【41類における役務の類否】
投稿日:2026年6月9日 |
![]()
著者:弁理士 大塚 啓生
|
参照条文/キーワード/論点 |
役務の類否/商標法4条1項10号 |
ポイント
本件は、商標登録無効審判請求に対する審決中の不成立部分についての審決取消訴訟である。争点は、商標法4条1項10号の判断における役務の類否である。
|
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和2年11月4日 |
| 事件番号 | 令和2年(行ケ)第10055号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
森 義之
佐野 信 中島 朋宏 |
事案の概要
商標登録無効審判において不成立とされた、商標登録第5986804号「綾部流」(以下、「本件商標」という。)の指定役務中第41類「セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,茶会の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」について、原告が使用している「綾部流」(以下、「引用商標」という。)が提供している役務との類似性を認め、商標法4条1項10号に該当すると判断された
争点
役務の類否
原審(原々審)の判断
(1)引用商標の周知性について
「織部流」は,「千利休の弟子古田織部を祖とする茶道の流派」であって,その茶法は,京都興聖寺(以下「興聖寺」という。)に伝わるものである。
そして,「お点前の研究」に,織部流の系譜として,「18代X′」の記載,「茶湯手帳」の「織部流」の項に,「18X″当代」,「18X″X′当代」の記載があること,師範の免状(平成14年1月~平成25年6月11日)が「織部流拾八世 X″」の家元名で交付されていること,茶道教室の看板が「織部流拾八世 X″」の家元名で表示されていること,原告は,宗教法人臨済宗興聖寺派(以下「法人興聖寺派」という。)の代表役員であること,興聖寺の住職であるAは,「織部流の家元は今もX′氏のままで,何ら変動はありません。」と陳述していること,原告は,戸籍上の氏名は,「X」であるが,住職,家元としては「X′」又は「X″」の名を使っている旨主張していることを併せ考慮すると,原告は,遅くとも昭和60年(1985年)には,茶道の流派の一つである「織部流」の家元であって,現時点においても継続していると認められる。
また,織部流の師範は,表千家,裏千家,武者小路千家を始めとする茶道各流派から構成される京都茶道団体懇話会の役員を,昭和50年以降継続し,平成28年に会長となったこと,同懇話会が開催した茶会(平成9年11月~平成26年11月)に織部流の師範が席主を務めたこと,織部流の師範は,表千家,裏千家,武者小路千家を始めとする茶道各流派の宗匠が茶会を行う会である「茶道文化会」の役員を昭和50年以降継続し,平成29年に理事長となったこと,同文化会が開催した茶会(昭和50年3月~平成24年3月)で織部流の師範が席主を務めたこと,織部流の師範は,平成30年に3回,東京の百貨店で開催した茶陶展において添釜を行ったこと,織部流の師範は,平成17年4月,平成25年11月,平成28年11月,平成30年11月に開催されたイベントの茶会で席主を務めたこと,織部流は,平成9年10月に秦野市(神奈川県)の広報誌,平成22年11月に中日岐阜ホームニュース,平成15年12月及び平成29年6月に本巣市(岐阜県)の広報誌にその活動が紹介されたことを併せ考慮すると,引用商標は,請求の業務に係る役務「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,茶道関連の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
(2)被告について
被告は,古田織部好みの茶道具など歴史資料等を展示する美術館であって,被告の代表者であるB(以下「被告代表者B」という。)が,織部好みの焼物,会席具を特集した古田織部展を監修し,古田織部に関する講演を行ったことは認められるが,茶道「織部流」に関する役務を提供していた事実を確認することはできない。
(3)商標法4条1項10号該当性について
ア 本件商標と引用商標は,「オリベリュー」の称呼を同一にするものであり,また,外観については,同一又は類似のものである。そして,観念については,両者はいずれも,「古田織部を祖とする茶道の流派」の観念を生ずるものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
イ 本件指定役務中の「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」と引用商標が使用される役務「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」とは同一である。
ウ 上記(1)のとおり,引用商標は,請求の業務に係る役務「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,茶道関連の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
エ したがって,指定役務「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」について,本件商標は,商標法4条1項10号に該当する。
(中略)
(5)以上のとおり,本件商標の登録は,本件指定役務中,第41類「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」については,商標法4条1項10号に該当するものであるから,同法46条1項の規定により,無効とすべきである。
しかし,本件商標は,本件指定役務中,上記の指定役務を除くその余の役務(以下,一括して「本件不成立役務」という。)については,同法4条1項10号及び7号のいずれにも該当するものとはいえないから,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすべきでない。
判旨
2.商標法4条1項10号該当性について
(1)引用商標の周知性について
前記1の各認定事実(特に前記1(1)ア~ウ,(2)ア,イ,エ)によると,引用商標である「織部流」は,「古田織部を祖とする茶道の流派」を示すものであって,第17代をFとするものとして,遅くとも昭和60年頃までには,需要者である茶道の愛好者等の間で広く認識されていたものと認められる。
そして,前記1の各認定事実(特に前記1(1)イ~エ,(2)ア~エ,(3)ア)によると,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,少なくとも「茶道の教授,茶会の企画・運営又は開催」についての原告の業務に係る役務を表示するものとして,茶道愛好者等の需要者の間で広く認識されていたものと認められる。
(2)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標は,いずれも「織部流」の文字から成るもので,両者の称呼は同一であって,外観は同一又は類似のものである。そして,観念については,本件商標も引用商標と同じく,「古田織部を祖とする茶道の流派」の観念を生ずるものと解される。したがって,本件商標と引用商標とは,同一又は類似するものである。
(3)本件不成立役務について
ア セミナーの企画・運営又は開催について
(ア)「セミナー」は,「ゼミナール」と同義で,「大学の教育方法の一つ」のほか「一般に,講習会」を意味する語であり(「広辞苑 第六版」株式会社岩波書店1582頁),「講習」は,「学芸・技芸などを研究し練習すること。また,その指導をすること。」を意味する語である(同942頁)。
(イ)前記(1)のとおり,引用商標は,原告の業務に係る「茶道の教授」の役務を表示するものとして周知であったところ,「茶道の教授」は,上記(ア)の「講習会」の形式で行われることも十分に考えられるから,「セミナーの企画・運営又は開催」は,「茶道の教授」と類似の役務であると認められる。この点,規模等は不明であるが,A11が織部流の茶道教室を開いていた事実が認められる(前記1(2)エ(エ))ところであり,また,一般に,茶道の教授のために数多くの茶道教室が運営等されていることは,公知の事実である。
これに対し,「茶会の企画・運営又は開催」については,茶会の主たる目的は,一般に,茶自体のほか,茶会という場やそこに顕された世界観や文化を楽しむことにあると解され,そのような茶会が上記(ア)の「講習会」に当たるとはいえないから,「セミナーの企画・運営又は開催」が「茶会の企画・運営又は開催」と同一又は類似の役務であるということはできない。
イ 興行の企画・運営又は開催について
(ア)「興行」は,「催すこと」,「おこしたてること。創建」,「客を集め,入場料をとって演劇・音曲・相撲・映画・見世物などを催すこと」を意味する語である(前記「広辞苑 第六版」932頁)。
(イ)上記ア(イ)で指摘した点を踏まえても,「興行の企画・運営又は開催」が直ちに「茶道の教授」と同一又は類似の役務であるとは認められない。
これに対し,「茶会の企画・運営又は開催」については,「茶会」は「興行」の一種とみられるところである。そして,本件指定役務のうち「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」は,括弧書きで明記された興行に関するものを除く「興行」を幅広く含むものであり,そこには,茶会のみならず,茶道に関する他の態様の「興行」も含まれるといえる。そうすると,「興行の企画・運営又は開催」は,「茶会の企画・運営又は開催」と同一又は類似の役務であると認められる。
ウ 図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作について
(ア)「供覧」は,「観覧に供すること。多くの人が見られるようにすること」を意味する語であり(前記「広辞苑 第六版」740頁),「観覧」は,「絵や芝居や風景などを見物し,あるいは眺めること」を意味する語である(同651頁)。
(イ)前記1(特に前記1(1)ア(イ),イ(イ),(2)オ)の各認定事実からすると,織部流の家元や師範が書籍や記録その他の著作物を制作したことが認められるとともに,必要に応じて,そのような著作物は,貸与されたり,上記(ア)の「供覧」をされることによって第三者に提供されたことが推認される。
したがって,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標は,「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」及び「書籍の制作」の役務について使用されていたというべきであり,それらについての原告の業務に係る役務を表示するものとして,周知であったものと認められる。
(ウ)これに対し,被告は,原告の主張する書籍の制作等は,あくまで茶道の教授又は普及活動の一環として行われるものにすぎないと主張するが,そのような事情があるからといって,引用商標が書籍の制作等の役務について用いられていなかったとはいえない。
エ 電子出版物の提供について
本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標が「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」及び「書籍の制作」についての原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であったというべきことは,前記ウで認定判断したとおりであるところ,「電子出版物の提供」は「図書及び記録の供覧」や「図書の貸与」と類似の役務であるというべきである。
オ 美術品の展示について
(ア)「展示」は,「品物・作品をならべて一般の人々に見せること」を意味する語である(前記「広辞苑 第六版」1944頁)。
(イ)原告は,茶道が日本文化の多くが融合した総合芸術であり,掛け軸,花器,香合や茶器その他の道具を鑑賞することが茶会に参加する大きな目的であるから,「美術品の展示」をしている旨を主張する。
しかし,前記1(特に前記1(2)ア(ウ),エ(エ))の各認定事実によると,引用商標である織部流を使用して行われてきたものは,あくまで茶会であって,「美術品の展示」とは異なるものというべきである。したがって,原告が引用商標について「美術品の展示」をしているとはいえないし,「美術品の展示」が「茶道の教授」や「茶会の企画・運営又は開催」と同一又は類似の役務であるということもできない。
(4)まとめ
以上によると,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標は,本件不成立役務のうち「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」及び「書籍の制作」についての原告の業務に係る役務を表示するものとして周知であり,また,「セミナーの企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶道の教授」の役務と類似の役務,「興行の企画・運営又は開催」は,引用商標に係る原告の「茶会の企画・運営又は開催」の役務と同一又は類似の役務,「電子出版物の提供」は,引用商標に係る原告の「図書及び記録の供覧」及び「図書の貸与」の役務と類似の役務であると認められるから,本件商標の本件不成立役務のうち上記各役務についても,商標法4条1項10号に該当するものとして,登録を無効とすべきである。
なお,被告は,類似群コードについて主張するが,類似群コードは,それ自体類似との推定に係るものにすぎない上,審査官の審査の基準であって,裁判所がこれに拘束されることはないから,上記判断を左右するものではない。
(中略)
4.小括
以上によると,本件審決のうち,「セミナーの企画・運営及び開催」,「電子出版物の提供」,「図書及び記録の供覧」,「図書の貸与」,「書籍の制作」及び「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」の役務について商標法4条1項10号に該当しないとした範囲で,原告の主張する取消事由には理由があると認められる。その余の原告の主張は理由がない。
解説/検討
本件の主な争点は役務の認定及びその類否であり、特許庁が基準として設けている類似群コードに左右されずに判断している点で興味深い判決である。以下、私見ではあるが、裁判所の判断について検討する。
(A)「茶道の教授」(41A01)と「セミナーの企画・運営又は開催」(41A03)は類似
→裁判所は、「茶道の教授」はセミナーの一形態である「講習会」の形式で行われる場合があるとして類似とし、一般論として判示しているようである。裁判所が指摘するように、知識の教授とセミナーの境界は曖昧であり、実務上、知識の教授とセミナーの両方をカバーしておくことが多い。知識の教授とセミナーは密接に関連する役務と思われ、裁判所の判断を支持したい。
(B)「興行の企画・運営又は開催」(41F06)と「茶道の教授」(41A01)は非類似
→役務の目的・性質が異なるため、妥当な判断と思われる。
(C)「興行の企画・運営又は開催」(41F06)と「茶会」は類似
→妥当な判断と思われる。
(D)「茶会」と「美術品の展示」(41C03)は非類似
→妥当な判断と思われる。仮に茶会で茶器が展示されていたとしても、茶会に付随するものであろう。
(E)図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作の認定
→この点については疑問である。織部流の家元や師範が書籍や記録その他の著作物を制作したのは、あくまで織部流の茶道の記録や紹介を目的としたものであり、他人のために行った労務又は便益ではなく、独立して商取引の目的たるものでもない。また、「供覧」に関しても、独立したサービスとして提供されていたとは考え難い。そのため、本来は商標法上の役務に該当するものではなく、裁判所の判断は妥当ではないと考える。
