【均等第1要件について判示した事例】
投稿日:2026年8月28日 |
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著者:弁理士 大栗 由美
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参照条文/キーワード/論点 |
特許法36条6項1号/特許法36条6項2号/合成樹脂/均等侵害/サポート要件 |
ポイント※本事件は、発明の名称を「コンプレッションサポーター」とする特許第5133797号の特許に係る特許権の特許権者である控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人製品が本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術範囲に属するものであるとして、特許権侵害による損害賠償を請求した事件である。裁判所は、控訴人の請求を棄却した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和5年10月26日 |
| 事件番号 | 令和4年(ネ)第10113号 |
| 事件名 | 損害賠償等請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂 昌利
本吉 弘行 頼 晋一 |
事案の概要
原審の判決で裁判所は、被告製品は構成要件Biiを充足せず、均等侵害も当たらないこと、本件特許はサポート要件違反の無効理由を有するとして原告の請求を棄却した。本事件は原審の原告がその判決を不服として控訴した事件であり、本判決で裁判所は、被控訴人製品は構成要件Cを充足せず、均等の第1要件も充足しないため本件特許の特許請求の範囲の技術的範囲に属すると認めることはできないとして控訴人の請求を棄却した。
争点
争点1-3 被控訴人製品が本件発明の構成要件Biiを充足するか
争点1-4 被控訴人製品が本件発明の構成要件Cを充足するか
ア.「固着」に一体編成・織成構造のサポーターが含まれるか
イ.「樹脂」に合成繊維が含まれるか
争点1-5 均等侵害の成否
争点2-4 サポート要件違反
原審(原々審)の判断
・争点1-3 構成要件Biiの充足性
「ii また、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために、上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上方へ連続して伸びる方向に、本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し、」
⇒前提事実及び証拠(甲6)によれば、被告製品部分2は、被告製品部分2と接触する部分や大腿骨の周囲筋腱を圧迫することまでは一応認められるものの、これを超えて、本件全証拠によっても、被告製品部分2が大腿骨自体までをも圧迫することまで認めることはできない。・・・被告製品17は、・・・原告において被告製品17が「大腿骨」自体を圧迫することを具体的に立証しない限り、被告製品17が構成要件Bⅱを充足するものと認めることはできない。
➡構成要件Bⅱは非充足
・争点1-4 構成要件Cの充足性
ア.「固着」に一体編成・織成構造のサポーターが含まれるか
⇒本体20の材質と低伸縮性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を
用いる場合には直接本体20に低伸縮性材料34を熱溶着する手段も選択し得る周知の事項である。このように本発明においては何れの固着手段を採用しても良い。」(段落【0032】)と記載されている。・・・上記の構成要件C及び本件明細書等の各記載内容に加えて、「固着」という用語の一般的な意味内容を踏まえると、本件発明における「固着」の方法について、固くしっかりと付くこと以上に、何らかの限定がされているものと解することはできない。
イ.「樹脂」に合成繊維が含まれるか
⇒樹脂の一種である「合成樹脂」は、「合成高分子化合物」とほぼ同義で用いられることがあり、「合成繊維」とは合成高分子化合物を紡いで繊維としたものをいうことが認められる。そうすると、「合成樹脂」は、常に繊維状のもの(合成繊維)を除く意味で用いられるものではなく、むしろ、合成繊維は、その材料が合成樹脂であるから、「樹脂より成る」ということができる。・・・本件発明の「樹脂」に「合成繊維」が含まれないとまで解することはできず、被告の主張は、採用することができない。
➡構成要件Cは充足
ウ.均等侵害の成否について
⇒原告は、本件発明を「別材料固着構造」のものに限定解釈し、「一体編成・織成構造」である被告製品17が本件発明の技術的範囲に文言上属さないとしても、本件発明と被告製品17が均等であるなどとして均等侵害を主張するものの、原告がいかなる構成要件との関係で均等侵害を主張するかについて、必ずしも明らかではない。
・・・構成要件C(争点1-4)の非充足を前提として均等侵害を主張するものであるとすれば、上記のとおり、いわゆる「一体編成・織成構造」を含むとして構成要件Cの充足性を認めているため、原告の上記主張は、前提を欠く。
・・・構成要件Bⅱの「側面圧迫領域」の非充足を前提として均等侵害を主張するものとしても、上記「側面圧迫領域」が本件発明の課題解決手段であることは、上記において説示したとおりであり、本質的部分が相違する以上、均等侵害をいう原告の主張は、採用することができない。
➡均等侵害ではない
・争点2-4 サポート要件違反について
⇒本件明細書等によれば、当業者が一体編成・織成構造のサポーターによって本件発明の課題を解決できるとする記載は一切なく、かえって、本件明細書の段落【0002】によれば、一体編成・織成構造のサポーターによっては、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができず、本件発明の課題を解決することができない旨明記されていることが認められる。そうすると、本件明細書等の記載内容を踏まえると、一体編成・織成構造のサポーターが、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できるものと認めることはできない。本件発明は、特許法36条6項1号に違反し、特許無効審判により無効とされるべきものであるから、原告は、本件特許権を行使することができない。
【背景技術】
【0002】
膝部に着用する従来の筒状の伸縮性サポーターは、サポーター本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている。しかしそれでは、膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。
➡無効理由(サポート要件)あり
原審判決
✔構成要件Bⅱ 非充足
構成要件C 充足
✔均等侵害 非該当
✔サポート要件違反の無効理由あり
➡請求棄却
判旨
・争点1-3 構成要件Biiについて
上記(1)の認定に、争いのない被控訴人製品17の構成(前記引用に係る原判決「事実及び理由」第2の1〔前提事実〕(4)ア、イ)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人製品部分4は、構成要件Bⅱの「低伸縮領域として…上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上方へ連続して伸びる方向に、本体両側面に設けた」領域に相当し、大腿骨の周囲筋腱を圧迫するものと認められる。
イ そこで、構成要件Bⅱの「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」の意義について検討する。本件発明が皮膚の上から着用するコンプレッションサポーターに関するものであることに加え、特許請求の範囲(請求項1)の記載、「側面圧迫領域」の作用効果についての本件明細書【0014】の記載(「大腿骨12及び周囲筋腱を圧迫するために…設けた側面圧迫領域…は内側側副靭帯及び外側側副靭帯を圧迫し、歩行及び運動における膝関節機能向上の効果がある。」〔【0025】にもほぼ同じ記載がある。〕)に照らせば、「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」とは、「側面圧迫領域」が皮膚の上から大腿骨を圧迫する趣旨であることは明らかである。
これに反する被控訴人の主張は、上記認定に照らし、採用できない。また、上記のように解したからといって、本件発明が明確性要件(特許法36条6項2号)に違反するものではない。
・・・被控訴人製品部分2は、皮膚の上から大腿骨を圧迫する「側面圧迫領域」に相当するから、被控訴人製品17は「大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために…本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し」との構成を有しており、構成要件Bⅱを充足するものと認められる。
➡構成要件Bⅱは充足
・争点1-4 構成要件Cについて
ア.「樹脂」に合成繊維が含まれるか
「樹脂より成る低伸縮性材料」の意義について
(ア) 構成要件Cの「樹脂」が天然樹脂ではなく合成樹脂を意味することは、本件明細書の記載及び弁論の全趣旨から明らかである。そして、大辞林(甲17)には、合成樹脂については「建築用材・各種部品・食器などに用いられる合成高分子化合物の総称」、合成繊維については「合成高分子化合物を、種々の方法で紡いで繊維としたもの」とあり、「合成樹脂」と「合成繊維」は項目を分けて説明されている一方で、一般的な用例として「合成樹脂」が「合成繊維」を含むとする記載はない。そして、一般的な国語辞典よりは技術用語としての用例に踏み込んでいると解される辞典も含めて更に検討すると、「合成樹脂」の説明として、デジタル大辞泉(乙1)では「合成高分子化合物のうち、繊維およびゴムを除いたものの総称」、世界大百科事典第2版(乙2)では「合成高分子物質のうちで、合成繊維と合成ゴムを除いた、成形品」、化学大辞典3(乙7)では「合成高分子物質の中で繊維、ゴムとして利用される以外のものを総称する。」とあり、「合成樹脂」に「合成繊維」は含まれない旨が明確に記述されている。
なお、化学大辞典6(乙9)の「ナイロン」の項目では、「歴史」の説明箇所でナイロン繊維についての説明が、「用途」の説明箇所で「生産の大部分は…繊維として…衣料用…などの工業用に用いられる。」との説明があるが、「性質」の説明箇所では「プラスチックに用いられるナイロンの性質を次表に示す。」、「ナイロン繊維の性質はポリアミド合成繊維の項を参照」と分けて説明されている。また、化学大辞典8(乙10)では、「ポリエステル」の項目では「アルコールとの重縮合により得られる高分子化合物の総称。…現在工業的に重要なものには次のようなものがある。(1)アルキド樹脂(2)不飽和ポリエステル樹脂(3)ポリエステル系合成繊維(4)マレイン酸樹脂」と説明され、また、「ポリエステル系合成繊維」と「ポリエステル樹脂」はそれぞれ別の項目で説明されている。これらの辞書、辞典類の記載によれば、合成樹脂と合成繊維はいずれも高分子化合物であり、合成繊維は合成樹脂を材料とすると認められるものの、「合成樹脂」という用語の一般的な意義としては、合成繊維を含まないとみるのが相当である。
イ.「固着」に一体編成・織成構造のサポーターが含まれるか
上記アのとおり「樹脂より成る低伸縮性材料」は合成繊維を含まないと解されるから、「固着」についても、本体の一部に低伸縮性の合成繊維を編み込むことや、本体に用いる合成繊維の織り方や編み方を変えることによって、本体の一部に設けることは含まないと解される。
「固着」に関する本件明細書の記載(【0012】、【0031】、【0032】)をみても、これと異なる解釈をすべき根拠となる記載は見当たらない。
また、本件明細書の【背景技術】【0002】に「本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力…)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている」従来のサポーターについて「膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。」と記載されていることは、本件発明がこの従来技術と異なる方式であることを示唆するものであり、「固着」についての上記解釈を裏付けるものといえる。
ウ 被控訴人製品17について
(ア) 被控訴人は、被控訴人製品17の構成は「一体編成・織成構造」(部分によって織り方や編み方を変化させることにより、伸縮性等の異なる部位を配置した構造)である旨主張し、これに沿う報告書(乙14)を提出するところ、控訴人は特に争っていない。
(イ) そうすると、被控訴人製品部分2は、「樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した」低伸縮領域に相当するとはいえないから、被控訴人製品17の構成は、構成要件Cを充足しない。なお、被控訴人の開設するウェブサイトにおける商品説明(甲7)には、「伸縮率の異なる3種類のナイロン繊維を採用。様々な編み方を組み合わせ、立体的に縫製しました。」という記載があることから、被控訴人製品17の「低伸縮領域」である被控訴人製品部分2は、本体の他の部分より伸縮性の低いナイロン繊維(合成繊維)を用いている可能性も窺われるが、仮にそうであるとしても、上記判断は左右されない。
エ 原審及び当審における控訴人の主張に対する判断
(ア) 控訴人は、「樹脂」の意義について、本件明細書【0012】に低伸縮性材料の例として「ナイロン」が記載され、大辞林(甲17)に合成繊維の説明として「ナイロン・テトロン・ビニロンなど」と記載されていることから、「樹脂」には合成繊維が含まれる旨主張する(原判決21頁)。
しかし、本件明細書【0012】は、「樹脂材料」として「ポリエステル、ウレタンなど」とともに「ナイロン」を例示したものであり、本件明細書の他の記載と併せると、合成繊維が含まれるかという点について、本体を形成する素材と低伸縮性領域を形成する「樹脂素材」を区別していることは、前記ア(イ)に判示のとおりである。
(イ) また、控訴人は、本件発明は構成材料の取捨選択や特性によって発明の効果等を達成するものではないから、合成樹脂と合成繊維を厳密に区別すべきではない旨主張する(前記第3の2(2)【控訴人の主張】イ)。しかし、控訴人の上記主張は、後記の均等論においてはともかく、文言侵害に係る上記アの認定判断を左右するものではない。
(ウ) 控訴人は、「固着」の意義について、本件特許の特許請求の範囲には表面の一部に固着すると限定する規定はない、本件明細書【0032】に記載された熱溶着による手段は「一体編成・織成構造」と固着の態様が同様である、あるいは同様の技術的思想が開示されている旨主張する(原判決20頁~、前記第3の2(2)【控訴人の主張】ア(ア))。しかし、「樹脂」及び「樹脂より成る低伸縮性材料」が合成繊維を含まないことからすれば、本件特許の特許請求の範囲の規定は前記イのとおり解される。また、本件明細書【0032】の「さらに、本体20の材質と低伸縮性材料34の材質に親和性があり、かつ熱溶着性樹脂を用いる場合には直接本体20に低伸縮性材料34を熱溶着する手段も選択し得る周知の事項である。」との記載は、「一体編成・織成構造」を開示するものとはいえない。なお、熱溶着と「一体編成・織成構造」の技術的思想が共通するか否かは、文言侵害に係る上記アの認定判断を左右するものではない。
(エ) 控訴人は、本件発明は「別材料固着構造」に限定されるものではなく、「一体編成・織成構造」のサポーターも含まれる旨主張する(原判決20頁~、前記第3の2(2)【控訴人の主張】ア(ア))。しかし、本件発明が「別材料固着構造」に限定されるとの被控訴人の主張を採らずとも、被控訴人製品17の構成が構成要件Cを充足しないと解すべきことは、上記ア、イに判示のとおりである。控訴人は、上記(イ)、(ウ)の主張を含め、「一体編成・織成構造」のサポーターが構成要件Cを充足する旨を主張するが、いずれも上記認定判断を左右するものではない。
オ そして、弁論の全趣旨によれば、少なくとも被控訴人製品部分2の構成は、被控訴人各製品に共通するものと認められるから、被控訴人各製品は、本件発明の構成要件Cを充足せず、その文言上、本件発明の技術的範囲に属するとはいえないことになる。
➡構成要件Cは非充足
・争点1-5 均等侵害の成否について
(1) 均等の第1要件(非本質的部分)について
ア 特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって、特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。そして、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。その結果、従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定せざるを得ないこととなる。ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである(知財高裁平成28年3月25日判決・判例タイムズ1430号152頁参照)。
イ 本件明細書に記載された従来技術、発明の課題及び課題を解決するための手段は、以下のとおりである(前記引用に係る補正後の原判決「事実及び理由」第4の1(2)のとおりであるが、再掲する。)。
(ア) 従来技術では、サポーター本体に織り込まれているゴムの収縮力や織り方を変えることで患部に対する圧迫、押圧の強度を変化させていたが、膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加えることができないという問題があった(【0002】)。先行特許文献に記載された逆U字型のパッドを備える構成では、膝蓋骨を吊り上げて大腿四頭筋の機能を補助することができず、縦方向と横方向の伸長率を変化させてずれにくくする構成はサポーター本来の機能とは関係がないという問題があった(【0003】)。
(イ) 本件発明は、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供することを発明の課題とし(【0005】)、この課題を解決するための手段として、本件発明の構成要件A~Cの構成を採用した(【0006】)。
(ウ) これにより、本件発明は、適切に膝蓋靱帯を圧迫し、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定し得るコンプレッションサポーターを提供するという効果を奏する(【0020】)。
ウ 控訴人は、本件明細書の記載に基づき、本件発明の課題は「膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供すること」であり、当該課題は、低伸縮領域であるほぼU字型の「正面吊り領域」が「膝蓋靭帯を圧迫」すると共に「膝蓋骨を吊り上げ」て「大腿四頭筋の機能を補助」することで解決されるものであり(【0010】、【0011】)、このことから、本件発明の本質的部分は、「低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型に、本体正面に設けた正面吊り領域」を備えるという構成(構成要件Bⅰ)であると主張する。
エ しかし、本件特許の出願前に頒布された乙4文献には、・・・伸縮性材料からなり着脱容易な膝サポータ(第1の1)であって、シリコーン材料、ゴムなどの弾性材料から形成され、膝蓋骨用開口部の横及び下から膝蓋骨の下部を取り囲み、下部膝蓋靭帯の上に位置するU字形状パッドを備え付けることにより(第1の1、2、第2の1、3)、下部膝蓋靭帯の領域に押圧力を生じさせ、膝蓋骨の負荷を軽減するもの(第2の2、4)が開示されていると認められる。なお、上記「パッド」は、伸縮性材料からなり着脱容易な膝サポータにおいて、シリコーン材料、ゴムが例示される弾性材料から形成され、これが位置する領域に押圧力を生じさせるものであるから、上記伸縮性材料より伸縮性が低いと認められる。また、乙4文献には、膝蓋骨を保持又は「吊り上げ」ることは明記されていないが、本件発明においても「膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋を補助する」のは「膝蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型に、本体正面に設けた正面吊り領域」であり(構成要件Bⅰ、本件明細書【0006】)、この「正面吊り領域」は、「本発明においては、低伸縮領域として、膝蓋靭帯を圧迫するために、膝蓋骨17の下部を取り囲むほぼU字型…に、本体正面に設けた正面吊り領域を具備している。低伸縮領域である正面吊り領域を、ほぼU字型に形成することにより、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋を補助するものである。」(【0010】)、「膝蓋靭帯15を圧迫するために本体正面に設けた正面吊り領域22を具備する。正面吊り領域22は、膝蓋骨17の下部を取り囲む湾曲部を有するほぼU字型…に設けられており、膝蓋骨17の下部を取り囲む湾曲部を有することにより、前述のように膝蓋骨17を吊り上げ、大腿四頭筋に好適な作用を及ぼすものである。」(【0023】)というものである。
オ 以上の乙4文献の開示事項を考慮すると、本件明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところは、出願時の従来技術に照らし客観的にみて不十分というべきである。そして、乙4文献記載の従来技術をも参酌すると、従来技術に「膝関節の任意の箇所に必要な押圧を加える」ことができないという問題があり、「膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を保持して、膝関節を良好に固定するコンプレッションサポーターを提供する」という課題が未解決であったということはできず、少なくとも、従来技術と比較した本件発明の貢献の程度は大きいものではないと評価せざるを得ない。以上によれば、本件発明の本質的部分は、本件発明に係る特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものと認めるのが相当であり、少なくとも、樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した低伸縮領域の構成を定める構成要件Cは本件発明の作用効果に直結する部分であって、その本質的部分に含まれるというべきである。
カ そうすると、上記3のとおり、被控訴人各製品は、構成要件Cを充足しないから、本件発明の本質的部分を備えていないこととなり、均等の第1要件を充足するとは認められない。
(2) したがって、被控訴人各製品については、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとしてその技術的範囲に属すると認めることはできない。
控訴審判決
構成要件Bⅱ(大腿骨を圧迫) 充足
✔構成要件C(樹脂、固着) 非充足
✔均等第1要件(本質的部分) 非充足
➡請求棄却
解説/検討
背景技術に記載されている従来の筒状の伸縮性サポーターの問題点は、開示した文献に記載された内容ではなく、権利化を見据えて独自に記載されたと想像できるが、この記載が、被控訴人製品が特許請求の範囲に属さないという判断の根拠の1つとされてしまっており、権利化を考えて記載した背景技術が、権利行使で不利にならないように考慮することも重要であることを改めて感じた。
原審も控訴審も請求棄却という結論は同じだが、各構成要件の充足、非充足の判断は異なる判断がされた。樹脂に合成繊維が含まれるか否かについての判断は難しいが、辞書的な解釈で結論付けられたことから、用語は感覚と辞書的な意味にずれがある場合もあるので、解釈の根拠を確認して使用することの重要さを感じた。また、原審では明細書【0002】の記載にかかわらず、一体編成・織成構造でも構成要素を充足するとされていたが、明細書【0002】の記載がある以上、明細書全体から読み取れる発明の技術的範囲への属否は、構成要素Cを非充足とした控訴審の判断は妥当だろうと思う。
