【二重瞼形成用化粧品の商標権侵害を否定した「バレないふたえ」事件】
投稿日:2026年6月29日 |
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著者:弁護士 多田 宏文
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参照条文/キーワード/論点 |
商標権侵害の場面における類否判断 |
ポイント
本件は、控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)による被告商品の販売等が商標権を侵害するものであると主張し、①瞼形成用ストレッチテープ及び二重瞼形成用化粧品に被告標章を付すこと、被告標章を付した瞼形成用ストレッチテープ及び二重瞼形成用化粧品の販売並びにこれらの販売のための展示の差止(商標法36条1項)及び化粧品等の廃棄(同2項)、②損害賠償、③謝罪広告の掲載を求めた事案である。原審が商標について出所識別力がないとして請求を棄却したため、原告が控訴した。
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判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和5年12月26日 |
| 事件番号 | 令和5年(ネ)第10011号 |
| 事件名 | 商標権侵害行為差止等請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
清水 響
浅井 憲 勝又 来未子 |
事案の概要
事案の前提となる事項は、以下のとおりである。
1 控訴人(原告)商標
| 商標登録5648844 | 商標登録5607340 |
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2 被控訴人(被告)標章
| 被告商品1 | 被告商品2 |
![]() (出典:LIPS https://lipscosme.com/posts/2796137) |
![]() (出典:https://encrypted-tbn0.gstatic.com/ shopping?q=tbn:ANd9GcTSphkKpot6v4Fg915Tpuniicy 7U0WsjzcNLPXKvaT1Ku0j0XY&usqp=CAY) |
争点
商標権侵害の場面における類否判断
判旨
知財高裁は、以下のとおり判断して、本件商標と被告標章の類似性を否定した。(なお、以下の引用部分の下線・強調、図の挿入は筆者による。)
1 争点1(本件商標と被告標章の類否)について
(1)商標の類否判断の枠組み
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。もっとも、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品又は役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、これら3点のうちその1点において類似する商標であっても、他の2点において著しく相違するもの、その他、取引の実情等によって、何ら商品又は役務の出所に誤認混同を来すおそれが認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。(最高裁判所昭和43年2月27日第三小法廷判決(昭和39年(行ツ)第110号)民集22巻2号399頁参照)
(2)本件商標の構成
原判決別紙商標目録記載のとおり、本件商標1は、「バレないふたえ」の文字を標準文字で書してなるものであり、本件商標2は、「バレない」の文字列及び「ふたえ」の文字列を上下2段に配してなるものである。
(3)被告標章の構成
原判決別紙被告標章目録記載のとおり、被告標章は、いずれも黒色の背景の上に「バレナイ」及び「二重」の文字列(「二」の文字の2画目の左先端部分は、2つに分かれ、いずれも左斜め上方向を向いているが、図案化されているのは当該部分のみである。)を上下2段にしてなるものであり、被告標章1においては、「バレナイ」及び「二重」の文字列の色がピンクであり、被告標章2においては、当該色が黄である。
(4)本件商標の構成中の「バレない」及び「ふたえ」の各語並びに被告標章の構成中の「バレナイ」及び「二重」の各語の意味
ア 一般に、「ばれる」の語は、「秘密、うそ、悪事等が露見する」などの意味を有するから、動詞の「ばれる」の未然形に否定の助動詞である「ない」を付加した「ばれない」の語は、「秘密、うそ、悪事等が露見しない」などの意味を有する。なお、「ばれない」の語を「バレナイ」又は「バレない」と表記しても、用いる仮名文字の種類を異にするだけであり、その意味するところに変わりはないというべきである。
イ 一般に、「二重」の語は、「2つ重なること」、「2つ重なったもの」などの意味を有する。その一般的な読みは、「ニジュウ」及び「フタエ」である。
また、株式会社岩波書店発行の広辞苑第七版(平成30年)によると、「二重まぶた」とは、「まぶたの皮にひだがあって二重になっているもの」であるのに対し、「一重まぶた」とは、「まぶたに横ひだがなく一重であるもの」であり、両者は、区別されるものである。「二重まぶた」の語の一般的な読みは、「フタエマブタ」である。
そして、前記補正して引用した原判決第2の2(4)のとおり、被告標章1は、本件商標の指定商品である「二重瞼形成用化粧品」と同一の商品である被告商品1に付されているものであり、被告標章2は、本件商標の指定商品である「瞼整形用ストレッチテープ」と同一の商品である被告商品2に付されているものであるから、被告標章の構成中の「二重」の語を見た取引者又は需要者は、これが「二重まぶた」の略語であると認識するものと認めるのが相当である。
(5)二重まぶたを形成するための化粧品及びまぶたを整形するためのストレッチテープ(以下、これらを併せて「本件化粧品」という。)の分野における「ばれない」等の語の使用例…
ア インターネット通販サイトにおける「二重まぶたグッズ」の検索結果(甲14)として、次の使用例がある。
(ア)「貼るだけ・バレない」…
(イ)「ふたえがバレにくい極細両面テープ」…
(ウ)「バレずに自然な上品二重」…
イ インターネット検索サイトにおける「バレないふたえ」の検索結果(甲16、乙5)として、次の使用例がある。
(ア)「作った二重だなんてバレない…大人におすすめの最新二重メイク…涼しげなアジアンビューティーの一重まぶたも素敵だけれど、ぱっちりした二重まぶたに憧れる方も多いのではないでしょうか?」
(イ)「【バレない!簡単】皮膜式ふたえコスメで二重幅を広げるコツ」
(ウ)「至近距離でも!私の3年間バレなかったアイプチ」
(エ)「簡単でバレにくい!時間が経っても至近距離でも自然な二重」
(オ)「バレない自然な二重まぶたに!?」
(中略)
ウ インターネット検索サイトにおける「バレナイ二重」の検索結果(甲17)として、次の使用例がある…。
(ア)「24枚増量中!バレない二重まぶた用アイテープ!」
(イ)「アイプチ歴10年が作り出す、本気でバレない二重の作り方」
(ウ)「【バレない二重の作り方】簡単!ナチュラル仕上げ!」
(エ)「アイテープ人気おすすめ23選【バレない方法も】自然な二重を…」
(オ)「ぱっちり二重になるために欠かせない、二重まぶた化粧品!…バレない
コツからお悩みQ&Aまで…」
(中略)
エ インターネット検索サイトにおける「バレナイ二重」(語順も含め完全一致。被告の会社名「ディアローラ」が含まれるものを除く。)の検索結果(甲18)として、次の使用例がある…。
(ア)「3種類メッシュアイテープ288枚の通販…バレナイ二重を手に入れるチャンスです」
(イ)「メザイクストリングファイバー120ディープタイプ120本入…バレナイ二重の作りを見つけたのでご紹介します!!!必要な道具は2点です!!1つ目はアイプチのりです!」
オ インターネット検索サイトにおける「二重 ばれない」の検索結果(乙2、3)として、次の使用例がある…。
(ア)「二重の癖付けに使えるアイプチ-バレないアイプチはこれ」
(イ)「3年続けて一回もバレなかったアイプチ…わたしは小6からアイプチとかマッサージをはじめて、二重になりました!」
(ウ)「【アイプチ革命】激安で至近距離でもバレない最強アイテープ…究極にバレない二重の作り方!」
(エ)「まばたきしてもバレない方法!【二重まぶたの作り方…まばたきしても自然でバレない二重」
カ インターネットの販売サイトに表示された本件化粧品の包装に付された宣伝文句等(丙1の1から7まで、丙3)として、次の使用例がある。
(ア)「バレない整形級ふたえ」…
(イ)「くっきり二重が出来て、バレない!テカらない!のび~るアイテープ」…
(ウ)「目をつぶってもバレない!」…
(エ)「閉じてもバレにくい!」…
(オ)「極細繊維ファイバーでバレないふたえ成形」…
(中略)
(6)本件商標の使用態様
本件商標の使用態様(甲26)は、本判決別紙「本件商標の使用態様」記載のとおりである。

(本判決別紙「本件商標の使用態様」より抜粋、筆者挿入)
すなわち、原告商品の包装(表面)のデザインには幾つかのパターンがあり、デザインごとに、ベースとなる色彩、描かれる人物(イラスト様のものと写真様のものがある。)の位置及び大きさ等が異なるが、いずれのデザインにおいても、上下2段に配した「バレない」の文字列及び「ふたえ」の文字列からなる商標(本件商標2に近似する商標)が中央左側から右側にかけて、中央やや上又は右側の中央やや下に比較的大きな文字で表示されている。その余の部分には、全体の約半分(例えば左側の上から下まで)にわたって人物が大きく描かれており(ただし、一つの例においては、全体の約4分の1(左下)にわたって描かれている。)、人物及び本件商標2に近似する商標が描かれていない部分(ただし、文字と人物とが重なる部分もある。)には、原告商品のブランド名であると認められる図案化された「Prudór」の文字(本件商標2に近似する商標の文字よりも小さいもの)、「メイクがノル」の文字、「自然に仕上がる!ナチュラルふたえ」の文字(いずれも本件商標2に近似する商標の文字よりも小さいもの)等が記載されている。
(7)被告標章の使用態様
(判決文省略、以下筆者挿入)
| 被告商品1 | 被告商品1 |
![]() (出典:LIPS https://lipscosme.com/posts/2796137) |
![]() (出典:https://encrypted-tbn0.gstatic.com/ shopping?q=tbn:ANd9GcTSphkKpot6v4Fg915Tpuniicy 7U0WsjzcNLPXKvaT1Ku0j0XY&usqp=CAY) |
(8)取引の実情についての検討
前記(4)のとおりの本件商標の構成5中の「バレない」及び「ふたえ」の各語並びに被告標章の構成中の「バレナイ」及び「二重」の各語の意味に加え、前記(5)のとおりの本件化粧品の分野における「ばれない」等の語の使用例をみると、「ばれない」等の語が「二重まぶた」又はこれに関連する語、本件化粧品を表す語又はこれに関連する語等と共に用いられる例は極めて多数に上り、それらのうち「ばれない」等の語が「二重まぶた」又はその略語である「二重」若しくは「ふたえ」の語を直接修飾する例(「バレない自然な二重まぶたに」、「バレない二重の作り方」、「バレないしっかりふたえ」、「バレない整形級ふたえ」、「バレない二重を作れる」、「バレない自然な二重にするアイテム」、「アイプチだとバレない二重をつくる方法は」、「バレない二重をつくるのはなかなか大変です」、「バレない二重まぶた用アイテープ」、「綺麗でバレない二重まぶたになれたものは」、「絶対にバレない二重きた」、「アイプチでバレない二重を作る方法」、「バレナイ二重を手に入れるチャンス」、「まばたきしても自然でバレない二重」など)も多数に上っている。すなわち、本件化粧品を使用する需要者は、本件化粧品を使用して人為的に形成した自己の二重まぶたについて、これが人為的に形成されたものであるとの事実が他人に知られない(バレない)ことを欲しており、当該事実が他人に知られないような出来栄えの二重まぶたを形成することができるか否かという点や、その出来栄えの程度(本件化粧品の品質、効能)に強い関心を持っているものと考えられ、「バレない二重」等といった表現は、本件化粧品の分野においては、本件化粧品の品質や効能を示すものとして、製造者・販売者の別を問わず、広く用いられているものである。以上によると、本件商標及び被告標章が商品の出所識別標識としての機能を果たすとしても、「バレないふたえ」及び「バレナイ二重」という表現そのものは、本件化粧品の品質及び効能に関するありふれた表現であるから、当該表現による出所識別機能は、かなり限定的なものであるといわざるを得ない。
加えて、前記(6)及び(7)のとおりの本件商標及び被告標章の使用態様も併せ考慮すると、本件化粧品に係る需要者は、一般に、商品又はその包装等において、商品の出所を識別し得る外形的な表示(視認することのできる文字、模様、色彩等)の具体的態様に従って、商品(本件化粧品)の出所を識別しているものと認めるのが相当である。
(9)本件商標と被告標章の類否
ア 前記(8)において認定した取引の実情に照らすと、本件商標と被告標章の類否の判断においては、商品(本件化粧品)又はその包装等において具体的にされている出所識別標識の外形的な表示の態様、すなわち当該出所識別標識(商標)の外観の異同が、それらの称呼及び観念の異同と比べ、より需要者に対し強く支配的な印象を与えるものとして相対的に重要になるものと解される。以下、これを踏まえて本件商標と被告標章の類否について検討する。
イ 称呼及び観念
本件商標及び被告標章からは、いずれも「バレナイフタエ」の称呼が生じる。また、前記(4)及び(5)において認定したところに照らすと、本件商標及び被告標章からは、いずれも「人為的に形成されたものであるとの事実が他人に知られないような二重まぶた」などの観念が生じるものと認められる。したがって、本件商標及び被告標章は、称呼及び観念を同一にするものである。
ウ 外観
(ア)本件商標2と被告標章について
本件商標2は、片仮名の「バレ」及び平仮名の「ない」を横書きにして上段に配した上、平仮名の「ふたえ」を横書きにして下段に配してなり、上段の文字列(4文字)と下段の文字列(3文字)の幅は、下段の方が僅かに大きく、また、下段に配された「ふたえ」の各文字は、上段に配された「バレない」の各文字よりも大きく、太めである(なお、各文字に付された色彩は黒である。)。これらにより、下段の「ふたえ」の文字列は、上段の「バレない」の文字列と比較して、看者に対し強い印象を与えるといえるから、下段の「ふたえ」の文字列は、本件商標2の構成の中で、看者の注意をより強く引く部分であるということができる。
(以下、参照のため筆者挿入)
| 商標登録5607340 |
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被告標章は、片仮名の「バレナイ」を横書きにして上段に配した上、漢字の「二重」を横書きにして下段に配してなり、上段の各文字と下段の各文字の大きさ及び太さが余り変わらないため、上段の文字列(4文字)の幅は、下段の文字列(2文字)の幅の1.5倍程度となっている。また、下段冒頭の「二」の2画目の左の先端には、まつ毛に見立てたようなデザイン化が施されている(なお、被告標章1の各文字に付された色彩はピンクであり、被告標章2の各文字に付された色彩は黄である。)。
(以下、参照のため筆者挿入)
| 被告商品1 |
![]() (出典:LIPS https://lipscosme.com/posts/2796137) |
このように、本件商標2の中で看者の注意をより強く引く部分である「ふたえ」の文字列とこれに対応する被告標章の下段である「二重」の文字列は、単に仮名の文字種(平仮名か片仮名か)において相違するだけではなく、仮名と漢字という文字種についてのより大きな相違を有すること、両商標の上段についても、本件商標2の上段の「バレない」の後半2文字が平仮名であることにより、4文字の全てが片仮名である被告標章の上段の「バレナイ」と比較してより柔らかい印象を与えること、本件商標2の上下段の各文字列の幅が僅かに異なる程度であるのに対し、被告標章の上段の文字列全体の横幅は、下段の文字列全体の横幅の1.5倍程度であり、その結果、本件商標2の各文字が比較的まとまった印象を与えるのに対し、被告標章の各文字は、ややばらばらの印象を与えること、その他、上記のとおりの本件商標2と被告標章の差異を併せ考慮すると、本件化粧品について使用される本件商標2と被告標章は、看者である需要者にとって、外観において相紛らわしくない程度に相違すると評価するのが相当である。
(イ)本件商標1と被告標章について
本件商標1と被告標章との間には、前記(ア)のとおりの「ふたえ」と「二重」の相違、「バレない」と「バレナイ」の相違等に加え、本件商標1が「バレないふたえ」の文字を標準文字で書してなるのに対し、被告標章は、「バレナイ」の文字列及び「二重」の文字列を上下2段に配してなるとの差異がある。これらの事情を踏まえ、前記(ア)において説示したところに照らすと、本件商標1と被告標章は、看者である需要者にとって、外観において相紛らわしくない程度に相違すると評価するのが相当である。
解説/検討
知財高裁は、商標と観念と称呼が一致する標章について、取引の実情、多数の使用例を重視して、外観の相違をもって非類似と判断した。(なお、原審は出所識別機能自体がないとして原告の請求を棄却しているが、控訴審は出所識別機能が小さいことを前提に、類否のハードルを上げている。)
被控訴人(被告)側は、「バレない二重」といったキーワードでのインターネットでの検索結果などを多数提出することにより、この表現が当該分野で一般に用いられていることを立証し、商標の出所識別力が低いことの立証に成功しており、参考になる。








