【取引の実情により結合商標中の一部の識別力を否定し分離観察を認めた事例】

 

投稿日:2026年5月8日

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著者:弁護士 盛田 真智子
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

商標法2条1項1号/同25条/同37条1号/結合商標/分離観察/取引の実情/識別力/通常使用権/登録商標使用の抗弁/時機後れ

 

ポイント

※本判決は、原告の登録商標「恋苺」と、被告標章「あわ恋いちご」との間で、誤認・混同が起きるか否かが争われた事案である。
※本判決は、仮に、「あわ」部分が一定の識別力を持ち得る意味として受け取られるであろう取引の実情があるのであれば、「恋いちご」の部分のみを抽出した類否判断が許されないことも想定されるとした。一方で、被告標章が付されたパッケージの態様など取引の実情に照らし、「あわ」が識別力を伴わない産地や販売地を表示するものとして受け取られるのであれば、「恋いちご」の部分を抽出して本件商標と比較検討することが許されるとした。
※その上で、被告各商品のパッケージを見ると、「あわ」が産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえるため、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され、「恋いちご」部分を抽出して原告商標と比較検討することができると判示した。その結果、原告商標との類似性が肯定された。

 

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第21民事部
判決言渡日 令和7年7月17日
事件番号 令和6年(ワ)第5007号
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
松川 充康
阿波野 右起
島田 美喜子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

1 当事者
(1) 原告は、平成8年10月1日に設立された、花卉の栽培、販売及び輸出入に関する事業等を目的とする特例有限会社である。
(2) 被告は、平成23年8月1日に設立された、農産物の栽培、生産及び販売等を目的とする株式会社である。

2 本件商標権
 原告は、次の内容の本件商標権を有している。
 登録番号  第5006976号
 出願日   平成18年1月27日
 登録日   平成18年12月1日
 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
      第31類  いちご、いちごの種子、いちごの苗
 登録商標
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3 Z商標権及び通常使用権許諾契約
 (1) Z商標権
 Z社は、次の内容のZ商標権を有している。
 登録番号  第6438678号
 出願日   令和3年1月19日
 登録日   令和3年9月6日
 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
      第31類  いちご
 登録商標(標準文字)
      あわ恋いちご
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(2) 本件許諾契約
 Z社は、令和3年9月28日、被告との間で、同日から5年間(異議なき場合は5年更新)、被告に対してZ商標の通常使用権を無償で許諾する旨の契約を締結した。

4 被告の行為  被告は、遅くとも令和6年5月22日までに、いちご商品である被告各商品に被告標章を付し、これを小売店に卸販売した。
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5 原告による警告
 原告は、令和6年4月12日到達の通知書により、被告各商品に「出荷者」と表示された会社に対し、本件商標権の侵害を理由として同商品の販売を中止するよう求めた。同社は、同月17日付け通知書により、原告に対し、上記商品に被告標章を付したのは仕入先の被告であるなどと回答し、侵害を自認するものではないとの留保を付した上で、商品の販売を停止した。

争点

1 本件商標と被告標章が類似するか
2 登録商標使用の抗弁が成立するか

   

争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件商標と被告標章が類似するか)について
【原告の主張】
(1) 被告標章の要部
 被告標章は、平仮名2文字「あわ」、漢字1文字「恋」、平仮名3文字「いちご」で構成される。冒頭の「あわ」は、3文字目が「恋」という独立した意味の漢字であるから、「あわ」部分が一つのまとまりとして受け止められ、取引者・需要者において徳島地方の旧称「阿波」を想起させる。そうすると、「あわ」の部分は、商品の産地又は販売地を意味するにすぎず、商品の出所識別機能を有さない。よって、被告標章の要部は、「恋いちご」の構成部分である。

(2) 類否
ア 外観
 本件商標は縦書きの漢字2文字「恋苺」であり、被告標章は横書きの漢字1文字と平仮名3文字の「恋いちご」である。外観上の相違点は、縦書きか横書きか、「いちご」の部分が漢字か平仮名かという点のみであるから、本件商標と被告標章は、外観において類似する。

イ 称呼
 本件商標と被告標章の称呼は、いずれも「コイイチゴ」であって、同一である。

ウ 観念
 「恋苺」及び「恋いちご」は、造語である。「恋」と「苺」は、いずれも可愛らしく、色彩的には赤色を連想させる用語であり、甘酸っぱい想い出を想起させる「恋」と果物の「苺(いちご)」を組み合わることによって、可愛らしく甘酸っぱいイメージが重ね合わされたような印象が生じる。よって、本件商標と被告標章の観念は同一である。

エ 取引の実情
 被告各商品は、本件商標の指定商品(「いちご」)と同一である。また、被告各商品には、「徳島県産」の表記や阿波踊りの踊り手及び「阿波」と記載された高張提灯のイラストがあり、被告商品2には「徳島県産 阿波のいちご」との表記があり、いずれも「徳島県産」や「阿波」が強調されている。したがって、被告各商品に接した取引者や需要者は、被告各商品に付された被告標章の「あわ」から「阿波」を想起する。
 加えて、いちご商品の取引において、「恋いちご」の文字が縦書きであるか横書きであるかという点をもって出所が識別されることはない。

オ 以上から、本件商標と被告標章は類似する。なお、「あわ恋」の部分をもって「淡い恋」と意味を含む余地があるとしても、上記類否の結論は変わらない。

【被告の主張】
(1) 被告標章の要部
 複数の構成部分を組み合わせた結合商標について、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。被告標章は「あわ」「恋」「いちご」から構成されるが、各部分は同じ書体、文字の大きさで等間隔に一行で表記されているから、一連の語の全体が識別機能を果たし、「恋いちご」のみが強く支配的な印象を与えるものではない。よって、「恋いちご」部分のみを抽出して類否判断をすべきではなく、被告標章の要部は「あわ恋いちご」全体である。
(2) 類否
ア 外観
 本件商標は、漢字2文字で構成されている。被告標章は、平仮名と漢字の組み合わせの6文字で構成されている。よって、本件商標と被告標章は、外観上、文字数及び表記の点で異なる。

イ 称呼
 本件商標の称呼は、「レンマイ」、「レンバイ」、「コイイチゴ」である。被告標章の称呼は、「アワコイイチゴ」である。よって、本件商標と被告標章の称呼は異なる。

ウ 観念
 本件商標は、万人が経験し得る普遍性を有する「恋」と果実である「苺」を組み合わせたにすぎない。
 被告標章は、「あわ」「恋」「いちご」から構成され、「あわ」の部分からは、地方名称の「阿波」のみならず「淡」「泡」などが想起され得るが、「恋」と組み合わせられていることや被告標章の字体が丸みを帯びた書体であることから、「あわ恋」部分からは「淡い恋」が想起される。実際、「あわ恋」は、ある限られた人やシチュエーションでないと経験できないとの認識で命名されたものであり、また、被告各商品のパッケージに「徳島県産」との記載がある以上、「あわ」部分に徳島県産であることを識別させる機能は乏しい。

エ 以上のとおり、本件商標と被告標章は、外観、称呼、観念等のいずれにおいても相違するから、類似しない。

2 争点2(登録商標使用の抗弁が成立するか)について
【被告の主張】
(1) 被告は、Z商標権の通常使用権者として、登録商標であるZ商標と同一の標章である被告標章を使用している。よって、被告による被告標章の使用は、通常使用権者による登録商標の使用であるから、本件商標権の侵害に当たらない。
(2) なお、上記(1)の主張は、訴訟の完結を遅延させるものではないから、「時期に後れた攻撃防御方法」に当たらない。

【原告の主張】
(1) 被告の主張は、侵害論の心証開示後に提出されたので、時機に後れた攻撃防御方法に当たり、却下されるべきである。
(2) なお、後願商標の登録(後願商標権)は、商標登録の要件(商標法4条1項11号)の存在に鑑みても、先願商標権の権利範囲を制限するものではない。また、無効の抗弁の提出が訴訟上認められている以上、後願商標であるZ商標の使用権は、先願商標権である本件商標権の権利行使を制限する抗弁としては機能しない上、Z商標には無効理由(同号違反)がある。

判旨

1 争点1(本件商標と被告標章が類似するか)について
(1) 判断手法
 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得るかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。

(2) 本件商標と被告標章の対比
ア 分離観察の可否
(ア) 本件商標は、明朝体風の漢字2文字(「恋」「苺」)が縦書きされたものであり、各文字の大きさ及び色彩は同一である。
(イ) 被告標章は、やや丸みのあるPOP体風の平仮名2文字(「あわ」)漢字1文字(「恋」)及び平仮名3文字(「いちご」)が、等間隔にやや円弧状に横書きされたもので、各文字の大きさ及び色彩は同一であり、まとまりよく構成されている。他方、被告標章のうち「あわ」部分については、「あわ」には「泡、粟、安房(千葉県南部の旧称)、阿波(徳島県の旧称)」(広辞苑第7版)などの複数の意味があり、平仮名表記であるがゆえに多義的なものといえるところ、指定商品との関係において、「あわ」が、例えば「泡」の意味である場合、「あわ」部分も自他商品の識別力を有し得るとはいえるが、「あわ」が「阿波」及び「安房」の意味である場合、「あわ」部分は地域を示す普通名称にすぎない上、産地表示などが広く行われているいちごを指定商品としていることからも、上記識別力があるとはいえない。そうすると、被告標章については、需要者において、「あわ」部分が上記のように複数ある意味のうち、「泡」のように一定の識別力を持ち得る意味として受け取られるであろう取引の実情があるのであれば、「あわ」の識別力が否定できない結果、「恋いちご」の部分のみを抽出した類否判断が許されないことも想定される一方、被告標章が付されたパッケージの態様など取引の実情に照らし、需要者において、「あわ」が識別力を伴わない地域名称を意味し、産地や販売地を表示するものとして受け取られるのであれば、「恋いちご」の部分を抽出して本件商標と比較検討することが許されるものといえる(標章の分離観察の可否も、需要者の観点から商標類否を判断する過程そのものであるところ、取引の実情を踏まえるべきものといえる。)。
 そして、本件の取引の実情をみると、被告各商品のパッケージには、被告標章のほかに、「徳島県産」とのいちごの産地を示す文字や「徳島県産 阿波のいちご」との文字が付記され、徳島県の伝統芸能である阿波踊りの踊り子や「阿波」と記載された提灯のイラストが目立つ態様で描かれているところ、被告標章の「あわ」の部分につき、漢字ではなく、平仮名表記とはいえ、需要者に対し、地域名称である「阿波」を意味し、産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえるから、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され、「恋いちご」部分を抽出して、本件商標と比較検討することができるというべきである。

イ 原告商標と被告標章の分離部分の類否の検討
 本件商標と被告標章の「恋いちご」部分を対比すると、外観は上記ア(ア)のとおりであり、冒頭の「恋」の漢字において共通する一方、書体や「いちご」部分が漢字であるか平仮名であるかの違いこそあるものの、呼称としては、本件商標が「レンバイ」「レンマイ」「コイイチゴ」であるのに対し、被告標章の「恋いちご」部分も「コイイチゴ」であって、「コイイチゴ」の称呼において同一である。また、観念についても、「恋苺」及び「恋いちご」は造語であり、「一緒に生活できない人に強くひかれて切なく思うこと。思慕の情、恋慕、恋愛」(前掲広辞苑)を意味する「恋」に果物の「いちご」を組み合わせることによって、恋愛のように強くひかれるいちごとの観念が生じ、いずれの観念も同一である。そして、取引の実情として、被告各商品は、被告標章を付したいちご同梱の商品であるから本件商標の指定商品と同一である一方、誤認混同の回避につながるような特段の事情などがあるわけでもないことも考慮すると、被告標章の「恋いちご」部分に接した需要者(商品の取引者や消費者)は、本件商標と出所を誤認混同するおそれがあると認められ、両者は全体として類似するといえる。
 そして、1個の商標から2個以上の呼称、観念を生じる場合には、その1つの称呼、観念が登録商標と類似するときは、それぞれの商標は類似すると解される(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)ところ、被告標章における分離観察が許される部分について、本件商標との類似性が肯定される以上、被告標章は本件商標と類似する。

ウ これに対し、被告は、被告標章がひとまとまりの文字であることから、全体を一体として対比すべきであり、被告標章の「あわ恋」の部分は、「淡い」の「淡」を平仮名表記した「あわ」に「恋」を組み合わせたものであって、「あわ」部分からは「阿波」との観念は生じないことなどを前提に、被告標章の分離観察は許されず、本件商標と被告標章は類似しないと主張する。
 しかし、一般論として、「淡い恋」という表現が存在することから、「あわ恋」という文言自体から、「淡い恋」の「い」を省略し、「あわ」を平仮名表記したものであると受け取られる余地を否定するものではないが、本件では、前記検討のとおり、被告商品のパッケージにおいて、被告標章に加え、その「あわ」部分が地域名称としての「阿波」の意味であることを強調するイラストや文字が付されているものであるところ、このような取引の実情のもと、需要者が、被告標章の「あわ」部分から、まずもって想起するのは、地域名称としての「阿波」というほかない。そうすると、需要者からすれば、「あわ」部分は、識別力を伴わない産地表示の趣旨として受け取られる一方で、そのことの裏返しの帰結として、同部分を分離した残りの「恋いちご」の部分が、被告標章全体とは離れて、出所識別機能を果たしているとの印象を需要者に与えるものであるところ、同部分を分離観察しての本件商標との類否判断が可能となるものである。
 他方、上記のような取引の実情を踏まえてもなお、被告標章のうち、「あわ恋」の部分から、「淡い恋」の「い」を省略し、「あわ」を平仮名表記したものとの受け止めが生じる余地を一概に否定するものではないが、そうであったとしても、本件の取引の実情のもとでは、あくまで、まずもって「あわ」は地域名称としての「阿波」を意味しているとの想起が前提にあって、その副次的ないわゆる掛詞としての趣旨にとどまるといえる。そのため、上記のような検討のもとで、「恋いちご」部分が、被告標章全体とは離れて、出所識別機能を果たすという需要者の印象、受け止め自体を左右するものではなく、分離観察のもと、本件商標との類否判断をすることを否定する事情とはいえない。
 このような分離観察のもと、被告標章から生じる称呼、観念のうちの1つについて、本件商標との類似性が肯定される以上、被告標章は本件商標と類似するものといえるのであって、被告の上記主張は、この判断を妨げるものではなく、採用することはできない。

2 争点2(登録商標使用の抗弁が成立するか)について
(1) 時機に後れた攻撃防御方法に当たるか
 当裁判所は、令和6年11月11日の弁論準備手続期日に侵害論の心証開示及び和解勧告を行い、和解協議が続けられたが、被告は令和7年2月25日付け準備書面をもって上記抗弁を提出し、その後和解交渉が決裂した(顕著な事実)。
 このように、被告は、侵害論の心証開示後に上記抗弁を提出したところ、その内容に照らせば、上記抗弁は心証開示前に提出することは十分できたというべきである。また、上記抗弁は、心証開示前に既に被告が主張していたZとの間の本件許諾契約を前提とするものではあるが、新たな抗弁である以上、原告に防御の機会を付与すべきものであるから、訴訟の完結を遅延させるものであると認められる。
 以上から、上記抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法として却下する。
(2) なお、念のため検討すると、被告が登録商標使用の抗弁として主張するところは、被告標章が本件商標と類似することを前提としながら、本件商標に後れて出願された登録商標(Z商標)の使用の範囲内であることを理由として、商標権侵害を否定するものであるが、そのような主張自体、先行して出願された登録商標と類似し、需要者に誤認混同を惹起するおそれのある標章使用を肯定するに等しく、商標法の想定するところとは解されない。すなわち、被告標章自体は、多義的な語である「あわ」を用いていることもあって、本件商標との誤認混同のおそれを回避する使用態様も想定されないものではないが、本件における取引の実情としては、前記1で検討したとおり、「あわ」部分の識別力を否定し、需要者に対し、本件商標との誤認混同を生じさせる使用態様が採られているものであるところ、商標法の目的、趣旨に照らし、登録商標の効力をもってしても、このような態様での標章使用を正当化できるものではなく、商標法のもとで付与された権利を濫用するものというべきである。よって、被告の上記主張は抗弁として成り立たない。

 

解説/検討

 本判決では、結合商標の類否に関する「リラ宝塚事件」(最高裁昭和37年(オ)第953号、昭和38年12月5日判決)、「つつみのおひなっこや事件」(最高裁平成19年(行ヒ)第223号、平成20年9月8日判決)の、以下の規範が組み合わせられて引用されている。

・「リラ宝塚事件」の規範
「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」は分離可能(①)
・「つつみのおひなっこや事件」の規範
「その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」は分離可能(②)
「それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合」は分離可能(③)

 原告は、本件登録商標「恋苺」の商標権を有している。本判決では、特に「それ以外の部分」の識別力の有無を、取引の実情に基づいて具体的に判断すべきかが問題となった。本判決は、結合商標の分離観察の可否について、構成文字の意味内容のみならず、パッケージ表示や図柄等を含む「取引の実情」によって、特定部分の識別力が左右され得ることを明示した点に意義がある。
 また、本判決は、「あわ恋」が「阿波」と「淡い」の掛詞として理解され得る可能性を認めつつも、取引の実情の下では地域名称としての意味が第一次的に想起されるとし、掛詞的意味合いは副次的なものにとどまると評価した。この点は、多義的語の評価手法として実務上参考になる。仮に、「あわ」部分に独自の識別力を持たせる意図がある場合には、表示態様において当該部分が産地表示として理解されないような工夫が必要であった可能性がある。被告標章自体だけではなく、「取引の実情」として、その他の記載やイラストにまで気を配る必要があることが示唆される。
 文字のみを見れば通常使用権を有する商標を使用している場合でも、「取引の実情」次第では、他の商標権の侵害になり得る点に、注意が必要である。本判決は、後願登録商標に係る通常使用権の存在のみをもって、当然に先願商標権侵害を否定することはできず、具体的な使用態様が誤認混同を生じさせるものである場合には、当該使用は権利濫用としても許されないと判示した。
 被告は、「あわ恋いちご」について通常使用権の許諾を受けていたと主張したが、本判決は、当該抗弁を時機に後れた攻撃防御方法として却下した上で、なお付言として、具体的な使用態様が誤認混同を生じさせる場合には、登録商標に基づく使用であっても権利濫用として許されない可能性がある旨を指摘した。この点は、登録商標の存在と侵害成否との関係を整理する上で重要である。

 

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