【商品形態の商品等表示該当性を認めた「Yコネクター」事件】
投稿日:2026年6月1日 |
![]()
著者:弁護士 多田 宏文
|
参照条文/キーワード/論点 |
不正競争防止法2条1項1号/商品等表示/特別顕著性 |
ポイント
本判決は、原告の医療用「Yコネクター」の形態について、特別顕著性を認め、不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するとしたうえで、被告製品がこれと混同のおそれがあるとして、差止請求を認容した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事29部 |
| 判決言渡日 | 令和6年11月22日 |
| 事件番号 | 令和5年(ワ)第70036号 |
| 事件名 | 不正競争行為差止請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
國分 隆文
間明 宏充 塚田 久美子 |
事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、原告商品の主要な構成品であるYコネクターの形態が原告の商品等表示として需要者の間に広く知られており、被告が原告Yコネクターの形態と類似するYコネクターを主要な構成要素とする被告商品を製造し、販売する行為は、原告の商品と混同を生じさせる行為であって、不競法2条1項1号の不正競争に当たると主張して、被告商品の製造及び販売の差止めを求めた事案である。
裁判所は、原告Yコネクターの特別顕著性を認め、混同のおそれも肯定し、製造販売の差止を認容した。
【原告Yコネクター】 【被告Yコネクター】
なお、本件の控訴審判決(知財高裁令和7年(ネ)第10012号)では、類似性が否定され、原判決の請求認容部分が取り消されている。
争点
不競法2条1項1号の「商品等表示」該当性、商品形態の特別顕著性
判旨
裁判所は、以下のとおり判示して、商品等表示該当性を肯定した。(なお、以下の引用部分の下線、強調、付番、図の挿入等は筆者による。)
「2 争点1(原告Yコネクターの形態が不競法2条1項1号所定の商品等表示といえるか)について
(1)商品の形態の『商品等表示』該当性
商品の形態は、本来的には、商品の技術的な機能及び効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり、商品の出所を表示する目的を有するものではないが、特定の商品の形態が、他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、その形態が長期間継続的・独占的に使用され、又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果、特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに、需要者の間に広く認識されることにより、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このような商品の形態は、不競法2条1項1号によって保護される他人の周知な商品等表示に該当するものと解される。そうすると、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、同号所定の『商品等表示』に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解すべきである。
もっとも、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合、そのような商品の形態自体が『商品等表示』に当たるとすると、当該形態を有する商品の販売が一切禁止されることになり、結果的に、特許権等の工業所有権制度によることなく、当該形態によって実現される技術的な機能及び効用を奏する商品の販売を特定の事業者に独占させることにつながる。しかも、不正競争行為の禁止には期間制限が設けられていないことから、上記独占状態が事実上永続することを許容することになる。したがって、上記のような商品の形態に『商品等表示』該当性を認めると、同1号の趣旨である周知な商品等表示の有する出所表示機能の保護にとどまらず、商品の技術的な機能及び効用を第三者が商品として利用することまで許されなくなり、かえって、事業者間の公正な競争を確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与するという不競法の目的に反する結果を招くことになる。したがって、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には、『商品等表示』に該当しないと解するのが相当である。
他方、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても、他の形態を選択する余地がある場合は、そのような商品の形態が『商品等表示』に当たるとして同形態を有する商品の販売が禁止されても、他の形態に変更することにより同一の機能及び効能を奏する商品を販売することは可能であり、上記のような弊害は生じない。したがって、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても、他の形態を選択する余地がある場合は、当該商品の形態につき、上記の特別顕著性及び周知性が認められれば、『商品等表示』に該当し得るというべきである。
(2)特別顕著性の検討において考慮すべき他の同種商品
(省略。特別顕著性獲得後に発売された製品も、特別顕著性の獲得及び維持の判断において考慮すると判示。)
(3)特別顕著性について
前記(1)及び(2)を前提に、原告商品の主要な構成要素である原告Yコネクターの特別顕著性について検討する。
ア 本件特徴(ア)について
(ア)本件特徴(ア)に係る原告Yコネクターの形態
前記1(2)イの認定事実のとおり、原告Yコネクターは、メインブランチや、それより少し断面径の大きいローテータと比較して、さらに断面径が大きいサムホイールを有している。

(図は筆者が挿入)
(イ) 特別顕著性の有無
原告及び被告が提出した証拠には、メインブランチの断面径を測定したものがないものの、前記1(2)イの認定事実のとおり、原告Yコネクター以外の二弁式Yコネクターも、メインブランチや、それより少し断面径の大きいローテータと比較して、さらに断面径が大きいサムホイールを有している。したがって、本件特徴(ア)は、他の二弁式コネクターにも認められるありふれたものであり、原告Yコネクターは、本件特徴(ア)において、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているものとは認められない。
イ 本件特徴(イ)について
(ア) 本件特徴(イ)に係る原告Yコネクターの形態
前記1(2)ウの認定事実のとおり、原告Yコネクターは、サムホイールにおいて、円柱形上のスクリューと、その上端部に上下に摺動可能な側面視T字状(平らな円盤状部材を当該円盤中心において垂直に軸部で支えている形状)のオープナーとを備えている。
(イ) 特別顕著性の有無
前記1(2)ウの認定事実のとおり、アボット社Yコネクター以外の二弁式Yコネクターの中にも、オープナーを上下に摺動させることにより止血弁を開閉するため、スクリューの上端部に上下に摺動可能な側面視T字状(平らな円盤状部材を当該円盤中心において垂直に軸部で支えている形状)のオープナーを備えているものがあり、また、スクリューについても、カネカ社Yコネクター及びメディカル・イノベイション社Yコネクターのスクリューは円柱形状である。したがって、本件特徴(イ)は、他の二弁式コネクターにも認められるありふれたものであり、原告Yコネクターは、本件特徴(イ)において、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているものとは認められない。
ウ 本件特徴(ウ)について
(ア)本件特徴(ウ)に係る原告Yコネクターの形態
前記1(2)ウの認定事実のとおり、原告Yコネクターは、スクリューの上端部に止血弁を、同下端部に固定弁を、それぞれ内蔵する二弁式である。
(イ)特別顕著性の有無
前記1(2)ウの認定事実のとおり、二弁式Yコネクターは、止血弁の開閉のために、側面視がT字状のオープナーを設けるか、キャップ全体でオープナーの役割を担わせるかのいずれの方法であるかにかかわらず、スクリューの上端部に止血弁を、下端部に固定弁をそれぞれ内蔵している。したがって、本件特徴(ウ)は、他の二弁式コネクターにも認められるありふれたものであり、原告Yコネクターは、本件特徴(ウ)において、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているものとは認められない。
エ 本件特徴(エ)について
(ア)本件特徴(エ)に係る原告Yコネクターの形態
別紙原告Yコネクターの形態と名称の原告Yコネクターの写真で明らかなとおり、原告Yコネクターは、オープナー以外が全て無色透明であり、かつ、オープナーは透明でありながら単色(黄色)で着色されている。

(イ)特別顕著性の有無
別紙二弁式Yコネクター比較の写真のとおり、メディカル・イノベイション社YコネクターⅠ及びカネカ社Yコネクターは、オープナーの色彩には透明感がなく、かつ、スクリューの内部がオープナーと同系色に着色されており、また、メディットメディカル社Yコネクターは、オープナーは透明感がありながら単色(青色)に着色されているものの、スクリュー及びローテータの一部が着色されているから、これらの商品は、本件特徴(エ)を有しない。
次に、メディカル・イノベイション社YコネクターⅡは、オープナーは透明感がありながら単色(青色)に着色されているものの、証拠(甲17、18、乙10及び13)上、スクリューの内部が着色されているかは判然としない。しかし、メディカル・イノベイション社YコネクターⅡの販売前に存在していた本件特徴(エ)を有する二弁式Yコネクターは、原告Yコネクターのみであったから、少なくとも、メディカル・イノベイション社YコネクターⅡの販売時点において、本件特徴(エ)は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴であったといえる。そして、メディカル・イノベイション社YコネクターⅡの承認日は平成28年であって、後記(4)のとおり、原告Yコネクターの形態が周知性を獲得した後に承認されたものであり、かつ、本件全証拠によっても、メディカル・イノベイション社YコネクターⅡの販売開始時期及び流通量は明らかでないことからすると、メディカル・イノベイション社YコネクターⅡが仮に本件特徴(エ)を有するとしても、同商品が現れたことにより、本件特徴(エ)に係る原告Yコネクターの特別顕著性が失われたとは認められないというべきである。
したがって、原告Yコネクターは、本件特徴(エ)において、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているものと認めるのが相当である。
オ 本件特徴(オ)について
(ア)本件特徴(オ)に係る原告Yコネクターの形態
前提事実(5)及び前記1(2)アの認定事実のとおり、原告Yコネクターは、全長が87.99mm(A)、サムホイールの上端から下端までの長さが27.90mm(E)、ローテータの長さ(ローテータ上端から原告Yコネクター下端まで)が23.10mm(D)であるから、同数値から計算されるメインブランチの長さは、36.99mmである。したがって、全長、サムホイール、メインブランチ及びローテータの比率は、約4:1.3:1.7:1.1である。

(イ)特別顕著性の有無
別紙二弁式Yコネクター比較のとおり、二弁式Yコネクターは、ショートサイズを除くと、全長72mmのものから全長78.99mmのものまで幅があり、さらに、ショートタイプの場合は、その全長が58mmのものもある。そして、原告Yコネクター以外の二弁式Yコネクターは、被告Yコネクターを除くと、全長が原告Yコネクターに最も近いカネカ社Yコネクターでも約82mmであって、原告Yコネクターの全長とは約6mmの差があること、原告Yコネクターのサムホイールの長さは27.90mm(スクリューの長さは16.04mm)であるのに対し、別紙二弁式コネクター比較及び証拠(乙24)によれば、上記カネカ社Yコネクターのサムホイールの長さは33.88mm(スクリューの長さは22.22mm)と長く、被告Yコネクターを除き、原告Yコネクターと概ね同様の全長、サムホイール、メインブランチ、ローテータの比率を有する形態の商品はなかったと認められる。そうすると、Yコネクターの全長が約88mmで、全長、サムホイール、メインブランチ、ローテータの概ねの比率が、4:1:2:1とする形態の二弁式Yコネクターは、原告Yコネクターのみであって、ありふれたものとはいえない。したがって、原告Yコネクターは、本件特徴(オ)において、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認めるのが相当である。
この点、被告は、Yコネクターの通常の使用方法を考えれば、寸法は自ずと似通った形状やサイズ感となる上、商品のサイズ感は、誰もが自由に選択できるべきものであり、その点について原告が独占的に使用できる権利を有するものではないから、原告Yコネクターは、本件特徴(オ)において、特別顕著性が認められないと主張する。確かに、二弁式Yコネクターは医師が手で握って操作するため、その全長及び各構成要素の寸法は、標準的な手の大きさを前提として、握って操作が可能な一定の幅の範囲に収まるものと解されるものの、上記のとおり、二弁式Yコネクターの全長、各構成要素の寸法及び寸法の比率は、商品によって異なっており、全ての商品が似通った寸法及び寸法の比率となっているわけではない。そして、そのように異なった寸法及び寸法の比率の商品が存在する以上、二弁式Yコネクター寸法及び寸法の比率に特別顕著性を認めたからといって、第三者において、それらの自由な選択が妨げられるものともいえない。したがって、被告の上記主張は採用できないというべきである。
カ 本件特徴(カ)について
(ア) 本件特徴(カ)に係る原告Yコネクターの原告の形態
前提事実(5)及び弁論の全趣旨によれば、原告Yコネクターは、メインブランチの下端から約8mmの位置の側面に約60度の角度で斜め上方へ分岐する長さ35.70mmのサイドポートが設けられており、メインブランチとサイドポートが接する辺(水かき様部材を除く。)の長さが約6mmである。
(イ) 特別顕著性の有無
原告は、本件特徴(カ)において特別顕著性があると主張するが、そもそも、本件全証拠によっても、他の二弁式Yコネクターのメインブランチの下端からサイドポートへ分岐するまでの長さ及びメインブランチとサイドポートが接する辺(水かき様部材を除く。)の具体的な長さを認めることができないから、それらとの比較をすることができない。しかも、別紙二弁式Yコネクター比較のとおり、アボット社Yコネクターのメインブランチに対するサイドポート角度も60度であるから、このことからしても、原告Yコネクターが、本件特徴(カ)において、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることはできない。
キ 小括
前記アないしカによれば、原告が主張する原告Yコネクターの形態的特徴のうち、オープナー以外が全て無色透明であり、かつ、オープナーは透明でありながら単色で着色されている点(本件特徴(エ))と、全長が約88mmで、全長、サムホイール、メインブランチ及びローテータの概ねの比率が、4:1:2:1である点(本件特徴(オ))の二点について、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴であると認められる。
二弁式Yコネクターについては、前提事実(2)ア及びエ、前記1(1)アの認定事実からすると、その性質上、メインブランチからサイドポートが分岐するY字の形状となることや、握って操作が可能な全長となることなど、商品の技術的な機能及び効用に由来して、商品の形態につき一定の制約があるとはいえるもの、前記エ(イ)及びオ(イ)のとおり、全長を含めた各部の寸法、全体の着色の有無及び着色個所については、様々な形態のものが実在することに照らし、それらの形態について選択の幅があり、その中で、原告Yコネクターは、上記の本件特徴(エ)及び(オ)を有する形態を選択したものであるといえる。
そして、原告Yコネクターは、特別顕著性が認められる本件特徴(エ)及び(オ)に係る形態に、個別にみれば顕著な特徴を有しているとまではいえないその余の形態を組み合わせ、それらを一体化した形態を形成したものであるから、原告Yコネクターの形態を全体的に観察すれば、特別顕著性、すなわち、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認めることができる。そして、原告商品が上市された時点において既に販売されていた二弁式Yコネクターであるアボット社Yコネクター及びメリットメディカル社Yコネクターは、いずれも特別顕著性が認められる本件特徴(エ)及び(オ)に係る形態を有していないことからすれば、原告Yコネクターは、原告商品が上市された平成14年9月の時点から、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認められ、その後に販売されたカネカ社Yコネクター及びメディカル・イノベイション社Yコネクターも、同(エ)及び(オ)に係る形態を有していないか、特別顕著性を失わせるものではないことからすれば、原告Yコネクターは、口頭弁論終結時においても、特別顕著性を有していると認められる。」
解説/検討
特別顕著性について柔軟に認めた判決である。
特別顕著な特徴とされた「原告Yコネクターは、オープナー以外が全て無色透明であり、かつ、オープナーは透明でありながら単色(黄色)で着色されている」点、「全長、サムホイール、メインブランチ及びローテータの比率は、約4:1.3:1.7:1.1」である点は、いずれも、同種商品との差異部分だとしても、通常の商品であれば、顕著な特徴とまではいわない部分のように思われる。
しかし、Yコネクターにおいては、機能の都合上、同種商品がいずれも似通った形状であることが、逆に、細部で差異が生じているという判断に繋がったものと思われる。
そうすると、この製品の類似性判断においても細部の差異が大きな影響を及ぼすことになるように思われるが、この点は緩やかに判断しており、一貫性については疑問の余地があった。
そうしたところ、本件の控訴審判決(知財高裁令和7年(ネ)第10012号)では、特別顕著性は肯定されたものの、類似性が否定され、原判決の請求認容部分が取り消されている。
