【商標の剥離と商品名変更の可否】
投稿日:2026年6月30日 |
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著者:弁護士 大野 浩之
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参照条文/キーワード/論点 |
商標の剥離/商品名変更 |
ポイント
※製造者が付した商品名についても、卸売後に卸売業者・小売業者が別名称で販売すること自体は、直ちに違法とはならないと判断された。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 大阪地方裁判所第21民事部 |
| 判決言渡日 | 令和3年11月9日 |
| 事件番号 | 令和2年(ワ)3646号 |
| 事件名 | 商標権侵害差止等請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
谷 有恒
杉浦 一輝 布目 真利子 |
事案の概要
本件は、原告が、原告標章について商標登録を得たものであるが、原告が被告フジホームに対し取引の停止を通告してから本件商標権に係る公報が発行された令和2年1月7日までの期間については、被告らが共同して、未登録である原告標章に化体する信用や出所表示機能を毀損する不法行為を行ったと主張し、公報発行日以降は、登録商標の出所表示機能を毀損することで、本件商標権を共同で侵害したと主張して、被告ら標章の使用の差止めを求めると共に、不法行為又は商標権侵害による損害賠償金の支払を求めた事案である。
前提事実
1 前提事実
原告は、平成10年ころ、本件商品となる車輪付き杖を発明し、原告標章(ローラーステッカー)の商品名で、直接又は卸売業者を介して販売している。
被告フジホームは、平成26年9月、原告に対し、本件商品を卸売りしてほしい旨申し入れ、平成27年2月23日、両者は、取引基本契約を締結した。
被告フジホームは、平成27年2月末以降、原告から納入された本件商品について、梱包箱の原告の屋号が記載された箇所の上に、「ハンドレールステッキ発売元フジホーム株式会社」と印字されたシールを貼り付け、原告が商品本体と同梱した「ローラーステッカー使用説明書」を、被告フジホームが作成した「ハンドレールステッキ取扱説明書」に差し替えて販売した。
原告は、令和元年8月以降、被告フジホームに対し、本件商品の出荷の停止、取引の停止を通告し、被告フジホームは、同月以降、原告より本件商品の納入を受けられなくなった。
被告フジホームは、取引停止以前に原告より納入されていた本件商品の在庫を、同年8月から11月にかけて、被告サンリビングに納入し、被告サンリビングは、これをダイワに卸売りした。
被告フジホームは、令和2年3月ころまで、在庫の残余を、自社のオンラインショップにおいて、アウトレット品として廉価で販売した。
本件契約書には、「第2条(本製品の内容)」として、「本製品とは以下のアイテムとする。/(改行を意味する。以下同様)〈1〉ローラーステッカー(S・M)/〈2〉歩行補助及び関連商品他」、「第7条(価格)」として「乙が購入する本製品の価格は乙の発注に先だって甲が乙に提出する見積書に基づき、甲乙協議の上決定する。」、「第13条(所有権移転)」として、「本製品の所有権は、第8条に規定する受入検査の合格をもって甲から乙に移転するものとする。」、「第16条(販売終息)」として、「乙が本製品の販売を終息する場合、甲へ1ヶ月前までに書面で通知する。甲は、乙に速やかに専用の残存資材の報告を行ない、最終時点で資材在庫がなくなるように協議を行う。」、「第21条(協議事項)」として「本契約に定めない事項及び本契約の解釈に疑義を生じた事項については、甲及び乙は誠意をもって協議の上、これを解決する。」との記載がある。
原告と被告フジホームとの間の受発注は、月に1~2回ファックス等を用いて行われ、原告が発行する請求書には、「ローラーステッカー」と記載されていた。原告は、当初、被告フジホームに対する本件商品の卸売価格を1台5333円(税抜き)、原告の販売価格を1万2800円(税込み)と定めた。被告フジホームは、小売及び卸売りを含め、本件商品を年間約1700台~2000台程度販売した。
被告フジホームは、平成27年6月15日、原告に対し、入庫した商品の梱包箱の一部がつぶれており、卸先からクレームがあったとして、「至急改善をお願いします。/添付の写真をご確認ください。」と記載した文書と、梱包箱がつぶれた様子が撮影された画像を印刷した紙面をファックスで送信した。
その際、被告フジホームは、原告に対し、本件商品の梱包箱に「ハンドレールステッキS/発売元 フジホーム株式会社」と印刷されたシールが貼られていることを確認し得る画像を送付したのに対し、原告は、同日中に、被告フジホームに対し、「直ちに電話を入れて注意しました。すみませんでした。」等と記載した書面をファックスで送信した。
被告フジホームは、同年9月、原告に対し、東京都内で開催された福祉機器に関する展示会の案内をし、原告は、本件商品に被告ら標章を付した状態で展示されている被告フジホームのブースを訪れた。
原告は、平成28年1月以降、本件商品の被告フジホームへの卸売価格を6210円(税込み)、原告の販売価格1万3800円(税抜き)に増額した。
平成28年6月、被告フジホームが、顧客より本件商品の不具合の指摘があったとしてこれを原告に伝えたところ、原告は、同月8日、一旦ねじを締めブレーキワイヤの止め位置を調整することで不具合は解消するとして、その方法を図面で説明する文書を被告フジホームに送付する共に、同月11日付けで、製造委託先のチェックが不十分であったことを謝罪すると共に、この程度の直しは被告フジホームでやってもらいたいこと、多少の修理技術も習得した方が良いこと、商品名を変更し、あたかも被告フジホーム独自の商品のように販売を開始しているが、果たして末永く販売を続けていけるか、車輪物は色々問題がある旨を記載した文書を送付した。
被告フジホームは、ネット上の通販サイトで本件商品を購入した者が、レビューとして書き込んだコメントを収集し列挙した平成29年1月31日付け文書を作成し、「ハンドレールステッキ(ローラーステッカー含む)市場評価」との題名を付して原告に送付した。これに対し、原告は、多くのアンケートを集め整理したことに対する謝礼を述べる同年2月7日付け文書を、原告に送付した。
原告は、平成30年3月頃、被告フジホームに対し、本件商品の卸売価格を、従前の6210円から7110円プラス運送費900円に変更する旨を連絡し、これに伴い、被告フジホームでは、従前は1万7500円であった販売価格を、同年7月より2万円に変更した
原告は、同年8月24日、被告フジホームに対し、「開脚歩行車その他について」と題する書面を送付し、被告フジホームが、名称を変えて原告の設定した販売価格よりも高く売ることは、年金生活者に対する社会福祉の観点から疑問であること、被告フジホームは、開発者でも製造業者でもなく単純な販売業者であり、近い将来、急に売れなくなるのではないか心配であること、大阪の業者は鋭くチェックしているようで、価格を統一するようにとの申し出があるが、原告は関与するつもりはないこと等を記載した。
被告フジホームは、平成31年2月、「ハンドレールステッキの今後の対応案について」と題する書面を送付して、原告に対し、価格改定により本件商品の売上げが下がったこと、値上げに伴い通販企画の対象から外されたことが一番の要因であること、価格格改定時に、被告フジホーム以外の販売価格は1万3800円と開きが大きく、現在は1万5800円であるがなお価格差があることがもう一つの要因であることを述べ、いくつかの対応策を考えたいことを述べた。
原告は、同月21日、原告標章(標準文字)について商標登録の出願をした。
原告は、同年3月5日付けで、被告フジホームに書面を送付し、ローラーステッカーとして長年販売してきた商品名を変えられることはどうしても受け入れる事ができないこと、今後もローラーステッカーの名を基盤として社会福祉に貢献して行く予定であること、ローラーステッカーで堅実に進めないと商品の寿命が無くなると思っていること、従って、同じ商品について名前を変え、被告フジホームのオリジナルにすることもできないこと、従来から取引している会社より販売価格を統一するよう要望が出ており、1万5800円に統一して欲しいこと、卸売価格を7426円に変更させてもらいたいこと等を書き送った。
被告フジホームは、同月6日付けで、書面に対する回答として、被告フジホームは「ハンドレールステッキ」の商品名にて販売しているが、販売価格が「ローラーステッカー」とは異なるので、別の商品名を付けていること、被告フジホームは商社ではなくメーカーポジションなので、責任を持って販売活動及びクレーム修理対応するために、被告フジホームのブランドを付して販売していること、何か事故が起こった場合は、被告フジホームの責任(PL保険等)で対応すること、価格を1万5800円に統一すると利益がなくなり、さらに卸売価格が7426円へ値上げされると赤字になると考えられるため、この商品の販売を中止しなくてはならないこと、原告が、卸売価格を改定する共に、市場価格及び商品名の統一を主張するのであれば、被告フジホームは本件商品の販売を中止する旨を述べた文書を原告に送付した。
原告は、同月19日付けで、被告フジホームに書面を送付し、被告フジホームがメーカー並みの20パーセントのマージンを必要とする考えは理解できず、取引中止とされてもやむを得ないが、状況が変化しない限り、被告フジホームから注文があれば、本件商品を7100円で納品する旨を書き送った。
原告は、令和元年7月、被告フジホームに対し、複数のネット通販サイトにおいて、被告ら商標による本件商品が廉価で販売されているので、そのような通販サイトに対する販売を停止するか、販売価格を是正して欲しい旨を申し入れた。
被告フジホームは、ネット通販サイトに対し廉価での販売を禁じる立場にはないとして原告の申し入れに応じずにいたところ、原告は、同年8月1日、被告フジホームに対し、通販サイトでの販売価格が是正されていないので、被告フジホームへの出荷を同月から停める旨を電話で告げ、これに対し被告フジホームは、出荷を停めるのは止めてほしい旨を伝えると共に、内部で協議する旨を伝えた。
原告は、同月8日付けで、被告フジホームに書面を送付して、被告フジホームとの取引停止を提案すること、その理由の一つは、原告の開発商品を被告フジホーム自社の商品とし名称を換えて販売していること、もう一つの理由は、原告の販売価格は1万7064円であるのに、インターネット上及び新聞紙上で2万1600円である旨を表示して一般大衆に報道し、これを大きく割引きしたかのように1万2800円で販売していること、これによって原告の信用は大きく失墜し、本件商品の商品としての寿命が潰されることである旨を書き送った。
さらに原告は、同月10日付けで、被告フジホームに書面を送付し、原告が研究・開発した商品につけた名称を変えて販売することは認められず、原告標章にて販売すること、諸般の事情により、同年9月1日以降、被告フジホームへの卸売価格を、やむを得ず1万1850円に送料消費税を加算した1万3662円に変更することを通告した。
被告フジホームは、同年8月19日付けで、原告に対し、「取引停止のお申し出について」と題する書面を送付し、原告からの取引停止の申し出を受けること、卸売価格の改定が今後も継続するのであれば、本件商品の販売を継続することは難しいため、同年10月31日限りの取引停止を受ける旨を回答し、原告は、同年8月1日以降、本件商品を被告フジホームに納入することはなかった。
被告フジホームは、本件商品の在庫を有していたことから、被告サンリビングに卸売りするほか、同月から令和2年3月末頃まで、本件商品を、アウトレット品として自社のオンラインストアで販売した。
裁判所の判断
(1)判断の枠組み
原告は、原告が被告フジホームに対し取引の停止を通告し、被告サンリビングが原告と独自に取引を行うようになった令和元年8月から本件商標権に係る公報が発行されるまでの前半期間における被告らの行為は、未登録であるが顧客吸引力、自他識別力を有する原告標章を剥離する不法行為にあたると主張し、具体的には本件商品の梱包箱に被告ら標章の記載のあるシールを貼付し、また同梱されていた原告説明書を被告ら説明書に差し替えて、被告ら標章を商品名として販売したことが問題であるとする。
原告の主張は、製造元が一定の商品名で流通に置いた商品については、それ以降の卸売業者、小売業者は、それを許容する旨の特段の合意等がない限り、商品名を変更することはできないとするものであり、これに対し被告らは、本件商品を、原告標章の商品名でのみ販売することについての特段の合意は成立しておらず(被告フジホーム)、卸売業者、小売業者が製造元とは異なる商品名により流通に置くことは一般に行われている旨を主張する一方で(被告サンリビング)、本件商品を被告ら標章で販売することについて、原告の明示又は黙示の承諾がある旨を主張する(被告フジホーム)。
そこで検討するに、商品に商品名を付して販売する場合、一般には出所の識別や顧客の吸引を期待してなされるのであり、複数の製造者が類似する商品を製造販売する場合に、類似する商品名が使用されれば商品の出所の混同を招くおそれがあることから、不正競争防止法や商標法は、同一又は類似の標章の使用を規制することで商品の本来の主体の利益を守ろうとしたものと解される。しかしながら、製造者における自他識別や顧客吸引の問題は、製造者から卸売業者あるいは小売業者へ商品が譲渡された段階で一旦目的を達すると考えられるから、卸売業者あるいは小売業者としては、当初の商品名により販売すべき旨の合意や製造者が譲渡する際に付した条件、あるいは商品の性質上当然そのようにすべき特段の事情や公的規制のない限り、当初の商品名のまま販売することでその顧客吸引力等を生かすこともできれば、より需要者に訴えることのできる商品名に変更したり、あるいはより商品の内容を適切に説明し得る商品名に変更して販売することも許されると解される。
原告は、製造者が一定の商品名を付して流通に置いた商品について、その後の段階の者が商品名を変えることができないのは当然である旨を主張するが、製造者が販売を終えた商品について、以後の者が別の商品名により販売したとしても、直ちに製造者の利益が損なわれることにはならないし、ブランドとしての統一を図る等の必要があれば、販売に際しその旨の合意を得れば足りることであるから、そのような合意等のない場合に、卸売業者や小売業者が、常に当初の商品名によらなければならないと解すべき理由はない。
また、本件事案において、被告らが本件商品を被告ら標章により販売することにより、原告標章により販売されている本件商品よりも優れたものであることを表示したとすれば、需要者をして品質を誤認させる表示をしたということができるかもしれないが、本件はそのような事案ではなく、原告は、商品名を原告標章から被告ら標章に変更したことをもって、原告標章を剥離する不法行為にあたるというものであるから、原告の主張は採用できないといわざるを得ない。
以上によれば、原告が本件商品を被告らに譲渡した際に、合意や指示等、以後も原告標章を商品名として販売すべき特段の事情が存したにも関わらず、被告らが被告ら標章による販売を行って、これにより原告に損害を生じさせたと認められる場合には、不法行為が成立すると解する余地があるから、以下、このような観点から検討することとする。
(2)原告と被告フジホームとの合意の有無
[本件基本契約]
平成27年2月に、原告と被告フジホームが締結した本件基本契約において、ローラーステッカーの語が使用されているが、これは契約の対象となる商品の内容を特定する趣旨で記載されているに止まり、原告と被告フジホームにおいて、以後これを商品名として使用することを定めた趣旨とは解されない。
[被告フジホームの対応]
(ア)被告フジホームは、本件基本契約を締結する前の平成26年11月、本件商品について、被告ら標章と原告標章を並列した質問状を原告に送付し、被告フジホームとしては、本件商品を被告ら標章により呼ぶ予定である旨を示した。
(イ)被告フジホームは、平成27年6月に梱包箱の損傷についてのクレームがあった際に、被告ら標章を印字したシールを梱包箱に貼付していることを示す写真を原告に送付した。
(ウ)被告フジホームは、同年9月、本件商品に被告ら標章を付して展示されている展覧会に原告を招いた。
(エ)被告フジホームは、平成29年1月、ネット上の通販サイトにおける購入者のコメントを整理した文書を原告に交付する際に、本件商品が被告ら標章でも販売されていることを前提とする表題を付した。
[原告の対応]
(ア)原告は、平成28年6月、被告フジホームからの本件商品の不具合の指摘に対し、対処方法を指示すると共に、被告フジホームが本件商品の商品名を変更し、あたかも被告フジホーム独自の商品にように販売しているが、永続できるかとの懸念を表明した。
(イ)原告は、平成30年8月、被告フジホームが本件商品の名称を変えて高く売っていることに対し、年金生活者に対する社会福祉の観点から疑問であるとした。
(ウ)原告は、平成31年3月、被告フジホームへの書面により、商品名を変えられることは、どうしても受け入れることができない旨を告げたが、同時に、被告フジホームに対し、小売価格の統一と、卸売価格の改定をも求めた。
これに対し、被告フジホームが、卸売価格の改定と共に市場価格及び商品名の統一を原告が主張するのであれば、本件商品の販売を中止せざるを得ないとしたところ、原告は、状況が変化しない限り、被告から注文があれば、本件商品を従前の価格で納品する旨を告げた。
(エ)原告は、令和元年7月以降、被告フジホームに対し、ネット通販サイトにおける廉価販売の是正を求めるようになり、同年8月1月、通販サイトの価格が是正されなかったことを理由に、被告フジホームへの出荷停止を電話で通告したが、同月8日付け書面により、取引停止の理由は、本件商品の名称の変更とネット通販における価格設定の2点である旨を告げた。
オ まとめ
(ア)本件基本契約において、被告フジホーム側が原告標章を使用すべきこととはされておらず、被告フジホームは、被告ら標章により本件商品を販売する予定である旨を、本件基本契約締結以前より示し、原告との取引開始後もこれを明らかにし、特にこの点を秘匿しようとしたとは認められない。
そして原告は、平成28年6月と平成30年8月、被告フジホームが本件商品を被告ら標章による販売していることに言及した上で、これに懸念や疑問を表明するに止まり、原告標章を使用するよう求めたり、原告標章の使用が取引の条件である旨を述べたりはしていない。
(イ)原告は、平成31年3月に、被告フジホームに対し、商品名の変更は受け入れられないこと等を述べると共に価格の統一等を求めたが、被告フジホームの拒絶に対し、注文があれば従前の卸売価格で提供するとしており、商品名を原告標章に統一することを、それ以上に求めてはいない。
(ウ)以上を総合すると、原告が被告フジホームに本件商品を納入した平成27年2月から令和元年7月までの間において、原告と被告フジホームとの間において、本件商品を原告標章により発売することの合意が成立した、あるいは、原告標章により販売することを、原告が本件商品を被告フジホームに納入する条件としたとの事実を認めることはできない。
そして、前半期間において、被告フジホームが被告サンリビングに納入し、被告サンリビングがダイワに卸売した本件商品(被告ら行為〈1〉)、及び被告フジホームが自社のオンラインストアで販売した本件商品(被告ら行為〈2〉)は、すべて令和元年7月以前に原告が被告フジホームに納入したものであるから、これらについて、商品名についての制約は存しないものといわざるを得ない。
(エ)原告が被告フジホームに対し、令和元年8月8日付けで取引停止を提案した際に、本件商品の名称の変更を理由の一つとはしているものの、前述のとおり、原告の被告フジホームに対する本件商品の納入はそれ以前になされており、商品名についての制約が、遡及的に生じると解することはできない。
以上によれば、前半期間において、本件商品を被告ら標章の商品名により販売したことは(被告ら行為〈1〉ないし〈3〉)、原告に対する不法行為にはならないというべきであり、これに付随する説明書の差替えも、同様といわざるを得ない。
(3)後半期間における商標権侵害の成否
原告は、原告標章(標準文字)が商標登録され、これに係る公報が発行された後は、原告標章を使用せず、被告ら標章により本件商品を販売した行為は、登録商標の出所表示機能を毀損するものとして、商標権侵害が成立する旨を主張する。
しかしながら、商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標を同一又は類似の商標を使用する場合に成立することがその基本であり(商標法25条、37条)、原告が原告標章を付した本件商標を被告らに譲渡した際に、原告標章と同一又は類似の商標を使用する競業者が存在しなかったことをもって、本件商標権はその役割を終えたと見ることができるのであり、原告から本件商品を譲り受けた被告らが、これを原告標章以外の商品名で販売することができるかは、商標権の問題ではなく、前記検討したとおり、原告と被告らとの合意の存否の問題と考えざるを得ない。
したがって、後半期間において、被告フジホームが本件商品を被告ら標章により、また取扱説明書を差し替えて自社のオンラインストアで販売したこと(被告ら行為〈2〉)、あるいは被告サンリビングが、原告より直接入手した本件商品を、被告ら標章によりダイワに譲渡したことは(被告ら行為〈3〉)、いずれも商標権侵害にはあたらないといわざるを得ない。
解説/検討
本件は、「ローラーステッカー」の名称で販売されていた商品について、卸先である被告が「ハンドレールステッキ」と名称変更して販売したことが、商標の剥離として違法となるかが争われた事案である。
裁判所は、製造者による商品名の使用は、出所表示機能や顧客吸引力を有するものではあるが、その機能は、製造者から卸売業者等へ商品が譲渡された段階で一定程度目的を達すると整理した。
その上で、卸売業者や小売業者は、契約上の商品名維持義務、商品名変更禁止の条件、商品の性質上の特段の事情、法令上の規制等がない限り、独自の商品名で販売することも許されると判示した。
本判決は、流通後の商品名変更について、商標権侵害ではなく、まず契約・合意の問題として整理した点に特徴がある。
さらに、商標の剥離については裁判例で結論が分かれており、「完全に隠蔽され需要者に認識されない以上、商標使用に当たらない」とする裁判例(東京地裁平成23年判決、大阪地裁平成26年判決)と、「流通過程で商標を剥奪・再包装すること自体が商標権侵害となる」とする裁判例(大阪地裁平成6年判決)が存在している。
そのため、実務上は、単なる商標法上の議論に依拠するのではなく、契約上のコントロールによってブランド管理を図る必要性を示した事案として重要である。
