【声のパブリシティ権を認めた事例】

 

投稿日:2026年10月15日

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著者:弁護士 亀山 和輝
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

パブリシティ権/声のパブリシティ権

ポイント

※ 人の声について、パブリシティ権による保護の余地を認めた判決であり、この点に意義があると思われる。
※ 本件では、動画が削除されていたため、パブリシティ権侵害の成否について、具体的な判断は示されておらず、複数の検討課題が残されたと考えられる。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 令和8年9月30日
事件番号 令和7年(ワ)第70635号
事件名 投稿記事削除請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
髙橋 彩
西山 芳樹
瀧澤 惟子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

(以下、判決「第2」を参照)
1 事案の概要
 声優である原告が、被告に対し、被告が運営するインターネット上の動画投稿サイト(TikTok。以下、「本件サイト」という。)に投稿された各投稿記事中の動画のナレーションの声が、原告の声に類似しているなどとして、不正競争防止法3条又はパブリシティ権に基づく侵害排除請求権に基づき、本件各記事の削除を求める事案。

2 前提事実
⑴ 本件サイトにおいて「八海」(●省略●)というアカウント(以下「本件アカウント」という。)を使用する氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、令和6年7月から令和7年9月までの間に、本件サイトに188件の記事を投稿した(本件各記事)。
 本件各記事は、いずれも映像及び字幕と、都市伝説、心霊現象等の雑学の ナレーション(以下、この音声を「本件音声」という。)を組み合わせた動画 を内容とする。

⑵ 本件アカウントは、令和7年11月時点で21万人以上のフォロワーを有し、本件各記事は、いずれも数千から数万の「いいね」を獲得している。

⑶ 本件アカウントのトップページには、外部サイトへのリンクが張られ、同外部サイトには、本件音声は原告の声を無断で使用してAIに学習させたものではなく、声真似が上手い友人の声をAIに学習させたデータを使用したものである旨が記載されていた(以下「本件記載」という。)。
 本件各記事のコメント欄には、「津田健次郎...?」、「ツダケンの声がする」、 「津田健次郎の声に似てる」、「津田健次郎の声真似が上手い友達の声をAI変換させたって言ってるけど嘘だよな」といった投稿が見られた。

⑷ 本件投稿者は、令和8年5月29日、本件アカウントを削除した。

争点

⑴ 不競法に基づく削除請求の可否(争点1)
⑵ パブリシティ権に基づく削除請求の可否(争点2)
⑶ 本件各記事が既に削除されたか(争点3)

以下では、主に、争点2について取り上げる。

   

争点に関する当事者の主張

以下、判決から抜粋。
【原告の主張】
ア 前記⑴(原告の主張)ア(注:原告は、「艶のある低音ボイス」、「低く渋みのある声」が特徴的であると 評され高い人気を得ており、原告の声を聴いた者は原告を想起するから、原 告の声質は、声優である原告の営業表示である。 原告自身が特に声優として著名であるし、その出演する「劇場版 呪術廻 戦0」が980万人の観客を動員するなど、原告の声質の認知度は高いから、 原告の声質は、原告の営業表示として著名であり、そうでないとしても、少 なくとも需要者の間に広く認識されている。)によれば、原告の声は顧客吸引力を有する。

イ 本件投稿者は、本件各記事の再生により収益を得ているから、本件各記事に係る動画は商品である。
 本件各記事に係る動画は、同イのとおり原告の声に類似する本件音声を使用したものであるから、原告の声を独立して鑑賞の対象となる商品として使用するものである。
 また、本件各記事に係る動画は、いずれもありふれた雑学を利用したものであってそれ自体は商品価値が乏しいが、本件音声を使用することで商品価値を高めたものであるから、顧客吸引力を有する原告の声を商品の差別化を図る目的で使用したものである。
 さらに、本件各記事に係る動画は、ありふれた内容について本件音声を使用することで多くの閲覧者を誘引したのであるから、顧客吸引力を有する原告の声を商品の広告として使用したものである。
 以上によれば、本件各記事における本件音声の使用は、専ら原告の声の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえる。

ウ 以上によれば、本件投稿者は、原告の声を使用することにより、原告のパ ブリシティ権を侵害したものといえる。

【被告の主張】
ア 本件音声は、原告以外の第三者の声をAIによって加工したものであるから、本件各記事における本件音声の使用は、原告の声を使用するものとはいえない。

イ 本件各記事に係る動画は、本件音声を独立して鑑賞の対象とするものではない。また、その内容に照らして、本件音声によって再生数が伸びるなどしたともいえないから、商品の差別化を図る目的で原告の声を使用したものとはいえない。以上によれば、本件音声を商品等の広告として使用したものともいえない。

判旨

 パブリシティ権に基づく削除請求の可否(争点2)に関し、人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴であるということができるところ、例えば実演家の声等を無断で使用する行為は、その声が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有 するといえる場合であって、その声を使用する行為が専らその声の有する顧客吸 引力の利用を目的とするものといえるときは、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当であるといえる。

解説/検討

1 背景
 パブリシティ権については、ピンク・レディー事件(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)がリーディングケースとされている。同判決は、「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客有引力を有すると解される。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」と判示する。

 そして、近年の生成AIの普及等も相まって、法務省が2026年4月に「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を設置する等、前記パブリシティ権が生じる肖像等に声が含まれるかに注目が集まっていたものと思われる。

2 従前の議論状況
 前掲最判に係る調査官解説(最高裁判所判例解説民事篇平成24年度(上)18頁(中島基至裁判官))においては、「本判決の3類型にいう『肖像等』とは、本人の人物識別情報をいうものであり,例えば,サイン,署名,声,ペンネーム,芸名等を含むものである。」(41頁)と述べられている。
 また、法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書 生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」(2026年)9頁においても、「本検討会においても、声は、人物識別情報であり、かつ、個人の人格の象徴であることから、声がパブリシティ権の保護対象に含まれることについて、異論がなかった。」と述べられている。
 このように、学説上、従前から、声がパブリシティ権の保護対象となることは有力な見解であったと解される。

3 残された問題
 本件では、口頭弁論終結時までに、被告において削除の対象である本件各記事を削除したことが認定されたため、請求が棄却され、パブリシティ権侵害自体の成否について判断されていないため、以下の点が、今後の検討課題となると考えられる。

⑴ 権利範囲
 本件で、被告は、「本件音声は、原告以外の第三者の声をAIによって加工したものであるから、本件各記事における本件音声の使用は、原告の声を使用するものとはいえない。」と主張している。
 仮にこのような事実を前提とすれば、パブリシティ権の保護の対象となる肖像等につき、類似の肖像等も保護対象となるかが問題となり得る。
 この点、前掲調査官解説では、「物まね(そっくりさん)に係る肖像等は,『本人』を連想させるが,人物識別情報としては『物まねをする人物』を示すものであるから,本判決にいう『肖像等』には該当しない。ただし,人物識別情報として本人を示すものとして誤解されるような『肖像等』は,パブリシティ権侵害を構成する余地もあると思われる。」(42頁)と解されている。
 このような見解によれば、類似の肖像等についても、人物識別情報として本人を示すものとして誤解されるようなものは、保護範囲に含まれると思われる。

⑵ 立証について
 前記「⑴」の権利範囲の問題とも関連すると思われるが、立証方法についても、検討の余地があると考えられる。
 すなわち、例えば、肖像については、物まねやそっくりさんの存在を考慮しても、本人のものであるかの判別は比較的容易であると予想される。他方、声の場合には、声まねや元々似ている声、さらには、それをAIで加工等した場合と、本人の声を判別することは、肖像に比べれば困難であると予想される。

 この点、前記調査官解説のように、「人物識別情報として本人を示すものとして誤解されるような『肖像等』は,パブリシティ権侵害を構成する余地もあると思われる。」との見解によらず、厳密に「本人の声」のみが保護範囲であると解する場合には、立証が困難となることが想定される。
 したがって、権利範囲として、「人物識別情報として本人を示すものとして誤解されるような『肖像等』は,パブリシティ権侵害を構成する余地もある」とする前掲調査官解説のような見解によらなければ、立証も考慮した場合、保護が相当程度弱まってしまう可能性があると思われる。

⑶ 侵害の類型について
 前掲最判は、「肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」と判示する。
 本件事案のように、動画のナレーションとして、声を利用する場合に、①の「独立して」を満たすのか、②の「付す」を満たすのかという点から、前掲最判の例示列挙のいずれかに該当するのか、あるいは、「など」に該当するのかという問題があると思われる。

 

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