【二段併記から成る結合商標の類否】

 

投稿日:2026年5月12日

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著者:弁理士 大塚 啓生
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

結合商標の類否/商標法4条1項11号

 

ポイント

本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。商標法4条1項11号が争われ、原告は本願商標と引用商標が非類似であることを争ったところ、特許庁の審判においては類似と判断されたが、裁判所は審決の判断を覆し、商標法4条1項11号に該当しないと判断した。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和5年11月30日
事件番号 令和5年(行ケ)第10063号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
宮坂 昌利
本吉 弘行
岩井 直幸
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 原告が「VENTURE」の出願をしたところ(商願2020-128329号)(以下、「本願商標」という。)、

画像
                     」(第6434159号)(以下、「引用商標」という。)を引用して拒絶査定を受け、当該査定に対して拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁の審判において請求不成立の審決がされたため原告が上訴した事件。裁判所は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。


争点

結合商標の類否


原審(原々審)の判断

 引用商標は、上段に筆文字風な書体により大きく書された「遊」の漢字を配し、下段にゴシック体風の書体でやや小さめに書された「VENTURE」の欧文字を配した構成からなるところ、その構成中「遊」の文字は、「あちこち出歩いて遊ぶ」等の意味を有する語である一方、「VENTURE」の文字は、「冒険」の意味を有する英語であって、両者の間に意味上の繋がりは見いだし難く、また、その文字の大きさ、文字種、文字の書体が全く異なるものであって、他にこれらの文字部分を常に不可分一体のものとしてのみ認識し把握すべき格別の理由も発見できないから、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当である。
 してみれば、引用商標は、その構成中「VENTURE」の文字部分を分離、抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきであり、該文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす要部といえる。
(中略)
 そうすると、本願商標と引用商標は、要部の比較において、外観上似かよった印象を与えるものである上、称呼及び観念を同一にするものであるから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

判旨

(3)引用商標について
ア 引用商標は、中央上部に筆文字風の書体による「遊」の漢字を大きく配し、底辺部にゴシック体風の書体による「VENTURE」の欧文字を配した構成からなる結合商標である。
(ア)この外観に着目して具体的に観察すると、中央上部の「遊」の文字は、「VENTURE」を構成する各文字よりも縦横とも約5倍の大きさで、面積にして約25倍相当となる。「遊」の文字と「VENTURE」文字部分(7文字分)全体の面積を比較しても、前者が後者の約3.5倍ということになり、「遊」の文字部分が「VENTURE」の文字部分に対して圧倒的な存在感を示している。
 また、「遊」の文字の書体は、勢いのある行書の筆文字風であり、「遊」の語義と相まって、看者に躍動感と趣味感を印象づける書体であるのに対し、「VENTURE」は、太目の文字をわずかに右に傾けたゴシック体風の書体という以上の特徴はみられない。
 そして、「遊」の文字部分は、中央上部に配置され、これが商標の全体構成の中心部分をなすとの位置づけを否応なくアピールするのに対し、「VENTURE」の文字部分は、底辺部で「遊」を支える台座のような印象を与える外観となっている。
(イ)次に、称呼及び観念に着目して検討するに、引用商標の構成中、「VENTURE」の文字部分からは、(2)で述べたところと同様、「ベンチャー」の称呼及び「冒険」の観念を生ずる。そして、「遊」の文字部分からは、「ゆう」又は「あそ」(び、ぶ)の称呼を生じ、「あちこち出歩いてあそぶ」等の観念を生ずる。
 したがって、これを全体として観察した場合、一応は「ユウベンチャー」又は「アソベンチャー」の称呼を生ずるといえるが、一義的に明確とはいえず、一連一体の文字商標としての読み方は定まらない(よく分からない)という印象を取引者、需要者に与えることも否定できない。
 また、「遊」の部分から生ずる観念(あちこち出歩いてあそぶ)と「VENTURE」の部分から生ずる観念(冒険)とを統合する単一の観念を見出すことは困難であり、造語としての「ユウベンチャー」又は「アソベンチャー」から特定の観念が生ずるとも認められない。
 この点、原告は、上記各部分を通じて、「気ままに冒険する」といった観念上のつながりが理解される旨主張するが、連想の域を出ない希薄なつながりにすぎず、ここに商標の出所識別機能の根拠を求めるには無理がある。
イ 以上の認定を踏まえ、上記(1)の③で例示したところを参考に、引用商標における分離観察の可否及び要部認定について検討する。
 引用商標は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分からなる結合商標であり、原則として全体観察をすべきことは前述のとおりであるが、上記各構成部分を比較すると、文字の大きさの違いからくる「遊」の文字部分の圧倒的な存在感に加え、書体の違いからくる訴求力の差、全体構成における配置から自ずと導かれる主従関係性といった要素を指摘することができ、称呼及び観念において一連一体の文字商標と理解すべき根拠も見出せない等の事情を総合すると、引用商標に接した取引者、需要者は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離して理解・把握し、中心的な構成要素として強い存在感と訴求力を発揮する「遊」の文字部分を略称等として認識し、これを独立した出所識別標識として理解することもあり得ると解される。
 他方、「VENTURE」の文字部分は、商標全体の構成の中で明らかに存在感が希薄であり、従たる構成部分という印象を拭えず、これに接した取引者、需要者が、「VENTURE」の文字部分に着目し、これを引用商標の略称等として認識するということは、常識的に考え難い。したがって、「VENTURE」の文字部分を引用商標の要部と認定することはできないというべきである。
 本件審決の判断中、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との分離観察が可能という点は正当であるが、「VENTURE」の文字部分を要部と認めた部分は是認できない。
ウ 被告は、「遊」の文字部分が比較的大きく書されているとしても、「VENTURE」の文字も需要者、取引者が認識するに十分な大きさで書されており、文字の大きさをもって「VENTURE」の文字部分が要部となり得ないとはいえない旨主張する。確かに、相対的な文字の大小関係があるにすぎない場合であれば、被告の上記立論も首肯できるものであるが、本件における「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分との大きさの違いは、相対的な大小関係とは次元の異なるものである上、書体の違いからくる訴求力の差、配置上の位置関係からくる主従関係性などの要素も総合すれば、被告の立論は本件に妥当するものとはいえない。

解説/検討

 結合商標の類否については、「リラ宝塚事件」(最判昭和38年12月5日判決)、「SEIKO EYE事件」(最判平成5年9月10日)、「つつみのおひなっこや事件」(最高裁平成20年9月8日判決)があり、これらの判例から、結合商標の一部抽出については下記①~③が規範とされている。

①その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合、
②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合、
③各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない場合。

 また、審査基準では、結合商標の分離の可否について「結合商標は、商標の各構成部分の結合の強弱の程度を考慮し、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど強く結合しているものと認められない場合には、その一部だけから称呼、観念が生じ得る。」「文字のみからなる商標においては、大小があること、色彩が異なること、書体が異なること、平仮名・片仮名等の文字の種類が異なること等の商標の構成上の相違点、著しく離れて記載されていること、長い称呼を有すること、観念上のつながりがないこと等を考慮して判断する。」とされ、その類否判断は、分離する部分の識別力の程度又は周知性等によって判断すると記載されている。
 そのため、実務上、結合商標の類否は、概ね、①外観・観念・称呼をベースに分離観察の可否を検討したうえで、②分離する場合は識別力の強弱を考慮して要部として認識されるか否かを判断することが多い。これらの基準で判断すれば、本件原審の判断は妥当かもしれない。
 本判決で注目すべきは、新たに第4の基準を示したことにある。すなわち、分離する構成要素の要部認定において、「識別力」の観点だけでなく、その全体構成中の「存在感」及び「常識的に略称として認識されるか」に着目した点である。その結果、引用商標は分離観察されるものの、「VENTURE」部分が独立した要部として認識されないと結論付けている。
 個人的には、裁判所の判断は妥当と考える。引用商標の権利者がどのような理由で引用商標を採択したか分からないが、「遊」をこれだけ目立たせた態様の構成にあって「VENTURE」にも商標の効力が及ぶと判断することは過度な保護であり、一商標一出願の原則にも反すると感じる。

       

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