【著作物の改変についての(黙示の)同意】

 

投稿日:2026年4月30日

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著者:弁護士 亀山 和輝
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

著作権法20条1項/同一性保持権/「意に反して」

 

ポイント

※ 本件は、一審原告が作成した脚本原稿(第10稿)を、一審被告が、一審原告に無断でその内容を改変して第12稿を作成し、一審原告が有する第10稿についての著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと主張して、一審原告が、一審被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案である。
※ 本判決は、当然被告が創作的変更を加えることが原告自身にも理解されていたにも関わらず、これに反する話がなかったこと、一審被告が創作的変更を加えようとしていることが理解できるにも関わらず、これに異議を唱えず、作業に協力していたことを重視していると考えられる。

 

判決概要

裁判所 大阪高等裁判所第8民事部
判決言渡日 令和7年2月27日
事件番号 令和6年(ネ)第1431号
事件名 著作者人格権侵害差止等請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
森崎 英二
久末 裕子
山口 敦士
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

第1 事案の概要
 本件は、一審原告が作成した脚本原稿(第10稿)を、一審被告が、一審原告に無断でその内容を改変して第12稿を作成し、一審原告が有する第10稿についての著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと主張して、一審原告が、一審被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案である。
 原審は、同一性保持権侵害を認めて、一部認容判決を行ったため、1審被告が控訴した。

第2 前提事実
1 当事者と関係者
⑴ 一審原告と一審被告
 一審原告は、後に一審被告により加筆、修正されて本件映画の脚本とされた第12稿の原案である第10稿を作成した著作者であり、本件映画のクレジット表記において一審被告とともに脚本家と表示されている。
 原告は、平成25年8月頃から、映画の脚本執筆につき被告の指導や助言を継続的に受けるようになった。その過程で、原告は、被告から本件小説を原作とする映画脚本(シナリオ)の執筆を勧められ、被告の指導や助言を受けながら、第8稿となる脚本原稿を執筆した。

⑵ 関係者
 X3は、本件映画の制作プロダクションであるドッグシュガーの代表者であり、本件映画の監督である。X3は、一審原告とは平成24年頃からの知り合いであり、また、一審被告とは一審被告が脚本を担当して同年公開された映画をドッグシュガーがプロデュースするなどの関係があった。
 また、X4及びX5は、本件映画のプロデューサーである。

2 本件映画の脚本原稿の変更の経緯の概略
⑴ 一審原告は、本件小説を映画化するための脚本を執筆して第8稿まで作成していたが、一審被告の紹介によってX3が第8稿を知るところとなり、これをきっかけとして、同人及び同人が代表を務めるドッグシュガー等が第8稿を用いた映画化を計画することとなった。
⑵ 一審原告、一審被告、X3及びX5は、令和3年8月14日、ドッグシュガーの事務所において、第8稿の映画化に向けての打合せ(本件打合せ①)を行い、同打合せにおいて、第8稿をベースに本件映画の制作を進めることや、X3の発案した第8稿の変更方針が合意された。また、その席で一審被告が脚本家に加わることが決まった。
」 ⑶ 一審原告は、第8稿に本件打合せ①を踏まえた変更を加えて第9稿を作成し、さらに一審被告の指摘に従って変更を加えて第10稿を作成した。これを受けてX3は、令和3年8月19日、第10稿を準備稿とすることを決定した。
⑷ その後、一審被告は、一審原告に調査等を依頼しながら第10稿の加筆、修正作業を進め、第10稿に変更を加えた第11稿を作成し、さらに令和3年10月14日に一審被告、X3、X5及びX4によってされた打合せ(本件打合せ②)を踏まえて、再度、変更を加えて第12稿を作成し、X3がこれを本件映画の脚本(決定稿)とすることを決定した。
 本件映画は、令和3年11月1日、第12稿を脚本に用いて撮影が開始され、令和4年8月の試写を経て、同年12月9日に一般公開された。

   

争点

⑴原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無(争点1)
⑵原告の損害の有無及び額(争点2)
⑶謝罪広告掲載の必要性(争点3)

 以下では、⑴のうち、同意の有無(「意に反して」改変されたか否か)についてのみ、取り上げる。

争点に関する当事者の主張

1 原告の主張
⑴ 本件打合せ①において、原告は、被告が本件映画の脚本家として名前を連ねることは承諾したが、せいぜい共同で脚本を作成していくという認識であって、原告の関与・同意なく被告が単独で改稿していくことを承諾したことはない。一審原告は、変更される場合には、第10稿の場合と同じく関係者に送信される前に、一審原告による最終確認が求められ、一審原告が承諾しなければ、再度一審被告又は一審原告が修正することになるとの認識であった。一審原告の個別の同意がない変更につき包括的に同意した事実はない。

2 被告の主張
⑴ 本件変更は、原告が事前に包括的に同意していたものである。すなわち、本件打合せ①において、被告は、本件映画の脚本は原告のデビュー作となるものであるから、原告単独の名前で世に出したいという意見を述べたが、原告が、脚本を原告と被告の連名とすることに同意したため、被告も、脚本に被告の名前を出して連名の作品とすることを了解し、「名前を出す以上、手を入れるよ。直すよ」ということを述べたところ、原告は「よろしくお願いします」と述べて、被告の加筆と修正による第8稿以降の改稿に同意した。
⑵ 一審被告が行った第10稿に変更を加えて第11稿を作成し、次いで、再度、変更して第12稿を作成する作業は、本件打合せ①で形成された前記同意に基づき行った行為であり、同行為は、ドッグシュガー及びX5が一審原告から第8稿を映画化する(翻案する)ことを許諾された本件打合せ①の席において、一審原告も同席する場で、ドッグシュガー及びX5から、脚本家として第8稿を映画脚本としてふさわしいものに翻案することについて業務委託をされて行った行為である。一審原告は、一審被告が脚本家として名前を連ねるだけであり創作にかかわらないような主張をするが、一審被告は、本件映画に脚本家として自分の名前を表示する以上、名前を出すだけという無責任なことはできない。そして、一審被告が加筆、修正することについては一審原告との間で上記のやりとりがあり、一審原告は、第10稿以降の一切の作業を一審被告に委ねていた。また、一審被告が、脚本を作成したとしても、これを本件映画の脚本(決定稿)とするか否かを決定する権限は本件映画のプロデューサーなどの制作者側にあり、脚本家である一審被告にはないから、本件映画制作のために委託された脚本作成作業においてされた第10稿から第12稿への本件変更は、一審原告が同意した行為であり、一審原告が有する第10稿についての同一性保持権を侵害する行為とはならない。

原審の判断

 ドッグシュガーの事務所で打合せ(本件打合せ①)(参加者:原告、被告、X3、X5)・X5が、本件脚本の映画化に当たり、被告が脚本に参加することを条件として提示した。
 被告は、当初、原告の単独脚本とする意見を述べたが、原告も、被告が脚本家として名前を連ねることに同意した。
 X3が、第8稿を短縮して、時系列に並んでいたものを分割して回想シーンにすることを提案し、原告及び被告も賛同した。
 本件打合せ①の状況(認定事実№8)及び認定事実№30から№52までに認定される原告の対応からすると、原告は被告による従前からの指導、助言の延長に当たる程度の改稿は想定し、そのような修正提案があれば受け入れる意向を有していたことがうかがわれるが、本件打合せ①において、原告が、被告による第8稿以降の脚本の改変を包括的に同意したと認めるに足りる証拠はない。仮に上記被告主張の事実が存在したとしても、それだけで、原告が被告による全ての改稿につき包括的同意を与えたとは認めるに足りない。むしろ、原告が、第11稿を受け取った後、X3に対し、電話で「食糧メーデー」や「著名人の戦争協力の文章の羅列」等に対する不満を述べ、その部分の削除を申し入れ、メールでも「知らされてなかった変更が多く、驚いています。」、「正直解せない部分がある」と述べていること(認定事実№45、46)、X3も、原告に対し、第11稿は今までとは違う作品になっているので、長さだけではなく、内容的にも今日の話し合いは重要なことになる旨原告に連絡していること(認定事実№47)からすると、少なくとも、被告が第10稿を含む第8稿以降の脚本に実質的な変更を加える際には、原告の個別の同意を要することが、本件打合せ①の参加者の共通の前提になっていたものと認められる。

判旨

 一審被告は、一審原告も同席する本件打合せ①の席において、本件映画のプロデューサーであるX5から本件映画の脚本家に加わるよう依頼され、一審原告も一審被告が脚本家として連名となることに同意したこともあって、その依頼を承諾し、第10稿を加筆、修正して第11稿を経て第12稿を作成する作業を行うことになったと認められるが、その関係は、法的には一審被告が脚本家として本件映画のプロデューサーから映画制作のために第10稿の見直し作業の業務委託を受けてこれを履行した関係であるといえる。そして、令和3年8月14日の本件打合せ①以後にされた第8稿から第10稿に至る変更作業は同日から同月19日までの5日程度で済んでいるのに対し、一審被告による第10稿から第11稿への変更作業はその後2か月にも及ぶ期間を要していること、その作業期間中の直接の変更作業を一審被告が単独でしていたこと(原判決別紙認定事実№22ないし42)や、一審被告がその作業期間中、何らかの創作を伴う変更を加えようとしていることは、一審原告に対する調査依頼等の内容からも理解できたはずのものであること(原判決別紙認定事実№28から32のやりとりからは、一審被告が創作行為をしていたことは十分うかがわれる。)、そうであるのに、一審原告は、これに異議を述べることなく一審被告の作業に協力していたことが認められるから、以上によれば、一審原告は、一審被告が、第10稿を一審被告としての創作も加えながら加筆、修正をして変更することを容認していたと認めるのが相当である。
 その上、一審原告は、第10稿から第11稿へ変更した一審被告の加筆、修正についての不満をX3に伝えながら、X3から、本件打合せ②を受けて第11稿を加筆、修正する作業を一審被告が担当することを聞かされ、それが第11稿を破棄して第10稿に戻すだけであるという単純な作業でないことは想定できるのに、なお一審被告が単独で第11稿に加筆、修正をして第12稿とする作業をすることを容認していたことも明らかである。
 以上を総合すると、一審原告は、一審被告が、本件映画の脚本制作のため第10稿から第12稿に至る加筆、修正作業をすること自体は同意していたと認めるのが相当である。

 一審原告は、令和3年8月14日の本件打合せ①で一審被告が脚本家に加わったのは、映画のキャスティング、原作者の許諾、資金集め、集客等のためであり、一審被告の作業は、一審原告の脚本の歴史考証やこれに伴うチェック等にとどまると主張し、その旨供述しており、また、一審被告に脚本家として加わることを求めたX5も上記主張の目的が含まれている趣旨を証言している。
 しかしながら、上記X5の証言は、上記内容にとどまらず、一審被告が脚本家としての創作性を発揮して加筆、修正することを期待していたことにも及んでいるし、なにより一審被告としては、脚本家としての自らの名前を、出演を引き受ける俳優のみならず一般の映画鑑賞者に対して表示する以上、脚本家として加筆、修正を加えて納得のいく脚本を完成させようとすることは当然予想されるところであって、そのことは一審原告自身も理解していたものと考えられる。そして、一審被告が脚本家として加わることが決まった本件打合せ①において、一審被告は脚本家として名前が使われるだけで脚本家としての創作的な活動は不要であるとか、脚本家としての創作を制限するなどの話がされた事実が認められるわけではない上、現に上記のとおり、一審被告が第10稿に創作的部分が加わる加筆、修正をしようとしていたことを一審原告は容認していたとしか理解できないから、脚本家として加わった一審被告がする作業が一審原告の脚本の歴史考証やこれに伴うチェック等にとどまるものに限定されていたようにいう一審原告の上記主張は採用できない。

 

解説/検討

 本判決は、当然被告が創作的変更を加えることが原告自身にも理解されていたにも関わらず、これに反する話がなかったこと、一審被告が創作的変更を加えようとしていることが理解できるにも関わらず、これに異議を唱えず、作業に協力していたことを重視していると考えられる。
 他方で、原判決は、これらの事情についての評価を明確にしていないものの、これらの事情に係る認定事実に言及して、「原告は被告による従前からの指導、助言の延長に当たる程度の改稿は想定し、そのような修正提案があれば受け入れる意向を有していたことがうかがわれるが、本件打合せ①において、原告が、被告による第8稿以降の脚本の改変を包括的に同意したと認めるに足りる証拠はない。」と述べている。
 なお、原判決によっても、改変自体に対する同意が存在するのではないかと考えられ、事前の、改変についての同意がある場合には、「名誉・声望を害さないような場合には、同一性保持権侵害にはならないと解すべき」という見解(中山信弘『著作権法[第3版]』(有斐閣、2020)624頁)によれば、いずれの認定によっても結論は変らない事案であったのではないかと思われる。

 

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