【本件映像の著作物性及び「映画の著作物」該当性、本件映像の著作者、本件映像についての「映画製作者」、並びに本件映像の著作権の帰属をそれぞれ判断した事例】

 

投稿日:2026年5月14日

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著者:弁護士 木村 広行
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

映画の著作物/映画製作者/著作権法2条1項10号/著作権法2条3項/著作権法10条1項7号/著作権法16条/著作権法29条1項

 

ポイント

※本判決は、てんかん発作の13症例に関する別個のアニメーション映像から構成される本件映像につき、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で作成されたものであり、かつ、思想又は感情を創作的に表現したものであり、本件書籍の付属物として、DVDに固定されたものであるとして、著作権法2条3項にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」に当たり、映画の著作物(同法10条1項7号)であると認められると判断した。
※本判決は、本件映像の制作に当たり、絵コンテ、レイアウト、背景、原画及び動画の各作成並びに彩色、撮影、音響及び編集の各作業を自ら行い、又はその一部を他の業者に委託した上で、これらの業者に対する指示を行うなどした控訴人が、本件映像の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であるとして、本件映像の著作者と判断した。
※他方、本判決は、本件映像にアニメーション映像として収録するてんかんの13症例を選択し、その順序を決定し、控訴人がアニメーション映像の作成に係る作業を行うに際し、症例に適した人物の性別や年齢を伝えたり、発作を表現するに際して人物を描写するのにふさわしい方向を伝えたりするなどしたA医師については、本件映像を医学的に誤りのない内容にするための確認がほとんどであり、それらは本件映像の制作を監修する立場からの助言若しくはアイデアの提供というべきものであって、本件映像の具体的表現を創作したものとは認められないなどと指摘し、本件映像の著作者該当性を否定した。
※本判決は、著作権法29条1項にいう「映画製作者」とは、著作権法2条1項10号の文言及び同法29条1項の趣旨からみて、映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであるとして、控訴人との間で本件映像の制作に関する委託契約を締結してその対価を控訴人に支払う法的義務を負ったと認められる被控訴人が、最終的に不足分の費用を負担すべき立場にあったと認められるなどとして、被控訴人が本件映像の映画製作者であると判断した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和6年3月28日
事件番号 令和5年(ネ)第10093号
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
東海林 保
今井 弘晃
水野 正則
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

1.事実関係(原判決より抜粋。原判決の原告、被告、C医師は、それぞれ本判決の控訴人、被控訴人、A医師に対応する。下線は筆者)

(当事者等)
 原告は、・・・テレビ及びネット放送、イベント、ゲーム並びにミュージックビデオで使用するアニメーションの制作、自身が著作権を管理するオリジナルアニメーション映像のレンタル等を業として営む個人事業主である。
 被告は、書籍の企画・編集・制作・販売を行う出版社である。
 C(以下「C医師」という。)は、F脳神経外科において教授兼診療部長を務める医師であり、特に「てんかん」の分野で豊富な知見を有する者である(乙17)。

(1)本件映像の特徴(乙1)
ア 本件映像は、てんかん発作の13症例に関する別個のアニメーション映像から構成されている。各症例に係る映像は、それぞれ1ないし2分程度の長さであり、次のタイトルが付されている。
・・・

(2)本件映像の制作に至る経緯
ア C医師は、平成24年頃、一般人にてんかん発作を正しく理解してもらう必要があると考え、本件書籍の執筆の検討を始めた。C医師は、同年12月13日、被告に対し、てんかん発作の動きをアニメーション化した映像を収録したDVDが付属する、てんかんの症状を解説する書籍の出版企画を持ち込んだ。(乙16、17、証人C、被告代表者)
 本件書籍の制作費は、書籍本体部分の費用が約400万円、DVD部分の費用が約400万円の合計約800万円となることが見込まれ、本件書籍を書店で販売するだけでは、制作費の全てを回収することは困難と考えられたため、C医師の知り合いの製薬会社等に本件書籍を購入してもらうことで、制作費を回収する方針が採用された(被告代表者)。
イ C医師は、アニメーションの制作委託先を探していたところ、平成25年2月頃、自身の患者を介して原告を紹介され、同月21日、C医師の当時の勤務先において、原告と初めて打合せを行った(甲67)。
ウ ・・・被告は、その後、原告に対し、本件映像の制作を委託した(前提事実(2)イ)。

(3)本件映像の制作過程における具体的作業
ア C医師は、てんかん発作を一般人に分かりやすく伝えるとの観点から、本件書籍で取り上げる13症例を選定し、本件書籍中で紹介する順序を決定した(乙17、証人C)。
 C医師は、平成25年2月から3月にかけて、原告に対し、本件映像に登場するてんかん発作を起こす人物のイメージを伝えた(甲57)。
 また、C医師は、同年6月30日、原告に対し、向反発作、高齢者てんかん及び欠神発作についての発作の特徴を説明するとともに、これらの各発作の参考動画を送付した。その際、C医師は、向反発作に係る映像の人物は日本人の青年の男性とすること、高齢者てんかんに係る映像の人物は、70歳くらいで、斜め上から顔が分かるようにしてほしいことなどを伝えた。(甲38)
 さらに、C医師は、同年8月2日、原告に対し、点頭てんかんについての参考動画を送付し、人物を描写する方向は正面の方がよいのではないかとの考えを示した(甲41)。
 C医師は、上記以外にも、てんかん発作が起こる人物や状況について原告に指示を行ったが、その際、本件映像の視聴者がてんかん発作の動きに集中できるよう、人物のデザインや背景等を目立たせすぎないように配慮していた。もっとも、C医師が、原告に対して行った状況に関する指示は、時間帯や介助者の有無などの、てんかん発作を理解するために必要な事項にとどまっていた。(甲52、57、58、乙17、証人C)
イ 原告は、本件映像の制作に当たり、次の各作業を自ら行ったほか、本件映像に係るナレーション原稿の草案を作成した(甲50、51、原告本人)。
 絵コンテ・・・レイアウト・・・背景・・・原画・・・動画・・・彩色・・・撮影・・・音響・・・編集・・・なお、原告は、本件映像の原画、レイアウト、背景及びナレーション制作の一部を他の業者に委託したところ、これらの業者との契約は原告が当事者となり、業者の選定、業者に対する指示、委託代金の支払は全て原告によって行われた(甲42ないし47、原告本人)。
・・・
ウ C医師は、・・・てんかん発作の動きが医学的に正確に表現されていないと判断した箇所について、原告に修正を求めた。(甲40、53、73、乙4、5、証人C)
・・・

(4)本件書籍の発行
ア C医師は、本件映像が制作されるのと並行して本件書籍を執筆した(乙17)。
イ 被告は、平成26年3月、本件書籍を1冊2300円(消費税込)で発行した(前提事実(2)ウ、甲87)。
 本件書籍には、本件DVDが付属しているほか、本文中の挿絵及びカバーのイラストとして本件映像から切り出された静止画が75点掲載されている(乙1)。

(5)本件映像の制作費に関するやりとり
ア 原告は、平成25年11月14日、被告代表者に対し、本件映像の制作費に関し、D医師による修正指示及びスケジュール遅滞に起因する人員増の影響で、1本当たり25万円としていた予算を超過しているものの、1本当たり30万円に抑制できるよう努力していることや、別途マスターDVDの作成費を要することなどを伝えた(甲60)。
 原告の申入れを受けて、被告代表者が、同月15日、C医師に対し、更に300冊強の購入先を確保する必要がある旨を伝えたところ、C医師は、同月16日、被告代表者に対し、自身で制作費を負担する、学会などで講演して得られる謝金を充てる、当時の勤務先を含めて更に本件書籍の購入先を探すなどの方策を検討する旨回答した(乙16、被告代表者)。
イ C医師は、本件書籍の執筆と並行して、複数の製薬会社に本件書籍に係る営業活動を行い、最終的に総額約815万円分の購入約束を取り付けた(甲30、38、61、68、69、71、72、乙6の1、16、被告代表者)。
ウ 原告は、被告に対し、平成26年4月13日付けの請求書を送付して、てんかんアニメーション制作費(単価30万円×12)、イラスト制作費(単価9000円×24)及びDVDオーサリング費(10万円)の名目で、合計391万6000円(いずれも消費税抜)並びにこれに対する消費税31万3280円を請求した(乙12)。
 さらに、原告は、被告代表者に対し、同月14日付けのメールにより、追加依頼により生じた制作費(①「間代発作」編集費及びナレーション作成費、②追加フォント使用料、③ナレーション原稿作成費)10万円については、原告の持ち出しとするのではなく、C医師に当該増加分を負担してもらうか、営業をがんばってもらうことなどで補填してもらうことにしたいとの趣旨を伝えた(甲61)。
エ 被告代表者は、原告に対し、平成26年5月14日付けのメールにより、製薬会社からの大口(約300万円)の入金がされていないため、原告への制作費の支払時期を同年6月末としてもらいたいこと、印税として増刷以降1パーセントを支払うこと、C医師の印税は、初版分はなく、増刷以降は3パーセントであることを伝えた(甲30)。
 原告は、被告代表者に対し、同年5月18日付けのメールにより、制作費の支払時期と印税の支払条件について承諾する旨を回答した(甲69)。
オ 被告は、平成26年6月、原告に対し、制作費を分割払いとした上で、支払時期を延期することを求め、最終的に、同年8月10日までに411万1800円(消費税込)を支払った(甲84、85、97)。

(6)本件複製映像の公開
ア 被告は、平成29年8月3日、本件サイトにおいて、本件書籍を紹介する被告のウェブサイトへのリンクを設けた上、本件複製映像を誰もが閲覧可能な状態で公開した(前提事実(3)、甲9)。
イ 原告は、令和2年7月13日、本件サイトにおいて本件複製映像が公開されていることを知り、同月16日、被告代表者に対し、本件サイトから本件複製映像を削除するよう求めた(甲96、97)。
 被告は、同年12月22日、本件複製映像の公開を停止した(前提事実(3))。
ウ 本件サイトにおける本件複製映像の再生数は、令和2年12月17日時点で164万5870回であった(甲9)。
 

争点

⑴争点1 本件映像の著作物性及び「映画の著作物」該当性
⑵争点2 本件映像の著作者
⑶争点3 本件映像の著作権者
(その他の争点は省略)

原審の判断

(原審のC医師(本判決のA医師)の著作者性についての判断)
1 著作者について
 C医師は、本件映像の制作に当たり、一般人にてんかん発作を正しく理解してもらうとの目的の下、取り上げるべき症例の選択及び順序を決定し、本件映像の視聴者がてんかん発作の動きに集中できるよう、人物のデザインや背景等を目立たせすぎないようにするとの一貫したコンセプトに基づいて、原告に対し、参考動画を示した上で、てんかん発作を起こす人物の性別、年齢、着衣、人物を捉える角度について指示し、最終的に制作された本件映像が完成したか否かの判断をしていたことが認められる。
 上記のような本件映像の制作過程におけるC医師の役割、関与の程度に鑑みれば、C医師は、少なくとも本件映像の制作を担当して、その全体的形成に創作的に寄与した者と認めるのが相当である。

2 映画製作者について
 前記1(2)及び(3)のとおり、・・・C医師は、本件映像を製作する意思を有していた者と認めるのが相当である。
 そして、本件映像の制作費は、専らC医師の知り合いの製薬会社等に本件書籍を購入してもらい、その代金で賄うこととされ、C医師が当該製薬会社等への営業活動を担っていたこと(前記1(2)ア、ウ、(5)ア、イ)、原告から制作費の増額を求められた際には、C医師が自ら負担することも選択肢とされていたこと(前記1(5)ア)に鑑みれば、C医師において本件映像が付属する本件書籍が書店等において期待したとおりに販売できるか否かのリスクを専ら負担していたといえるから、本件映像の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者と認めるのが相当である。
 また、C医師は、本件書籍の著作者であるところ(前提事実(2)ウ)、その著作権が他の者に譲渡されたと認めるに足りる証拠はないから、本件書籍の著作権者と認められる。そして、前記(1)イのとおり、本件書籍は、本件DVDが付属する形態で販売することが前提とされており、増刷する際には、本件DVDに収録されている本件映像及び本件映像から切り出された静止画も併せて複製しなければならないから、本件書籍を書店等で販売することにより投下資本を回収するとの観点からも、本件映像の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者は、本件書籍の著作権者であるC医師と認められる。
 したがって、本件映像の映画製作者はC医師と認めるのが相当である。

判旨

1 本件映像の著作物性及び「映画の著作物」該当性
 本件映像は、一般人にてんかん発作を正しく理解してもらう目的で作成されたものであり、てんかん発作の13症例に関する個別のアニメーション映像から構成され、各アニメーション映像では、登場人物が日常生活を送っている中で起きたてんかん発作に特徴的な動きや、この人物を介助する者の様子等が描写されていること、本件映像の制作に当たっては、控訴人が、絵コンテ、レイアウト、背景、原画及び動画の作成を自ら、又はその一部を他の業者に委託して行い、これらの作業により制作された本件映像は、症例とされた各てんかん発作が起こりやすい年齢等に合致した人物が描かれ、視聴者が、てんかん発作として見られる特徴的な動きに集中できるよう、描かれた人物の体格、人相、着衣、発作前後の動作、所在する場所、背景となる造作や家具、人物を捉える方向や画角等について、表現の選択がされ、発作の特徴を説明するナレーションが組み込まれるといった加工が施されたことが認められる。
 このような本件映像は、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で作成されたものであり、かつ、思想又は感情を創作的に表現したものであると認められる。
 そして、本件映像は、本件書籍の付属物として、DVDに固定されたものである。
 したがって、本件映像は、著作権法2条3項にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」に当たるから、映画の著作物(同法10条1項7号)であると認められる。

2 争点2(本件映像の著作者)について
⑴映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者である(著作権法16条)。

⑵控訴人の関与について
 認定事実⑶イのとおり、控訴人は、本件映像の制作に当たり、絵コンテ、レイアウト、背景、原画及び動画の各作成並びに彩色、撮影、音響及び編集の各作業を自ら行い、又はその一部を他の業者に委託した上で、これらの業者に対する指示を行っている。そして、本件映像に描写されている人物の体格、人相、着衣、発作前後の動作、所在する場所、背景となる造作や家具、人物を捉える方向や画角については、視聴者がてんかん発作として見られる特徴的な動きに集中できるように選択がされているものと認められ、これらの創作的な表現は、控訴人の上記各作業によって作出されたものといえる。

⑶A医師の関与について
 前提事実及び認定事実によれば、本件映像にアニメーション映像として収録するてんかんの13症例を選択し、その順序を決定したのはA医師である。
 また、控訴人はてんかんについての知識を有していなかったから、てんかんの分野で専門的な知識を有するA医師が、本件映像で扱う症例の特徴について控訴人に説明したものと推認される。ただし、A医師は、原審で実施された証人尋問において、全ての症例について参考映像を提供した旨供述するが、控訴人はこれを否認しており、提供された映像として証拠として提出されているものは三つしかなく(乙2の1~3)、A医師が控訴人に送ったメール(甲52)の文面からすると、A医師が上記三つの映像のほかにも何らかの映像を控訴人に提供したことは認められるものの、これをもって、全ての症例について参考映像を提供したとは認められない。
 また、認定事実によれば、A医師は、控訴人がアニメーション映像の作成に係る作業を行うに際し、症例に適した人物の性別や年齢を伝えたり、発作を表現するに際して人物を描写するのにふさわしい方向を伝えたりするなどしたが、本件の全証拠によっても、A医師が多数の症例について、てんかん発作の動きや介助者の関与に関する動きの描写、人物の表情や背景の描写等に関する個別具体的な指示を控訴人に伝えたとは認められない。
 さらに、認定事実によれば、A医師は、控訴人が作成した絵コンテや原画を自ら確認するとともに、一部の症例について、C医師及びD医師にその確認を依頼し、かつ、控訴人が作成した本件映像のナレーション原稿の草案及び字幕の内容を確認したと認められるが、いずれも、医学的見地から正確性を欠く内容の有無や本件書籍の内容との整合性を確認し、控訴人に指摘する内容であるといえる。A医師は、本件映像に用いられているフォントやメニュー画面の修正の指示も行ったが、本件映像における表現の中で占める割合としてはごくわずかな部分にとどまる。

⑷その他の者の関与について
ア 認定事実によれば、被控訴人代表者であるB’は、控訴人が作成したナレーション原稿の草案及び字幕の修正や、本件書籍の内容との整合性の確認、本件映像に用いられているフォントやメニュー画面の指示を行っているが、本件映像の制作について上記以外の関与をしたとは認められない。
イ C医師及びD医師は、本件映像の制作過程において、一部の症例について、控訴人の作成した絵コンテやラフ原画を見て、てんかん発作の動きが医学的に正確に表現されているかを確認し、A医師を介して修正指示をしたにとどまる。

⑸上記⑵ないし⑷によれば、本件映像の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者は、控訴人であって、A医師、被控訴人、C医師及びD医師はこれに当たらないと認められる。
 A医師の関与は、全体として見れば、控訴人に対するてんかんに関する情報提供や、本件映像を医学的に誤りのない内容にするための確認がほとんどであり、それらは本件映像の制作を監修する立場からの助言若しくはアイデアの提供というべきものであって、本件映像の具体的表現を創作したものとは認められず、A医師が本件映像の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与したとはいえない。また、本件映像で取り上げられた症例及びその再生順序を決定したことについては、本件映像が本件書籍の付属物であることから、本件書籍に準拠して上記決定をしたにすぎず、上記決定をしたことをもって、A医師が本件映像の全体的形成に創作的に寄与したと認められることにもならないというべきである。
 被控訴人、C医師及びD医師については、これらの者による関与が前記⑷のとおりのものにすぎないことからすれば、これらの者が本件映像の全体的形成に創作的に寄与した者に当たるとは認められないというべきである。

3 争点3(本件映像の著作権者)について
⑴著作権法29条1項は、「映画の著作物の・・著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」と規定している。
 前記2のとおり、本件映像は映画の著作物であると認められるから、本件映像の著作権の帰属については、著作権法29条1項が適用され、本件映像の著作者である控訴人が、映画製作者に対し、本件映像の製作に参加することを約束しているときは、本件映像の著作権は当該映画製作者に帰属することになる。
 この点に関して、被控訴人は、著作権法29条1項は劇場用映画を想定した規定であり、本件書籍の従たる付属物として作成された本件映像には適用されないと主張するが、同項が映画の著作物のうち劇場用映画のみに適用されると解すべき根拠、あるいは本件映像が映画の著作物と認められるにもかかわらず同項が適用されないと解すべき根拠はなく、被控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵著作権法29条1項にいう「映画製作者」は、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」である(同法2条1項10号)。
 また、著作権法29条が設けられたのは、①従来から、映画の著作物の利用については、映画製作者と著作者との間の契約によって、映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと、②映画の著作物は、映画製作者が巨額の製作費を投入し、企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること、③映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し、それら全ての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると、映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属するとするのが相当であると判断されたためであると解される。
 著作権法2条1項10号の文言及び同法29条1項の上記趣旨からみて、「映画製作者」とは、映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解するのが相当である。
⑶以下、本件の認定事実の下で、本件映像の映画製作者が誰と認められるかについて検討する。
ア 本件書籍を出版することとともに、アニメーション映像を収録したDVDを本件書籍の付属物とすることを企画したのはA医師である。
 他方、本件DVDを付属物とした本件書籍を出版したのは被控訴人である。また、控訴人との間で本件映像の制作に関する委託契約を締結したのは被控訴人であり、このことからすれば、控訴人に対して、上記委託契約の対価を支払う義務を負っていた者は被控訴人であったと認められる。実際に控訴人に対価を支払ったのも被控訴人であった。
イ 被控訴人とA医師との間では、本件書籍を書店で販売するだけでは、制作費の全てを回収することが困難であると考えられたことから、A医師の知り合いの製薬会社等に本件書籍を購入してもらうことで、制作費を回収する方針が採用され、実際に、A医師は、自ら営業活動を行うなどして、製薬会社等からの本件書籍の購入約束を取り付け、これにより、控訴人に対して支払うべき上記委託契約の対価を含め、本件書籍の出版に要する費用を調達している。控訴人が、本件映像の制作に係る費用が増加した旨をB’に伝えた際も、B’はA医師に更なる購入先の確保が必要であることを伝え、A医師は、自ら制作費を負担することや、自らの講演の謝金を充てることも考えている旨述べたが、最終的には本件書籍の出版に要する費用を調達するに足りる購入先を確保した。
 しかし、被控訴人とA医師との間で、A医師が本件書籍の出版に必要な費用(控訴人に支払う対価を含む。)を調達するに足りるだけの購入先を確保できない事態が生じた場合に、A医師が不足分の費用を負担するとの合意が成立したと認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、上記のような事態が生じた場合には、本件書籍を出版し、控訴人との間で本件映像の制作に関する委託契約を締結してその対価を控訴人に支払う法的義務を負ったと認められる被控訴人が、最終的に不足分の費用を負担すべき立場にあったと認められる。
ウ 控訴人は、被控訴人との間でアニメーション映像の制作に関する委託契約を締結し、この契約に基づいて本件映像の制作に係る業務を行ったものであり、上記委託契約に基づき、被控訴人に対する対価請求権を取得した。
 控訴人は、上記業務の一部を他の業者に行わせており、これらの業者に対して費用を支払う義務を負ったが、この費用についても、上記委託契約に基づき、被控訴人に対して請求することが可能であったのであり、実際に、控訴人は、上記業者に支払うべき費用を含め、A医師が確保した本件書籍の購入先による購入代金により、上記委託契約の対価を受領した。
 また、A医師が、本件書籍の出版に必要な費用を調達するに足りるだけの購入先を確保できない事態が生じた場合に、控訴人がその不足分を負担する、すなわち控訴人が被控訴人に対する対価請求権の全部又は一部を失うこととする旨の合意が成立したとは認められず、上記のような事態が生じたとしても、控訴人が損失を被る立場にあったとは認められない。
エ 上記アないしウによれば、本件映像の映画製作者、すなわち、本件映像を製作する意思を有し、その製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として、「映画の著作物」である本件映像の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者は、被控訴人であると認めるのが相当である。
 仮に、本件書籍の出版に必要な費用を調達するに足りるだけの購入先を確保できない事態が生じた場合に、A医師がその不足分を負担し、損失を被ることとなっていたとすれば、A医師が本件映像の映画製作者に当たると解する余地があるが、本件で認められる事実関係に照らし、少なくとも控訴人が本件映像の映画製作者に当たると解する余地はない。
⑷ 上記のとおり、本件映像の映画製作者は、被控訴人である。
 そして、認定事実によれば、本件映像の著作者である控訴人は、被控訴人に対し、本件映像の製作に参加することを約束していたと認められる。
 したがって、著作権法29条1項により、本件映像の著作権は、その映画製作者である被控訴人に帰属すると認められる。
 なお、仮に、A医師が本件映像の映画製作者であると認められるとしても、認定事実によれば、本件映像の著作者である控訴人は、A医師に対し、本件映像の製作に参加することを約束していたと認められるから、著作権法29条1項により、本件映像の著作権はA医師に帰属すると認められることになり、いずれにしても控訴人に本件映像の著作権が帰属するとは認められない。

解説/検討

(以下、下線は筆者による)

1 著作者について
 原判決では、「C医師は、本件映像の制作に当たり、一般人にてんかん発作を正しく理解してもらうとの目的の下、取り上げるべき症例の選択及び順序を決定し、本件映像の視聴者がてんかん発作の動きに集中できるよう、人物のデザインや背景等を目立たせすぎないようにするとの一貫したコンセプトに基づいて、原告に対し、参考動画を示した上で、てんかん発作を起こす人物の性別、年齢、着衣、人物を捉える角度について指示し、最終的に制作された本件映像が完成したか否かの判断をしていたことが認められる。
 上記のような本件映像の制作過程におけるC医師の役割、関与の程度に鑑みれば、C医師は、少なくとも本件映像の制作を担当して、その全体的形成に創作的に寄与した者と認めるのが相当である。」と判断された。
 これに対して、本判決では、A医師(原判決C医師)について「本件映像の制作を監修する立場からの助言若しくはアイデアの提供というべきものであって、本件映像の具体的表現を創作したものとは認められず」と判断し、原判決とは異なる結論に至っている。
 この点、著作権法2条1項12号では、「共同著作物 二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。」とされているところ、知財高判令和4年11月1日(令和4年(ネ)第10047号)では、「共同著作物であるための要件は、第一に、二人以上の者が共同して創作した著作物であること、第二に、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないことであり、上記第一の要件である二人以上の者が共同して創作した著作物であることという要件を充足するためには、客観的側面として、各著作者が共同して創作行為を行うこと、主観的側面として、各著作者間に、共同して一つの著作物を創作するという共同意思が存在することが必要である。そして、著作権法は、単なるアイデアを保護するものではなく、思想又は感情の創作的な「表現」を保護するものであるから(著作権法2条1項1号参照)、創作行為を行うとは、アイデアの案出に関与したというだけでは足りず、表現の創出に具体的に関与することを要するものというべきである。」と判断されている。
 本判決も、かかる基準に沿ったものと考えられるが、アイデアの案出に関与することと、表現の創作に具体的に関与することとの区別は、必ずしも容易ではないと解され、A医師(原判決のC医師)の関与が、アイデアの案出に関与したのにとどまるのか、表現の創出に具体的に関与したといえるかは微妙な判断が必要となり、原判決と本判決は結論を異にしたものと考えられる。

2 映画製作者について
 原判決では、「C医師は、本件映像を製作する意思を有していた者と認めるのが相当である。
 そして、本件映像の制作費は、専らC医師の知り合いの製薬会社等に本件書籍を購入してもらい、その代金で賄うこととされ、C医師が当該製薬会社等への営業活動を担っていたこと(前記1(2)ア、ウ、(5)ア、イ)、原告から制作費の増額を求められた際には、C医師が自ら負担することも選択肢とされていたこと(前記1(5)ア)に鑑みれば、C医師において本件映像が付属する本件書籍が書店等において期待したとおりに販売できるか否かのリスクを専ら負担していたといえるから、本件映像の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者と認めるのが相当である
 また、C医師は、本件書籍の著作者であるところ(前提事実(2)ウ)、その著作権が他の者に譲渡されたと認めるに足りる証拠はないから、本件書籍の著作権者と認められる。そして、前記(1)イのとおり、本件書籍は、本件DVDが付属する形態で販売することが前提とされており、増刷する際には、本件DVDに収録されている本件映像及び本件映像から切り出された静止画も併せて複製しなければならないから、本件書籍を書店等で販売することにより投下資本を回収するとの観点からも、本件映像の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者は、本件書籍の著作権者であるC医師と認められる。
 したがって、本件映像の映画製作者はC医師と認めるのが相当である。」と判断された。
 これに対して、本判決は、「A医師が不足分の費用を負担するとの合意が成立したと認めるに足りる証拠はない。・・・被控訴人が、最終的に不足分の費用を負担すべき立場にあったと認められる。」として、A医師が映画製作者に該当することを否定した。
 この点、A医師が、原告から制作費の増額を求められた際には、A医師が自ら負担することも選択肢とされていたことや、A医師は、被控訴人代表者に対し、自身で制作費を負担する、学会などで講演して得られる謝金を充てる、当時の勤務先を含めて更に本件書籍の購入先を探すなどの方策を検討すると述べているなどの経緯を考慮して、A医師が、信義則上、被控訴人に対して一定の費用負担義務を負うか否かについても丁寧な検討があった方が望ましかったように考えられる。

   

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