【ブーツの形態は商品等表示か(黄色ステッチ等の総合的特徴による周知性・類似性の判断)】
投稿日:2026年4月30日 |
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著者:弁護士 大野 浩之
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参照条文/キーワード/論点 |
不正競争防止法2条1項1号/形態模倣 |
ポイント
被控訴人商品の形態が不競法2条1項1号の周知の商品等表示に該当し、控訴人各商品の形態は、被控訴人商品の形態と類似し、誤認混同を生じさせるものと認められた事例。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和5年11月9日 |
| 事件番号 | 令和5年(ネ)第10048号 |
| 事件名 | 販売差止等請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂 昌利
岩井 直幸 頼 晋一 |
事案の概要
本件は「ドクターマーチン」のブランドで靴商品等を展開する被控訴人(1審原告)が、控訴人(1審被告)の販売するブーツが、被控訴人各商標権を侵害し、また、被控訴人の商品等表示として形態周知となっているブーツ(被控訴人商品)との混同を生じさせる不正競争を構成すると主張する事案である。
争点
1.原告各商標と被告標章が同一又は類似であるか
2.不競法2条1項1号の不正競争の成否
3.差止め等の必要性
以下では争点「2」について記載する。
争点に関する当事者の主張
・控訴人商品の形態が周知な商品等表示であるか
控訴人は、自社ブーツの形態について、黄色のウェルトステッチ、半透明のグラデーションを有するソールエッジ、長く目立つヒールループ、特徴的なソールパターンなどの各要素が、いずれも通常の靴製品とは異なる独自のデザインであり、これらが組み合わさることで強い出所識別力を有すると主張する。そして、長年にわたる販売実績、広範な流通、広告宣伝や著名人による着用、他ブランドとのコラボレーション等により、当該形態は需要者の間で広く認識されているとする。さらに、アンケート結果においても一定の認知度が確認されており、形態全体として周知な商品等表示に該当すると結論付ける。
これに対し被控訴人は、控訴人が指摘する各形態的特徴はいずれも他社製品にも見られるありふれたものであって、特別顕著性は認められないと反論する。また、仮に控訴人商品の知名度が一定程度存在するとしても、それは一部のファッション愛好家に限られ、一般消費者に広く浸透しているとはいえないとする。加えて、控訴人のアンケートは対象者の選定に偏りがあり信用できず、被控訴人側調査では認知度は低いと主張する。さらに、各形態は機能的・技術的要素に由来するものであり、商品等表示として保護されるべきものではないとして、周知性及び識別力のいずれも否定する。
・控訴人商品の形態と被控訴人商品1の形態が同一又は類似であるか
控訴人は、被控訴人商品1について、黄色のウェルトステッチ、半透明のソールエッジとその水平溝、長いヒールループ及びその表示内容、ソールパターン等において、控訴人商品の特徴と酷似していると主張する。さらに、つま先の形状やステッチ等の細部においても共通点が多く、全体として観察すれば両者は同一又は少なくとも類似すると評価すべきであるとする。
これに対し被控訴人は、各要素ごとに具体的な差異が存在すると主張する。すなわち、ウェルトステッチの色味は控訴人商品とは異なり、ソールの透明度や溝の形状も異なるほか、ヒールループの長さや取付位置、表示の視認性にも差異があるとする。また、ソールパターンについても形状や配置、ロゴの有無等に顕著な違いがあると指摘する。さらに、控訴人が挙げるその他の特徴は一般的な靴製品にも広く見られるものであり、類似性判断の基礎とはならないとして、全体としても類似性は認められないと結論付ける。
・控訴人商品の形態と被控訴人商品2の形態が同一又は類似であるか
控訴人は、被控訴人商品2についても、被控訴人商品1と同様に、黄色のウェルトステッチ、ソールエッジの外観及び構造、特徴的なソールパターンなどにおいて控訴人商品の形態と酷似しており、さらにその他の形態的特徴も共通していることから、全体として同一又は類似であると主張する。
これに対し被控訴人は、被控訴人商品1に関する主張と同様に、各構成要素において色味や透明度、溝の構造、ソールパターンの具体的形状等に差異が存在すると指摘する。そして、これらの差異は外観上看過できないものであり、全体としても控訴人商品との類似性は認められないとする。
・被控訴人商品1の販売等が控訴人の商品と混同を生じさせる行為であるか
控訴人は、控訴人商品と被控訴人商品1はいずれもブーツという同種の商品であり、需要者層も共通しているところ、被控訴人商品1は控訴人商品の特徴的な形態を多数備えて外観上酷似していると主張する。さらに、被控訴人商品1には控訴人商標と同一又は類似の標章も付されており、被控訴人が控訴人商品を意識して模倣したことは明らかであるとする。したがって、需要者が被控訴人商品1に接した場合、控訴人の商品又はこれと何らかの関係を有する商品であると誤認するおそれがあり、混同が生じると結論付ける。また、素材や価格、ブランド名の相違についても、ファッション業界における価格帯の多様性やコラボ商品等の存在を踏まえれば、混同を否定する事情にはならないと反論する。
これに対し被控訴人は、まず前提として両商品の形態は類似していないと主張した上で、仮に一定の共通点があるとしても、素材(合成皮革か天然皮革か)、ファスナーの有無、価格帯の大幅な差異、さらには「BULLET JAM」という明確に異なるブランド名の存在により、需要者が出所を誤認することはないと主張する。特に価格差やブランド表示は購買時の重要な判断要素であり、これらを踏まえれば混同のおそれは否定されるべきであると結論付ける。
原審の判断
原審(東京地裁令和5年3月24日判決/令和2年(ワ)第31524号 認容)
不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することが不正競争に該当すると定めたものであるところ、その趣旨は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、事業者間の公正な競争を確保することにあると解される。
そして、同号にいう「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいうところ、商品の形態は、「商標」等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、不競法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには、その形態が「商標」等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮し得ること、すなわち、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に利用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である。
本件において、原告商品は靴製品であって、一般的に生活必需品の範疇に含まれるものであるが、靴製品は革靴からスニーカー、サンダルまで様々な種類の製品を含む上、靴製品に対する各個人の趣向も大きく異なっていると考えられることからすると、例えば、革靴及びブーツの需要者とスニーカーの需要者とが常に重なり合っているとまではいえない。そうすると、原告商品の商品等表示該当性を検討するに当たり、その判断の基準となる需要者は、我が国において革靴及びブーツの購入及び使用に関心のある一般消費者並びにこれらを取り扱う靴製品販売事業者と認めるのが相当である。
靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告商品の形態は、少なくとも被告が被告商品2を販売した令和2年の時点には、原告の商品等表示として周知であったことが認められる。そして、原告は上記の時点以降も原告商品を継続的に販売していると認められるから(弁論の全趣旨)、本件口頭弁論終結時(令和4年12月16日)においてもなお、原告商品の上記形態は原告の周知な商品等表示として出所表示機能を有しているものと認めるのが相当である。
靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告商品の形態は、我が国において35年間近くという長期にわたって他の同種商品には見られない形態として原告によって継続的かつ独占的に使用されてきたことにより、革靴及びブーツの購入及び使用に関心のある一般消費者において、原告の商品の出所を表示するものとして広く認識されていたこと、原告の商品と被告商品2とは購買層や販売形態を共通にしていること、オンラインストアにおいて商品を購入しようとする者は、通常、販売者が予め記載及び掲載している商品名や商品写真といった限定的な情報からその商品の出所を識別することになると考えられること、・・・諸事情を総合考慮すると、需要者である一般消費者がオンラインストアに掲載された商品写真等を通じて原告商品の商品等表示に係る形態と類似する被告商品2の形態に接した場合には、両商品の出所が同一であると誤認するおそれがあると認めるのが相当である。
判旨
被控訴人のブランド「ドクターマーチン」の商品として我が国で販売されている「1460 8ホールブーツ」(革製のブーツ)は、その大半のモデルにおいて、黄色のウェルトステッチ(形態(ア))、ソールエッジ(形態(イ))、ヒールループ(形態(ウ))、ソールパターン(形態(エ))、アウトソール踵部分の傾斜(形態(オ))、丸みを帯びた靴の前部(形態(カ))、ピューリタンステッチ(形態(キ))及び8ホール(形態(ク))という形態上の特徴を備えていると認められる。
被控訴人商品は、特に形態(ア)(黄色のウェルトステッチ)、形態(イ)(ソールエッジ)及び形態(ウ)(ヒールループ)の3点において、他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有し、強い出所識別力を発揮していると認められる。さらに、個別にみればさほど特徴的な形態とまではいえない形態(エ)~形態(ク)とも組み合わせて全体的に観察すれば、他の同種商品(ブーツ)には全く見られない顕著な特徴を有するものといえる。
これに対し、控訴人は、黒を含む暗色系のウェルトと明るい色合いの縫合糸との組合せによって明暗のコントラストを演出する靴製品にさしたる個性や特異性はない旨主張する。確かに「黒色のウェルトと明るい黄色の糸のステッチ」という形態だけを単独で取り上げれば、靴製品のパーツ(ウェルト、ステッチ糸)において普通に使用されることが想定される、ありふれた色彩のうちの任意の組合せにとどまるものであり、それだけから特別顕著性を認めることは、過剰な独占を認める結果になり相当でない。黒と明るい黄色とのコントラストによってウェルトステッチが明瞭に視認できるという効果があるにしても、控訴人の主張するとおり、これに類する明暗のコントラストが採用されている靴製品は他にも普通に見受けられるところ(乙32、33)である。
しかし、本件において、被控訴人は、被控訴人商品を「被控訴人主張形態(ア)ないし(ク)の形態的特徴を全て有するもの」として定義し(原判決別紙「原告商品目録」)、これらの「形態上の特徴を全て備える被控訴人商品の全体の形態」が被控訴人の周知の商品等表示であるとして、不競法2条1項1号の不正競争に係る請求を組み立てているところである(原判決15頁23行目~24行目)。
当裁判所は、被控訴人のこの主張を前提に、黄色のウェルトステッチ(形態(ア))だけでなく、形態(ア)~(ク)を全て備える被控訴人商品の全体の形態が商品等表示に該当するかどうかを検討し、そのような観点から、被控訴人商品の特別顕著性を肯定したものである。控訴人の主張は、黄色のウェルトステッチ(形態(ア))だけに着目した議論としては首肯できるにしても、当裁判所の上記判断を左右するものではない。
被控訴人商品を含む「1460 8ホールブーツ」は、昭和60年以降現在に至るまで、被控訴人の日本子会社であるドクターマーチンジャパンを通じて我が国において販売されていること、その販売チャンネルは、同社の運営する実店舗72店舗及び公式オンラインストアのほか、靴小売りチェーン、セレクトショップ等の正規取扱店が含まれること、「1460」シリーズの売上げは、令和3年度だけで10万足近く、販売額で14億円余りに上ること、ドクターマーチンジャパンは、ファッション雑誌を中心に「ドクターマーチン」の広告を継続的に掲出しており、被控訴人商品の写真が掲載されたものもあること、被控訴人商品は、雑誌等メディアにも再三取り上げられており、その中には、「一目でドクターマーチンだとわかる黄色のウェルトステッチやロゴ入りのヒールループなど…も特徴」、「ドクターマーチンのトレードマークともいえるイエローステッチ」など、特に形態(ア)に具体的に言及し、これがドクターマーチンのブーツの最大の特徴であるとの趣旨のコメントをするものが多いことが認められる。
さらに、被控訴人の依頼により行われたアンケート調査(本件被控訴人調査)では、「店舗、通信販売サイト、雑誌等で革靴やブーツを見たり、過去1年以内に革靴やブーツを購入した15歳から59歳までの全国の男女」を対象に(1019人から回答)、被控訴人商品の写真を示した上で、当該写真のように靴の外周に沿って黄色のステッチのある革靴やブーツはどこのブランドの商品だと思うかと質問したところ、「ドクターマーチン」を想起できた者は、30.7%(自由回答式)~37.6%(選択式)であったというのである(前記引用に係る認定事実)。
以上によれば、形態(ア)~(ウ)の特徴を備える被控訴人商品の形態は、需要者の間に広く認識されており、周知の商品等表示に該当するものと優に認められる。
被控訴人商品は、形態(ア)~(ク)の特徴を全て備えるものとして周知の商品等表示該当性が認められるものであるが、被疑侵害商品が上記の特徴を全て備えていない場合であっても、同一性はともかく類似性が当然に否定されるものではない。その類否の判断に当たっては、被控訴人商品の形態の最大の特徴というべき形態(ア)(黄色のウェルトステッチ)がいわば要部となり、最も重視されるべきであるが、それ以外の形態も含めた総合的な判断が求められると解される。
このような観点から検討するに、まず控訴人商品1については、証拠(甲44)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人商品1は、前記認定(引用に係る原判決の第3の1(1)イ〔30頁~〕)の被控訴人商品の形態(ア)~(ク)の特徴を全て備えていることが認められる(原判決別紙「商品対比表1」参照)。控訴人商品1は、被控訴人商品のデッドコピーに等しいものといわなければならず、両者の形態が類似することは明らかである。
控訴人は、両者の形態の細部の相違(ウェルトステッチの実際の色合いがオレンジ色に近い、ヒールループの文字の一部が縫い込まれて読み取れないなど)について様々な主張をするが、需要者の注意を引くのは、被控訴人主張形態(ア)~(ク)の特徴、中でも同(ア)であり、これらの特徴を全て備えた上での細部の違いは、両者の類似性の判断に影響を及ぼすものとはいえない。
次に、控訴人商品2については、ヒールループ(形態(ウ))を除く部分は控訴人商品1と同様であるが、被控訴人商品のヒールループには被控訴人標章が刺繍のように織り込まれているのに対し、控訴人商品2のヒールループは、黒っぽい無地の素材が使用され、長さも被控訴人商品のものの半分程度である点で異なっている。
しかし、このような違いはあっても、ブーツの履き口の踵側に、上方に向けて立ち上がるヒールループが設けられているという基本的な形態においては共通しており、上記の違いは、需要者において、同じシリーズ商品の異なる型番商品の細部のデザインの違いと認識する程度のものと解される。
そして、上記の相違点のほか、控訴人商品2が被控訴人商品の形態(ア)、(イ)、(エ)~(ク))の特徴を全て備えること、特に被控訴人商品の最大の特徴と考えられる黄色のウェルトステッチ(形態(ア))において共通の特徴があることを踏まえて総合的に検討すれば、控訴人商品2の形態も被控訴人商品の形態と類似するものと認められる。
解説/検討
不正競争防止法19条1項6号イで「日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」が「第二条第一項第三号に掲げる不正競争」の適用除外となっている。
このため、「最初に販売された日から起算して三年」経過した場合の形態模倣については、意匠による権利行使か、本件のように不正競争防止法2条1項1号又は2号を用いる必要が出てくる。
しかし、不正競争防止法2条1項1号による形態模倣については原審のように「同号にいう『商品等表示』とは、『人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの』をいうところ、商品の形態は、『商標』等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、不競法2条1項1号にいう『商品等表示』に該当するためには、その形態が『商標』等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮し得ること、すなわち、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に利用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である。」という趣旨の規範が一般的には用いられ、そのハードルはかなり高い。
この点、原審及び本件判決において、不正競争防止法2条1項1号を用いつつ、形態模倣を認めたことの意義は大きい。
