【図形及び文字から成る結合商標の類否】
投稿日:2026年5月25日 |
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著者:弁理士 大塚 啓生
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参照条文/キーワード/論点 |
結合商標の類否/商標法4条1項11号 |
ポイント本件は、商標登録無効審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。商標法4条1項11号の該当性が争われ、裁判所は本件商標と各引用商標(いずれも原告のキリンホールディングス株式会社が権利者)は類似するとして、商標法4条1項11号に該当すると判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第3部 |
| 判決言渡日 | 令和7年6月16日 |
| 事件番号 | 令和6年(行ケ)第10107号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
中平 健
今井 弘晃 水野 正則 |
事案の概要
キリンフーズ株式会社(被告)が所有する商標登録第6687612号「
」に対し、キリンホールディングス株式会社(原告)が商標登録第4180368号「
」等を引用して商標法4条1項11号及び15号に該当するとして無効審判を請求したところ、特許庁の審判において請求不成立の審決がされたため原告が上訴した事件。裁判所は、審決を覆して無効と判断した。
争点
結合商標の類否
原審(原々審)の判断
本件商標の文字部分「キリンフーズ」の「キリン」の文字は、上記意味の他に「ウシ目(偶蹄類)キリン科の哺乳類」(以下、「「キリン」(哺乳類)」という場合がある。)の意味を有するところ、本件商標の図形部分よりは、上述のとおり、「麒麟」(想像上の動物)をモチーフにしたものとの漠然とした印象を与えるものであるから、「キリン」の文字からも「麒麟」(想像上の動物)を連想させるものというのが自然である。また、「フーズ」の文字は「食品」の意味を有するもの(前掲書)であるとしても、「キリンフーズ」の文字部分は同じ書体、同じ大きさ、同じ色彩で一体的にまとまりよく表され、称呼も無理なく一連に称呼し得るものであり、かかる構成において「フーズ」の文字が特定の商品又は商品の品質を具体的に表示するものとして直ちに理解できるものともいえないから、本件商標の文字部分は一体で把握される造語というのが相当である。
そうすると、本件商標の図形部分と文字部分は、「麒麟」(想像上の動物)の漠然とした印象を連想させるということで関連性があるものといえ、図形部分と文字部分が特に分離して看取されるといった必然性は見いだせず、両者はその構成どおり一体として看取されるものである。そして、上記したとおり、本件商標は、特徴のある図形部分が顕著に表されていることから、その特徴ある図形部分が、取引者、需要者に強い印象を与えるものであり、その特徴のある図形マークの「キリンフーズ」として記憶にとどめるものということができる。
以上よりすれば、本件商標は、図形部分と文字部分は不可分一体のものと判断するのが相当であり、本件商標よりは、その文字に相応して「キリンフーズ」の称呼のみを生じ、特定の観念は生じない。
(中略)
本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、引用商標3及び引用商標6においては「キリン」の文字を共通にするとしても、語尾の「フーズ」の文字の有無、そして、図形部分の有無という顕著な差異を有するものであり、その他の引用商標については、文字種が相違し、図形部分の有無という顕著な差異を有するものであるから、両者は外観において相紛れるおそれはない。
また、称呼においては、いずれも語頭の「キリン」の3音を共通にするものの、語尾の「フーズ」の3音の有無において明瞭に聴別し得るものであるから、両者は称呼において相紛れるおそれはない。
さらに、観念においては、本件商標が特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標は「キリン」(哺乳類)又は「麒麟」(想像上の動物)の観念を生じるものであるから、両者は観念において相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
(中略)
以上からすると、引用商標は、本件商標が登録出願される以前から、キリングループの業務に係る商品である「ビール」等を表示する標章として、我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたものであって、その周知性は本件商標の登録審決時においても継続していたと認めることができる。
しかしながら、請求人が引用商標と同じ態様の防護標章登録を保有していることは認められるとしても、本件商標の指定商品の分野における周知性を認めるに足りる証拠は見当たらないものであるから、本件商標の指定商品の分野において、引用商標がキリングループの業務に係る商品を示すものとして、我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたと認めることはできない。
判旨
本件商標の構成中の図形部分は、その下の文字部分の高さや全体の幅からすると、本件商標の全体構成において5分の4ほどを占める大きさで表されているが、本件商標の図形部分と文字部分とは、相互に重なり合う部分もなく、上下に明確に分かれていること、文字部分の横幅は、図形部分の横幅とほぼ同じであって、文字部分が図形部分に埋没した印象を与えることもなく、「キリンフーズ」の文字が明瞭に認識できる大きさであることから、両者は視覚的に分離して看取されるものである。
これらによると、本件商標は、図形部分と文字部分とからなる結合商標と理解されるところ、図形部分と文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められず、図形部分と文字部分とが一体として看取されるといった必然性も見出せないから、本件商標からは、文字部分を抽出し、当該文字部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
そして、本件商標の指定商品は、前記第2の1(1)のとおり、ぎょうざ、しゅうまい、穀物の加工品等の食品であり、その需要者は一般消費者であると認められるところ、「フーズ」の語は上記のとおり食品を意味する英語である「foods」を片仮名表記したものとしてわが国において周知であること、企業名の後ろに「フーズ」を付して食品会社であることを示す例も、「サントリーフーズ株式会社」、「住商フーズ株式会社」、「ANAフーズ株式会社」等、多数見受けられるところ、これらの例では著名な企業名が「フーズ」の前に冠されていることからすると、本件商標の文字部分のうち「フーズ」の部分の自他識別力は、「キリン」の部分に比べ弱いものということができる。
本件商標の図形部分の円形の輪郭内に描かれた、上記のとおり特徴的な動物の図形は、わが国において一般に知られる上記ウシ目キリン科の哺乳類である実際に生息するキリンの姿とはほど遠く、それ自体として実在する特定の動物を表したものとはみられないものの、図形の動物の長いひげや鬣、細長い顔や雲の上を駆ける姿、文字部分の一部である「キリン」の文字から、上記「きりん【麒麟】」の意味の一つである、「中国で聖人の出る前に現れるという想像上の動物」である「麒麟」をモチーフにしたものという印象を与える。なお、このように、本件商標の図形部分は、その姿に加え、文字部分の一部である「キリン」と相まって、「麒麟」をモチーフにしたものという印象を与えるところ、図形部分及びそれを含む本件商標全体の態様や、前記のとおり、識別力の弱い「フーズ」の語が著名な企業名の後にくる例があること、及び後記エ(ア)のとおりの「キリン」の文字部分に係る企業の周知性に鑑みると、本件商標の図形部分は、文字部分の「キリン」に看者の注意を集めるという面もあるということができ、図形部分が文字部分の「キリン」と共通する印象を与えることから直ちに、本件商標の図形部分と文字部分が不可分一体であって、商標の類否判断に当たって文字部分を要部として抽出することができない、とはいえない。
これらによると、本件商標は、文字部分のうちの自他識別力を有する部分である「キリン」を要部として抽出することができるというべきである。
(中略)
原告は、「麒麟麦酒株式会社」、「キリンビバレッジ株式会社」、「協和キリン株式会社」等のキリングループを構成する会社の親会社であり、キリングループは原告及び連結子会社148社、持分法適用関連会社30社により構成される多角経営企業であり、184期の連結売上収益は約1兆9895億円(国際会計基準)である。キリングループは、酒類事業、飲料事業のほか、医薬事業、ヘルスサイエンス事業も行っており、キリングループ各社は、飲食料品、医薬品及び食品に各引用商標を使用している。
本件商標の指定商品は、「ぎょうざ、しゅうまい、中華まんじゅう、ハンバーガー、ホットドック、穀物の加工品」であり、肉と小麦粉等を使用した商品等であるのに対し、各引用商標に係る主な商品は「ビール」等であって主な原材料を麦とするアルコール飲料や飲料製品であるが、これらの両商品は、ともに広く消費される飲食料品の一種であり、需要者は一般の消費者であるから、本件指定商品と各引用商標に係る商品は関連性があり、需要者に共通性もあるといえる。加えて、各引用商標に係る商品「ビール」等の飲料は、本件指定商品である「ぎょうざ、しゅうまい」等を含む、それと相性がよいとされる食品と一緒に消費されることもあると認められ、原告が飲食料品を取り扱う取引者と連携し、飲料と食品とに関連性をもたせたキャンペーン活動が行われていることなども踏まえると、本件指定商品と各引用商標に係る商品との関係は希薄であるともいい難い。
(イ)前記のとおり、本件商標の構成に照らし、本件商標は、文字部分のうちの「キリン」を要部として抽出することができ(前記ア)、本件商標は、「キリン」の部分から「キリン」の称呼が生じるものであり(前記イ)、本件商標は、想像上の動物である「麒麟」の観念を生じるものである(前記ウ)。そして、それに加え、前記(ア)の事実をも考慮すると、本件商標の指定商品の需要者の間においては、本件商標のうち「キリン」の部分は、需要者をして、原告若しくはその関連会社又はその商品若しくは役務を想起させることも少なくないものと認められ、その点からも、本件商標中の「キリン」の部分は、取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
(中略)
エ 類否の判断
本件指定商品と、各引用商標の指定商品・役務は、いずれもその指定商品・役務の内容から、需要者は一般の消費者であると認められるところ、一般の消費者は、必ずしも商標の構成を細部にわたり記憶して取引に当たるものとはいえないから、そのような需要者が通常有する注意力の程度を踏まえて、本件商標と各引用商標の外観、称呼及び観念の要素を総合勘案することとなる。
本件商標と各引用商標は、外観において相違するものの、想像上の動物である麒麟の観念及び「キリン」の称呼を共通にするものであり、本件商標からは「キリンフーズ」との称呼も生じるものの、前記のとおり商品の自他識別標識として分離抽出することができる要部から生じる「キリン」の称呼及び想像上の動物である麒麟の観念を共通とするものであり、外観の相違は、称呼、観念の共通性による印象を凌駕するほど顕著なものということはできないといえる。
これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本件商標と各引用商標は、全体として、商品・役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標であると認められる。
解説/検討
本件における結合商標の類否について、ポイントは大きく3つあり、①結合商標の一体性、②「キリンフーズ」の一体性、③「キリン」の周知性の認定、である(下記はその対照表)。
| 審判 | 裁判 | |
|---|---|---|
| ①結合商標の一体性 | 本件商標の図形部分と文字部分は、「麒麟」(想像上の動物)の漠然とした印象を連想させるということで関連性があるものといえ、図形部分と文字部分が特に分離して看取されるといった必然性は見いだせず、両者はその構成どおり一体として看取される。 | 本件商標の図形部分と文字部分とは、相互に重なり合う部分もなく、上下に明確に分かれていること、文字部分の横幅は、図形部分の横幅とほぼ同じであって、文字部分が図形部分に埋没した印象を与えることもなく、「キリンフーズ」の文字が明瞭に認識できる大きさであることから、両者は視覚的に分離して看取される。 |
| ②「キリンフーズ」の一体性 | 「フーズ」の文字は「食品」の意味を有するもの(前掲書)であるとしても、「キリンフーズ」の文字部分は同じ書体、同じ大きさ、同じ色彩で一体的にまとまりよく表され、称呼も無理なく一連に称呼し得るものであり、かかる構成において「フーズ」の文字が特定の商品又は商品の品質を具体的に表示するものとして直ちに理解できるものともいえないから、本件商標の文字部分は一体で把握される造語。 | 「フーズ」の語は食品を意味する英語である「foods」を片仮名表記したものとしてわが国において周知であること、企業名の後ろに「フーズ」を付して食品会社であることを示す例も、「サントリーフーズ株式会社」等、多数見受けられるところ、これらの例では著名な企業名が「フーズ」の前に冠されていることからすると、本件商標の文字部分のうち「フーズ」の部分の自他識別力は、「キリン」の部分に比べ弱い。 |
| ③抵触する商品における「キリン」の周知性の認定 | 「ビール」等を表示する標章として、我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたものであって、その周知性は本件商標の登録審決時においても継続していたと認めることができるが、請求人が引用商標と同じ態様の防護標章登録を保有していることは認められるとしても、本件商標の指定商品の分野における周知性を認めるに足りる証拠は見当たらない。 | アルコール飲料や飲料製品は、ともに広く消費される飲食料品の一種であり、需要者は一般の消費者であるから、本件指定商品と各引用商標に係る商品は関連性があり、需要者に共通性もあるといえる。加えて、各引用商標に係る商品「ビール」等の飲料は、本件指定商品である「ぎょうざ、しゅうまい」等を含む、それと相性がよいとされる食品と一緒に消費されることもあると認められ、原告が飲食料品を取り扱う取引者と連携し、飲料と食品とに関連性をもたせたキャンペーン活動が行われていることなども踏まえると、本件指定商品と各引用商標に係る商品との関係は希薄であるともいい難い。 |
①②に関しては裁判所の判断の方が適切と思われる。図形的要素と「キリンフーズ」が外観上分離していることや、「フーズ(foods)」の識別性の弱さを考慮すると「キリン」が要部として認識されることは十分に考えられる。また、裁判所が指摘するように、図形的要素はあくまで「麒麟」を連想させるものであって、その意味でも「キリンフーズ」一連の語とは関連性はないといえる。
他方で、③については、「『ビール』等の飲料は、本件指定商品である『ぎょうざ、しゅうまい』等を含む、それと相性がよいとされる食品と一緒に消費されることもあると認められ」との論理はやや強引な気もするが、概ね周知性の認定も妥当と思われる。
