【商標法第50条所定の「使用」について、商標権者の出所を表示するものに限られないという判断がされた事例】

 

投稿日:2026年5月12日

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著者:弁理士 土生 真之
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

商標法第50条/商標法第50条所定の「使用」/出所表示機能

 

ポイント

 原告の復代理店の代表者(被告)が登録した商標に対して、原告が不使用取消審判を請求したところ、「商標法50条所定の『使用』は、当該商標がその指定商品又は指定役務について商標として使用されていれば足り、その商標としての使用が商標権者を商品の出所として表示する場合に限定されるものではないというべきである。」として、被告通常使用権者による商標の使用が、たとえ被告ではなく原告を商品の出所として表示するものであっても、商標法50条所定の「使用」に該当すると判断された。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和7年2月27日
事件番号 令和6年(行ケ)第10087号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 響
菊池 絵理
頼 晋一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 本件は、商標法50条1項に基づく商標登録取消審判請求について、特許庁が請求不成立とした審決の取消しを求める事案である。

 本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。
 中島工機株式会社(以下「中島工機」という。)は、本件商標について商標権者である被告から使用許諾を得た通常使用権者であるところ(甲12、本件審決の乙1)、中島工機は、要証期間中の令和3年6月9日に、株式会社小野に対し、アンブラコ製の使用商品(ボルト)100個を納入し(甲14、本件審決の乙3)、その納入に際して、使用商標(Unbrako)を付した包装箱(黒色の外箱。甲13、本件審決の乙2)に使用商品を収納して譲渡又は引き渡したものである。
 そして、使用商標は、包装箱に付された「Unbrako🄬」の構成などから「Unbrako」の文字が独立して自他商品識別標識としての機能を果たすものであり、使用商標「Unbrako」の文字と、本件商標「UNBRAKO」の文字は、大文字と小文字の差はあるものの、綴りを共通にするから、社会通念上同一の商標である。また、使用商品「ボルト」は、「金属製金具」の範疇に属する。
 以上からすれば、通常使用権者が、要証期間に日本国内において本件審判請求に係る指定商品(第6類「金属製金具」)の範疇に属する「ボルト」の包装箱に、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標を付して譲渡又は引き渡した(商標法2条3項2号)と認めることができる。
 よって、被告は、要証期間中に日本国内において、通常使用権者が審判請求に係る指定商品について本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用していたことを証明した。

■本件商標
登録番号:第6162929号
商  標:UNBRAKO
指定商品:第6類「金属製金具」
商標権者:個人(通常使用権者である中島工機の代表者)


判旨

1 原告は、本件審決には商標法50条の「登録商標の使用」に係る判断の誤りがあると主張するので、以下、検討する。
 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)原告及びその企業グループは、アンブラコ・ブランドのボルト等のファスナー製品を製造販売しており、中島工機は、原告の日本総代理店の販売代理店(原告の復代理店)の一つとして、遅くとも平成13年1月頃から継続して、同製品を販売してきた(甲30、弁論の全趣旨)。
(2)被告は、令和元年7月19日に登録された本件商標「UNBRAKO」の商標権者であり、中島工機は、同年8月1日、被告から、本件商標につき、商品「金属製金具」、地域「日本全国」、期間「本件商標権の存続期間が満了するまで」との範囲内で通常使用権の許諾を受けた(甲12、本件審決の乙1)。
(3)中島工機は、株式会社小野に対し、アンブラコ製品のボルト100本(乙2製品)を販売し、令和3年6月9日にこれを納入した。中島工機は、その際、包装箱に梱包済みの同製品を納入しており、同包装箱は、黒色で、上面部及び左側面部にそれぞれ赤地に白色文字で「Unbrako🄬」との表記があり、上面部の同表記の下方には白色文字で品質表示文言が記載され、上面部から正面側面部にかけて貼付されたラベルには、上面部に「PART NO.1118936」「QUANTITY100」「SOCKET HEAD CAP」「8-32 UNC x3/4」「1960 Series」「CERTIFICATE NO.75362M1639」などの、正面側面部に「SOCKET HEAD CAP」「1118936」「8-32UNC x3/4」「1960 Series」「SHANNON、IRELAND」などの各記載がある(甲13、本件審決の乙2)。また、中島工機は、販売の際に、同日付け物品受領書/現品票を作成し、株式会社小野から受領印を得ており、同取引書類には、メーカー「アンブラコ」、商品「CS#8NCX3/4」「CAP NC #8-32 x3/4」、数量「100」、単位「P」などの記載がある(甲14、本件審決の乙3)。

2 検討
(1)前記認定事実によれば、中島工機は、本件商標の通常使用権者であるところ、本件商標は「UNBRAKO」の標準文字から成り、他方、乙2製品の包装箱の「Unbrako🄬」との表記は、その構成から「Unbrako」の文字部分が独立して自他商品識別標識として機能するものということができる。そして、本件商標「UNBRAKO」と乙2製品の使用商標「Unbrako」は、大文字、小文字の相違はあるが、綴りが共通し、称呼も同じになるから、社会通念上同一というべきである。また、乙2製品のボルトは、指定商品「金属製金具」の範疇に属する。
 そうすると、本件商標の通常使用権者である中島工機は、要証期間である令和3年6月9日、株式会社小野に譲渡販売し、本件商標が表示された包装箱に梱包された金属製金具(ボルト100個)を納品したものと認めるのが相当であり、指定商品について登録商標の使用(商標法50条、2条3項2号)をしたというべきである。
(2)原告は、乙2製品の販売は、本件商標とは無関係なメーカーの出所を特定し、販売するものであり、また、商標使用の効果を原告に帰属させるものであるから、商標法50条の「登録商標の使用」にいう出所表示機能を発揮する態様での商標の使用ではないなどと主張する。
 しかし、商標法50条の趣旨は、登録された商標には排他独占的な権利が発生することから、長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは、当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め、国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので、一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことを認めたものである。
 そうすると、商標法50条所定の「使用」は、当該商標がその指定商品又は指定役務について商標として使用されていれば足り、その商標としての使用が商標権者を商品の出所として表示する場合に限定されるものではないというべきである。
 そして、前記の中島工機による乙2製品の譲渡販売行為では、指定商品である金属製金具の譲渡販売において、譲渡販売対象が「アンブラコ」という商品であることが取引書類に記載されるとともに、本件商標の付された包装箱に梱包された製品が納入されているのであるから、本件商標の通常使用権を有する中島工機においては、その指定商品について、商標法50条所定の「登録商標の使用」をしたものというべきである。原告は、中島工機による乙2製品の譲渡販売行為は、商標使用の効果を原告に帰属させるものであるから、同条所定の「登録商標の使用」に当たらないとも主張するが、前記の同条の趣旨に照らすと、本件商標が原告を商品の出所として表示するために使用された場合であっても、要証期間中に指定商品である乙2製品について本件商標が使用された事実が認められる以上、それが「登録商標の使用」に当らないということはできない。よって、原告の主張を採用することはできない。


解説/検討

 中島工機(本件商標の通常使用権者)は、原告の総代理店から「UNBRAKO」製品を購入していた復代理店であったが、原告が日本における「UNBRAKO」商標を更新せずに失効させたのちに、中島工機の代表者が本件商標を登録した。
 原告は、別件訴訟(令和4年(行ケ)第10074号)において、商標法4条1項7号違反等を理由に登録無効を争ったが、「原告は、日本における『UNBRAKO』の商標の商標登録について、十分な関心を持つことなく、適切な管理を怠っていたものと認められる。」として、その訴えは棄却された。
 このような経緯から、原告は本件商標に対して不使用取消審判を請求した。
 裁判所は、「商標法50条所定の『使用』は、当該商標がその指定商品又は指定役務について商標として使用されていれば足り、その商標としての使用が商標権者を商品の出所として表示する場合に限定されるものではないというべきである。」と述べる。しかし、本件において、被告により商標が使用されたとしても、「UNBRAKO」の商標の使用により業務上の信用が蓄積するのは原告の商標に対してであり、被告の本件登録商標ではないのであるから、業務上の信用という実質的保護対象が本件登録商標には存在しないとして、取消す旨の結論を50条の趣旨から導き出すことも可能なのではないかと思われる。
 事件の背景事情は定かではないが、ブランドコントロールを行う立場ではない者による形式的な商標の使用行為を50条における「使用」と評価することの妥当性については疑問が残る。

       

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