【横一連の文字から成る結合商標の類否】
投稿日:2026年6月8日 |
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著者:弁理士 大塚 啓生
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参照条文/キーワード/論点 |
結合商標の類否/商標法4条1項11号 |
ポイント
※ 本件は、商標登録無効審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
| 判決言渡日 | 令和4年7月14日 |
| 事件番号 | 令和3年(行ケ)第10110号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
大鷹 一郎
小川 卓逸 遠山 敦士 |
事案の概要
原告が、登録第6205417号「ザプレミアムチロリアン」(以下、「本件商標」という。)に対して原告の有する商標登録第614146号「
」(以下、「引用商標1」という。)等を引用して商標登録無効審判を請求したところ、特許庁の審判において請求不成立の審決がされたため原告が提訴した事件。裁判所においては、審決の判断を覆して本件商標は商標法4条1項11号に該当すると判断された。
争点
結合商標の類否
判旨
1.認定事実(抜粋)
(1)証拠及び弁論の趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 原告及び被告による菓子「チロリアン」の販売経緯等
(中略)
(2)前記(1)の認定事実によれば、
① 菓子「チロリアン」は、昭和37年にEの千鳥屋によって販売が開始された後、「千鳥屋」の看板商品となり、Eの千鳥屋は、福岡県を中心に店舗を拡大し、また、Aが昭和39年に開店した東京千鳥屋は、関東地方で、Cが昭和48年に開店した大阪千鳥屋及び昭和61年に設立された被告が開店した大阪千鳥屋は、関西地方で、それぞれ店舗及び販売先を拡大し、いずれの「千鳥屋」も菓子「チロリアン」を販売していたこと、
② 平成7年にEが死亡した後、Eの子であるA、B、C及びDの間で、「千鳥屋」の事業をめぐって様々な紛争が発生したこと、
③ 原告は、平成9年に福岡市でBによって設立され、福岡県を中心に展開する直営店舗や全国の得意先を通じて菓子「チロリアン」を販売し、原告の売上高は、毎年度10億円を超えていること、
④ 原告は、菓子「チロリアン」について、テレビCM、ラジオCMを制作、放送したり、新聞に広告を掲載し、それらの広告には「チロリアン」の文字が表示され、その広告宣伝費は、複数の年度において1億円を超えていたこと、
⑤ Eの千鳥屋の事業を承継した株式会社チロリアン及び千鳥屋販売や、平成18年に福岡県飯塚市でDによって設立された千鳥屋本家も菓子「チロリアン」を販売し、その広告には「チロリアン」の文字が表示されていたこと、
⑥ 被告の売上高は、平成21年度以降、毎年度●●●円を上回っており、被告も菓子「チロリアン」の販売を行っていたこと、
⑦ 菓子「チロリアン」は、平成2年以降、テレビ番組、雑誌、書籍及びウェブサイトで、「あの大人気お菓子」などと紹介されていたことが認められる。
これらの事実を総合すると、標章「チロリアン」は、本件商標の登録審決日(令和元年10月1日)の時点で、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められる。
2.取消事由1(本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について
(中略)
(2)本件商標の要部抽出の可否について
ア 本件商標は、「ザプレミアムチロリアン」の文字を標準文字で表してなり、「ザ」「プレミアム」の文字部分と「チロリアン」の文字部分とから構成される結合商標である。本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、同間隔で一連表記されており、構成文字に相応して、「ザプレミアムチロリアン」の称呼が生じる。
次に、「ザ」の文字部分は、定冠詞「the」の片仮名表記であり、「プレミアム」の文字部分は、「一段上等・高級であること」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として、「チロリアン」の文字部分は、「チロルの人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独特の民族服」(ブリタニカ国際大百科事典)、「チロル地方の。チロル風の」(広辞苑第七版)といった意味を有する語として一般に理解されていることが認められる。このような上記各文字部分の観念及びそれぞれの称呼に照らすと、本件商標を構成する文字は、外観上、同書、同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において「ザ」「プレミアム」の文字部分と「チロリアン」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
そして、前記1.(2)認定のとおり、標章「チロリアン」は、本件商標の登録審決日(令和元年10月1日)当時、福岡県を中心とした九州地方において、菓子の取引者、需要者の間で、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたことに照らすと、本件商標がその指定商品中の「菓子」に使用された場合には、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分は、菓子のブランド名を示すものとして注意を惹き、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものと認められる。
そうすると、本件商標の構成中「チロリアン」の文字部分は、独立して商品の出所識別標識として機能し得るものと認められるから、本件商標から上記文字部分を要部として抽出し、これと引用商標1とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるというべきである。
イ これに対し、被告は、①本件商標は、「ザプレミアムチロリアン」の標準文字を表してなり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されており、その文字構成は一連一体であることからすると、「ザ」「プレミアム」の部分と「チロリアン」の部分は、分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合している、②標章「チロリアン」、「TIROLIAN」は、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、原告の業務に係る商品を表すものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたとはいえないから、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分が、本件商標の指定商品の取引者、需要者に対し、原告の商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえない、③菓子「チロリアン」については、発売後ほどなくして、標章「チロリアン」を使用して独自に販売を行う事業主体が複数生じ、平成8年以降は、標章「チロリアン」を使用する事業主体間で多数の紛争が生じており、標章「チロリアン」について統一的な管理が行われていなかったことに照らすと、取引者、需要者は、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分が、複数の事業主体のいずれに係る表示であるかを認識することが困難であるから、「チロリアン」の文字部分は、原告の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものに該当しない、④菓子「チロリアン」を製造販売する複数の事業主体について、経済的・組織的な一体性を持つグループといったものが形成されたことはないから、「チロリアン」の文字部分が、上記のようなグループの識別標識として強く支配的な印象を与えると評価する余地もない、⑤「チロリアン」の文字部分に出所識別機能がないにもかかわらず、これがあるかのように評価して結合商標の分離観察を行い、その結果として、標章「チロリアン」について他の事業主体に比べて不十分な使用実績しか有しない原告に引用商標1ないし3を含む「チロリアン」の登録商標を独占させるような帰結は、社会的妥当性に欠けるなどと主張して、本件商標から「チロリアン」の文字部分を要部として抽出することは許されない旨主張する。
しかしながら、前記(1)で説示したとおり、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標においては、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合などのほか、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合においても、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である。
そして、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得るか否かについての判断は、商標に接した取引者、需要者において、商標のどのような構成部分について注意を惹き、どのような印象を受けるかなどの観点から判断されるべきものであることに照らすと、その判断においては、取引者、需要者が、当該構成部分を何人かの出所識別標識として認識し得るものであれば、当該構成部分に係る出所自体(例えば、特定の事業主体の名称、事業形態、事業主体が単数か、複数か等)について正確に認識することまでは要しないと解するのが相当である。
被告主張の①については、前記アのとおり、「ザ」「プレミアム」の文字部分の観念及び称呼、「チロリアン」の文字部分の観念及び称呼に照らすと、本件商標を構成する文字が、外観上、同書、同大、同間隔で一連表記されていることを勘案しても、本件商標において、「ザ」「プレミアム」の文字部分と「チロリアン」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
被告主張の②ないし④は、取引者、需要者において、本件商標の構成中の「チロリアン」の文字部分に係る出所自体(特定の事業主体の名称等)について正確に認識することまで必要であることを前提とし、上記文字部分が原告の出所を示す出所識別標識として認識されることを求めるものであるから、その前提において採用することができない。
また、被告主張の⑤については、結合商標の構成部分の一部を要部として抽出することができるかどうかの判断は、上記のとおり、当該結合商標に接した取引者、需要者の認識及び印象に係る問題であって、本件商標との関係では、原告による標章「チロリアン」の使用実績の規模等によってその判断が左右されるものではないから、その前提において採用することができない。
したがって、被告の上記主張は理由がない。
(3)本件商標と引用商標1の類否について
ア 引用商標1は、別紙記載1のとおり、「チロリアン」の文字を毛筆風で横書きに書してなり、その構成文字に相応して、「チロリアン」の称呼が生じる。
しかるところ、前記1.(2)のとおり、本件商標の登録審決日当時(令和元年10月1日)において、標章「チロリアン」は、菓子の取引者、需要者の間で、福岡県を中心とした九州地方において、特定の菓子(菓子「チロリアン」)のブランド名として広く認識され、全国的にも相当程度認識されていたものと認められる。
そうすると、「チロリアン」の文字を横書きに書してなる引用商標1から、特定の菓子のブランド名としての「チロリアン」の観念も生じるものと認めるのが相当である。
イ 本件商標の要部である「チロリアン」の文字部分(標準文字)と別紙記載1の引用商標1を対比すると、字体は異なるが、「チロリアン」の文字を書してなる点で外観が共通し、いずれも「チロリアン」の称呼及び特定の菓子のブランド名としての「チロリアン」の観念又は「チロルの人々。オーストリア西部からイタリア北東部にまたがるチロルの山岳地帯に住む人々の用いる独特の民族服」、「チロル地方の。チロル風の」の観念が生じる点で、称呼及び観念が同一である。
そうすると、本件商標と引用商標1が本件商標の指定商品中の「菓子」に使用された場合には、その商品の出所について誤認混同が生ずるおそれがあるものと認められるから、本件商標と引用商標1は、全体として類似しているものと認められる。
したがって、本件商標は、引用商標1に類似する商標であるものと認められる。
これに反する被告の主張は理由がない。
解説/検討
商標の類否判断は全体観察を原則とするが、結合商標の類否の場合は、結合した語の識別力の強弱の程度等によって要部観察することも許される。そして、結合商標の類否判断については、最高裁判決の「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日)があり、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである」との考えが最近では規範となっている。
本判決において特筆すべきは、この規範からさらにもう一歩踏み込んで判断したことにある。本判決では「商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品又は役務の出所識別標識として機能し得るものと認められる場合には、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である」としつつ、さらにその相当程度強い印象を与える部分について、「取引者、需要者が、当該構成部分を何人かの出所識別標識として認識し得るものであれば、当該構成部分に係る出所自体(例えば、特定の事業主体の名称、事業形態、事業主体が単数か、複数か等)について正確に認識することまでは要しないと解するのが相当である。」と判示している。
確かに、「つつみのおひなっこや事件」のみならず、結合商標の類否を判断した他の最高裁判例(リラ宝塚事件、SEIKO EYE事件)においても、要部として認識される部分が、特定の出所を表示していることの認識まで求めてはいない。また、具体的な出所の混同を防止するための規定である商標法4条1項15号とは異なり、商標法4条1項11号は一般的出所の混同を防止する規定であることからすれば、出所識別標識として強い印象を与える部分とは、他の構成部分と比べて強い印象を与えるものであれば足りるとの考えは、11号に馴染むものといえよう。個人的には、裁判所の判断は妥当であり、本判決は実務的に非常に参考になると考える。
なお、本判決と並行して、「ザリッチチロリアン」(令和3年(行ケ)第10109号)及び「チロリアンホルン」(令和3年(行ケ)第10108号)についても引用商標1~5との類否が争われており、いずれも本判決と同様に審決を覆して商標法4条1項11号に該当すると判断している。
