【「電気スイッチ」の形状に関する商標の識別力】
投稿日:2026年5月12日 |
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著者:弁理士 大塚 啓生
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参照条文/キーワード/論点 |
商品の形状を普通に用いられる方法で表示した標章/商標法3条1項3号 |
ポイント
本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。商標法3条1項3号の該当性が争われ、原告は本願商標が単なる商品の形状ではないことを主張したが、裁判所は審決の判断を維持し、商標法3条1項3号に該当すると判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和5年12月21日 |
| 事件番号 | 令和5年(行ケ)第10083号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂 昌利
本吉 弘行 岩井 直幸 |
事案の概要
原告が「
」の出願をしたところ(商願2020-122227号)(以下、「本願商標」という。)、商標法3条1項3号に該当するとの拒絶査定を受け、当該査定に対して拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁の審判において請求不成立の審決がされたため原告が上訴した事件。裁判所は、原告の請求は理由がないとして審決を維持した。
争点
商品の形状を普通に用いられる方法で表示した標章の識別力
判旨
商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択されると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当するものと解される。
(2)本願商標は、白色の長方形を縦長に描き、その内側の中央に、辺の長さが外側長方形部分の約半分程度の、影様の黒色の線で縁取りされた白色の縦長の長方形を配し、内側長方形部分の右側長辺に影様の薄い灰色の直線を配し、その左に上端から下端までの長さよりやや短く、縦に緑色の直線を描いてなるものである。そして、本願商標同様の形状を有する原告製造に係る「電気スイッチ」に係るカタログには、「シンプルで、明瞭な要素で構成されること。ミニマルで、偏りのない美しさを持つこと。ひとつの空間を超えて、建築が持つ思想へと向かう存在になること。」との記載があり、JIS大角連用形スイッチとの取付互換性の確保も強調されている。
一方、メーカー、施工会社、ユーザ等のウェブサイトによれば、本願商標の指定商品である「電気スイッチ」を取り扱う業界において、外側の縦長の略長方形の内側に、表示灯を施した縦長の長方形の押しスイッチを配した構成の電気スイッチは、広く使用されていること、表示灯の形状、位置、点灯した際の色彩は様々なものが採用されていることが認められる。そして、これらの電気スイッチの形状は、「もっと美しく、使いやすく。/これからのくらしのスタンダード」、「インテリアと響きあう/住まいに必要なものだから“美しさ”にこだわりたい。みんなが使うものだから“使いやすさ”を求めたい。」といった謳い文句からも理解されるとおり、商品の機能や美観を発揮させるために選択されているものと解される。
上記のような実情に鑑みると、本願商標の形状は、指定商品である「電気スイッチ」の用途、機能、美観から予測できないようなものということはできず、需要者は、本願商標から、「電気スイッチ」において採用し得る機能又は美感の範囲内のものであると感得し、「電気スイッチ」の形状そのものを認識するにすぎないというべきである。
解説/検討
商品の形状の識別力に関しては、ミニ・マグライト事件(知財高判平成19年6月27日、知財高裁平成18年(行ケ)第10555号)が参考となる。立体商標の識別力が争われた事案であるが、次のように判示している。
「商品の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。(中略)
同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。
けだし,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。」
原告は、上記の判断は立体商標について適用されるものであって、本願商標のような平面的な図形についてはこのように厳しく判断されるべきでないことを主張したが、裁判所は上記の基準に照らして本願商標の識別力がないと判断している。
上記の判断基準が平面的な図形商標にも適用され得る場合があることについて異論はない。そういった形状は本来意匠法上の創作物として保護されるべきであって、半永久的に権利を保持できる商標制度において独占させることは公益上適当ではないだろう。他方で、本願商標のような形であれば、原告が主張するようにアイコン的に使用することも考えられ、必ずしも商品の形状として認識されないともいえるため、判断が難しい事案に思われた。
なお、本判決では「なお、本願商標が指定商品の形状を表すのでなく、アイコン等としてのみ使用されるものと認識されると認めるに足りる証拠もない。」としているが、仮に本願商標がアイコン等として使用されている事情があった場合は識別力が認められたのか、気になるところである。
