【商品「医療用機械器具」と役務「医療用機械器具の貸与」の類否】
投稿日:2026年5月8日 |
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著者:弁理士 大塚 啓生
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参照条文/キーワード/論点 |
商品と役務の類否/商標法4条1項11号/商標法4条1項15号 |
ポイント
本件は、商標登録無効審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。商標法4条1項11号の該当性が争われ、裁判所は本件商標の指定役務と引用商標の指定商品は類似するとして、商標法4条1項11号に該当すると判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和6年11月11日 |
| 事件番号 | 令和6年(行ケ)第10028号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
宮坂 昌利
本吉 弘行 岩井 直幸 |
事案の概要
被告が44類の役務を指定して「AWG治療」を商標登録(第6320554号)したところ、原告が10類の商品を指定した「AWG治療」(第6217436号)を引用して商標登録無効審判を請求し、当該請求は成り立たないとの審決がされたことから、原告が上訴した事案。裁判所は、審決を覆して無効と判断した。
争点
第10類「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」と第44類「医療用機械器具の貸与」の類否
審決の判断
(2)本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機械器具との類否について
(ア)商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、その類否を判断する両商標に係る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断し、その際には、例えば、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか、商品と役務の用途が一致するかどうか、商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか、需要者の範囲が一致するかどうかを総合的に考慮し判断するのが相当である。
(イ)事業者について
請求人が提出した証拠資料は、医療用機械器具を取り扱う業界の一団体である商工組合日本医療機器協会の状況を説明したにすぎないから、それをもって医療機器を取り扱う事業者の一般的な傾向とはいえない。そうすると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与に係る事業者と、本件指定商品・医療用機械器具に係る事業者が同一の事業者により行われているとはいえず、本件指定役務・医療用機械器具の貸与を行う事業者と、本件指定商品・医療用機械器具の製造・販売を行う事業者は、必ずしも一致するとはいえない。
(ウ)用途について
「医療用機械器具の貸与」は、他人の求めに応じて物品(医療用機械器具)を貸与することが当該役務の本質といえ、その用途は、「医療機器の貸与のため(用)」であるのに対し、「医療用機械器具」の用途は、正に「医療用」の商品そのものであるから、必ずしも用途が一致するとはいえない。
(エ)提供場所・販売場所について
一般に医療機器の販売が、その製造販売業の許可を受けたメーカーである企業等において行われ、また、医療用機械器具の貸与は、医療機器の貸与の許可を受けた企業によりリース・レンタルが行われていることからすると、必ずしも商品の販売場所と役務の提供場所が一致するとはいえない。
(オ)需要者の範囲について
本件指定商品・医療用機械器具の需要者には、病院・診療所等の医療機関のみならず、一般の需要者等も含まれており、本件指定役務・医療用機械器具の貸与に係る需要者は、リース・レンタルを受ける病院・診療所等の医療機関等であると理解されることからすると、互いの商品及び役務の需要者の範囲の一部において一致する場合があるといえる。
(カ)上記からすると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具については、製造・販売者及び提供者、用途、販売場所及び提供場所が異なり、需要者の範囲の一部において一致する場合があるとしても、一般的、恒常的な取引の実情を勘案して総合的に考慮すると、当該役務と商品とは相違するものである。よって、両商標の指定商品及び指定役務は、同一又は類似の商標を使用しても、それらの商品及び役務が誤認混同するおそれのない非類似の商品及び役務といわざるを得ない。
判旨
(1)事業者について
(ア)証拠によれば、株式会社アジアス、株式会社日本メディックス、フクダ電子株式会社、アイ・エム・アイ株式会社、株式会社三笑堂、さくらメディカル株式会社、株式会社セントラルメディカル、ジーエムメディカル株式会社、株式会社ナンブ、中嶋メディカルサプライ株式会社、コニカミノルタ株式会社、株式会社アールエフ、オムロンヘルスケアサービス株式会社、三井温熱株式会社、伊藤超短波株式会社といった多数の医療機器メーカー等について、製造・販売と貸与(レンタル・リース)の両方の事業を行っていることが認められる。
また、キヤノンメディカルシステムズ株式会社(製造・販売)とキヤノンメディカルファイナンス株式会社(リース)、パラマウントベッド株式会社(製造・販売)とパラマウントケアサービス株式会社(レンタル)についても、同一のハウスマークを用いて営業を行う系列会社であること、これらの需要者は、そうした系列会社間の法人格の異同にさほど関心を持たないと考えられる一般の需要者が含まれていること(後記(4)参照)等の事情を考慮すると、「商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場合」に準ずるものということができる。
(中略)
(イ)次に、証拠によれば、医療用機械器具の製造、販売、貸与等を行う企業を会員とする団体である商工組合日本医療機器協会においては、医療機器の製造販売業又は販売・貸与業の許可等を受けている企業が77社あり、そのうち、製造販売業と販売・貸与業の両方の許可等を受けている企業は53社(68.8%)あることも認められ、約3分の2の割合という多数の製造・販売業を行う事業者が、貸与業も行うことができる状況にあるといえる。
(中略)
(2)用途について
医療用機械器具の貸与は、他人の求めに応じて当該機械器具を貸与することであるところ、貸与という行為は、単に貸渡し行為をすることのみならず、需要者に当該機械器具を使用させることを当然に予定するものである(民法601条参照)。よって、その貸与の用途は、医療用機械器具の医療目的での使用ということができ、本件指定商品・医療用機械器具の用途と共通するといえる。
(3)提供場所・販売場所について
上記のとおり、多数の医療用機械器具の製造・販売を行う事業者が同時に貸与も行っている取引の実情があることや、各事業者は、ホームページを設けて申込みや問合せを受け付けており、その際には販売と貸与を共に説明していることに鑑みると、医療用機械器具の販売場所と貸与の提供場所は、いずれも当該企業の営業所所在地やインターネット上のホームページ(同一のサイト)等であると認められる。そうすると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具については、提供場所・販売場所が同じである場合が多いということができる。
これに対し、被告は、現代社会ではあらゆる物品がインターネット上のウェブページで貸与、販売されているから、本件においても商品の販売や役務の提供がインターネット上のウェブページで行われていることを理由として提供場所が一致するというのは暴論であると主張する。しかし、商品・役務の類似性判断の考慮要素として、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている実情の有無・程度等とは別に、その提供場所・販売場所の同一性を独立の考慮要素としているのは、同一事業者が扱う商品・役務であっても、商品と役務とで全く異なる営業形態を取るような場合も考えられるからである。そのような場合と異なり、同一事業者が、そのホームページ等の同一のサイトで商品の販売と役務の提供の両方の営業を行っているとすれば、その商品・役務の類似性を肯定する方向で考慮すべきことは当然である。被告の上記主張は失当である。
(4)需要者の範囲について
本件指定商品・医療用機械器具は、医療機関で用いられるものに限らず、一般家庭内で健康状況に応じて使用されるものも含まれること、その需要者には、医療機関のみならず、一般の需要者等が含まれることについては、いずれも当事者間に争いがない。そして、証拠によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与においても、広く一般の需要者(消費者)が想定されている場合があることが認められるから、両者の需要者は実質的に重なるといえる。
これに対し、被告は、医療用機械器具の貸与の対象となるものは、専ら高額な機械器具であり、その需要者は事業者、すなわち医療機関に限られると主張する。確かに、貸与の対象となる医療用機械器具は、販売の対象となる医療用機械器具よりも相対的に高額なものが多いであろうことは想像に難くなく、それに伴う需要者の範囲の相対的な違いはあり得るとしても、医療用ベッドや家庭用治療器、リハビリテーション機器等のレンタルサービスを一般需要者向けの広告で扱っている事例が実際にあることは紛れもない事実である。本件指定役務・医療用機械器具の貸与の需要者が「医療機関に限られる」という被告の主張は、証拠に基づかない極論といわざるを得ない。
結局、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機械器具の需要者の範囲は、相対的な違いはあれ、医療機関と一般の需要者等を含む点で実質的には重なっているというべきである。
(5)小括
以上によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具の製造・販売とは、同一事業者によって行われている例が多数みられ、これらの用途は共通し、販売場所と提供場所は同一である場合が多く、需要者の範囲は実質的に重なっているということができる。このような取引の実情を踏まえると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機械器具に同一の構成の商標(「AWG治療」)を使用する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引者・需要者に誤認されるおそれがあるというべきである。
なお、本件指定商品・医療用機械器具は、「歩行補助器・松葉づえ」を除くものとされており、このような除外のない本件指定役務・医療用機械器具の貸与と異なっているが、この違いが商品・役務の類否に影響を及ぼすとはいえない。
解説/検討
令和6年7月8日判決において40類「義歯の加工(「医療材料の加工」を含む。)」と第5類「歯科用材料」又は第10類「歯科用機械器具」の類似性が認められたばかりであるが(「三金工業」審決取消請求事件 知財高裁令和5年(行ケ)第10087号)、新たに「商品」と「その商品の貸与」が類似すると判断された2件目の事案である。もっとも、「三金工業」事件では、4条1項15号も争点となっており、三金工業の周知性もやや考慮されたような気がするが、本件では4条1項11号のみが争点であって、一般論として、44類「医療用機械器具の貸与」と10類「医療用機械器具」が類似すると判断している点で画期的といえる。
商品と役務の類否については、審査基準において、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか、等の基準を総合的に考慮したうえで個別具体的に判断する、とされているところ、本件においてはその基準への当てはめ・認定に違いがあった。
| 審判 | 裁判所 | |
| 事業者 | 必ずしも一致しない。 | 多数の医療機器メーカー等について、製造・販売と貸与の両方の事業を行っていることが認められ、また、同一のハウスマークを用いて営業を行う系列会社も存在することを考慮すると、「商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場合」に準ずる。 |
| 用途 | 必ずしも一致しない。 | 貸与の用途は、医療用機械器具の医療目的での使用ということができ、医療用機械器具の用途と共通する。 |
| 提供場所 販売場所 |
必ずしも一致しない。 | インターネット上のホームページ(同一のサイト)等で販売・提供されている事情を考慮して、提供場所・販売場所が同じである場合が多いといえる。 |
| 需要者 | 需要者の範囲の一部において一致する場合がある。 | 両者の需要者は実質的に重なる。 |
ここで、特に注目したいのが「用途」の認定である。裁判所は、「貸与という行為は、単に貸渡し行為をすることのみならず、需要者に当該機械器具を使用させることを当然に予定するものである(民法601条参照)。」として用途が共通すると判断している。民法601条では、「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」と規定されている。裁判所の理屈を是とするのであれば、「○○の貸与」と「○○」(商品)とでは基本的に用途が共通することになると思われる。
もちろん用途が共通するだけで「○○の貸与」と「○○」(商品)が類似と判断されるものではなく、事業者や販売場所等の共通性も総合的に考慮して商品と役務の類似が判断されるものであるが、今回の判断が今後の実務に与える影響は大きいと思われる。
