【意匠に係る物品を「ヘアキャッチャー」とする本件意匠につき、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様と公知意匠とを検討した上、本件意匠の要部を認定し、要部に関する差異点を重視して、被告意匠が本件意匠と類似するものとは認められないと判断した事例】
投稿日:2026年5月20日 |
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著者:弁護士 木村 広行
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参照条文/キーワード/論点 |
意匠法23条、24条、37条/類否/要部 |
ポイント
※ 本判決は、本件意匠につき、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様や公知意匠を考慮して、渦流生成部が、斜面体のみで構成され、各斜面体を区切る渦流壁等の構造体がなく、段差構造のみによって各斜面体の境界が形成されている形状が要部であると認定し、被告意匠には各斜面体の反時計方向側の外周部に堰部が形成されているのに対し、本件意匠には堰部が存在しない点に差異があるところ、これは、本件意匠の要部における差異点であるといえるとしたうえ、両者は要部において顕著な相違があり、共通点を考慮しても、全体として差異点が共通点を凌駕しており、両意匠が視覚を通じて起こさせる全体としての美感を異にするものであるとして、被告意匠は、本件意匠と類似するものとは認められないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第3部 |
| 判決言渡日 | 令和4年3月24日 |
| 事件番号 | 令和3年(ネ)第10075号 |
| 事件名 | 意匠権侵害差止等請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
東海林 保
中平 健 都野 道紀 |
事案の概要
⑴ 本件意匠権
【出願日】:平成30年1月22日
【登録日】:平成30年11月30日
【登録番号】:意匠登録第1620963号
【意匠に係る物品】:ヘアキャッチャー
⑵ 本件意匠及び被告意匠
(本件意匠に係る図面は、それぞれ、裁判所HPに掲載の本判決の別紙本件意匠より引用したものであり、被告意匠に係る写真は、それぞれ、裁判所HPに掲載の本判決の別紙被告意匠目録より引用したものである)
| 本件意匠(斜視図) | 被告意匠(斜視図) |
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| 本件意匠 (下方から見た参考斜視図) |
被告意匠 (下方から見た参考斜視図) |
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| 本件意匠(正面図) | 被告意匠(正面図) |
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| 本件意匠(左側面図) | 被告意匠(左側面図) |
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| 本件意匠(平面図)) | 被告意匠(平面図) |
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| 本件意匠(底面図) | 被告意匠(底面図) |
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⑶ 本件意匠及び被告意匠の構成態様(本判決が引用する原判決の認定)
本件意匠
ア 基本的構成態様
①平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,その中心に位置する円形状の捕捉部51と,捕捉部51の外側に形成されて該捕捉部51に向かう水流を生成する渦流生成部52と,渦流生成部52の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部53とで構成され,捕捉部51は,平面視において円形状に形成された底壁54と,底壁54の外周縁から上方に伸びる筒壁55とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部52は,捕捉部51の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,高さ方向においてフランジ部53より上方に突出しておらず,フランジ部53は,渦流生成部52の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されていること。
②渦流生成部52に,捕捉部51に向かう渦状模様が現出されていること。
③捕捉部51と渦流生成部52に多数個の排水孔57・71が形成されていること。
④正面視において,捕捉部51の底壁54と筒壁55とを連結するコーナー部59は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部51は,正面視において隅丸矩形状とされていること。
イ 具体的構成態様
①渦流生成部52が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成されていること。
②平面視において各斜面体60が区画線62A・62B・62Cにより区画されており,かつ,各斜面体60が反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる2つの曲線及び1つの概ね直線で囲まれた形状(ただし,区画線62Aは最も長く内側に湾曲する曲線で,区画線62Bは概ね直線で,区画線62Cは緩やかに外側に湾曲する曲線で,区画線62Cと区画線62Bの接続部分は略円弧状である。原告は,この形状を三日月形状と表現すべきであると主張し,被告は,三角形状と表現すべきであると主張している。)であること。
③フランジ部53の外周縁の12時,3時,6時及び9時の位置には,略円弧状の凹み部75が形成されていること。
④フランジ部53の12時と6時の位置に,爪73が斜面体60の外周縦壁65に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること。
⑤フランジ部53の裏面に易破断用の薄肉部77が形成されていること。
⑥平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時及び10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されていること。
被告意匠
ア 基本的構成態様
①平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,その中心に位置する円形状の捕捉部1と,捕捉部1の外側に形成されて該捕捉部1に向かう水流を生成する渦流生成部2と,渦流生成部2の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部3とで構成され,捕捉部1は,平面視において円形上に形成された底壁4と,底壁4の外周縁から上方に伸びる筒壁5とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部2は,捕捉部1の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,高さ方向においてフランジ部3より上方に突出しておらず,フランジ部3は,渦流生成部2の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されていること。
②渦流生成部2に,捕捉部1に向かう渦状模様が現出されていること。
③捕捉部1と渦流生成部2に多数個の排水孔7・21が形成されていること。
④正面視において,捕捉部1の底壁4と筒壁5とを連結するコーナー部9は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部1は,正面視において隅丸矩形状とされていること。
イ 具体的構成態様
①渦流生成部2が,捕捉部1を中心とする等角度位置に配置された計4個の斜面体10で構成されていること。
②平面視において各斜面体10が湾曲線(第1~第3湾曲線12A~12C)により区画されており,かつ,各斜面体10が反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる3つの曲線で囲まれた形状(ただし,第1湾曲線12Aが最も長く緩やかに内側に湾曲する曲線で,第2湾曲線12Bと第3湾曲線12Cは緩やかに外側に湾曲する曲線で,両湾曲線の接続部分は略円弧状である。なお,原告は,この形状を三日月形状と表現すべきであると主張し,被告は,鎌状と表現すべきであると主張している。)であること。
③平面視において,各斜面体10の反時計方向側の外周部に,堰部16が形成されていること。
④各堰部16が,中心側から外周側に向かって漸次幅寸法が大きくなる外拡がりのテーパー状であり,各堰部16の伸び方向は反時計方向に指向していること。
⑤捕捉部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)に,擬宝珠状の整流体6が上方に向かって膨出形成されていること。
⑥整流体6を囲むように捕捉部1の底壁4には,複数個の排水孔7が開設されていること。
⑦フランジ部3の外周縁の12時,3時,6時及び時の位置には,略円弧状の凹み部25が形成されていること。
⑧フランジ部3の12時と6時の位置に,爪23が斜面体10の外周縦壁15に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること。
⑨フランジ部3の裏面に,易破断用の薄肉部27が形成されていること。
⑩フランジ部3の裏面の1時,4時,7時及び10時の位置に,ピン26が下方に向かって突設されていること。
争点
被告意匠は本件意匠と類似するか
判旨
(下線・強調は筆者による)
(1) 類否判断の基準
意匠権者は,業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有しているところ(意匠法23条本文),登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされており(意匠法24条2項),この類否の判断は,登録意匠に係る物品の性質,用途,使用態様を考慮し,更には公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる需要者の視覚を通じて最も注意を惹きやすい部分(意匠の要部)を把握し,この部分を中心に,両意匠の構成を全体的に観察・対比して認定された共通点と差異点を総合して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当である。
以上を前提に,本件意匠及び被告意匠が類似するといえるか否かについて検討する。
・・・
(3) 本件意匠の要部認定
ア 意匠に係る物品の性質,用途,使用態様
本件意匠に係る物品はヘアキャッチャーであるところ,ヘアキャッチャーは,排水内の毛髪等を捕捉するために,浴室の排水口等の上に設置されて使用される生活用品である。
そうすると,本件意匠の需要者は,個人消費者であると認められる。そして,個人消費者がヘアキャッチャーを観察する場合には,排水口の上に設置された状態で,上方又は斜め上方から視認するのが通常であるといえるから,本件意匠に係る物品の需要者は,毛髪等を捕捉するための渦流生成部及び捕捉部の形状等に注意を惹かれやすいといえる。
イ 公知意匠
・・・
a 意匠登録第1554062号公報(乙3(各枝番号を含む。以下同じ)。平成28年7月19日公報発行)に記載された意匠(以下「公知意匠1」という。)
b 意匠登録第1570084号公報(乙4。平成29年2月20日公報発行)に記載された意匠(以下「公知意匠2」という。)
c 意匠登録第1531898号公報(乙5。平成27年8月24日公報発行)に記載された意匠(以下「公知意匠3」という。)
d 意匠登録第1544259号公報(乙6。平成28年2月22日公報発行)に記載された意匠(以下「公知意匠4」という。)
e 公開実用昭和51-105866号(乙16。昭和51年8月24日公開)に記載された意匠(以下「公知意匠5」という。)
(イ) 公知意匠1ないし4は,いずれもヘアキャッチャーに係る意匠であり,次のとおりの構成を有する。
a 平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,その中心に位置する円形状の捕捉部と,その外側に形成されて捕捉部に向かう水流を生成する渦流生成部と,その外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部とで構成されており,捕捉部は,平面視において円形上に形成された底壁と,底壁の外周縁から上方に伸びる筒壁とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部は,捕捉部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,フランジ部は,渦流生成部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている。
b 渦流生成部に,捕捉部に向かう渦状模様が現出されている。
c 捕捉部と渦流生成部に多数個の排水孔が形成されている。
d 正面視において,捕捉部がおおむね隅丸矩形状である(公知意匠1及び2のみ)。
e 渦流生成部が,捕捉部を中心とする等角度位置に配置された複数(公知意匠1が3個ずつ,公知意匠2が2個ずつ,公知意匠3が4個ずつ,公知意匠4が2個ずつ)の斜面体及び渦状壁で構成されており,平面視において,渦状壁が斜面体に類する面積を占め,正面視において,渦状壁の上部がフランジ部よりも上方に張り出している。
f 各斜面体が,隣接して形成された渦状壁によって区分けされている。
(ウ) 公知意匠5は,排水口に装着するための排水誘導具の意匠である。
この排水誘導具は,中くぼみ状の円形皿形であり,その表面には,外縁から中心に向かい,かつ,中心には達しない複数のらせん状山形が突設形成されており,これらのらせん状山形以外の谷部分には,複数の流水孔が穿設されている。また,正面視において,各らせん状山形の上部が外縁部よりも上方には張り出していない(乙16の第1図及び第2図)。
ウ 本件意匠の要部
(ア) 上記ア及びイを基に,本件意匠の要部について検討するに,上記アのとおり,本件意匠に係る物品の性質,用途,使用態様を考慮すると,本件意匠の構成のうち需要者の注意を惹きやすい部分は,渦流生成部及び捕捉部の形状等であるといえる。
(イ) そして,上記イの各公知意匠において開示されている構成を考慮すると,本件意匠の渦流生成部及び捕捉部の形状等のうち,公知意匠にはない新規な創作部分であるといえるのは,渦流生成部が,斜面体のみで構成され,各斜面体の境界を区切る構造体がなく,段差構造のみによって境界が形成されている形状であること(本件意匠の具体的構成態様①及び②に係る部分)といえる。
そうすると,需要者が本件意匠の実施品を観察する場合には,上記の形状に着目することになるといえるところ,このような形状は,各斜面体が,反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる二つの曲線及び一つの概ね直線で囲まれた形状であり,捕捉部を中心として等角度位置に計6個配置されていることとも相まって,需要者に対し,渦流生成部において水が渦を巻くように整然と流れるような構造であるという印象を与えつつ,渦流生成部に斜面体以外の構造体が設けられていないことにより,全体として凹凸が少なくシンプルですっきりとした印象を与えるものとして,需要者の注意を特に惹きやすい形状であるといえる。
(ウ) 以上によれば,本件意匠の構成のうち,渦流生成部が,斜面体のみで構成され,各斜面体を区切る渦流壁等の構造体がなく,段差構造のみによって各斜面体の境界が形成されている形状は,需要者の最も注意を惹きやすい部分であるといえ,この部分が本件意匠の要部であると認められる。
(4) 対比
ア 共通点
本件意匠及び被告意匠は,基本的構成態様①ないし③が共通するほか,次の各点において,具体的構成態様が共通する。
①渦流生成部が捕捉部を中心とする等角度位置に配置された複数の斜面体で構成されている点
②各斜面体が反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる三つの線で囲まれた形状である点
③フランジ部の外周縁の12時,3時,6時及び9時の位置に略円弧状の凹み部が形成されている点
④フランジ部の12時及び6時の位置に爪が形成されている点
⑤フランジ部の裏面に易破断用の薄肉部が形成されている点
イ 差異点
本件意匠及び被告意匠においては,次の各点において,具体的構成態様に差異がある。
①被告意匠においては各斜面体の反時計方向側の外周部に堰部が形成されているのに対し,本件意匠には堰部が存在しない点
②本件意匠の斜面体の数が6個であるのに対し,被告意匠の斜面体の数は4個である点
③各斜面体の形状
④被告意匠においては捕捉部の中心部に整流体が形成されているのに対し,本件意匠には整流体が存在しない点
⑤被告意匠においてはピンがフランジ部の裏面の1時,4時,7時及び10時の位置に下方に向かって突設されているのに対し,本件意匠にはピンが存在しない点
⑥本件意匠のフランジ部の1時,4時,7時及び10時の位置には「コ」字状の切り欠きが形成されているのに対し,被告意匠には切り欠きが存在しない点
ウ 共通点及び差異点の検討
(ア) 前記(3)及び上記イで検討したところによれば,本件意匠及び被告意匠においては,被告意匠には各斜面体の反時計方向側の外周部に堰部が形成されているのに対し,本件意匠には堰部が存在しない点に差異があるところ,これは,本件意匠の要部(渦流生成部が,斜面体のみで構成され,各斜面体を区切る渦流壁等の構造体がなく,段差構造のみによって各斜面体の境界が形成されている形状)における差異点であるといえる。
そして,前記(3)で検討したとおり,本件意匠の要部である上記形状は,各斜面体が,反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる二つの曲線及び一つのおおむね直線で囲まれた形状であり,捕捉部を中心として等角度位置に計6個配置されていることとも相まって,需要者に対し,渦流生成部において水が渦を巻くように整然と流れるような構造であるという印象を与えつつ,渦流生成部に斜面体以外の構造体が設けられていないことにより,全体として凹凸が少なくシンプルですっきりとした印象を与えるものといえる。
これに対し,被告意匠において各斜面体の反時計方向側の外周部に形成されている堰部は,別紙被告意匠目録及び別紙被告意匠説明図の平面図及び斜視図のとおり,需要者が上方又は斜め上方から観察した場合において,容易に看取される程度の高さや幅を有するものであり,各斜面体を区切るために独立して設けられた構造体であると認識される形状及び大きさであるといえる上,堰部が斜面体と共に明確な渦状模様を顕出させることにより,需要者に対し,斜面体に何らの構造体が設けられていない場合と比較して,より勢いのある水流が生じる構造であるという印象を与えるものといえる。
以上の事情を考慮すると,本件意匠及び被告意匠における上記差異点は,需要者に対して大きく異なる美感を生じさせるものというべきである。
(イ) そして,上記アのとおり,本件意匠及び被告意匠は,基本的構成態様①ないし③が共通するほか,上記アの①ないし⑤の点において具体的構成態様が共通するものの,前記(3)イによれば,これらは公知意匠において開示されている構成であるか,又は需要者が観察する際に特に着目しない部分であるといえるから,いずれも需要者の注意を惹きやすい部分における共通点ではないというべきであるばかりか,上記イのとおり,具体的構成態様において差異点②ないし⑥も存するところである。
そうすると,本件意匠及び被告意匠の全体を観察したとしても,両者は要部において顕著な相違があり,上記共通点を考慮しても,全体として差異点が共通点を凌駕しており,両意匠が視覚を通じて起こさせる全体としての美感を異にするものであるというべきである。
(ウ) したがって,本件意匠及び被告意匠は,全体として美感を共通にするものとはいえない。
エ 小括
以上検討したところによれば,被告意匠は,本件意匠と類似するものとは認められない。
(5) 控訴人の主張に対する判断
ア 控訴人は,本件意匠及び被告意匠は堰部の有無にかかわらず内側に向かう渦の流れという美感が共通するから,堰部の有無は美感に係る判断に影響しない旨主張する(原審における控訴人の主張)。
しかしながら,前記(3)イのとおり,捕捉部に向かう渦状模様が現出されている渦流生成部の形状については公知意匠(公知意匠1ないし4)が存在することからすれば,そのような形状は,需要者の注意を惹きやすい部分であるとはいえないから,本件意匠の要部であると認めることはできない。そして,本件意匠については,渦流生成部が,斜面体のみで構成され,各斜面体を区切る渦流壁等の構造体がなく,段差構造のみによって各斜面体の境界が形成されている形状を要部として認定すべきであること,本件意匠及び被告意匠における堰部の有無の差異は,上記要部に係る差異点であり,需要者に対して大きく異なる美感を生じさせるものであることは,前記のとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 控訴人は,公知意匠1ないし4はいずれも正面視において渦流壁がフランジ部よりも上方に張り出しているものであるのに対し,本件意匠及び被告意匠はいずれもこのような形状ではなく,全体的に平面的な美感を共通にする旨主張する(原審における控訴人の主張)。
しかしながら,前記(3)イ(ウ)によれば,渦流生成部を区分けする構造体がフランジ部よりも上部に張り出していない形状については,公知意匠(公知意匠5)が存在することからすれば,そのような形状は,需要者の注意を惹きやすい部分であるとはいえないから,本件意匠の要部であると認めることはできない。そして,本件意匠及び被告意匠が上記のような形状を共通にすることを考慮しても,両意匠が全体として美感を共通にするものとはいえないことは,前記のとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 控訴人は,本件意匠の要部認定に関し,各公知意匠においては,斜面体と堰部それぞれによって二重の明確な渦状模様を生じさせるという印象を与えるから,ヘアキャッチャーに接した需要者において,堰部の存在に着目するということはあり得ない旨主張する(当審における控訴人の補充主張(1)ア)。
しかしながら,前記(3)ウで検討したところに照らせば,斜面体に堰部が存在する公知意匠が存在するからといって,そもそも斜面体に堰部その他の構造体が設けられていない本件意匠の要部の認定に係る前記の判断が左右されるものではないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 控訴人は,本件意匠の要部認定に関し,原告製品及び被告製品に係るブログ等におけるレビューの内容を基に,需要者は渦流生成部を形成する堰部又は構造体がフランジ部よりも上方にないという点に着目するものであり,堰部の有無には着目しない旨主張する(当審における控訴人の補充主張(1)イ及びウ)。
しかしながら,前記(3)イ(ウ)で検討したとおり,渦流生成部を区分けする構造体がフランジ部よりも上方に張り出していない形状については公知意匠(公知意匠5)が存在することからすれば,そのような形状は,需要者の注意を惹きやすい部分であるとはいえないから,本件意匠の要部であると認めることはできない上,ブログ等におけるレビューの内容のみをもって,本件意匠の要部の認定に係る前記の判断が左右されるものではないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
なお,控訴人は,意匠の類否判断に関しても同様の主張をするが(当審における控訴人の補充主張(2)ア),採用することができない。
オ 控訴人は,意匠の類否判断に関し,被告意匠における堰部は突出の程度も面積も小さいから,当該堰部を重視することはできない旨主張する(当審における控訴人の補充主張(2)イ)。
しかしながら,上記(4)ウ(ア)で検討したとおり,被告意匠において各斜面体の反時計方向側の外周部に形成されている堰部は,需要者が上方又は斜め上方から観察した場合において,容易に看取される程度の高さや幅を有するものであり,各斜面体を区切るために独立して設けられた構造体であると認識される形状及び大きさであるといえるから,被告意匠における堰部の突出の程度や面積について,類否判断において重視することができない程度に小さなものであるということはできない。そして,本件意匠及び被告意匠における堰部の有無の差異は,上記要部に係る差異点であり,需要者に対して大きく異なる美感を生じさせるものであることは,前記のとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
解説/検討
本判決では、本件意匠の要部として、本件意匠の構成のうち、「渦流生成部が、斜面体のみで構成され、各斜面体を区切る渦流壁等の構造体がなく、段差構造のみによって各斜面体の境界が形成されている形状」が認定され、被告意匠には各斜面体の反時計方向側の外周部に堰部(下記引用に係る被告意匠説明図の【斜視図】において16で示されている部分)が形成されているのに対し、本件意匠には堰部が存在しない点に差異があり、これは本件意匠の要部における差異点であるとされた。そして、本判決は、この差異点を主な理由として、本件意匠と類似するものとは認められないと判断したものである。
この点、本件のように、要部における差異点を見出すことで、類似性を否定する強い根拠になり得ること、また、登録意匠の要部は、物品の性質、用途、使用態様や、公知意匠などを参酌して認定されるものであることを考慮すれば、権利者としては、被疑侵害者が主張する差異点が要部とならないよう、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様や公知意匠などから、差異点が需要者の注意を惹きやすい部分でないことや、既に知られた形状であることを主張立証することに努め、他方、被疑侵害者としては、需要者の注意を惹きやすい部分や、公知意匠で知られていない部分の中から差異点を見出すなどして主張立証することが重要になろう。
本判決別紙被告意匠説明図【斜視図】より引用












