【用途が限定されたソフトウェア(「データ分析用ソフトウェア」と「水道管理用プログラム」)の商品類否】
投稿日:2026年5月8日 |
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著者:弁理士 土生 真之
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参照条文/キーワード/論点 |
商標法第4条第1項第11号/商品の類否 |
ポイント「水道管路及び水道施設の管理又は整備システム用の電子計算機用プログラム」(水道管理用プログラム)と「バイオインフォマティクス・実験データ分析・液体クロマトグラフ装置や質量分析装置からのデータの分析及び可視化のためのコンピュータソフトウェア」等(データ分析用ソフトウェア)は、類似商品であると判断された。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和7年7月24日 |
| 事件番号 | 令和7年(行ケ)第10005号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
清水 響
菊池 絵理 頼 晋一 |
事案の概要
本件は、本願商標の出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、商標法4条1項11号該当性(指定商品又は指定役務の類否)であり、審決の理由の要旨は以下のとおりである。
【審決の理由の要旨】
本願指定商品は、分析機械器具などの機器のソフトウェアであり、本願第42類役務は、それらを設計・開発する役務である。
引用指定商品及び引用指定役務は、水道管路や水道施設の管理などをするための電子計算機のプログラム又はそれを設計、作成又は保守をする役務である。
上記各商品及び役務は、いずれもソフトウェア(プログラム)又はそれを設計・開発するものであり、一般的には、受託開発ソフトウェア業者などの情報サービス業者が製造・開発し、又は提供する商品又は役務である。
一般論として、ソフトウェア(プログラム)の内容や用途には多種多様なものがあり得るとしても、いずれもプログラマーやシステムエンジニアなどによる作業を要する点で共通しているから、発注者によりソフトウェアの仕様内容が特定されれば、情報サービス業者であれば、本願商標及び引用商標の指定商品及び指定役務の双方を製造又は提供することができない理由は考えにくい。
本願指定商品及び本願第42類役務と、引用指定商品及び引用指定役務は、通常、同一営業主により製造、販売又は提供されている商品又は役務であり、同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の販売に係る商品又は同一の営業主によって提供される役務であると誤認されるおそれがある。
したがって、本願指定商品及び本願指定役務は、引用指定商品及び引用指定役務と類似する商品及び役務を含む。
■本願商標
出願番号:商願2022-85292号
商 標:WATERS(標準文字)
指定商品:第9類「分析機械器具用の操作用ソフトウェア,物質の物理的又は化学的特性の変化を分析するための分析機械器具用コンピュータソフトウェア,バイオインフォマティクス・実験データ分析・液体クロマトグラフ装置や質量分析装置からのデータの分析及び可視化のためのコンピュータソフトウェア,環境条件の変化による物質の物理的又は化学的特性の変化を分析するための分析機械器具用コンピュータソフトウェア」(分析機械器具用のコンピュータソフトウェアを「分析機械器具用ソフトウェア」、それ以外のものを「データ分析用ソフトウェア」と定義)
第35類(略)
第42類「化学又は研究用分析機械器具向けソフトウェアの設計及び開発,理化学機械器具用アプリケーションの開発,分析機械器具・バイオインフォマティクス・実験データ分析・液体クロマトグラフ装置や質量分析装置からのデータの分析及び可視化のためのソフトウェアの開発,化学化合物の発見や特定・分析を行う分析機械器具用ソフトウェアの開発,環境条件の変化による物質の物理的又は化学的特性の変化を分析するための分析機械器具用ソフトウェアの開発」
■引用商標1
登録番号:第3132847号
商 標:
指定商品:第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、但し、水道管路及び水道施設の管理又は整備システム用以外の電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守を除く」
■引用商標2
登録番号:第4778723号
商 標:
指定商品:第9類「電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品、但し、水道管路及び水道施設の管理又は整備システム用以外の電子計算機用プログラムを除く」
判旨
※事実認定部分:省略(判決文参照)
以上を前提に、各指定商品及び指定役務の類否について検討する。
ア 本願指定商品と引用指定商品(水道管理用プログラム)について
(ア)まず、本願指定商品のうち、本願指定商品(分析機械機器用ソフトウェア)は、分析機械機器の組込みソフトウェアや、分析機械機器メーカーが自社製品専用に開発、提供するものに限られず、他社製品にも使用可能なソフトウェア単体で販売されるものも含む(前記(2)ア(ウ))。また、本願指定商品のうち、本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)は、分析機械機器から得られたデータを含む様々なデータの分析及び可視化のための機能を有し、汎用のコンピュータによって作動するソフトウェアである(前記(2)ア(エ))。他方、引用指定商品(水道管理用プログラム)は、上下水道マッピングシステムに限らず、水質検査と密接に関連する水質の分析検査や、そのデータの収集、管理の機能を有するソフトウェア(以下「水質分析用ソフトウェア」という。)を含み得る(前記⑵ウ)。したがって、結局、本願指定商品と引用指定商品(水道管理用プログラム)には同一の商品(水質分析用ソフトウェア)が含まれ、当然のことながら、その場合の需要者(水道事業者等)も共通にすることになる。
注)「(2)ウ」として、以下の事実認定がされている。
水道法所定の水質検査は、「水道管路及び水道施設の管理又は整備」において、必ず必要となるものというべきであり、実際にも、「配水管路網の効率的な運用を目的とし、変動する配水流量、圧力、水質等の計測値をリアルタイム情報として収集し、蓄積・監視する…システム」である「配水管理システム」(乙22)、「一般家庭への水の安定供給を担う配水管理・水質監視システム」(乙26)が、ソフトウェア事業者により提供されている。
(イ)この点を措くとしても、本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)と引用指定商品(水道管理用プログラム)は、いずれも汎用コンピュータ(電子計算機)で用いるソフトウェアであるという点において一致するところ、これらのソフトウェアは、対象となる業種や用途の専門性を問わずソフトウェアの事業者によって製造、販売、開発されているものであり(前記(4)ウ)、両指定商品についても、同一営業主により製造、販売、開発され(前記(4)ア)、あるいは親子会社又は経営上密接な関係にあり、同一の商標を使用する同一の企業グループに属する会社により製造、販売、開発されている実情がある(前記(4)イ)。
具体的な用途や需要者についてみても、両指定商品は、いずれも水質検査のデータを取り扱うという用途を含み、水道事業者、水質検査業者及び自家水道や給水設備の管理業者という需要者を共通にする。
したがって、両指定商品に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にあることは明らかである。
(ウ)これに対し、原告は、本願指定商品と引用指定商品(水道管理用プログラム)は、生産部門、販売部門、需要者の範囲、用途が明らかに異なると主張するが、前記(イ)のとおり、原告の主張は採用することができない。
原告は、地方公共団体である水道事業者の場合、競争入札により販売されることがある点も指摘するが、地方公共団体であっても随意契約により取引することもある上、同主張に係る事情は、水質検査業者や自家水道管理業者については当てはまらない。そもそも、抽象的に商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがない範囲を画するという観点からは、原告の主張する事情は、前記(イ)の認定を左右するに足りるものではない。
イ 本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)と引用指定商品(電子応用機械器具等)について
前記(4)ウのとおり、本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)については、電子応用機械器具である分析機械器具の製造業者と同じ業者がデータ分析用ソフトウェアも提供している例があることが認められる。
そうすると、本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)と引用指定商品(電子応用機械器具等)は、商品自体にはソフトウェアとハードウェアという相違点があるが、前記のとおり、その需要者は共通しており、取引の実情に照らし、これらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるというべきである。
ウ 本願第42類役務と引用指定役務について
(ア)本願第42類役務は、本願指定商品の開発の役務を含むものであり、引用指定役務は、引用指定商品(水道管理用プログラム)の設計・作成又は保守の役務である。
前記ア(ア)のとおり、本願指定商品と引用指定商品(水道管理用プログラム)は、同一の商品(水質分析用ソフトウェア)を含むものであるから、そもそも本願第42類役務にも引用指定役務と同一の役務(水質分析用ソフトウェアの開発)が含まれている上、前記ア(イ)に掲げた取引の実情に照らすと、本願第42類役務と引用指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるというべきである。
(イ)これに対し、原告は、本願第42類役務と引用指定役務は、提供の目的及び場所、提供に関連する物品、需要者の範囲、業種、規制する法律、提供する事業者のいずれも異なるから、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれはない旨主張する。
しかし、原告が指摘する「規制する法律」は、医療機器に関する規制をいうものであり、本願第42類役務に係る分析機械器具の一部にのみ当てはまる事情にすぎないし、原告の主張は、前記(ア)のとおり、採用することができない。
エ その他の原告の主張について
(ア)原告は、特定の機能・用途に供するソフトウェアに係る指定商品又は指定役務の類否については、特定の機能・用途を発揮するための「専用品」と捉え、当該ソフトウェアが搭載される最終製品又はこれを利用する役務の類否に準じて、その類否を判断すべきである旨主張する。
しかし、原告のような考え方を採用したとしても、本件において、水質分析という特定の機能・用途を有するソフトウェアは、本願指定商品と引用指定商品(水道管理プログラム)のいずれにも含まれ得ることになるから、当該ソフトウェアについて同一又は類似の商標を使用した場合には、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあることに変わりはない。そもそも、「特定の機能・用途」を区別した場合にも、異なる機能・用途相互間の関連性や近似性の内容や程度には様々なレベルがあり得るから、機能や用途が異なるからといって、直ちに商品・役務の類似性が否定されるものではない。
(イ)原告は、本願商標が本願指定商品及び本願指定役務を取り扱う業界において相当の認知度を獲得していると主張するが、仮にそうだとしても、商標法4条1項11号に掲げる商標については、同法3条の規定にかかわらず、商標登録を受けることはできないのであり(同法4条1項柱書)、同法3条2項のような出所識別力の獲得による例外規定は設けられていないから、そのような事情は、同法4条1項11号の規定を適用する場合の指定商品及び指定役務の類否判断において考慮すべき、取引に関する一般的・恒常的な事情には当たらないというべきである。
(ウ)原告は、分析機械器具全般において、「ラボラトリー用」及び「医療用」の分析機器が、生産高の8割以上を占めていることからすれば、水道事業者等が分析機械器具を購入、利用しているとしても、商標の類否判断における注意力の基準とすべき「主たる需要者層」とはいえないと主張する。
しかし、引用指定商品(水道管理用プログラム)及び引用指定役務の需要者が、本願の指定商品や指定役務の需要者に含まれている以上、当該需要者を基準とした場合に出所混同のおそれが生じることに変わりはない。
また、水道事業者は、例えばラボラトリー用(実験・研究用)に分類される高速液体クロマトグラフ等を使用しているのであるから、直ちに「主たる需要者層」ではないということもできない。
(エ)その他、原告は縷々主張するが、既に述べた理由により、いずれも採用することができない。
オ 小括
したがって、本願商標の指定商品・指定役務は、引用商標の指定商品・指定役務と同一又は類似する商品又は役務を含むものであり、本件審決の判断に誤りはない。
解説/検討
本件では「水道管路及び水道施設の管理又は整備システム用」という概念に「水質の分析検査」が含まれると認定された。例えば、不使用取消審判請求の際に「水道管路の管理又は整備システム用・・・」のみが残るように限定をしていれば、「水質の分析検査」が含まれると解釈される余地を排除できたのかもしれない。しかし、そうすると取消対象商品の概念が広がることになり、使用を立証されるリスクが高まる。そもそも、あるソフトウェアの用途を言葉で明確に限定しきるということは困難であり、不使用取消審判を通じてソフトウェアの用途を限定させたうえで商品の類否を争うという戦術は、針の穴を通すように難しいのかもしれない。
また、「この点を措くとしても、本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)と引用指定商品(水道管理用プログラム)は、いずれも汎用コンピュータ(電子計算機)で用いるソフトウェアであるという点において一致するところ、これらのソフトウェアは、対象となる業種や用途の専門性を問わずソフトウェアの事業者によって製造、販売、開発されているものであり(前記(4)ウ)、両指定商品についても、同一営業主により製造、販売、開発され(前記(4)ア)、あるいは親子会社又は経営上密接な関係にあり、同一の商標を使用する同一の企業グループに属する会社により製造、販売、開発されている実情がある」という認定がされていることからすると、そもそもソフトウェアの用途の相違により商品非類似が寛容に認められる可能性自体も低そうである。
米国や韓国等では、ソフトウェアの用途も類否/混同の判断において考慮されるが、日本ではソフトウェアの用途により商品類否を争うよりも、コンセントやアサインバックの方が現実的な対応となりそうである。
