【商標権侵害訴訟で文書提出命令に従わなかった場合の損害額認定】

 

投稿日:2026年5月22日

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著者:弁護士 小林 英了
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

類否/損害額/文書提出命令

 

ポイント

 商標権侵害訴訟において、被告文書提出命令(損害論資料の提出)に従わなかったため、当該申し立てにおける「立証すべき事実」に記載の売上高を前提として損害額が認定された事例。


判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和7年2月6日
事件番号 令和6年(ネ)第10051号
事件名 商標権侵害損害賠償等請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 響
菊池 絵理
頼晋 一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 被告は、遅くとも令和3年7月以降、ウェブサイト内に被告標章1を、被告クリニックのチラシや掲示物に被告標章2を、被告クリニックの扉や屋外に設置された看板に被告標章3を、被告クリニックの受付に設けられた看板に被告標章4を、それぞれ付して使用している。
 原告が、下記の原告商標に係る商標権侵害を主張して、被告各標章の使用の差止め、損害賠償等を求めたところ、原審及び控訴審ともに、商標権侵害を認定して差止め及び損害賠償を認容した。

(原告商標)
登録番号 第6457577号
登録商標(標準文字) にじいろクリニック

(被告標章)
1 「にじいろクリニック新橋」
2 「にじいろクリニック」

3 画像

4 画像


争点

商標の類比、損害額

原審の判断

 被告標章3及び4につき、「上段部分冒頭の「N」を意匠化した図形と、下段部分を含むそれ以外の文字列部分とは、図形様に意匠化されているか否か、欧文字か仮名文字かの違いや、その配置態様等によって、一見して明瞭に区分して認識されるものであるから、これらの二つの部分は、分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものと認められない」として、両者は分離できるとして、原告商標と類似すると判断した。
 損害論に関して、被告クリニックの医業収入による売上高は、1億7029万3981円と認定(R3.10~R4.12の売上高は証拠あり。R5.1~R5.8は証拠がないことから、月あたり764万7453円(R3.10~R4.12の売上高の平均値)を下らないと判断)。相当実施料率は4%と認定。

 「被告標章2は、原告商標の書体のみに変更を加えた同一の文字から成るものであるから、原告商標と被告標章2とは社会通念上同一のものというべきであり、被告による原告商標権の侵害行為は、原告商標権に係る指定役務について被告標章2を使用したことを含むものである。」として、商標法38条5項に基づき、取得費用及び維持費用の合計額(4万4900円)を損害額として認定。

判旨

 被告クリニックの医業収入による売上高につき、証拠のないR5.1~R6.12.23(控訴後の請求拡張分を含む)につき、原告は下記内容の文書提出命令を申し立て、裁判所はこれを認める決定を出した。

 証明すべき事実:「被告クリニックにおける令和5年の月平均売上は、上期が1100万円、下期が1300万円をそれぞれ下回らず、令和6年の月平均売上は、上期が1500万円、下期が1700万円をそれぞれ下回らないこと」
 対象文書:「被告の所得税及び復興特別所得税の確定申告書並びにその添付書類の写し一式(令和5年分)」

 被告から文書の提出がなされなかったため、裁判所は、下記の点を考慮した上で、上記「証明すべき事実」を真実であると認定(特許法105条1項の文書提出命令は民訴法220条の特則であるから、民訴法224条が根拠条文)。

 ・「対象文書の提出を拒むことについて同項(注:商標法39条において準用する特許法105条1項)の「正当な理由」があるとは認められない」

・被告クリニックにおける売上高につき「令和3年下期が380万4616円、令和4年上期が674万5050円、下期が941万5833円(いずれも円未満切捨て)と推移していることが認められるから、原告の主張する前記「証明すべき事実」は不合理な内容のものではない」

・「原告においては、前記対象文書の性質に照らし、その記載内容につき具体的な主張をすること及び前記証明すべき事実を他の証拠により証明することは著しく困難であると考えられる。」

解説/検討

 控訴審において登録商標使用の抗弁がなされているが、原告商標と同一/類似する被告標章が使用されているとして排斥されている。登録商標使用の抗弁は、原告商標と被告標章が類似しており、被告標章につき商標登録がなされていることが前提であると思われるが、被告の商標登録が先出願の場合は原告商標に無効理由があり、逆の場合は被告商標に無効理由があるものと思われる。あり得るとすれば、除斥期間が経過した後かと思われる。

 本件における被告登録商標(6792809号)は、「THE N にじいろクリニック新橋」の標準文字に係る商標であるが、「THE」「N」「新橋」に識別力がないため原告商標と類似していると思われる。被告による別の出願(2023-43321。「THE N にじいろクリニック新橋」の図形)については、原告商標と類似するとして拒絶査定(11号)が出されており、審判係属中。同じ審査官であるにも係わらず判断が異なっている理由は不明。

 被告の売上高に関して文書提出命令に対して従わなかった場合の効果を、民訴法の条文に則して認定した点についても、特に異論はないように思われる。推測ではあるが、被告の実際の売上高が、文書提出命令の「証明すべき事実」よりも高かったために、敢えて文書を提出しなかった可能性がある。

       

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