【被告が本件各ウェブページにおいて被告各表示を掲載した行為(本件ウェブページ掲載行為)について、商標法2条3項8号該当性を否定し、日本国内の出所保護機能を害することを否定して、実質的な商標権侵害を否定し、商品等表示としての「使用」(不競法2条1項1号、2号)該当性も否定した事例】

 

投稿日:2026年4月30日

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著者:弁護士 木村 広行
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

不正競争防止法(不競法)2条1項1号、2号、3条1項/商標法2条2項3号、3項8号、36条1項、37条/商標の使用/商品等表示の使用

 

ポイント

※本判決は、被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者に対し広告する目的で使用されたものではなく、現にそのような効果が生じている証拠もないとして、本件ウェブページ掲載行為は、「本件すし店の役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」として商標法2条3項8号に該当するものということはできないと判断した。
※本判決は、被告各表示を本件すし店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される役務であるから、原告各商標の国内における出所保護機能を害するものではないとして、本件ウェブページ掲載行為は、実質的にみても、原告各商標権を侵害するものではないと判断した。
※本判決は、被告各表示は、日本からの食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用されていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用し、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできないこと、また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供する役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内において、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできないとして、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表示として「使用」するもの(不競法2条1項1号、2号)に当たらないとした。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和6年10月30日
事件番号 令和6年(ネ)第10031号
事件名 不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 響
菊池 絵理
頼 晋一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

(以下、原判決による)

⑴ 当事者
ア 原告は、すし店経営、水産物の仕入全般、食材の開発・製造、新商品の開発等の事業を行う株式会社であり、「すしざんまい」という名称の飲食店(以下「原告すし店」という。)を全国的に展開している(甲3)。

イ 被告は、魚介類及び水産加工品の輸出入並びに販売、一般食堂の経営及び経営指導等の事業を行う株式会社である。
 被告は、その完全親会社であるダイショーシンガポール(Daisho(Singapore) PTE LTD)の他、ダイショーマレーシア(DAISHO FOOD(M)SDN.BHD.以下「ダイショーマレーシア」という。)、スーパースシ(SUPER SUSHI SDN.BHD.以下「スーパースシ」という。)及びダイショータイランド(Daisho Thailand Co.、Ltd)とダイショーグループを構成しており、日本での食材の仕入れ及び東南アジアのダイショーグループ各社への輸出を行っている。

ウ スーパースシは、マレーシアにおいて、「Sushi Zanmai」という名称の飲食店(以下「本件すし店」という。)を展開している。

⑵ 原告商標
1 画像

2 画像

3 画像

⑶ 原告表示
1 画像
2 「すしざんまい」との表示
3 「SUSHIZANMAI」との表示

⑷ 被告表示
1 Sushi Zanmai
2 画像
(なお、被告ウェブページについては、分量の都合上省略。本判決参照)

争点

⑴ 争点1-3 被告が原告各商標を「使用」(商標法2条3項)したといえるか
⑵ 争点2-3 被告が原告各表示と類似の商品等表示を「使用」(不競法2条1項1号)したといえるか
⑶ 争点3 不競法2条1項2号該当性
(その他の争点は判断されていないため省略)

   

原審の判断

 本件各ウェブページは主に日本国内の取引者及び需要者に向けたウェブページであり、かつ、被告各表示は「すしを主とする飲食物の提供」という役務に係るものといえるから、被告各表示がマレーシアの本件すし店に係るものであったとしても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は、日本における原告各商標の出所表示機能及び品質保証機能を害し、ひいては、上記の商標法の目的にも反するものであるといえる。
 そして、被告各表示が被告自身の事業に関するものではなかったとしても、本件各ウェブページに被告各表示を掲載した行為は被告が行ったものと認められ、上記のとおり、そのような被告の行為によって日本における原告各商標の出所表示機能及び品質保持機能が害されている以上、被告が原告各商標を「使用」していないと評価することはできない。

判旨

(以下、強調は筆者による)

1 争点1-3
① 商標法2条3項8号該当性
 「前記⑴の本件ウェブサイトの構成と記載内容によれば、以下に述べるとおり、本件ウェブサイトは、全体として、被告を含むダイショーグループが東南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そこで提供するための鮮度の高い良質な食材を日本から輸出する事業を営んでいることを紹介するものであると認められるから、被告各表示を付した本件各ウェブページについても、本件すし店の「役務に関する広告」に当たると認めることはできない。

ア 「事業内容」のページ(前記⑴ウ)は、説明項目の記載順が「食材・食品の輸出/提案」、「加工・流通」、「物産展・地域振興」、最後に10の飲食店チェーンの一つに被告各表示を付した「店舗開発・メニュー開発」となっており、それぞれ相応な分量の説明と写真があり、冒頭の「食材・食品の輸出/提案」の末尾は、食材の海外輸出を検討する日本国内の事業者に向けた呼びかけとなっている。そうすると、これに続く「加工・流通」、「物産展・地域振興」、「店舗開発・メニュー開発」は、輸出先の国における流通経路の川下に関する事業内容を順次紹介することにより、海外輸出を検討している国内の事業者に向けて、ダイショーグループを通じた輸出の利点を記載したものといえる。

イ このような食材の輸出に関連する内容は、前記⑴のとおり本件ウェブサイトの随所にみられ、特に「海外輸出をお考えの方」のページ(前記⑴カ)は、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けたものであることが明らかである。

ウ これに対し、被告各表示を付した部分は、上記「事業内容」のページにおいては、ページの最後に被告各表示と簡潔な説明文及び英文ウェブサイトへのリンクがあるにとどまり、ページ全体に占める割合は少なく、具体的なメニューの内容、価格、店舗の所在場所といった、一般消費者に向けて本件すし店の役務の内容を知らせる内容は乏しい(これらの情報は、リンクされた英文ウェブサイト(乙37)に掲載されていることが推認される。)。しかも、被告各表示は、ダイショーグループが展開している飲食店チェーンを紹介した部分に掲載されている10種類の飲食店(その中には簡潔な説明文中にシンガポールやクアラルンプールの店舗であることが明記されているものもある。)の一つにすぎない。そして、同ページの記載内容からも、本件すし店が東南アジアに所在することは比較的容易に読み取ることができる。
 トップページ(前記⑴ア)において被告各表示を用いた部分をみても、英文ウェブサイトへのリンクがないことを除いては「事業内容」のページと同じであり、ページ全体に占める割合が多いとはいえず、10種類の飲食店チェーンの一つとして店舗情報が提供されていることは、前記「事業内容」のページと同様である。さらに、上記の「事業内容」のページや「ダイショーグループとは」のページ(前記⑴イ)をみれば、本件すし店が東南アジアに所在すること、日本法人である被告が国内からの食材の輸出の事業を営んでいることは、比較的容易に読み取ることができる。

                            [中略]

 以上によれば、被告各表示は、その態様に照らし、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けた本件各ウェブページの中で、被告の事業を紹介するために使用されているにすぎず、本件すし店を日本国内の需要者に対し広告する目的で使用されたものではなく、現にそのような効果が生じている証拠もない。したがって、本件ウェブページ掲載行為は、「本件すし店の役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」として商標法2条3項8号に該当するものということはできない。

② 被告各表示の使用が本件すし店の存在を日本国内に広く知らしめるという点において「広告」に該当し、商標的使用に該当すると考えた場合の商標権侵害の成否
 「被告各表示は、日本国内における役務の提供について使用されているものではないから、原告各商標権を侵害するものではない。

ア すなわち、被告各表示は、日本語で記載された本件各ウェブページに掲載されているから、これが本件すし店の広告に該当すると考えたときは、日本国内において商標法2条3項8号に該当する行為がされたものと一応いうことができる。

イ しかるところ、前記のとおり、本件各ウェブページは、食材の海外輸出を検討する国内事業者に向けたものであると認められ、被告各表示は、本件各ウェブページの中でダイショーグループが海外で日本の食材を用いた飲食店チェーンを展開していることを示す際に使用されている。本件各ウェブページには、本件すし店の具体的なメニューの内容、価格など、一般消費者に向けて本件すし店の役務を知らせる内容は一切記載されておらず、「事業内容」のページの被告各表示の下のリンクから誘導されるのは英文のページのウェブサイトである。

ウ また、証拠(乙17、21)及び弁論の全趣旨によれば、本件すし店は、日本国外(シンガポール、マレーシア)で飲食物の提供等の役務を提供していることが認められ、シンガポールやマレーシアで商標登録されている被告各表示(甲8、乙14、15。商標権者はスーパースシである。)は、現地でその役務を提供するに当たり、使用されている標章である。本件すし店が、日本国内で同様の役務を提供している事実は認められない。

エ そうすると、被告各表示は、本件すし店の日本国内における役務の提供について用いられているものではない。被告各表示を見た日本国内の消費者が被告各表示により役務の提供の出所を誤認したとしても、本件すし店が日本で役務を提供していない以上、その誤認の結果(原告の店であると誤認して、本件すし店から指定役務の提供を受けること)は、常に日本の商標権の効力の及ばない国外で発生することになるはずであり、日本国内で原告各商標権の出所表示機能が侵害されることはない。なお、証拠(甲10、11)によれば、クアラルンプールの本件すし店に入店する際、これを原告の支店であると誤認した日本人がいた事実が認められるが、当該出所の誤認が本件各ウェブページの被告各表示を閲覧した結果生じたものであることを認める証拠はない上、出所の誤認が国外で発生していることに変わりはないから、当該事実は、前記判断を左右するに足りるものではない。

オ もともと、一国において登録された商標は、他の国において登録された商標から独立したものとされており(パリ条約6条1項及び3項)、かつ、いわゆる属地主義の原則により、商標権の効力は、その登録された国内に限られるものと解される。外国において適法に登録された商標である被告各表示が当該外国における指定役務の提供を表示するため本件各ウェブページ上で使用された場合において、原告各商標権に基づき被告各表示の使用差止等を認めることは、実質的にみて、原告各商標の国内における出所表示機能等が侵害されていないにもかかわらず、外国商標の当該外国における指定役務表示のための適法な使用を日本の商標権により制限することと同様の結果になるから、商標権独立の原則及び属地主義の原則の観点からみても相当ではないというべきである。

⑷ 共同勧告について
 上記のとおり解することは、共同勧告において、インターネット上の標識の使用は、メンバー国で商業的効果を有する場合に限り、当該メンバー国における使用を構成するとされていること(共同勧告2条)とも整合するものである。すなわち、共同勧告3条⑴項で掲げられている商業的効果を決定するための要因についてみると、本件すし店が日本で役務を提供しておらず、提供する計画に着手した旨を示す状況はないこと(同項(a))、本件各ウェブページには本件すし店の日本通貨による価格表示はされておらず(同項(c)(ii))、日本国内における連絡方法も掲載されていないこと(同項(d)(ii))等が認められることに加え、前記のとおり、本件各ウェブページ自体は日本からの食材の輸出という役務の広告を目的とするものであり、被告各表示は、輸出された食材を国外で使用する飲食店チェーンを紹介するという文脈で使用されていること等の事情が認められる。これら全ての事情を総合的に考慮すると、本件各ウェブページが日本語で作成されており(同項(d)(iv))、日本国内の顧客に対し本件すし店の役務を提供する意図がないことが明示的に表示されているわけではない(同項(b)(ii))ことを踏まえても、本件各ウェブページにおける被告各表示の使用は、日本国内における商業的効果を有するということはできないから、日本国内における商標としての使用に当たるものではないというべきである。

⑸ 小結
 以上によれば、原告の主張を考慮しても、本件各ウェブページは、日本からの食材の輸出という役務の広告というべきであり、仮に被告各表示を本件すし店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される役務であるから、原告各商標の国内における出所保護機能を害するものではない。
 したがって、本件ウェブページ掲載行為は、商標法2条3項8号に該当しないから、被告が原告各商標を「使用」(商標法2条3項)したということはできないし、実質的にみても、原告各商標権を侵害するものではない。

2 争点2-3及び3について
⑴ 前記2のとおり、本件各ウェブページにおいて、被告各表示は、日本からの食材の輸出という被告の事業に関連する情報の一つを示すために使用されていると認められるから、他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用し、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできない。また、仮に、被告各表示が、本件すし店の提供する役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内において、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできない。

 そうすると、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表示として「使用」するもの(不競法2条1項1号)に当たらないから、その余の点を判断するまでもなく、不競法2条1項1号に基づく原告の請求は、理由がない。

⑵ 同様の理由により、被告各表示は、不競法2条1項2号に規定する「商品等表示」としての使用には該当しない。結局、不競法2条1項2号に基づく原告の請求も理由がない。

 

解説/検討

 本判決は、「本件各ウェブページにおける被告各表示の使用は、日本国内における商業的効果を有するということはできないから、日本国内における商標としての使用に当たるものではないというべきである。」と指摘した上、「仮に被告各表示を本件すし店の役務の広告であると考えた場合でも、当該役務は国外で提供される役務であるから、原告各商標の国内における出所保護機能を害するものではない。」として、「実質的にみても、原告各商標権を侵害するものではない。」との結論に至っているものと解される。
 この点、例えば、海外で提供される役務について、日本国内で表示され、日本国内で誤認が生じ、日本の需要者が海外で役務の提供を受ける結果として、日本国内においても商業的効果が生じていると評価できるような事例では、日本国内における出所識別機能が害されるということも考えられるため、「国外で提供される役務」の広告が日本国内で表示されるような事例における商標権侵害等の成否に関して、本判決のほか裁判例の蓄積が望まれる。

 

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