【小売等役務同士の類否】

 

投稿日:2026年6月9日

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著者:弁理士 大塚 啓生
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

小売等役務の類否/商標法4条1項11号

ポイント

※本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。
※商標法4条1項11号が争われ、原告は本願商標と引用商標が非類似であることを争ったが、裁判所は審決の判断を支持し、商標法4条1項11号に該当すると判断した。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和3年6月160日
事件番号 令和2年(行ケ)第10148号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
鶴岡 稔彦
中平 健
都野 道紀
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 原告が商願2018-90258「画像」(以下、「本願商標」という。)を出願したところ、商標登録第5166683号「KANGOL」(以下、「引用商標」という。)を引用して拒絶され、拒絶査定不服審判を請求して商標が非類似であることを争うも拒絶審決がされたため原告が提訴したところ、裁判所においても商標法4条1項11号に該当すると判断された。
 なお、本願商標の指定役務は第35類「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,洋服・コート・セーター類・ワイシャツ類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,等」であり、引用商標の指定役務は第35類「帽子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」である。


争点

小売等役務の類否


判旨

2.指定役務の類否について
(1)判断枠組み
 指定役務が類似のものであるかどうかは、それらの役務が通常同一営業主により提供されている等の事情により、それらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。

(2)検討
ア 役務の内容及び取扱商品等
(ア)本願指定役務及び引用指定役務は、いずれも小売等役務であるから、商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった役務の提供の手段や、小売又は卸売といった役務の提供の目的が共通するものといえる。
(イ)また、本願指定役務及び引用指定役務は、本願指定役務が主に織物、衣服、身の回り品等を取扱商品とするのに対し、引用指定役務は帽子を取扱商品とする点において異なるものの、いずれの取扱商品も衣類を中心とするファッション商品であるといえるから、この範囲において取扱商品が共通するものといえる。
(ウ)さらに、本願指定役務及び引用指定役務は、いずれも衣類を中心とするファッション商品を取り扱う卸売業者又は小売業者が提供する役務であるから、役務を提供する業種が共通するものといえる。

イ 役務の提供の場所
 次の各事情によれば、本願指定役務及び引用指定役務は、それぞれの取扱商品が、同一事業者の通信販売ウェブサイトにおいて、同一の事業者が提供する一連の商品の一環として、あるいは同一のカテゴリーに属する一連の商品の一環として販売されるなどしている実情があることが認められる
(中略)

ウ 需要者の範囲
 上記ア及びイで検討したとおり、本願指定役務及び引用指定役務は、いずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とするものである上、これらの取扱商品が通信販売ウェブサイトにおいて販売されるなどしている実情があることからすれば、いずれも一般需要者を広く対象とするものといえる。また、上記イ(ア)ないし(エ)及び(コ)によれば、特定のブランドが付された両役務の取扱商品を、同一の小売業者から購入する需要者は少なくないと考えられる
 これらの事情を考慮すると、本願指定役務及び引用指定役務は、需要者の範囲が一致するものといえる。

エ 類否判断
 上記アないしウで検討したところによれば、本願指定役務及び引用指定役務は、具体的な取扱商品は異なるものの、いずれも衣類を中心とするファッション商品を取扱商品とする点において共通するほか、役務を提供する手段、目的及び業種が共通するものといえる。また、両役務は、役務を提供する場所が共通する場合があるほか、需要者の範囲が一致するものといえる。
 これらの事情を考慮すると、本願指定役務及び引用指定役務については、これらの役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるといえる。

(3)小括
 以上によれば、本願指定役務と引用指定役務は、役務が類似するものと認められる。

3.原告の主張について
(1)原告は、原告とカンゴール社との間で本件契約が締結され、その後、原告とカンゴール社との間で取扱商品及び役務に係る棲み分けがされてきたことを、現実的かつ具体的な取引の実情として重視すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件契約それ自体は、原告とカンゴール社との間における個別の合意にすぎないから、同契約を締結した事実や、同契約に基づいて原告が本願商標を継続的に使用している事実は、商標の類否判断において考慮し得る一般的、恒常的な取引の実情(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決・審決取消訴訟判決集昭和49年443頁参照)には当たらないというべきである。
 また、原告が提出する証拠は、原告が、本願商標を用いて衣類等を提供してきたことを裏付けるものであるとはいえても、帽子(及びそれに係る役務)とそれ以外の衣類(及びそれに係る役務)とで、原告が主張するような棲み分けがされ、それが需要者に認識されていることを認めるに足りるものではなく、むしろ、原告が、本願商標を用いて帽子を販売している例さえ存在することが認められる。
 したがって、原告の主張は、採用することができない。
(中略)
(3)原告は、本願指定役務及び引用指定役務の各取扱商品は特許庁の類似商品・役務審査基準において非類似の商品として取り扱われてきたものである旨主張する。
 しかしながら、これまで検討したとおり、本願指定役務及び引用指定役務はいずれも小売等役務であり、その類否は取扱商品ではなく役務同士を比較して判断すべきものである。また、本願指定役務及び引用指定役務は、具体的な取扱商品は異なるものの、他の事情も併せて考慮すれば、役務の出所を誤認されるおそれがある関係にあるものといえる。そうすると、本願指定役務及び引用指定役務の各取扱商品が、上記審査基準において非類似の商品として取り扱われているからといって、前記の結論が左右されるものではないというべきである。
 したがって、原告の主張は、採用することができない。

解説/検討

 本願商標と引用商標は「KANGOL」の文字を共通にするものであり、商標が類似することは明らかである。そのため、本件のポイントは、①小売等役務の類否、及び、②当事者間の取引の実情が判断に影響するかである。

①小売等役務の類否
 本願指定役務と引用指定役務は、ともに35類の小売等役務であって35K02の類似群コードが共通しているが、その小売等で取り扱う具体的な商品の類似群が異なる(商品単位では非類似)ことを理由として、原告は役務が非類似であることを主張している。
 この点、類似商品・役務審査基準(国際分類第11-2021版対応)では、「『35K02』等の画像(一点鎖線枠)内の小売等役務同士は互いに類似するものと推定します。」(3-461頁)として、役務の類似が推定されるに過ぎないことが明記されているため、理論上は原告の主張が認められる余地はあろう。あくまで私見ではあるが、例えば、「運動具の小売」と「おもちゃの小売」は共に35K14の類似群が共通するが、「運動具」と「おもちゃ」とでは需要者層が異なり、営業主や販売場所等も異なることから、非類似の小売等役務であると判断される可能性はあるように思う。
 しかしながら、本件に関しては本願指定役務と引用指定役務はともにアパレル商品の小売であり、通常、衣類と帽子は、同一営業主により提供されている商品であって、需要者層も共通するといえる。そのため、本願指定役務と引用指定役務が類似関係にあるとの裁判所の判断は妥当と考える。

②当事者間の取引の実情
 審決及び判決でも主張されているように、原告の(株)クラウン・クリエイティブと引用商標の権利者であるカンゴール リミテッドはビジネス上提携していると思われ、原告のHP上でも「1993年KANGOLの総発売元としてライセンス事業をスタート」と記載されている(http://www.cfg.co.jp/history/)。原告とカンゴール社の合意の上で、小売りで取り扱う商品の棲み分けがされてきたとすれば、本願商標と引用商標の併存登録を認めたとしても当事者間に不利益がないことは原告の主張する通りである。
 しかし、商標法4条1項11号の商標の類否判断における取引の実情は、一般的・恒常的な取引の実情に限られることが過去の最高裁や商標審査基準からも明らかであり、このような個別的具体的な実情が参酌されないことは通説である。コンセントが認められていなかった当時の日本の商標制度においては、たとえ当事者間に合意があったとしても類似と判断されるべきであり、この点においても裁判所の判断は妥当と考える。
 以上のとおり、本裁判所の判断はいずれも適当であると考えるが、本件は小売等役務同士の類否を争点とした非常に珍しい事案であり、論点としては興味深い。

       

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