【未登録周知商標との類否】
投稿日:2026年6月29日 |
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著者:弁理士 大塚 啓生
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参照条文/キーワード/論点 |
未登録周知商標との類否/周知性/商標法第4条1項10号 |
ポイント
本件は、商標登録無効審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。無効審判においては商標法4条1項10号及び19号が争われ、審決取消訴訟においても原告は同様の条文を根拠に上訴したが、裁判所は商標法4条1項10号の該当性についてのみ判断した。
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判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第3部 |
| 判決言渡日 | 令和4年10月18日 |
| 事件番号 | 令和3年(行ケ)第10081号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
東海林 保
中平 健 都野 道紀 |
事案の概要
原告が、登録第5769618号「ゴミサー」(以下、「本件商標」という。)に対して原告の使用する「ゴミサー」を引用して商標登録無効審判を請求したところ、特許庁の審判において請求不成立の審決がされたため原告が上訴した事件。裁判所においても、審決の判断と同様に原告の請求は棄却された。
争点
未登録商標の周知性
判旨
2.取消事由1(引用商標の周知性の有無に関する判断の誤り)について
(1)引用商標の周知性の有無について
ア 需要者の範囲について
前記第2の1(1)及び(2)のとおり、本件商標の指定商品は、第7類「生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」であり、原告商品は、業務用生ごみ処理機であるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、業務用生ごみ処理機は、その処理方式の違いから、①微生物の働きにより生ごみを分解して堆肥に変えるコンポスト型、②微生物の働きにより生ごみを水及び炭酸ガス等に分解して減容・減量又は消滅させる消滅型、③熱により生ごみの水分を蒸発させて減容・減量させる乾燥式に分類されること、原告商品は、上記のうち消滅型に分類されることが認められる。
このように、業務用生ごみ処理機には、様々な処理方式のものがあるところ、生ごみ処理機を購入しようとする事業者は、必要とする生ごみの処理量や処理機を設置しようとする施設の設備等、それぞれの事情を基に、いずれの処理方式の生ごみ処理機が適当であるかを判断して商品を選択するものといえる。そうすると、業務用生ごみ処理機の処理方式によって需要者そのものが異なるものではないというべきであるから、引用商標の周知性の有無については、業務用生ごみ処理機を必要とする事業者全体を需要者として判断するのが相当である。
イ 原告商品の市場占有率について
(ア)上記アのとおり、引用商標の周知性の有無については、業務用生ごみ処理機を必要とする事業者全体を需要者として判断するのが相当であることからすれば、原告商品の市場占有率については、処理方式を問わず業務用生ごみ処理機全体の市場における占有率を算定するのが相当である。
(イ)そこで検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、平成12年度から平成18年度までの間における業務用生ごみ処理機全体の販売台数は、以下のとおりであったと認められる。そして、前記1(1)(エ)で認定した各年における原告商品の年間販売台数によれば、原告商品の市場占有率は、概ね以下の各括弧書き内に記載したとおりであったと認められる(なお、平成18年度の販売台数及び市場占有率は、11月までのものである)。
平成12年度 2036台(13.2%)
平成13年度 1895台(11.1%)
平成14年度 1685台(10.6%)
平成15年度 1534台(6.9%)
平成16年度 1092台(8.9%)
平成17年度 881台(9.4%)
平成18年度 610台(7.3%)
(ウ)上記(イ)のとおり、平成12年度ないし平成18年度の業務用生ごみ処理機全体の市場における原告商品の占有率は、概ね10%前後で推移していたといえるところ、弁論の全趣旨によれば、平成19年度ないし平成26年度も同程度の市場占有率であったと認められる。
(エ)以上のとおり、平成12年度から平成26年度までの間、原告商品の市場占有率は、概ね10%前後にとどまっていたことからすれば、本件商標の出願時以前において、原告商品が高い市場占有率を有していたものとはいえない。
ウ 原告商品の販売台数について
(ア)前記1(1)エのとおり、原告商品は、販売を開始した平成4年から本件商標が出願された前年である平成26年までの間に累計で2514台が販売されたものの、年間の販売台数は、平成11年の284台をピークに年々減少し、平成16年に100台を下回って以降は毎年70台前後 で推移していたものである。
(イ)以上のとおり、原告商品の販売台数は、最も多かった年でも284台にとどまる上、本件商標の出願時以前の約10年間は毎年70台前後で推移してきたことからすれば、本件商標の出願時以前において、原告商品の販売台数が多かったとはいえない。
エ 原告商品に関する報道、広告宣伝等について
(ア)前記1(2)のとおり、原告は平成6年、平成8年及び平成12年に各種の賞を受賞し、原告商品は平成9年、平成15年及び平成17年に新聞報道において取り上げられたことがあったものの、これらはほとんどが山形県内又は酒田市内における受賞歴又は報道歴である上、その後、本件商標の出願時までの約10年間において、原告又は原告商品に関する報道がされたなどの事情は存しない。
(イ)また、原告商品に係る広告宣伝活動についてみても、原告商品については、販売代理店であった被告において通常の営業活動を超える広告宣伝活動がされていたなどの事情は存せず、また、原告において多額の広告宣伝費を支出していたなどの事情も存しない。
オ 引用商標の周知性について
(ア)上記イ及びウのとおり、本件商標の出願時以前において、原告商品が高い市場占有率を有していたものとはいえず、また、原告商品の販売台数が多かったとはいえない。これに加え、上記エのとおり、原告の受賞歴や原告商品に係る報道歴は、ほとんどが山形県内又は酒田市内におけるものであった上、原告商品に関し、本件商標の出願時以前の約10年間における報道歴はないこと、原告商品について特別な広告宣伝活動がされていたなどの事情は存しないことも考慮すると、原告商品が平成4年から20年以上にわたって販売されてきた商品であることや、一般に業務用生ごみ処理機が相当程度高額な商品であるとうかがわれることなどを考慮しても、本件商標の出願時及び登録査定時において、原告商品が高い知名度を有する商品であり、原告商品の名称である引用商標が周知であったと認めることはできない。
(イ)以上によれば、引用商標が、本件商標の出願時及び登録査定時において、原告商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
解説/検討
商標法4条1項10号の「需要者の間に広く認識されている商標」とは、「最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む。」と審査基準に規定されている。請求人による「ゴミサー」の販売台数や市場占有率からすると物足りないが、無効審判における原告の主張では累計販売台数は業界トップのようであり、山形県内における受賞歴・報道実績等を考慮すると10号の周知性を満たすと考える余地があるようにも思える。しかし、本件商標の出願前10年間の実績に乏しいことや山形県内のみの認知度ではやはり10号の周知性を認めるに足りるとはいえず、裁判所の判断は妥当であろう。
「DCC事件」(東京高判昭和58年6月16日(昭和57年(行ケ)第110号))では「狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべき」と判示されており、最近では「とっとり岩山海事件」(知財高判平成26年10月29日判決(平成26年(行ケ)第10118号))でも「必ずしも全国的に知られている必要まではないが、1都道府県内で知られているだけでは足りず、少なくとも関西一円などの数件にわたる相当広い範囲で、取引者・需要者に知られていることを要する」と判示されている。
また、本件の経緯をみると、もともと被告は原告の販売代理店で原告が製造する「ゴミサー」を販売していたことや、原告が7類で「ゴミサー」(第4284828号)の登録を有していたものの何らかの事情で更新しなかったため被告が本件商標を登録したこと、被告商品のパンフレットや被告商品を紹介するウェブページにおいて原告商品の写真を使用し、原告を製造元として表示し、原告商品の販売実績を記載していこと等を考慮すると、原告が主張する「不正の目的」があったと考えられなくもない。しかし、審決を確認すると、原告が更新しなかったことに対して被告は抗議し再度の登録を要請したところ、「お金がない」等の理由で相手にされなかったため被告自ら本件商標を登録するに至ったようであり、被告側に不正な目的もなかったと思われる。
以上のように、判決文を読んでいると原告にも同情の余地があるように見えたが、事実関係を慎重に考慮すれば妥当な判断であったと考える。
なお、原告は被告が生ゴミ製造機を委託するに至った請求外テクノウェーブ社ともトラブルを起こしており、テクノウェーブ社をウェブサイト上で誹謗中傷し、虚偽事実の流布をしたとして、不正競争の損害賠償が認められている(東京地判平成19年12月26日(平成18年(ワ)第18283号))。
