【総合小売等役務の該当性について判断された事例】
投稿日:2026年5月12日 |
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著者:弁理士 土生 真之
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参照条文/キーワード/論点 |
商標法第50条/総合小売等役務 |
ポイント
第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(総合小売等役務)とは、「衣料品・飲食料品・生活用品の各商品を一事業所において扱っている場合であって、その取扱い規模がそれぞれ相当程度あり、かつ、継続的に行われている場合をいう」と解し、不使用取消事件において、飲食料品の取扱規模が僅少であった商標権者の使用行為について、総合小売等役務該当性を否定した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
| 判決言渡日 | 令和6年12月19日 |
| 事件番号 | 令和6年(行ケ)第10054号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
本多 知成
遠山 敦士 天野 研司 |
事案の概要
原告は商標登録第5990795号商標(本件商標)の商標権者である。
被告は、本件商標の指定役務中「第35類 衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に係る商標登録について、商標法50条1項所定の商標登録取消審判を請求したところ、特許庁は、「登録第5990795号商標の指定役務中、第35類『衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」についての商標登録を取り消す。』との審決をしたため、原告は、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。
請求に係る指定役務である第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を行っているか否かは、例えば、衣料品、飲食料品及び生活用品の各範ちゅうにわたる商品を一括して一事業所で扱い、それらの商品の売上げがいずれも総売上高の10%~70%程度の範囲内にあることが目安とされる(商標審査基準)ところ、原告が提出した証拠によっても、原告店舗における飲食料品の売上高は、衣料品や生活用品と比較して、極めて僅少なものと推認される。
以上によると、原告が飲食料品の小売に係る業務を行っていることは確認できるものの、飲食料品を取りそろえて販売している状況や各種飲食料品を販売した売上実績に係る資料等も確認できないことを併せ考慮すると、本件要証期間において、原告が、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を行っているとは認めることができないというものである。
| 【本件商標】 第5990795号 「 」第35類「家具・建具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」 ※下線部が取消請求に係る指定役務 |
【使用商標】![]() |
判旨
1 本件商標使用の事実について
(1)証拠(甲1、2、6、乙8、9)及び弁論の全趣旨によると、①原告は、令和3年2月1日から令和5年1月31日までの期間について、株式会社アトレとの間で「アトレ吉祥寺店」内のテナントとして営業用建物の定期賃貸借契約を締結し、同期間中及び同期間終了後も引き続いて、店舗名「オルネ ル マルシェ」(原告店舗)の営業を行っていること、②原告は、原告店舗の外観に使用商標を表示して営業を行っていること、③本件商標は、上段に「le marche」の文字を円弧状に書き、下段に「orne」の文字を太字で大きく書してなるもの(「marche」、「orne」の「e」の文字には、アクサンテギュが付されている。)であるのに対し、使用商標は、上段に「le marche」の文字を円弧状に書し、下段に「orne」の文字を太字で大きく書してなり(「marche」、「orne」の「e」の文字には、アクサンテギュが付されている。)、「orne」の文字部分は青色の照明で装飾されているものであるところ、本件商標と使用商標は社会通念上同一の商標であるといえる。
(2)使用役務について
ア 商標登録出願は、商標の使用をする商品又は役務を、商標法施行令で定める商品及び役務の区分に従って指定してしなければならないとされているところ(商標法6条1項、2項)、商標法施行令は、同区分を、「千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十七年五月十三日にジュネーヴで改正され並びに千九百七十九年十月二日に修正された標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関する千九百五十七年六月十五日のニース協定」1条に規定する国際分類(以下、単に「国際分類」という。)に従って定めるとともに、各区分に、その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる名称を付し(同令2条、別表)、商標法施行規則は、上記各区分に属する商品又は役務を、国際分類に即し、かつ、各区分内において更に細分類をして定めている(商標法施行令2条、商標法施行規則6条、別表)。また、特許庁は、商標登録出願の審査などに当たり商品又は役務の類否を検討する際の基準としてまとめている類似商品・役務審査基準において、互いに類似する商品又は役務を同一の類似群に属するものとして定めている。
そうすると、同規則別表において定められた商品又は役務の意義は、同施行令別表の区分に付された名称、同規則別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質、国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明、類似商品・役務審査基準における類似群の同一性などを参酌して解釈するのが相当である(最高裁平成21年(行ヒ)第217号同23年12月20日第三小法廷判決・民集65巻9号3568頁参照)。
イ 本件商標は、第35類の取扱商品の種類を特定した「家具・建具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と、これらを特定しない「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とを指定役務とするところ(甲12)、本件審判に係る請求は、後者の指定役務のみを対象とするものである。
そして、商標法施行令第2条、別表において、「第三十五類」「広告、事業の管理又は運営、事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と定められた上で、商標法施行規則別表の第35類中において、「14 衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が定められる一方、これとは別に「15 織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」や「16 飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供…」、「18 家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供…」が定められている。
以上の点を踏まえ、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」という指定役務の名称の文言をも考慮すると、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とは、衣料品・飲食料品・生活用品の各商品を一事業所において扱っている場合であって、その取扱い規模がそれぞれ相当程度あり、かつ、継続的に行われている場合をいうものと解するのが相当であり、典型的には、百貨店や総合スーパーが提供する役務が挙げられるものと解される。他方で、「一括して取り扱っている」とはいい難い場合、具体的には、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品のうちの一部の商品しか小売等の取扱いの対象にしていない場合や、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象とする業態を行っている場合であったとしても、一部の商品の取扱量が僅少であり、全体としてみると特定の商品等を主として取り扱っているとみられる場合や一部の商品が各種商品の小売等に付随して取り扱われているすぎない場合などは含まれないものというべきである。
なお、国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明には特段の記載はないが、特許庁の類似商品・役務審査基準においても、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は「35K01」と定められる一方、「織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は「35K02」、「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は「35K03」、「家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は「35K06」とそれぞれ定められ、例えば「35K03」などの同一コード内の小売等役務同士は互いに類似するものと推定される一方、「35K01」と「35K02」といった同じ35類であっても異なるコードの小売等役務同士は類似しないものと推定されているところである。
ウ 証拠(各文中掲記の証拠)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(ア)原告店舗は、平成26年にオルネドフォイユの姉妹店としてアトレ吉祥寺店にオープンし、パリの日用品店quincaillerie(カンカイユリー)を現代風にアレンジしたライフスタイルショップと説明されている(甲1)。
(イ)原告のInstagramにおいて、令和4年9月9日頃、「すみだ珈琲のデカフェコーヒーパック」を原告店舗で販売していることを紹介する投稿が存在する(甲4)。
(ウ)原告店舗において、令和4年4月頃、アイスコーヒー12本、コーヒーゼリー12本、DRIP BAG20個など合計5万0178円(税込み)の食品の仕入れが行われている(甲8)。
(エ)原告内における原告店舗の売上報告(令和2年6月分、同年12月分)において、売上構成比はファッション、ファッション小物、キッチンが7割~9割近くを占めており、その他にバス、文具、リビングリネン及びインテリアが掲げられているものの、「飲食品」の項目は記載されていない。
また、「中部門名」として「キッチン、インテリア、リビングリネン、バス、家具、DIY、文具、手芸、ファッション、アクセサリー、アンファン、NOEL、EVENT、ギフトBOX」が区分けされ、各売上金額や売上比が記載されているものの、「飲食品」の記載はされていない。
各部門の詳細な分析の記載中、令和2年6月分の「【キッチン】」に「コーヒー豆は最初は自粛前に入れていたものをOFFで販売。その後も順調に動く。」との記載があるものの、キッチン部門の売上げを示すグラフにおいて、「コーヒー豆」の記載はなく「コーヒーグッズ」(売上げ32万円)との記載があり、「FOOD」(売上げ22万円)が記載されている。また、同年12月の売上報告として実績欄には2005万2166円と記載があり、「【キッチン】正月含む」には、「引き続きキッチンカテゴリーは好調。FOODは大きく落とすが、アーテック商品を仕入れ増、売上増で巻き返す。」「瀬戸内鯛めし×107」「にじいろ甘酒×178点」との記載があるほか、キッチン部門の売上げを示す表において「FOOD」欄に96万4369円、「売上比」欄に4.79%との記載がある。(以上(エ)につき、甲10、11)
(オ)原告店舗の令和4年1月21日~同年2月20日の売上商品一覧(甲16)には、全商品の販売数6739、売上金額(税抜)1210万2365円との記載があり、その中に「食品」欄が設けられ、販売数1809、売上金額(税抜)127万3053円と記載されている。そして、商品名としてあげられているものとして、「アルヴァーブレンド」「カフェオレベース」といったコーヒー又はコーヒーに関連する商品や「喜界島黒糖ほうじ茶ラテの素」、「トラねこ茶」といった茶に関連する商品、「FTチョコレートミルク50g」、「FTチョコレートカラメルクリスプ50g」などチョコレートに関連する商品の記載が多数あるほか、「焼き菓子アソートBOX」、「バウンドケーキ/ドライフルーツ」といった菓子が記載されている。
(カ)原告のInstagramにおいて、令和4年1月28日頃、「マルシェの模様替え」というタイトルで「珈琲グッズやチョコレートなど、バレンタインのギフトにぴったりなアイテムをたくさんご用意しました」と投稿されている(甲17)ほか、令和4年2月4日頃、「OYATSU OZAWA 2月のお菓子が届きました。」とのタイトルで「今月は、バレンタインにピッタリなクッキーボックスです。」との投稿がされている(甲18)。
エ 上記ウの各事実によると、原告店舗はパリの日用品店をアレンジしたライフスタイルショップであり、ファッション、ファッショション小物やキッチン用品など衣料品や生活用品を中心とした商品を取り扱っており、これらの商品が店舗の売上げに占める割合が相当程度多いものと認められるのに対し、前記ウ(イ)~(エ)によると、飲食料品の販売数や売上金額は衣料品や生活用品に比して小規模である。これに加え、証拠(乙13の1~16)からうかがわれる本件要証期間及びその前後の原告店舗における商品の展示方法をも考慮すると、本件要証期間における飲食料品の販売については、コーヒーカップやマグカップのような食器類などと合わせて販売されているものであって、生活用品の小売等に付随して取り扱われているものにすぎず、原告店舗において、衣料品、飲食料品及び生活用品の各商品を「一括して取り扱っている」と評価することはできず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
また、前記ウ(エ)及び(オ)の各事実によると、原告店舗の売上金額が1か月間で100万円程度あったことが認められるものの、同(オ)については、取り扱っている食品の内容に加え、前記ウ(カ)のバレンタイン前の期間の販売であったとの事実も考慮すると、バレンタインの贈物のために一時的に売上げが増加しているものといえること、前記ウ(エ)については、正月に向けて一時的に売上げが増加したものといえることからすると、原告店舗につき、一事業所において、衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各商品の取扱い規模がそれぞれ相当程度あり、継続的に行われていると認めることはできず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
(3)以上によると、本件要証期間において、原告店舗は、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を行っていたものとはいえない。
したがって、本件要証期間において、原告が、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を行っているとは認めることができない旨を判断した本件審決に誤りがあるとはいえない。
解説/検討
多種多様な商品を取り扱う小売業は、総合小売等役務に該当しない場合には、取扱商品に対応する特定小売等役務を広範に指定して商標登録を行うこととなるが、この場合には特許庁の運用上、広範な商品とのクロスサーチが行われるため、先行類似商標の存在との関係で登録のハードルは高くなる。
一方、総合小売等役務は、現在の特許庁の運用では、商品とのクロスサーチは行われず、他の特定小売等役務との類似も推定されていないため、総合小売等役務の範囲(35K01)において先行類似商標が存在しなければ登録が可能であり、ハードルは大幅に下がる。
このように、「総合小売等役務」に該当するか否かにより実務上の取り扱いは大きく異なるため、該当性の判断基準は重要であるが、特許庁は、審査基準で以下のように示しているものの、数値基準は目安であり、必ずしも該当性の基準は明確ではない。本判決は、総合小売等役務該当性の判断基準の明確化を一歩進めた点に意義があると思われる。
【審査基準】
① 小売業又は卸売業を行っていること。
② その小売等役務の取扱商品の品目が、衣料品、飲食料品及び生活用品の各範疇にわたる商品を一括して1事業所で扱っていること。
③ 衣料品、飲食料品及び生活用品の各範疇のいずれもが総売上高の10%~70%程度の範囲内であること。
また、「継続性」も要件として挙げられており、衣・食・住の何れかのカテゴリーの季節性商品への依存度が高い場合には、総合小売等役務に該当し難くなりそうである。しかし、裏を返せば、総合小売業を行っていて、一時的にあるカテゴリーの売上が僅少と言える程に下がったとしても、その事実のみを以って、特定小売等役務についての商標の使用と評価されることを心配する必要はなさそうである。
さらに、「商品の展示方法」も考慮要素として挙げられていることからすると、総合小売と特定小売のボーダー上の実態の場合には、総合小売等役務に該当させるならば、独立した売場コーナーを設けるような見せ方への配慮も有効そうである。
なお、「衣料品・飲食料品・生活用品の各商品を一事業所において扱っている場合であって、その取扱い規模がそれぞれ相当程度あり」の「その取扱い規模がそれぞれ相当程度あり」が、各カテゴリーの比率の問題なのか、売上自体の規模も含む概念であるのか(個人の零細商店のようなものは対象外なのか)は不明である。

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