【図形商標の外観差異が混同を否定した事例】

 

投稿日:2026年5月8日

ohno&partners

著者:弁護士 大野 浩之
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

図形商標/取引の実情/混同のおそれ

 

ポイント

※ 被告が販売するバッグに付された標章が、原告の十字図形商標と類似するかが争われた。
※ 裁判所は、外観上の顕著な差異(中央図形・形状・立体感・色彩等)が共通点を凌駕し、観念・称呼の共通性も混同を基礎付けないと判断。
※ 取引の実情も踏まえ、出所の誤認混同のおそれはなく、いずれの被告標章も非類似として請求を棄却した。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 令和7年7月9日
事件番号 令和6年(ワ)第70635号
事件名 商標権侵害差止請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
髙橋 彩
西山 芳樹
瀧澤 惟子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

原告:スイス発祥の老舗かばんメーカー。十字をモチーフにした原告商標権を保有。

被告:アパレル製品等を販売する会社。楽天市場で「SWISSWIN」ブランドのかばんを販売。
SWISSWIN
【被告標章】(「別紙 被告標章目録」より)
1                                   2
画像画像

【登録商標】(「別紙 商標権目録」より)
画像
第18類 汎用防水バッグ、旅行かばん、バックパック、デイパック(日帰りハイキング用などの小型ナップサック)、ダッフルバッグ、多用途のかばん、肩掛けかばん、カジュアルバッグ、ブリーフケース、車輪の付いたバック(原動機付きのものを除く。)、化粧品用ケース(中身が入っていないもの)、旅行かばん、革製の小さな身の回りの物、すなわち財布、札入れ、クレジットカード入れ、首にぶら下げる財布・ネックレス付きの財布、シェービングバッグ(中味が入っていないもの)、傘及び名刺用ケース、化粧品用ケース(中身なし)、化粧品入れ(空のもの)、旅行かばん用タグ、ウエストパック、身体に装着させるかばん、書類かばん、旅行かばん、汎用の身の回りの物を入れるかばん、革製の小さな身の回りの物、旅行用靴袋、手持ち式の電子式装置に不向きなバッグ、電子式装置保持用のウエストパック等

判旨

1 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念及び称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。

2 争点(1)(原告商標と被告標章1の類否)について
(1) 原告商標について
画像
ア 外観は、別紙商標権目録記載のとおりであり、①外側に配置された、外側に張り出す形で湾曲した縁(辺)及び丸みを帯びた角を有する略正方形の図形、②その内側に配置された①と略相似形の略正方形の図形並びに③その内部の中央に配置された幅広の十字の図形から成る。外側の略正方形と内側の略正方形との間の部分(外縁部分)の幅は十字の幅の3分の1程度であり、外縁部分及び十字が白色で、その余の部分が黒色である。
イ 観念については、内側の四角形の内部の中央に位置する十字から、「十字」又は「クロス」の観念が生ずる。
ウ 称呼については、内側の四角形の内部の中央に位置する十字から、「ジュウジ」又は「クロス」との称呼が生じ得る。

(2) 被告標章1について
画像
画像
ア 外観は、別紙被告標章目録記載1のとおりであり、①外側に配置された、直線状の縁(辺)及び略直角の角を有する四角形の図形、②その内側に配置された①と略相似形の四角形の図形並びに③その内部の略中央に上下に2つ左右に2つ接着して配置された4つの不整形な円の集合体状の図形から成る。外側の四角形と内側の四角形との間の部分(外縁部分)の幅は不整形の円の直径と同程度であり、外縁部分及び不整形の円の集合体状の図形の部分が銀色ないし白色で、その余の部分が黒色である。
イ 観念について、外縁部分から、「四角」の観念が生ずる。
ウ 称呼について、外縁部分から「シカク」との称呼が生じ得る。
(3) 前記(1)及び(2)を踏まえ、原告商標と被告標章1の類否について検討する。
ア 原告商標と被告標章1の外観は、外側及び内側に四角形が配置されている点、外縁部分及び内側の図形が淡色で、その余の部分が黒色であるという点において共通する。これらの共通点は、取引者及び需要者が着目する図形の全体的構成に関わるものであるから、取引者及び需要者に対し、一定程度、類似との印象を与え得るものといえる。
 一方、原告商標と被告標章1の外観は、①外側及び内側の四角形の四辺に当たる縁(辺)が、外側に向けて湾曲しているか(原告商標)、直線であるか(被告標章1)の点、②外側及び内側の四角形の四隅が丸みを帯びているか(原告商標)、角であるか(被告標章1)の点、③外縁部分の幅が、原告商標の方が被告標章1より狭い点、④中央部分に配置された図形が異なる点において相違する。
 上記④の相違点は、取引者及び需要者が着目する中央部分に位置する図形に関わるもので、識別力が高い部分に係る相違点である。また、上記①及び②の相違点についても、外縁部分から受ける印象が丸みを帯びたソフトなものであるのか、シャープなものであるのかにおいて明らかに異なるから、上記④の相違点とあいまって、上記の共通点から全体として受ける類似との印象を凌駕することは明らかである。
 そうすると、原告商標と被告標章1の外観は、取引者及び需要者に異なる印象を与えるものといえ、類似するとはいえない。
イ また、前記(1)及び(2)のとおり、原告商標と被告標章1は、観念及び称呼の点においても異なる。
ウ 取引の実情に関し、被告は、被告サイトで被告各商品を販売していたこと、被告各商品の輸入会社であるTRAVELPLUS INTERNATIONAL株式会社は、「SWISSWIN(標準文字)」という登録商標に係る商標権(商標登録第6026579号)を保有していること、被告は、被告各商品を販売する被告サイトにおいて、冒頭に表示される被告商品1の写真の上に、「SWISSWIN」の文字から成る標章を同商品に付された被告標章1より大きく付し、被告各商品についての商品名欄に「【送料無料】SWISSWIN バックパック リュック リュックサック・・・」と、商品詳細欄に商品名として「SWISSWIN リュック」と、商品仕様欄にブランド名として「SWISSWIN」と記載していたことの各事実が認められるところ(甲4、乙3及び弁論の全趣旨)、取引者及び需要者において、被告商品1の出所について誤認混同が生じていることをうかがわせる証拠は見当たらない。
エ 以上によれば、原告商標と被告標章1が同一の商品であるかばん(原告商標の指定商品及び被告商品1)に使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して、その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、原告商標と被告標章1が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
 よって、被告標章1が原告商標と類似するとはいえない。

(中略)
3 争点(2)(原告商標と被告標章2の類否)について
(1) 被告標章2について
画像
ア 外観は、別紙被告標章目録記載2のとおりであり、①外側に配置された直線状の縁(辺)及び略直角の角を有する略正方形の図形、②その内側に配置された直線状の縁(辺)及び丸められた角を有する略正方形の図形、③その内部の中央に位置する幅広の十字及び十字の上下左右から内側の略正方形に向けて延びる直線状の支持棒の図形から成り、外側の略正方形と内側の略正方形との間の部分(外縁部分)の幅は、十字の幅の3分の2程度である。外縁部分並びに十字及び支持棒は、その余の部分より盛り上がり、外縁部分の四隅にはリベット頭部状部分及びそれを囲む円型凹部が、外縁部分の上下左右には棒状凹部(棒状凹部の両端と四隅部分との間は湾曲した凹部で区切られている。)が、十字部分には斜線状の溝が4本存在するという立体的形状を有する。外縁部分、十字及び支持棒が銀色、その余の部分が赤色である。
イ 観念については、中央に位置する十字から、「十字」又は「クロス」の観念が生ずる。
ウ 称呼については、中央に位置する十字から、「ジュウジ」又は「クロス」との称呼が生じ得る。
(2) 前記2(1)及び前記(1)を踏まえ、原告商標と被告標章2の類否について検討する。
ア 原告商標と被告標章2の外観は、外側及び内側に略正方形が配置され、その内部の中央に幅広の十字が配置されているという点において共通する。これらの共通点は、取引者及び需要者が着目する図形の全体的構成に関わるものであるから、取引者及び需要者に対し、類似との印象を与えるものといえる。
 一方、原告商標と被告標章2の外観は、①外側及び内側の略正方形の四辺に当たる縁(辺)が、外側に向けて湾曲しているか(原告商標)、直線であるか(被告標章2)の点、②被告標章2の十字が支持棒を有するが、原告商標は有しない点、③外縁部分の幅が、原告商標の方が被告標章2より狭い点、④被告標章2は、外縁部分並びに十字及び支持棒が、その余の部分より盛り上がっているが、原告商標は平板である点、⑤被告標章2は、外縁部分の四隅にはリベット頭部状部分及びそれを囲む円型凹部が、外縁部分の上下左右には棒状凹部(棒状凹部の両端と四隅部分との間は湾曲した凹部で区切られている。)が、十字部分には斜線状の溝が4本存在するが、原告商標は平板である点、⑥外縁部分及び十字が白色(原告商標)であるか銀色であるか(被告標章2。支持棒を含む。)の点、⑦⑥以外の部分が黒色(原告商標)であるか赤色であるか(被告標章2)の点において相違する。
 原告商標と被告標章2は、いずれも略正方形に囲まれた十字から成る比較的単純な構成であるため、取引者及び需要者が上記相違点を看取することは容易であるといえる。そして、上記①~⑤の相違点によって、原告商標が平板でシンプルな印象を与えるのに対し、被告標章2は、より重厚かつ複雑な印象を与えるものである。また、上記⑥及び⑦の相違点について、被告標章2の色彩は、モノトーンではないという点で、全体として原告商標の色彩と異なる印象を与えるものである。
 これらの相違点は、上記の共通点から受ける類似との印象を凌駕し、原告商標と被告標章2の外観は、顕著な差異があるといえる。
 したがって、原告商標と被告標章2の外観は、取引者及び需要者に異なる印象を与えるものといえ、類似するとはいえない。
イ 原告商標と被告標章2からは、「十字」又は「クロス」の観念及び「ジュウジ」又は「クロス」の称呼が生じ得るから、両者の称呼及び観念は同一である。
ウ 取引の実情に関し、前記2(3)ウに認定した事実が認められるところ、取引者及び需要者において、被告商品2の出所について誤認混同が生じていることをうかがわせる証拠は見当たらない。そして、原告商標は文字を含まず図形のみからなる商標であるが、インターネット上のショッピングサイトにおいて、取引者及び需要者は、主に商品名やブランド名等を利用して商品を検索し、購入するといえ、図形から生じる「十字(ジュウジ)」及び「クロス」という観念及び称呼に基づいて商品の検索等を行うことは想定し難い。
 そうすると、原告商標と被告標章2の観念及び称呼が同一であることによって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等が大きいとはいえず、前記の外観の差異は、観念及び称呼の共通性を凌駕するものといえる。
エ 以上によれば、原告商標と被告標章2が同一の商品であるかばん(原告商標の指定商品及び被告商品2)に使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して、その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、原告商標と被告標章2が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
 よって、被告標章2が原告商標と類似するとはいえない。

 

解説/検討

 アマゾン等で検索すると、スイスウィン、ウェンガーという表示はなされているものの、両者は紛らわしい表示ではあるかとは思われる。この点、本判決では、インターネット取引においては文字情報による検索・識別が中心であるという取引実情を踏まえ、図形に由来する観念・称呼の重要性を相対的に低く評価した結果として、非類似と判断した点では興味深い。

 他方、同じ当事者間における令和2年(ネ)第10060号 商標権侵害差止等請求控訴事件(原審 東京地方 裁判所令和元年(ワ)第26463号)では、本件と同じく十文字商標の類似性が争われたが、東京地方裁判所が下した判断を支持し、控訴人がバッグパック等に使用する控訴人標章は、被控訴人の登録商標と類似し、商標権侵害が成立すると判断している。

 両案件における結果を分けたクリティカルな差は必ずしも明確ではないことから、本件が控訴されているようであれば、その結論がどのようになるかは興味深い。

 

PAGE TOP