【著名な商品等表示につきある時点以降の著名性を認めた事例(「チームラボ」事件)】
投稿日:2026年5月14日 |
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著者:弁護士 亀山 和輝
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参照条文/キーワード/論点 |
不正競争防止法2条1項2号/不正競争防止法19条1項柱書/同項5号著名な商品等表示/著名の地理的範囲 |
ポイント
※本判決は、「チームラボ」等の原告表示について、作品展示の状況、マスメディア等における紹介状況、受賞歴、ウェブサイトへのアクセス数を考慮してチームラボボーダレス及びチームラボプラネッツが開館して約3年が経過した令和3年7月頃には、原告表示等が著名になったと認定した事例である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第29部 |
| 判決言渡日 | 令和6年7月17日 |
| 事件番号 | 令和3年(ワ)第29242号 |
| 事件名 | 不正競争行為差止等請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
國分 隆文
間明 宏充 木村 洋一 |
事案の概要
第1 原告表示等及び被告表示等
1 原告表示等
原告商号 … 「チームラボ株式会社」
原告表示1 … 「チームラボ」
原告表示2 … 「teamLab」
2 被告表示等
被告商号 … 「株式会社チーム・ラボ」

被告表示1 …
被告表示2 … 「チームラボ」
被告表示3 … 「(URL一部省略)teamlab-trip(URL一部省略)」
被告表示4 … 「teamlabtrip」
第2 前提事実
1 当事者
⑴原告は、日本国内及び海外でデジタルアート作品の展示等を行っている株式会社である。
⑵被告は、令和元年5月20日に設立された、予防医学支援、労働者派遣事業法に基づく労働者派遣事業等を業とする株式会社である。
2 原告による原告表示等の使用
原告は、平成13年12月以降、日本各地において、デジタルアート作品の展示を行っており、その際、各展示の展示名や、展示施設内外に設けた案内、広告等において、各展示の主体を表示するものとして、原告表示等を使用している。
3 被告による被告表示等の使用
⑴被告は、会社設立(※令和元年5月20日)以来、「株式会社チーム・ラボ」との商号(被告商号)を使用している。
⑵被告は、会社設立の数か月後以降、被告表示1を主に事業に使用するロゴとして、令和元年11月末以降、被告表示2を主に被告ウェブサイトのタイトルとして、同年6月頃以降、被告表示3を主に被告ウェブサイトのURLとして、令和2年4月以降、被告表示4を主に被告が利用するインスタグラムのアカウント(以下「被告アカウント」という。)名として、それぞれ使用している。
⑶被告は、被告表示等を、被告の事業の主体を表示するものとして、使用している。
争点
⑴不競法2条1項2号所定の不正競争を理由とする請求の当否(争点1)
ア 原告表示等が原告の著名な商品等表示であるか(争点1-1)
イ 原告表示等と被告表示等とが同一又は類似であるか(争点1-2)
ウ 被告による被告表示等の使用が実質的違法性を欠くか(争点1-3)
エ 原告表示等が著名になる前から被告表示等を不正の目的でなく使用しているか(争点1-4)
オ 被告表示等の使用によって原告の営業上の利益(不競法3条及び4条)が侵害され又はそのおそれがあるか(争点1-5)
カ 故意又は過失の有無(争点1-6)
キ 損害の有無及びその額(争点1-7)
⑵会社法8条を理由とする請求の当否(争点2)
ア 被告商号が原告であると誤認されるおそれのある商号か(争点2-1)
イ 被告商号の使用が不正の目的によるものか(争点2-2)
ウ 被告商号の使用によって原告の営業上の利益(会社法8条2項)が侵害され又はそのおそれがあるか(争点2-3)
裁判所は、争点1-1、争点1-4、争点2-2について判断した。以下では、争点1-1を取り上げる。
争点に関する当事者の主張
⑴争点1-1(原告表示等が原告の著名な商品等表示であるか)
(原告の主張)
ア 商品等表示の著名性の判断基準
原告の商品等表示である原告表示等が著名であるか否かは、①国内全域又は被告の営業地域での原告の商品販売量及び営業活動の総量、②原告表示等が使用された期間の長さ並びに③原告の宣伝広告量及び営業活動を通じて獲得した信用名声の量の総量により判断される。
イ 被告設立時である令和元年5月20日時点で原告表示等が著名な商品等表示であったこと
(ア)原告の商品販売量及び営業活動の総量(前記ア①)
a (筆者注:原告展示への来場者数関係)
原告は、平成13年から令和元年5月20日までの間、日本各地において、作品展示を行い又は展示会を開催しており、その来場・来館者数は、明らかになっているだけでも合計●(省略)●を下らない。
特に、原告が平成30年6月21日にお台場で開館した「森ビルデジタルアートミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」(以下「チームラボボーダレス」という。)及び同年7月7日に豊洲で開館した「チームラボプラネッツ TOKYO DMM.com」(以下「チームラボプラネッツ」という。)には、開館後1年間で両館合わせて350万人以上が来館した。特に、チームラボボーダレスにおける年間230万人という来館者数は、単独のアーティストのミュージアムとしてはゴッホ美術館を超える世界最大規模の来館者数であった上、令和元年1年間の来館者数は、ギネス世界記録(単一アートグループとして世界で最も来館者数が多い美術館)に認定されている。
原告の作品には原告表示等が大きく付されているから、当該作品を鑑賞した者は、印象的な作品と紐づけて、原告表示等を認識し記憶に留めることになる。チームラボボーダレス及びチームラボプラネッツ以外の展示等も、公園、空港、博物館、美術館、ショッピングモール、観光施設など、人流の多い場所で行われているから、その際に使用されている原告表示等は多くの人の目に触れている。
b (筆者注:原告ウェブサイトへのアクセス数関係)
また、原告は、原告が開設するウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)において原告表示等を使用しているところ、原告ウェブサイトには、平成30年及び令和元年の2年間で、日本から●(省略)●を超えるアクセスが、その他世界各国からも●(省略)●のアクセスがされた。
c (筆者注:SNS関係)
さらに、多数のフォロワーを有する著名人により、原告の作品及び原告表示等への言及がされている。
d (筆者注:その他)
加えて、チームラボボーダレス及びチームラボプラネッツを始めとする原告の作品展示施設は、旅行会社が催行する東京観光ツアーの訪問場所として組み込まれており、そのツアーは当該旅行会社のウェブサイト等で広範囲に宣伝広告されている。
(イ)原告表示等が使用された期間の長さ(前記ア②)
原告は、平成13年から一貫して、原告表示等を使用して事業を営んでおり、その期間は令和元年5月20日までに限っても約20年に及ぶ。また、チームラボボーダレス及びチームラボプラネッツが開館した時点から起算しても、令和元年5月20日までに約1年が経過している。
(ウ)原告の宣伝広告量及び営業活動を通じて獲得した信用名声の量(前記ア③)
(筆者注:メディア関係)
原告表示等は、原告の印象的な作品と共に日本放送協会(NHK)並びにフジテレビ、テレビ朝日及びTBS等の地上波民放キー局その他広域放送又は県域放送のニュース番組等において多数回紹介されている上、CMやアーティストのミュージックビデオ等においても多数使用されている。
また、原告表示等は、原告の印象的な作品を紹介する多数の新聞記事やウェブ記事等において、当該作品と共に記載されている。
(筆者注:受賞歴関係)
さらに、原告は、平成31年4月、チームラボボーダレスについて、世界の最も優れた文化的施設に与えられるティア・アワード「アウトスタンディング・アチーブメント賞」を受賞したほか、日本のみならず世界各国の賞を多数受賞している。
(筆者注:その他)
加えて、チームラボボーダレスには、令和元年5月26日にA米国大統領夫人(当時)及びB首相夫人(当時)が、同年8月19日にC官房長官(当時)が、それぞれ訪問して会見をした。原告の作品を展示する施設に、このような要人が訪問していることからしても、同年5月20日時点で、原告表示等が十分すぎる程の信用と名声を獲得していることは明らかである。
ウ 遅くとも令和4年10月18日時点又は口頭弁論終結時において原告表示等が著名な商品等表示であること
(ア) 原告の商品販売量及び営業活動の総量
原告は、令和元年5月20日以降も、日本各地において、作品の展示や展示会を多数開催している。これらの展示等は、従前と同様に、人流の多い場所で行われている。
また、原告ウェブサイトへは、令和2年1月1日から令和4年9月16日までの約2年9か月間で、日本から●(省略)●を超えるアクセスが、その他世界各国からも合計●(省略)●のアクセスがされた。
(イ) 原告表示等が使用された期間の長さ
仮に、原告がチームラボボーダレスを開館した平成30年6月21日、又はチームラボプラネッツを開館した同年7月7日を起算点としたとしても、令和4年10月11日時点で既に4年以上が経過している。
(ウ)原告の宣伝広告量及び営業活動を通じて獲得した信用名声の量
原告表示等は、令和元年5月20日以降も、原告の印象的な作品と共に、地上波民放キー局のニュース番組等において多数回紹介されている。
また、原告の作品がテレビ放送で言及、特集される頻度も落ちることはない。特にチームラボボーダレスについては、全国放送のテレビ番組において複数回特集が組まれた上、令和4年には、雑誌「Forbes JAPAN」において、約100頁にわたる別冊特集が組まれた。
さらに、チームラボボーダレスは、令和元年8月、米国のニュース雑誌「TIME」が発表した「World's Greatest Places 2019」に選出された。
加えて、チームラボボーダレスが令和4年8月31日をもってお台場での展示を終え、令和5年以降に麻布台ヒルズで開館することが全国ニュースとして報道されたところ、このこと自体が、日本の全国民が原告の作品展示について関心を有しており、原告表示等が著名であることを裏付けるものである上、当該報道を通じて、原告表示等の著名性が更に向上したといえる。
エ 小括
以上のとおり、令和元年5月20日以降、遅くとも令和4年10月18日以降又は口頭弁論終結時において、原告表示等が原告の著名な商品等表示であったことは明らかである。
(被告の主張)
ア 商品等表示の著名性の判断基準
原告が主張する三つの要素((原告の主張)ア①ないし③)は、商品等表示の著名性を判断する上で考慮すべき要素となり得るものの、これらの三つの要素のみで著名性を判断することは不可能かつ不適切である。
イ 原告の主張する考慮要素について
(ア)原告の商品販売量及び営業活動の総量((原告の主張)ア①)について
(筆者注:原告展示への来場者数関係)
原告が、公園、城、空港等において原告の作品を展示し、一定数の者がそれを目にするとしても、その来場・来館者数には、当該場所そのものの持つ顧客吸引力が大きく作用している。原告が主張する来館者数の計測方法が明らかでないことを考慮すると、結局のところ、原告自身や原告表示等の有する顧客吸引力の程度も不明といわざるを得ない。
(筆者注:原告ウェブサイト関係)
原告ウェブサイトのアクセス数も、原告ウェブサイトにアクセスしただけで計上されるものであって、その閲覧者が原告表示等をアクセス数に相当する頻度で実際に目にしたかは不明である。また、アクセス数自体についても、他の著名な企業のウェブサイトのアクセス数との比較がされておらず、原告ウェブサイトのアクセス数が著名な企業のウェブサイトのアクセス数に匹敵するものであるか否かが判断できない。
(筆者注:SNS関係)
一部の著名人がSNSにおいて「チームラボ」等の名称と共に原告の作品展示に関する投稿をしているとしても、多数存在する著名人のごく一部の者による投稿にすぎない上、原告側と関係のある者による投稿も含まれている可能性がある。そもそも、著名人が投稿したからといって、その投稿において言及された対象が著名であるとはいえないこと、SNSでの投稿を作為的に増大させることが容易であることからすると、SNSにおいて著名人が原告の作品及び原告表示等について言及しているかどうかを著名性判断の要素として考慮することは不適切である。
(イ)原告の宣伝広告量及び営業活動を通じ獲得した信用名声の量((原告の主張)ア③)について
(筆者注:メディア関係)
原告は、原告表示等がテレビのニュース番組等において多数回紹介されていると主張するが、原告表示等が紹介された番組は、それほど著名でなく、かつ、原告表示等の露出時間も短いものが多い上、視聴者が当該番組において原告の作品を一瞬目にしたとしても、原告表示等に着目する者はほとんどいないと考えられる。
(筆者注:受賞関係)
また、原告は、チームラボボーダレスが「アウトスタンディング・アチーブメント賞」を受賞したと主張するが、この賞に関する分野に興味のない者は、そもそも何の賞であるのか自体が分からないから、原告表示等に注意を払う程度の向上につながるとはいえない。
ウ まとめ
以上のとおり、原告表示等は、普通の社会人であれば知っているであろうというほどには社会に浸透しておらず、普通の社会人が当然知っているというほどの知名度はない。
したがって、原告表示等は、原告の著名な商品等表示に当たらない。
判旨
⑴ 認定事実等
後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 作品展示の状況
原告は、平成13年12月以降、日本各地において、「実験と革新」をテーマに制作したデジタルアート作品の展示を行っており、その際、各展示の展示名や、展示施設内外に設けた案内、広告等において、原告表示を使用している。原告が日本国内で実施した展示の1年間当たりの回数は、平成23年に10回を超え、平成26年から平成29年にかけては約40ないし60回に及んでいた。原告が日本国内で実施した展示のうち、証拠及び弁論の全趣旨により来場者数が●(省略)●と認められるものは、別紙原告展示一覧表のとおりである。
このほか、原告は、諸外国においても、デジタルアート作品の展示を行っている。
イ マスメディア等における原告の紹介等の状況
少なくとも平成25年以降、日本国内において、原告の作品を紹介したり、原告の代表者であるとの肩書を冠して原告代表者が出演したりする番組が、多数回放送されている。
また、原告の作品や当該作品が展示されている施設が、新聞、雑誌、ウェブサイト等の記事において、多数回紹介されている。
ウ 原告の受賞歴等
原告及び原告代表者は、平成19年以降、原告、原告代表者等が制作した作品につき、日本のみならず世界各国の多数の賞を受賞している。
エ 原告ウェブサイトへのアクセス数
原告は、原告ウェブサイトにおいて、原告表示等を使用しているところ、平成30年ないし令和4年における日本国内からのアクセス数(新規ユーザー数)は、以下のとおりであった。(※省略)
⑵ 検討
ア 不競法2条1項2号による著名な商品等表示の保護は、従来、同項1号では困難とされていた、他人の商品等表示の不当利用や希釈化の防止を可能とする一方、同号による周知な商品等表示の保護と比較すると、広義の混同すら生じない無関係な分野にまで及ぶものである。この点にかんがみると、ある表示が著名な商品等表示に当たるというためには、当該表示に係る商品又は営業の需要者又は取引者において、日本国内の広い地理的範囲にわたり、当該表示がその出所を示すものとして広く認識されていることが必要であると解される。そして、商品等表示がこのような意味での著名性を獲得するためには、取引や広告宣伝等を通じて当該表示に接することにより、当該表示が出所を示すものであるとの認識が幅広い需要者又は取引者に定着していく必要があると解される。
このように、商品等表示の著名性とは、日本国内の広い地理的範囲にわたる需要者又は取引者における当該表示が出所を示すものであるとの認識の蓄積、浸透及び定着の度合が大きいことを意味するものといえるから、ある商品等表示が著名であるか否かは、日本国内における当該商品等表示に係る商品の販売量又は営業の総量、当該商品等表示が使用された期間の長さ、需要者又は取引者が当該商品等表示に接した際にそれが出所を示すものであるとの認識の定着に寄与する程度などを総合考慮して判断するのが相当である。
イ まず、作品展示の状況についてみると、平成29年以前においては、原告の作品が展示された展示会等のうち来場者数が●(省略)●ものは、東京都及びその近郊で開催されたものが大半で、開催回数も年に2、3回程度に限られていたこと、東京都及びその近郊以外で開催され、来場者数が●(省略)●展示会等も、…(※中略)にとどまるから、この時点では、来場者数は限定的で、来場者の住所地も地理的に大きく偏っていたと考えられる。
また、会場が美術館であったり、展示名に「芸術」、「アート」、“DESIGNERS”、“DESIGN”との文言が含まれたりする展示が多く、美術、芸術の分野に関心がない者は、原告の作品の展示にも原告表示等にも注意を払わなかった可能性がある。
その後、平成30年ないし令和元年にかけて、政令指定都市以外の県庁所在地等の地方都市で開催した展示会等においても来場者数が●(省略)●ようになり、その回数も年に10回程度と大幅に増加している。特に、チームラボボーダレスの開館後1年間の来場者数が約230万人、チームラボプラネッツの開館後1年間の来場者数が約120万人であったことからすると、この頃から、必ずしも美術や芸術といった特定の分野に関心を有しない者も、チームラボボーダレス及びチームラボプラネッツに来場するなどして、原告の作品に関心を有するようになったことがうかがわれる。そして、原告の作品に関心を有するようになった一般消費者が、その作品を展示する施設や当該展示に係る広告宣伝に付されている原告表示等を目にすることで、原告表示等は、それまで以上の速度で知名度を獲得していったと考えられる。
もっとも、上記のとおり、来場者数が●(省略)●展示に係る会場の所在地に照らせば、作品展示や当該展示に係る広告宣伝などを通じた原告表示等の知名度の獲得は、東京やその近郊、政令指定都市といった大都市や、県庁所在地などの中規模都市に居住する者が中心と考えられること、本件全証拠及び弁論の全趣旨により認定できる原告の作品展示への来場者数が訪日外国人を含めてのべ●(省略)●に満たないことにかんがみれば、需要者である一般消費者において、原告表示等が商品等表示として日本国内の広い地理的範囲にわたって広く認識されるといえるには、マスメディア等を通じた知名度の獲得によって補われる必要があると考えられる。
ウ そこで、マスメディア等における原告の紹介等の状況についてみると、 平成29年以前において、原告又は原告代表者を紹介する番組(全国規模(日本放送協会、民放キー局制作の全国ネット番組など)で、かつ、番組を視聴するための対価の支払を要しないものに限定して検討する。)は、年間10本程度以下にとどまり、その多くは、ニュース番組や情報番組であり、原告の作品やオフィスを紹介するものであった。
その後、平成30年にチームラボボーダレス及びチームラボプラネッツが開館したことに合わせて、以後、多くのニュース番組、情報番組等において原告の作品及びその展示施設が紹介されたこと(平成30年に放送された番組数は、平成29年に放送された番組数の約3倍である。)、令和3年には、比較的知名度の高い長時間特別番組「24時間テレビ」や音楽番組「ミュージックステーション」といった、ニュース番組、情報番組とは視聴者層が異なると考えられる番組においても、チームラボボーダレス及びチームラボプラネッツが紹介されたことから、それまで以上に幅広い層に原告表示等が知られるようになった可能性が高い。
このように、原告、原告代表者及び原告の作品は、ニュース番組、情報番組、音楽番組等において紹介されているところ、このうち、ニュース番組は、幅広い層の視聴者が視聴するものの、多数の時事報道等の中の一つとして放送されることになるため、原告等が紹介される時間は相対的に短いと考えられる。これに対し、昼の時間帯などに放送される情報番組は、特定のテーマに絞った番組構成となっており、原告等が紹介される時間がニュース番組に比して相対的に長い上、体験レポートなどを交えて視聴者により強く印象付ける形で放送されていると考えられる一方、その視聴者層は、当該時間帯にテレビを視聴可能な者に限られるため、限定的であると考えられる。また、平成27年の「SWITCH インタビュー達人達(たち)」及び「世界一受けたい授業」、平成28年の「プロフェッショナル仕事の流儀」及び「another sky-アナザースカイ-」といった地上波放送の番組において、20ないし60分程度の長さにわたって原告又は原告代表者に焦点を当てた放送がされたものの、全ての視聴者が一度の放送だけで原告表示等についての認識を定着させられるとまでは認め難いし、より放送時間が長かった他の番組についても、衛星放送で放送されたものが複数あり、必ずしも全ての番組が幅広い層に視聴されたとは認め難い。
そして、原告の作品展示施設に来場する需要者は、原告及び原告の作品を知った上で来場するのが通常であるのに対し、テレビ番組の視聴者の中には、原告又は原告の作品を知らない者や、当該番組で原告等が紹介されていることを意識しないまま当該番組を視聴する者も多数いると考えられるから、当該番組中で原告表示等を目にしたとしても、それが原告の営業に係る出所を示すものであるとの認識の定着に寄与する程度は、原告の作品展示施設に来場する需要者が原告表示等を目にする場合と比較すると、相対的に小さいと考えられる。
エ 前記イ及びウのとおり、平成30年以降、特定の層に限られない一般消費者が原告の作品を展示する施設や当該展示に係る広告宣伝に付されている原告表示等を目にすることで、原告の作品を展示する展示会等に対する関心を持つ者が増加し、原告表示等は、それまで以上の速度で知名度を獲得していったと考えられるものの、原告表示等が日本国内の広い地理的範囲にわたって、商品等表示として広く認識されるためには、マスメディア等を通じた知名度の獲得によって補われる必要があったといえる。そして、原告を紹介する番組が多数テレビで放送されているものの、当該番組それぞれが有する原告表示等の認識の定着に寄与する程度は、原告の作品展示施設に来場する需要者が原告表示等を目にする場合と比較すると、相対的に小さいと考えられることなどから、原告表示等が需要者において商品等表示として日本国内の広い地理的範囲にわたって広く認識されるに至るには、相当の時間を要したものといえる。
そして、チームラボボーダレス及びチームラボプラネッツが開館した平成30年6月ないし7月以降も、県庁所在地など都市を中心に原告表示等を用いた展示名による作品展示が行われていること(前記(1)ア。別紙原告展示一覧表参照)、多くのテレビ番組で、原告の作品が原告表示等と共に多数紹介されており、特に令和3年に入って、ニュース番組、情報番組とは視聴者層が異なると考えられる番組においても、チームラボボーダレス及びチームラボプラネッツが数多く紹介されていたこと(前記(1)イ。別紙番組一覧表参照)、その他原告の受賞歴等や原告ウェブサイトへのアクセス数(前記(1)ウ及びエ)を考慮すると、原告表示等は、現時点において著名な原告の商品等表示に当たると認められるものの、著名になった時期は、早くともチームラボボーダレス及びチームラボプラネッツが開館して約3年が経過した令和3年7月頃であったと認めるのが相当である。
⑶ 原告の主張について
原告は、多数のフォロワーを有する著名人により、SNSにおいて、原告の作品及び商品等表示への言及がされていること等を、著名性獲得の根拠として考慮すべきであると主張する。
確かに、近年のSNSが有する情報発信力の強さは否定できないものの、フォロワーの多いアカウントにおいて、原告の作品又は原告表示等に言及する投稿がされたとしても、実際に原告の作品展示施設に来場した者等に比し、全てのフォロワーが原告及び原告の作品についての認識及び関心を有しているのかは必ずしも明らかではなく、当該投稿を流し読みするなどして原告表示等についての認識の定着に寄与しない場合も少なくないと考えられることから、フォロワー数が多いからといって、当然に原告表示等について需要者に広く認識されているとは認め難い。
このほか、全てのフォロワーが日本国内に在住する者であるとは限らないことも考慮すると、原告が主張する事情を、原告表示等の著名性の有無及びその獲得時期の判断に当たって考慮することが相当とはいえない。
解説/検討
1 著名の地理的範囲について
著名の地理的範囲については、不競法2条1項1号の「周知性」同様に、ある「地域」内で足りるか、全国的に知られている必要があるかにつき、学説上対立があるところ、本判決は、「日本国内の広い地理的範囲にわたり、当該表示がその出所を示すものとして広く認識されていることが必要である」との判示をしており、「「著名」な商品等表示といえるためには,…全国又は特定の地域を超えた相当広範囲の地域において,取引者及び一般消費者いずれにとっても高い知名度を有するものであることを要すると解される。」とした大阪地判令和2年8月27日(令和元年(ワ)7786号)同様、特定地域内では足りないとの見解に立つものといえる。
従前、裁判例において著名性が認められた事例は、全国的に著名であるものが多く、この点は明確に判断されていなかったようであるが1 、本件及び前掲大阪地判を踏まえれば、裁判例の傾向も、特定地域を超えて著名であることを要すると思われる。
2 著名性の立証について
本判決では、「原告を紹介する番組が多数テレビで放送されているものの、当該番組それぞれが有する原告表示等の認識の定着に寄与する程度は、原告の作品展示施設に来場する需要者が原告表示等を目にする場合と比較すると、相対的に小さいと考えられる」との判示がされている。
この点、従前の裁判例では、各間接事実間の軽重があまり意識されていなかったように思われるところ、本判決のロジックによれば、著名性立証においては、まずは、商品等自体の販売状況等を検討すべきといえるのではないかと思われる。
また、マスメディアについて、ニュース番組や情報番組といった種類ごとに詳細な検討を加えていることは同種事案での主張において参考にし得ると思われる。
なお、本判決は、多数のフォロワーを有する著名人により、SNSにおいて、原告の作品及び商品等表示への言及がされていること等を、著名性獲得の根拠として考慮することが相当とはいえない旨述べるが、全てのフォロワーが原告及び原告の作品についての認識及び関心を有しているのかは必ずしも明らかではなく、当該投稿を流し読みするなどして原告表示等についての認識の定着に寄与しない場合も少なくないという理由は、マスメディアにも同様に妥当しうると思われ、マスメディアによる広告宣伝は、一定程度考慮しているにも関わらず、SNSは考慮を否定するというのは、疑問が残る。
1 松村信夫著『不正競業訴訟の法理と実務〔第4版〕』(民事法研究会、平成16年)201頁参照
