【怪獣の商品の形状からなる標章について商標法2条3項該当性を認めた事件】
投稿日:2026年6月5日 |
![]()
著者:弁護士 多田 宏文
|
参照条文/キーワード/論点 |
商標法3条2項/商品の形状からなる商標 |
ポイント
※ 本件は、原告が、第28類「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」を指定商品とする商標登録出願(商願2020-120003号、「本願」)をしたが、商標法3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受け、不服審判も成り立たないとの審決が出されたため、原告が審決取消訴訟を提起したものである。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和6年10月30日 |
| 事件番号 | 令和6年(行ケ)第10047号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂 昌利
本吉 弘行 岩井 直幸 |
事案の概要
手続の経緯は、以下のとおりである。
1 原出願
原告は、令和元年10月10日、下記の構成からなる商標(立体商標)について、第9類、第16類、第25類、第28類及び第41類の商品又は役務を指定商品又は役務として、原出願(商願2019-131821号)をしたところ、令和2年8月21日、「本願商標をその指定商品中、 第28類『縫いぐるみ、アクションフィギュア、人形、その他のおもちゃ』に使用するときは、単に商品の品質・形状を普通に用いられる方法で表示する」ものであり、商標法3条1項3号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。

2 分割出願(本願)
そこで、原告は、令和2年9月29日、①原出願につき、第28類の指定商品のうちの「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」を削除する手続補正を行うとともに、②商標法10条1項(商標登録出願の分割)の規定に基づき、原出願と同一の本願商標(立体商標)につき、新たに、前記削除した商品である第28類「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」を指定商品とする商標登録出願(商願2020-120003号、本願)をした。
3 審決
原告は、本願につき、令和3年5月28日付けで拒絶査定を受けたため、同年8月30日、拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁は、上記請求を不服2021-11555号事件として審理を行い、令和6年3月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をした。
審決概要は下記のとおり
「本願商標と特徴を共通にする立体的形状(使用形状)を使用した怪獣、恐竜あるいは想像上の動物を模したと思われる「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」(使用商品)の使用(販売)期間は7年程度で永年とはいえず、ライセンシーの販売実績も含むものである。市場規模が8244億円(令和2年)、8900億円(令和3年)という玩具業界の中で使用商品の市場占有率が高いとはいえない。
テレビにおいて、使用商品の宣伝広告がされたことはうかがえるが、本願商標の立体的形状自体やその特徴を積極的に言及する等、立体的形状を原告の自他識別標識であることを印象付けるように取り上げられたとはいえない。
また、その宣伝広告の実績(期間、規模、広告宣伝費等)については、何ら証拠が提出されていない。 原告が実施した本件アンケートについて、調査対象者の過半数の一般需要者は、使用形状を認識していない一方で、使用形状を「「ゴジラ」、「シン・ゴジラ」をモデルにしたフィギュア」と回答した者及び「シン・ゴジラやゴジラがどのような形状を有しているか、「分かる」又は「ほぼ分かる」」と回答した者は、過半数を超えているが、使用形状と原告の関係についての質問はない。」
争点
(1) 商標法3条1項3号該当性の判断の誤り(取消事由1)
(2) 商標法3条2項該当性の判断の誤り(取消事由2)
なお、以下では⑵について取り上げる。
判旨
裁判所は、以下のとおり判示して、商品等表示該当性を肯定した。(なお、以下の引用部分の下線は筆者による。)
「3 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1) 原告は、昭和29年以来のゴジラ・キャラクターの長年にわたる使用の結果、本願商標の形状は原告の出所を表示するものとして著名となっている旨主張するのに対し、被告は、映画「シン・ゴジラ」に登場するゴジラ(第4形態)以外のゴジラ・キャラクターの立体的形状は本願商標の立体的形状と同一視することはできない旨主張するので、商標法3条2項該当性の判断に当たり、本願商標を使用したものと評価できる商品の対象範囲を最初に確定しておく必要がある。
そこで検討するに、上記1(2)ウで認定したとおり、シン・ゴジラの立体的形状は、それ以前のゴジラ・キャラクターと比較して、頭部が小さくなり、前脚(腕)の細さが一層際立つ一方、尻尾はより太く長くなっているなど、全体のプロポーションに違いが生じているほか、背中から尻尾にかけての部分を中心に赤みがった色彩が加わっている等の違いがあり、被告が主張するとおり、両者を同一(実質的に同一)と認めることは相当でない。
しかし、商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべきである。
(1) 以上の枠組みに従って判断する。
ア まず、映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、日本映画の歴代第22位にランクされる興行収入を上げる記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26億5000万円を記録する(上記1(5)ア)など、本件審決時までの約8年間に、本願の指定商品に集中的に使用された事実が認められる。
イ 加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、当 該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状として広く認識されていたことが優に認められる。
すなわち、①昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズは、その後60年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開し、累計観客動員数約1億2000万人を記録するなど、圧倒的な商業的成功を収めていること、②これらの映画の広告等には、原告の「製作・配給」であること等が明記されていたこと、③この間の映画「ゴジラ」シリーズのビデオグラム及びゴジラのフィギュア商品の売上金額は、それぞれ百億円を大きく超えていること、④上記フィギュア商品については、原告から商品化の許諾を受けた第三者企業によって販売されているものも多いが、原告が商品化の主体であることを示す本件著作権等表示が付されていたこと、⑤原告のシンボル的なモニュメントとなっている巨大なゴジラ像は、繁華な商業施設を含む都内の複数の場所に恒常的に設定されていることは、上記1で認定したとおりである。
ウ さらに、「ゴジラ」の文字商標は、原告に係る映画のタイトル又は当該映画に登場する怪獣の名称として著名となっているところ(上記1(6)、当裁判所に顕著な事実)、「シン・ゴジラ」を含む「ゴジラ」シリーズでは、登場する怪獣のキャラクターに一貫して「ゴジラ」の名称が使用されている
エ 本願の指定商品の需要者は一般消費者であると解されるところ、そうした需要者の認識としても、令和3年9月実施の全国の15歳~69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、極めて高い認知度が示された(上記1(7))。この調査の対象者の選定、質問方法等に特段の問題は見当たらず、その回答結果は、シン・ゴジラの立体的形状の著名性を示すものといえる。
オ 以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができる。」
解説/検討
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
ただ、これまで、特に商品立体形状についての商標法3条2項の適用には、それなりのハードルはあり、ゴジラの知名度も考慮したうえでの判断と解される。
参考までに、肯定例、否定例を挙げると、以下のとおりである。
【肯定例】





【否定例】



