【本件商標と引用商標の称呼と観念が共通する場合があると認めつつ、外観が著しく異なっていることなどを理由に類似性を否定した事例】

 

投稿日:2026年8月19日

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著者:弁護士 木村 広行
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

商標法4条1項11号/類否

ポイント

※本判決は、引用商標について、「フフフ」の称呼が生じ、「笑い」の観念が生じることを認定し、本件商標について、「フフフ」と称呼されるときには、「笑い」という観念を生ずることがあり、引用商標と称呼、観念が共通する場合があることを認めつつ、本件商標は「フフフ」「トミトミトミ」などの称呼が生じ、本件商標からは「三つのとみ(富)」など,豊かであることや財産(及びそれが複数あること)に関連する漠然とした意味合いを想起させることや、外観の著しい相違、称呼や観念を共通にする場合があるとしても、それは本件商標を「フフフ」と称呼した限られた場合のみであることを踏まえて類似性を否定した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和2年9月23日
事件番号 令和2年(行ケ)第10014号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
森 義之
佐野 信
中島 朋宏
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

1.事実関係
⑴ 本件商標
【登録番号】第6007642号
【登録商標】
      画像
【出願日】 平成29年3月8日
【査定日】 平成29年10月26日
【登録日】 平成30年1月5日
【指定商品】
第30類 茶,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,みそ,穀物の加工品,食用酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類
第31類 あわ,きび,ごま,そば(穀物),とうもろこし(穀物),ひえ,麦,籾米,もろこし,飼料,種子類,木,草,芝,ドライフラワー,苗,苗木,花,牧草,盆栽
第33類 泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒,直し,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味酒

⑵ 引用商標
【登録番号】 第5458965号
【登録商標】
      画像
【出願日】 平成23年6月14日
【登録日】 平成23年12月22日
【指定役務】
第35類 飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

争点

商標の類否(商標法4条1項11号)

   

判旨

1 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。

2 本件商標と引用商標の類否について
(1) 外観について
 本件商標は,「富富富」の漢字を横書きした構成から成るものであり,引用商標は,「ふふふ」の平仮名を横書きした構成から成るものであって,本件商標と引用商標は,外観において著しく異なっている。

(2) 観念について
ア 本件商標は,「富」を三つ並べたものであるところ,「富」の文字は,「物が満ちたりること。豊かにすること。とむこと。とみ。」,「集積した財貨」などを意味する(「広辞苑 第六版」株式会社岩波書店2033頁・2414頁)平易な漢字であるから,本件商標は,「三つのとみ(富)」など,豊かであることや財産(及びそれが複数あること)に関連する漠然とした意味合いを想起させるものであるといえる。また,本件商標が「フフフ」と称呼されるときには,下記イの引用商標と同様の特定の態様の「笑い」という観念を生ずることがあるということができる。
イ 引用商標を構成する平仮名である「ふふふ」の語は,「口を開かずに軽く笑う声」(甲3の1),「口を閉じ気味にして低く笑うときの笑い声」(甲3の2),「かすかな笑い声」(甲3の3),「含み笑いをする声」(甲3の5)など,特定の笑い声を示し,また,「含み笑いをするときなどの様子」(甲3の4)を示すものと認められる。したがって,引用商標は,上記のような特定の態様の「笑い」という観念を生ずることがあるものといえる。

(3) 称呼について
 本件商標は,「富」の漢字の音読みによると「フフフ」の称呼を,訓読みによると「トミトミトミ」の称呼を生じるといえる。もっとも,「富」の漢字には「フウ」という音読みや「ト」(む)という訓読みもあり(甲13),本件商標の称呼が,必ずしも上記に限定されるものとはいえない。
 他方,引用商標が,「フフフ」の称呼を生ずることは,明らかである。
(4) 検討
 上記(1)~(3)によると,本件商標と引用商標は,外観において著しく異なっており,また,称呼や観念を共通にする場合があるものの,それは,本件商標を「フフフ」と称呼した限られた場合のみである。そして,上記のような差異があるにもかかわらず,本件商標と引用商標が類似しているものと認めるべき取引の実情その他の事情は認められない。
 したがって,本件商標は,引用商標と類似するものとは認められない。

3 原告の主張について
(1) 原告は,本件商標と引用商標からいずれも「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずる旨主張するが,以下のとおり,この主張を採用することはできない。
ア 「ふふふ」の語について
 原告は,人が食品を食べたときに軽く笑うのは,その食品に「おいしさ」や「満足感」を感じたときであるということを,誰もが容易に想像できるから,食品分野においては,「ふふふ」の語が,「おいしさ」や「満足感」に関する観念をも生ずると主張する。
 しかし,食品分野において,「ふふふ」の語が,特定の態様の笑い声や笑う様子といった観念を生ずることを前提として,食品について「おいしさ」といった肯定的な評価を示す直接的な表現として用いられている例(「食卓にふふふな時間を」(甲4の5),「ふふふ~なオヤツ」(甲4の7),「ふふふなモノたち」(甲4の8),「ふふふなレアチーズ」(甲4の9),「ふふふな食べ比べ」(甲4の10)といった用例)があることは認められるものの,それを超えて,「ふふふ」の語が,食品について,「おいしさ」や「満足感」を示すものとして一般的に用いられているものというべき事情を認めるに足りる証拠はない。「ふふふ」の語が,食品について,必ずしも「おいしさ」や「満足感」に関する観念を示すものと直ちに認められない形で用いられている例(甲28~33,36,37,42,43,45)や,一定の態様の「笑い声」や「笑う様子」を示すものとして用いられているにとどまるというべき例(甲4の1~4・11,甲12の2・4・11)も認められるところである。この点,原告が証拠として提出する辞典(甲3の4・5)においても,「ふふふ」の語については,「いたずらっぽく,少々ふざけて,含み笑いをする時などの様子」(甲3の4)を示すものとされたり,「いたずらっぽい笑い,または不敵な笑いを示すことが多い。」(甲3の5)とされたりしているのであって,一般的に,必ずしも常に肯定的な意味合いを示すものとはみられない。
 上記のように,食品分野においては,「ふふふ」の語が肯定的な意味合いで用いられることが相応にあるということは認められるものの,それを超えて,「おいしさ」や「満足感」に関する観念が一般的に生ずるとまでいうことはできない。

イ 本件商標から生ずる観念について
(ア) 原告は,本件商標の使用態様(甲5の2・3,甲6の1~4,甲7~9,甲10の1・2,甲11の1・2)や被告が策定したマニュアルの記載(甲16)から,本件商標が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるものであることを被告が自認している旨を主張する。
 しかし,食品分野において,「ふふふ」の語が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるという一般的な事情が認められないことは,上記アのとおりである。
 証拠(甲5の2・3,甲6の1~4,甲7~9,甲10の1・2,甲11の1・2)から認められる本件商標の使用態様や被告の「富富富デザインマニュアル」(甲16)の記載を考慮しても,被告が本件商標に係る「フフフ」という称呼を,そこから生ずる特定の態様の「笑い」という観念を積極的な評価と結びつける形で用いることを超えて,本件商標から「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるような形で用いているとは認められない。
(イ) 原告は,本件商標に接した需要者の認識についても主張するが,証拠(甲11の2,甲12の1~11)から認めることができる事実は,本件商標が「フフフ」の称呼を生ずることがあることと,「フフフ」の称呼を生じた場合には,本件商標が特定の態様の「笑い」という観念を生じることがあることの各事実にとどまり,本件商標から「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずると認めることはできない。

ウ 引用商標から生ずる観念について
 原告は,引用商標が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずる旨を主張するが,食品分野において,「ふふふ」の語が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるという一般的な事情が認められないことは,上記アのとおりである。原告が指摘する原告のカタログの記載(甲15)についても,あくまで「ふふふ」の語を笑い声や笑う様子を示すものとして用いるものにすぎないということができ,引用商標から上記観念が生ずることを上記記載が裏付けるものとはいえない。
エ したがって,本件商標と引用商標とからいずれも「おいしさ」や「満足感」に関する観念が生ずるとの原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は,本件商標は,引用商標に富山県の「富」で当て字をしたものにすぎないと主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。原告の主張は,引用商標と一般的な擬音語・擬態語である「ふふふ」の語を同一視するものであって相当でない。一般的な擬音語・擬態語である「ふふふ」の語が有する意味を踏まえて被告がそのような称呼を有する商標を登録することが,引用商標が存することで直ちに妨げられるものではない。
 また,本件商標と引用商標が「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」(商標法38条5項括弧書き)に当たらないことも明らかである。
(3) 原告は,需要者は,本件商標と引用商標を同一のものと認識していると主張し,事例(甲11の2,甲12の2・5・7~9)を指摘するが,これらの事例は,本件商標が「フフフ」という称呼又は笑い声や笑う様子と結びつけられていることを示すものにとどまり,本件商標と引用商標とが同一のものであるのと誤認等がされた事実があることを示すものではなく,需要者が本件商標と引用商標を同一のものと認識していると認めることはできない。
(4) よって,原告の主張は,いずれも本件商標と引用商標とが類似しないとの上記2の判断を左右するものではない。

 

解説/検討

 本判決は、引用商標について、「フフフ」の称呼が生じ、「笑い」の観念が生じることを認定し、本件商標について、「フフフ」と称呼されるときには、「笑い」という観念を生ずることがあり、引用商標と称呼、観念が共通する場合があることを認めつつ、本件商標は「フフフ」「トミトミトミ」などの称呼が生じ、本件商標からは「三つのとみ(富)」など,豊かであることや財産(及びそれが複数あること)に関連する漠然とした意味合いを想起させることや、外観の著しい相違、称呼や観念を共通にする場合があるとしても、それは本件商標を「フフフ」と称呼した限られた場合のみであることを踏まえて類似性を否定しており、称呼、観念が共通する場合があるとしても類似性が否定される事例として参考になる。

 

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