【商標法4条1項6号に規定される「著名なもの」】

 

投稿日:2026年5月25日

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著者:弁理士 大塚 啓生
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

著名性/商標法4条1項6号

 

ポイント

 本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。商標法4条1項6号及び7号の該当性が争われ、裁判所は、本願商標は商標法4条1項6号に該当しないと判断した。 


判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第1部
判決言渡日 令和7年3月12日
事件番号 令和6年(行ケ)第10090号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
本多 知成
遠山 敦士
天野 研司
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 原告が標準文字で出願した商願2021-154842「ぽんちゃん」(本願商標)について、館林市の観光マスコットキャラクター「画像」(引用キャラクター)と同一の名称であることから、商標法4条1項6号及び7号に該当するとして拒絶査定がされたところ、拒絶査定不服審判においては6号に該当するとの拒絶審決がされたため、原告が上訴した事件。主に引用キャラクターの著名性が争われ、裁判所は著名性を否定して審決を取り消すと判断した。


争点

引用標章の著名性

本件審決の判断

(1)館林市マスコットキャラクター及びその愛称の著名性について
(ア)館林市は、平成22年1月、分福茶釜で知られる同市の観光振興を図ることを目的として、別紙2記載の構成とするマスコットキャラクター(以下「引用キャラクター」といい、その愛称である「ぽんちゃん」を以下「引用標章」という。)を決定した。
 引用キャラクターは、館林市観光協会が使用許可業務及びSNSアカウントの管理運用業務を行い、館林市のウェブサイトで館林市観光大使として紹介されているほか、館林市観光協会のウェブサイトでも紹介や利用申請の受付がされ、館林市公式ツイッター、公式インスタグラム、LINEスタンプ、市の施設及びサービスのウェブサイト、パンフレット、広報誌等において利用されている。
 引用キャラクターは、「ゆるキャラグランプリ2015」総合ゆるキャラランキングで33位となったほか、平成22年1月から令和4年4月までに発行された各種の全国紙及び地方紙において、館林市のキャラクターであることが、その愛称である「ぽんちゃん」の文字とともに相当数掲載されている。
(イ)上記事実関係によると、引用キャラクターはもとより、その愛称である「ぽんちゃん」の文字からなる引用標章は、館林市の観光振興に関する事業を表示する標章として著名なものとなっていると判断するのが相当である。

(2)本願商標の商標法4条1項6号該当性について
 本願商標は、「ぽんちゃん」の文字を標準文字で表してなる。他方、引用標章は、「ぽんちゃん」の文字からなり、上記のとおり、館林市が行う観光振興に関する事業を表示する標章として著名なものである。館林市は地方公共団体の一つであって、同市が行う観光振興に関する事業は、公益に関する事業であって営利を目的としないものである。そうすると、引用標章は、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なもの」といえる。

(中略)

(3)原告の主張について
 商標法4条1項6号は、団体等の公益性に鑑み、その権威、信用を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護しようとする趣旨のものである。同号における著名性の範囲は、必ずしも全国的な需要者の間にまで求められるものではなく、また、引用標章が本願商標の指定商品に使用されていることや、指定商品を表示するものとして著名であることまでを求めるものでもないと解される。さらに、上記趣旨に照らすと、著名性の地理的範囲は、その団体又は事業が国に係るものか、都道府県に係るものか、市区町村に係るものかについても考慮して判断すべきである。
 引用キャラクターは、いずれも館林市の観光振興を図ることを目的とし、その一環として使用されているから、引用標章の著名性の判断において、これらの使用実態も考慮すべきである。認定した事実関係によると、引用標章は、少なくとも群馬県及びその周辺においては広く認識されているといえる。館林市の観光振興を目的として作成され、使用されていることも考慮すると、引用標章は、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」と判断するのが相当である

判旨

2.取消事由1(商標法4条1項6号該当性判断の誤り)について
(1)商標法4条1項6号について
 商標法4条1項6号は、商標登録を受けることができない商標として、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」を規定する。その趣旨は、同号に掲げる団体の公益性に鑑み、その権威、信用を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護することにあると解される。このような趣旨に照らすと、同号にいう「著名なもの」というために、必ずしも、日本全国において広く知られていることを要するものとまでは解されない。すなわち、同号に掲げる団体や事業の地域性を考慮して、著名性の認定に当たり、地理的範囲を限定して考慮する余地があるといえる
 他方、同号に掲げる団体や事業を表示する標章は極めて多数にわたるために、同号は、対象となる標章を「著名なもの」と限定しているのであって、商標法上の他の規定(例えば、商標法4条1項8号)と完全に整合的に解すべき必要まではないが、少なくとも「著名」の字義に反するような解釈をすることは相当でない。このことは、著名性の地理的範囲についても同様であって、公益事業等を示す標章として特定の地域でのみ知られている標章と同一又は類似する商標の登録を禁止するとなると、本来であれば一般的に認められるべきはずの、商標権を取得して全国的に当該商標を使用する権利を過度に制約することになりかねない
 以上によると、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」というためには、同号に掲げる団体や事業の地域性に照らし、必ずしも日本全国にわたって広く認識されている必要はないが、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要するものと解するのが相当である

(2)検討
ア 前記1.の認定事実によると、本件キャラクターは、平成22年1月に館林市の観光マスコットキャラクターとして作成され、その愛称である「ぽんちゃん」(引用標章)とともに、館林市及び館林市観光協会によって、観光振興事業のために種々の方法により利用されていることが認められるから、引用標章を付した物品が有償で販売されている事実等を考慮しても、引用標章は、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」に当たると認められる。
イ (ア)前記1.の認定事実によると、本件キャラクターは、館林市のマスコットキャラクターとして、各種の公的な文書への掲載、市内の公的施設や観光施設等での掲示、市内で実施される行事等への参加等、使用実績が積み重なっており、これらにより、館林市内においては知名度を獲得しているものと推認される
 しかし、これらの使用実績は、基本的に館林市民や館林市を訪問する観光客等に向けられたものにとどまっている。なお、別紙3の8(1)のとおり、館林市観光協会の集計によると、館林市の過去4年間(平成30年~令和3年)の観光客数は合計424万人を超えるとされるが、これは館林市観光協会が市内の主要な観光地点・催事ごとの来場者数(館林市民を含む。)を足し合わせた延べ人数である。
(イ)そこで、館林市外に向けて引用キャラクターが使用された実績をみると、埼玉県や東京都で開催された催事への参加は、証拠上、4件にとどまり、日本シンガポール国交50周年記念イベントや東武鉄道「りょうもう7市スタンプラリー」への参加は、いずれも、他の多数のマスコットキャラクター等と共に参加しているものである。
 次に、新聞記事への掲載実績をみると、引用キャラクター又は引用標章は、平成22年1月から令和5年までの13年余の間に、証拠上は90本弱の新聞記事に掲載されているが、これらの新聞記事は、いずれも、群馬県の地方紙である上毛新聞の記事か、全国紙であっても記事の文面からしていわゆる地方版に掲載された記事であると認められる。
 さらに、日本全国に向けた発信等をみると、引用キャラクターのSNS公式アカウントのフォロワー数は、「X」が3186、インスタグラムは1931にとどまる。「全国版」、「関東版」等 の種類がある「アサヒ十六茶」のCMに他のキャラクターと共に約1か月間出演したことや、日本全国の「ゆるキャラ」を対象とした「ゆるキャラグランプリ2015」で総合33位を獲得したこと、日本全国に向けて発行された「るるぶ群馬’16」に縦横各約3センチメートルの大きさの紹介記事が掲載されたことがいずれも認められるが、いずれも平成26年から平成27年にかけて限定的に露出されたものにとどまる。なお、ふるさと納税返礼品としての引用キャラクター及び引用標章の実績は不明である。
(ウ)以上の事情を総合すると、引用キャラクター及びその愛称である「ぽんちゃん」(引用標章)は、館林市民にはなじみのあるキャラクターとして広く認識されていると認められ得るものの、館林市外への露出は散発的かつ限定的であり、群馬県の総人口約197万人に対して館林市の人口が8万人弱にとどまること(平成28年4月1日現在)からしても、群馬県及びその周辺において広く認識されていると認めるには至らない
 そうすると、引用標章は、館林市及び館林市観光協会による観光振興事業の地域性を考慮しても、相応の規模の地理的範囲において広く認識されているということはできないから、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」に当たらない。

解説/検討

 商標法4条1項6号が争われること自体多くないが、本件は同号にいう「著名なもの」の該当性が争点となった希有な裁判例であり1 、今後の指針となり得る判断が示されている。
 被告(特許庁)が主張するように、6号は地方公共団体等を表示する標章や様々な公益事業を表示する標章を対象としていることを考慮すると、「著名」の地理的範囲はその地域性を考慮すべきであるとする考えも一定の理解はできる。しかしながら、条文上「著名なもの」とされている以上は、裁判所が判示したように、ある程度の規模の範囲で知られている必要があり、本件のように館林市内又は広げたとしてでも群馬県内のみで広く知られているだけでは足りないと考えるのが妥当であろう 2
 もっとも、本件では「同号に掲げる団体や事業の地域性に照らし、必ずしも日本全国にわたって広く認識されている必要はないが、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要するものと解するのが相当である。」と判示するにとどまっており、(例えば、隣接数県程度など)どの程度の範囲で知られていれば良いかは示されていない。ケースバイケースの判断になるとも思われるが、この点については今後の裁判例の蓄積が期待される。



1 過去には、拒絶査定不服審判においては告示されたことを理由として「著名なもの」と認定したものの、裁判所は「著名であるか否かは事実の問題であるから、告示されたことのみを理由として『著名なもの』とした審決の判断手法は、是認することができない。」と判断した、「日南市市章」事件がある(知財高裁平成24年(行ケ)10125号審決取消訴訟事件)。
2 一方で、「少なくとも東京都においては著名性を有する団体であったと認められる。」として6号の該当性を認めた「東京維新の会」事件(知財高裁平成26年(行ケ)第10092号審決取消請求事件)もある。

       

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