で採色されているのに対し、文字部分は、欧文字からなる上、日常的に馴染みがある言葉ではなく、必ずしもその意味を理解することが容易な語とはいえないことからすると、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるのは絵柄部分であるといえ、被告標章のうち、絵柄部分のみ抽出し、原告商標との類否を判断することも許されると解するのが相当である。
そして、被告標章の絵柄部分からは、「水の上に浮かぶビーチマットに寝そべる女性」という観念が生じるが、特定の称呼は生じないものと認められる。
ウ 対比について
(ア)被告製品はTシャツであるところ、Tシャツは、第25類「被服」に該当するから、原告商標の指定商品と被告製品は類似する。
(イ)商標の類否判断は、対比する両商標を時と所を異にして離隔的に観察する場合に混同を生じるかどうかという方法によるべきであるところ、これを前提に検討すると、原告商標と被告標章の絵柄部分は、女性の靴の形状、靴、ビキニ及びビーチマットの色並びに膝から下の脚の角度が違うとの相違点があるものの、いずれも、黒色のサングラスをかけ、靴を履いたビキニ姿の女性が、水の上に浮かぶビーチマットの上にうつ伏せで寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げて、頭部は画面奥に向く体勢をとっている点で共通し、需要者に対して共通の印象を与えるといえるから、外観は類似しているといえる。
また、前記ア及びイで説示したとおり、原告商標と被告商標の絵柄部分の観念は、いずれも「水の上に浮かぶビーチマットに寝そべる女性」であって、同一である。
以上を総合して全体的に考察すると、原告商標と被告標章との間において誤認混同のおそれがあるといえる。
(ウ)被告は、原告商標が付された商品と被告製品の販売チャネルは相違しているから、原告商標が付された商品と被告製品の出所の誤認混同は起こらないなどと主張する。
しかし、前提事実(4)イのとおり、原告は、他のアパレル会社等とコラボレーションをし、原告イラスト2の色彩を改変し、同イラストの右下にコラボレーションをしたアパレル会社のブランド名を記載し、Tシャツ等の胸元に印刷して販売することがあったのであるから、需要者が、被告製品を、原告ブランドとのコラボレーション商品であると誤認してこれを購入する可能性を否定できず、原告商標が付された商品と被告製品の販売チャネルが相違していることをもって、原告商標が付された商品と被告製品の出所の誤認混同は起こらないとはいえない。
したがって、被告の主張に理由はない。
4 争点5(商標的使用該当性)について
(1)証拠(甲10、12の2、12の4、12の5、12の6、13の3、14の2、14の3)によれば、原告は、原告ブランドの店舗開店当初から、原告商標を、同店舗のポスター、看板、Tシャツ、パーカー、アクセサリー等に印刷して使用していたこと、令和元年頃には、横浜、東京、千葉、名古屋等に常設又は臨時店舗を開設し、同店舗及びオンラインショップで、原告商標が印刷された商品を販売していたことが認められる。
また、前提事実(4)イのとおり、原告は、他のアパレル会社等とコラボレーションをし、原告商標を改変したり、同イラストの下部又は右下部にコラボレーションをしたアパレル会社のブランド名を記載したりしたものをTシャツ等の胸元に印刷して、販売することがあった。
これらの事実に照らせば、原告商標は、これを付した製品の出所を示すものとして、一定の知名度を有していたと認められる。
そして、被告は、前記4のとおり、原告商標と誤認混同のおそれがある被告標章を、前提事実(5)のとおり、被告製品に付して使用していたのであるから、被告標章の使用は、自他識別機能を果たす態様での使用であるといえ、商標的使用に該当するというべきである。
(2)これに対し、被告は、被告製品は被告標章が胸部の中央に大きく印刷されたものであるところ、需要者は、通常、Tシャツの首後ろ部に印刷された被告シリーズの名称や、被告製品販売時に付された紙製のタグにより被告製品の出所を認識するから、被告標章により出所を認識するものではなく、被告標章は自他商品識別機能を果たさない態様で使用されていたと主張する。
しかし、商標がTシャツの首後ろ部の表示やタグだけではなく、胸元に大きく付された商品も多く存在すると認められること(当裁判所に顕著な事実)に照らすと、需要者がTシャツの首後ろ部に印刷された名称や紙製のタグにより被告製品の出所を認識するとの事実を直ちに認めることはできないというべきであり、本件全証拠によっても、被告主張の事実を認めることはできない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
5 争点6(損害の発生の有無及び額)について
(1)著作権侵害による原告の逸失利益
ア 譲渡数量
前提事実(5)のとおり、被告は被告製品を合計468枚販売した。
イ 1枚当たりの利益額
証拠(甲7、8、32、34、39ないし44)及び弁論の全趣旨によれば、原告のTシャツ1着当たりの販売額及びTシャツの製造・輸送に係る変動経費は次のとおりであり、単位数量当たりの利益額は5178円(6380円-336円-330円-110円-11円-303円-11円-101円=5178円)となると認められる。
(ア)販売額 6380円/1枚
(イ)Tシャツ本体の原価 336円/1着
(ウ)印刷費用 330円/1着
(エ)製品タグ縫付け 110円/1着
(オ)輸送費 11円/1着
(カ)賃料 14万1900円/468着
(303円/1着。円未満切り捨て。以下同じ。)
(キ)ポイントカード協賛金 5390円/468着(11円/1着)
(ク)クレジットカード費用 4万7300円/468着(101円/1着)
ウ 販売することができないとする事情
被告は、①原告製品と被告製品とでは需要者層が異なる、②原告イラスト2には顧客吸引力がないとの理由から、原告が468着の原告製品を販売することができない事情があると主張する。
①については、証拠(甲16、乙28)によれば、原告製品は、主に都市部のショッピングセンターにおいて、5800円(定価)で販売されているのに対し、被告製品は、主に地方都市の大型ショッピングセンターにおいて、1990円(定価)で販売されていたこと、原告製品は値引きされることが一切なかったのに対して、被告製品は、売れ行きが悪い場合には値引きをされており、その結果被告製品の平均販売価格は1183円であったことが認められ、これらの事情を考慮すると、原告製品と被告製品の需要者層には一定の違いがあるといえ、この点は「販売することができない事情」として考慮されるべきである。
また、②については、原告が原告製品の販売数を立証する客観的証拠を紛失したため(弁論の全趣旨)、原告製品の販売数は明らかになっていないこと、証拠(乙17、28)によれば、令和元年8月1日から令和2年4月15日までの間における被告シリーズ全体の平均販売価格が1263円であったのに対し、被告製品は1191円であって、被告シリーズ全56種類の中で33番目と比較的低い平均販売価格であり、値引率の高い商品であったとうかがわれること、被告シリーズのTシャツの仕入数量に対する販売数量の割合は、全体の平均値が91.1%であるのに対し、被告製品の割合は93%であり、被告シリーズの中で37番目と高い割合ではなかったことが認められ、これらの事情に照らすと、原告イラスト2の翻案物である被告イラストを付した被告製品は、被告シリーズの他のTシャツに比べて、売れ行きが良かったとはいえないから、原告イラスト2に特別な顧客吸引力はなかったと認めるのが相当である。
他方で、証拠(乙18ないし28)によれば、被告は、有名な俳優やタレントを起用し、店頭配布用のフリーペーパー、店頭タペストリー、動画配信等により、被告ブランドの宣伝をしていたこと、平成27年以降、被告ブランドが終了した年の前年に至るまでに被告が被告ブランドの広告宣伝にかけた費用は毎年1億円を超えていること、被告ブランドの製品は、少なくとも平成28年頃には、多数のファッション誌に掲載されていたことが認められることから、被告の顧客獲得の努力や被告ブランドの顧客吸引力の高さが被告製品の売上に一定程度貢献したといえ、この点は「販売することができないとする事情」として重視されるべきである。なお、被告は、令和2年10月に被告ブランドを終了しているところ、これは、令和2年4月頃からコロナ禍による大型ショッピングモールの休業等により売上が減少したことが影響したものであると認められる(乙28、弁論の全趣旨)から、被告ブランド終了の事実によって上記の貢献の事実が否定されるものではない。
以上の事情を考慮し、被告製品の譲渡数量の70%については原告が販売することができない事情があったものと認めるのが相当である。
オ 損害額
以上に基づいて算定すると、468着×5178円×0.3=72万6991円が被告による著作権侵害によって原告が受けた損害の額となる(著作権法114条1項)。
(2)同一性保持権侵害による損害
前記3のとおり、被告イラストは、原告イラスト2に対し、女性の髪形、足の角度が左右逆である点並びに女性の髪、ビーチマット、ハイヒール、水着、肌の色が変更されているにすぎないものの、原告イラスト2を改変した被告イラストを、原告製品よりも価格が4000円程度安い被告製品に印刷して販売されることにより、原告のブランドに対する高価なイメージが毀損されることはあり得ること、他方で、被告製品の販売期間が1年にも満たないこと、被告製品は468着が販売されたにすぎないことを考慮すると、被告による同一性保持権侵害によって原告が被った無形損害の額は、10万円と認めるのが相当である。
なお、本件において、原告の商標権侵害による損害額が著作権等侵害による損害額よりも多額になることを認めるに足りる事情は認められない。
解説/検討
本件は、Tシャツ用イラストについて、著作権侵害と商標権侵害の双方を認めた点に特徴がある事案である点で、意義がある。
まず、著作権法上、本件イラストはTシャツに印刷されることが予定された「応用美術」であるが、裁判所は、Tシャツという実用品の機能とは独立して、美術鑑賞の対象となる美的特性を把握できるとして、著作物性を認めた。近時の裁判例においては、応用美術について比較的柔軟に著作物性を認める傾向がみられるが、本件もその流れに沿うものといえる。
また本件では、原告が当該イラストを継続的にブランド表示として利用し、店舗・オンラインショップ・コラボ商品等で広く展開していた事情を認定した上で商標権侵害が認定されている。そのため、単なる装飾的デザインではなく、「商品の出所表示」として機能していると判断された点でも参考になる。
また、販売価格の違いを考慮して、被告製品の譲渡数量の70%については原告が販売することができない事情があったとしている点は、参考になる。
