【「ゴミサー」商標 権利濫用事件】
投稿日:2026年4月24日 |
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著者:弁護士 小林 英了
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参照条文/キーワード/論点 |
権利濫用 |
ポイント販売代理店契約中に無断で登録された商標権に基づく、製造元への権利行使が権利濫用と認められた事例 |
判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第46部 |
| 判決言渡日 | 令和8年1月16日 |
| 事件番号 | 令和5年(ワ)第70505号 |
| 事件名 | 商標権侵害行為差止請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
髙橋 彩
西山 芳樹 瀧澤 惟子 |
事案の概要
原告が被告に対し、被告が業務用生ごみ処理機(被告商品)に被告標章(「ゴミサー」標章)を付して販売等することにより、原告の保有する商標権(原告商標権)が侵害されたとして、被告商品の差止め及び廃棄、並びに損害賠償を請求した事案。
裁判所は、「ゴミサー」標章には被告の信用が化体していたこと、被告旧商標権の消滅を知った原告は、被告との販売代理店契約の継続中に無断で原告商標権の設定登録を受けたことを挙げ、原告による商標権の行使は権利濫用にあたるとして、請求を棄却した。
争点
権利濫用の成否
判旨
本件出願の当時、業務用生ごみ処理機について使用される被告標章を含む「ゴミサー」の標章には、被告商品の開発製造者であり、複数の販売代理店に対する販売元に当たる被告の信用が化体していたものといえる。
業務用生ごみ処理機のような機械は、製造者によって、製造される機械が本来有すべき性能を備えるものとなっているか否か、不具合の多寡などが左右されるといえるし、被告商品には製造元として被告の会社名が付されていたこと(同カ)も踏まえれば、仮に、同標章に、被告商品の精力的な営業活動を通じて原告の信用が化体しているとしても、それは一販売代理店としての信用であって、原告独自の信用ではない。
被告旧商標権が存続していた間は、原告は、販売代理店として必要な限度で「ゴミサー」の標章の使用を許諾されていたものと解されるが、被告旧商標権が平成21年6月18日に消滅したからといって、被告が「ゴミサー」の標章についての権利を放棄したことにはならないし、被告から原告に「ゴミサー」の標章に化体した信用が移転するものでもない。
原告は、被告旧商標権が消滅していることを知ると、被告が被告商品について被告標章を使用していることを十分に認識しながら、本件販売代理店契約の継続中に、被告に無断で原告商標権の設定登録を受けたものである。
原告は、原告商標権の設定登録の事実を被告に知らせず、被告による被告標章の使用に対する権利行使もしていなかったにもかかわらず、被告との間で本件販売代理店契約の終了や「ゴミサー」標章の使用について何らの協議をすることがないまま、被告商品の販売を中止し、「ゴミサー」の標章を付した原告商品の販売を開始し、その後、本件無効審判請求が確定したのを受けて、原告商標権の権利行使を行ったものである。
以上のとおりの「ゴミサー」の文字から成る標章に化体した信用の帰属、本件出願から権利行使に至る経緯、被告における被告標章の利用状況など本件に現れた一切の事情に照らせば、原告の被告に対する原告商標権に基づく権利行使は、権利の濫用として許されないというべきである。
解説/検討
商標権の行使が権利濫用に該当するかどうかは、登録商標の取得経過や取得意図、商標権行使の態様等により、商標権の行使が客観的に公正な競争秩序を乱すかどうかを基準とされている(東京地判平成17年10月11日[ジェロヴィタール])。本判決では判断基準は明示されていないが、同様の枠組みで判断されているといえる。
本件は、代理店契約における販売業者が、製造業者の登録商標が消滅していたことを奇貨として商標登録を行ったことに起因したものであり、無効審判や役務商標での権利化を強いられる結果となり、商標管理の重要性を改めて認識させる事案である。先使用についても争われていたが、周知性の認定が難しかったのか、一般条項である権利濫用による処理となっている。
権利濫用と判断された他の類型としては、下記が挙げられる
◆一定の関係がある会社間(グループ会社、共同で同様の標章を使用してきたグループ会社)の内部紛争に起因する場合(知財高判令和5年3月6日[丸忠]、知財高判平成29年5月17日[極真会館])
◆海外の商標を剽窃して権利化した場合(知財高判平成28年3月31日[インディアンモトサイクル])
◆除斥期間経過後に周知商標使用者に対して権利行使した場合(最判平成29年2月28日[エマックス])
◆不使用審判により取り消されるべき登録商標に基づく差止請求(東京地判平成26年10月30日[PITAVA]、東京地判平成31年2月22日[moto])
