【ミールキットの提供サービスの標章「パクモグ」と菓子の小売役務の登録商標「パクとモグ」は類似するとして侵害請求の一部が認められた事例】

 

投稿日:2026年4月24日

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著者:弁理士 井出 麻衣子
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

商標の類否/商標法4条1項11号

 

ポイント

 原告は自社の登録商標である「パクとモグ」(かな商標等)に基づく商標権(菓子の小売等役務等)を有しているところ、被告が販売するミールキット「PAKU MOGU(パクモグ)」の商品名称・パッケージ・広告等に使用されている標章が自社登録商標に類似しているとして、使用差止、損害賠償等を請求した事案である。被告標章のうち「パクモグ」と原告標章「パクとモグ」の類似性及び両役務の類似性が肯定され、差止等請求の一部が認められた。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第29部
判決言渡日 令和7年1月24日
事件番号 令和4年(ワ)第11316号
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
國分 隆文
間明 宏充
木村 洋一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 原告は以下の登録商標(以下「原告商標」)を有する菓子の製造、販売等を業とする事業者である。
原告商標1 画像
原告商標2 画像
 いずれも、指定役務は菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(パンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供を除く)である。
 被告は、国内外食事業、宅食事業等を業とする事業者であり、令和4年2月から「PAKU MOGU(パクモグ)」との名称でミールキットカット済・下ごしらえ済食材、調味料、レシピがセットになったもの)の販売を開始した。
 被告ウェブページ、被告チャンネルで公開された動画のタイトル、説明及びサムネイル(以下、総称して「被告ウェブページ等」という。)に加え、被告ミールキットに係るレシピ、パンフレット及びチラシには、被告各標章が記載されていた。
 原告は、これら被告標章が原告商標と類似し、かつ指定役務と被告の提供する役務が類似するとして、使用の差止め、被告各標章を付したミールキットに係る包装等の廃棄及び被告ウェブページ、被告チャンネルで公開された動画のタイトル等からの被告各標章の削除を求めるとともに、損害賠償等を請求した。

<被告標章>
被告標章1
画像
被告標章2
画像
被告標章3
画像
被告標章4
画像
被告標章5
パクモグ
被告標章6
pakumogu-mealkit.jp
被告標章7
画像

 

争点

(1)原告各商標と被告各標章の類否(争点1)
(2)原告各商標の指定役務と被告各標章が使用される商品又は役務の類否(争点2)
(3)商標法26条1項6号該当性(争点3)
(4)差止め等の必要性(争点4)
(5)損害の発生及び額(争点5)

以下では、争点1、2、5に関する点について記載する。

   

判旨

1 争点1(原告各商標と被告各標章の類否)について

(2)原告各商標及び被告各標章に係る需要者について
 証拠(甲3ないし8、13、139、155)及び弁論の全趣旨によれば、原告各商標及び被告各標章に係る需要者は、飲食物の提供を求める一般消費者であると認められる。

(3)原告各商標について
ア 原告商標1は、ゴシック体様の片仮名及び平仮名から成る「パクとモグ」という文字が横書きされたものであり、文字の色は全て黒色であるが、これらの文字のうち平仮名の「と」は他の文字と比べて小さい。
イ 原告商標2は、図案化されたゴシック体様の「PaQ to MoG」という文字が横書きされたものであり、文字の色は全て黒色である。ただし、2文字目の「a」に相当する部分は左を向いて口を開けた様子を、8文字目の「G」に相当する部分は右を向いて口を閉じた様子を、それぞれ示すキャラクターのように図案化されており、通常のアルファベットの「a」及び「G」の文字とは相違している。また、これらの文字のうち4文字目及び5文字目の「to」は他の文字と比べて小さい。

(4)被告各標章について
ア 被告標章1は、野菜のイラストのように図案化された「PAKUMOGU」という文字が横書きされたものであり、各文字には八種類の異なる着色がされている。
イ 被告標章2は、上段に図案化された「PAKU」という文字が横書きされ、下段に同様に「MOGU」という文字が横書きされて、それらが二段に配置されているものであり、各文字には八種類の異なる着色がされている。
ウ 被告標章3は、ゴシック体様のアルファベットの「PAKU MOGU」という文字が横書きされたものであり、各文字は基本的に黒色である。
エ 被告標章4は、ゴシック体様のアルファベットの「PAKUMOGU」という文字が横書きされたものであり、各文字は基本的に黒色である。
オ 被告標章5は、ゴシック体様の片仮名の「パクモグ」という文字が横書きされたものであり、各文字は基本的に黒色である。
カ 被告標章6は、半角のアルファベット、ハイフン及びドットから成る「pakumogu-mealkit.jp」を横書きしたものであって、ドメイン名を表す文字列であることから、各文字の字体や色は特定できない。
 そして、被告標章6のうち「mealkit」の部分は、ミールキットという一般的な商品の名称を記載したものにすぎず、「.jp」の部分は、日本を表すトップレベルドメインであることからすれば、被告標章6は、複数の構成部分を組み合わせた結合商標であって、「pakumogu」以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合に該当するというべきである。
 したがって、被告標章6のうち「pakumogu」の文字部分を要部として抽出し、それと原告各商標との類否を判断することができるというべきである。
キ 被告標章7は、上段に被告標章1と同様に図案化されて着色された「PAKUMOGU」という文字が横書きされ、下段に「子どもたちのおすみつきミールキット」という文字が横書きされて、それらが二段に配置されているものである。これらの文字のうち下段の「子どもたちのおすみつきミールキット」という文字については、その文字の大きさが上段の文字より小さい上、文字の色は黒色のみであり、図案化はされていない。
 そして、上段の「PAKUMOGU」の部分と下段の「子どもたちのおすみつきミールキット」の部分とでは、文字の種類、大きさ及び色彩が異なっており、外観上、それぞれ独立したものとして明確に区別することができるから、被告標章7は、複数の構成部分を組み合わせた結合商標であって、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないというべきである。また、上段の「PAKUMOGU」の部分については、図案化され、下段の部分よりも大きく書かれていること、下段の「子どもたちのおすみつきミールキット」の部分は、ミールキットの品質を示すものにすぎず、特定の出所を示すものとは認められないことからすれば、上段の「PAKUMOGU」という文字部分が、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、上記の文字部分以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合にも該当するというべきである。
 したがって、被告標章7のうち「PAKUMOGU」の部分(被告標章1と同様の内容)を要部として抽出し、それと原告各商標との類否を判断することができる。

(5)原告商標1と被告各標章との対比
ア 原告商標1と被告標章1の類否について
(ア) 外観については、原告商標1は、片仮名と平仮名の「パクとモグ」という文字から成るものであり、文字の色が全て黒色であるのに対し、被告標章1は、野菜のイラストのように図案化されたアルファベットの「PAKUMOGU」という文字から成るものであり、各文字に八種類の異なる着色がされている。
 このように、原告商標1と被告標章1は、その文字の種類及び構成、色彩並びに図案化の有無が異なるものであり、両者の外観が類似するということはできない。
(イ) 称呼については、原告商標1は「パクトモグ」という称呼が生じるのに対し、被告標章1は「パクモグ」という称呼が生じるものといえ、両者の称呼は、「パク」と「モグ」との間に「ト」の称呼が含まれるか否かという点において相違する。
 しかしながら、両者の称呼は、通常比較的弱く聴覚されることが多い中間音である「ト」が相違するのみであり、「パク」及び「モグ」という大部分の称呼が共通していることからすれば、両者の称呼が全体として長いものとはいえないことを考慮しても、類似するというべきである。
(ウ) 観念については、「パクとモグ」及び「PAKUMOGU」はいずれも造語であり、「パクとモグ」は国語辞書に掲載されている単語ではなく、また、「PAKUMOGU」は英単語として一般的に使用されているものはない。
 もっとも、証拠(甲33ないし57、71ないし96)及び弁論の全趣旨によれば、国語辞典においては、「さかんに食べるようす」などを意味する単語として「ばくばく」という単語が、「口をとじたままで物をかむようす」を意味する単語として「もぐもぐ」という単語が、それぞれ掲載されていること、食育、食品又は飲食店等の名称やその説明の際には、食べることを想起されるものとして「ぱくぱく(パクパク)」及び「もぐもぐ(モグモグ)」という単語が使用されており、「ぱくぱく(パクパク)」という単語は「ぱく(パク)」と、「もぐもぐ(モグモグ)」という単語は「もぐ(モグ)」と、それぞれ省略され得ることが認められる。
 そして、原告商標1の指定役務は、主に菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供であり、被告標章1は被告ミールキットの提供に係るものに使用されており、いずれも飲食に関して使用されているものであることを併せ鑑みると、原告商標1及び被告標章1は、いずれも物を食べることを意味する「ぱくぱく」及び「もぐもぐ」を想起させるというべきである。
 したがって、両者は同一の観念を想起させるものであるといえる。
(エ) 取引の実情については、証拠(甲3、5、6、13)及び弁論の全趣旨によれば、被告ミールキットは、被告ウェブページやコールセンターから注文するものであること、被告ウェブページ等には、目立つ位置に記載されているわけではないものの、「ワタミ」、「watami」などといった被告の名称を意味する記載が存在することが認められる。
 そうすると、需要者としては、このような記載から被告ミールキットが被告によって提供をされていることを認識することも可能であるから、原告商標1と被告標章1の称呼や観念に共通点があったとしても、それだけで需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれがあるとまでは認められない。
(オ) 前記(ア)ないし(ウ)のとおり、原告商標1と被告標章1は、その称呼において類似し、同一の観念を想起させるものであるといえるが、外観は類似するとはいえない。そして、前記(エ)の取引の実情に加え、「パクとモグ」と「PAKUMOGU」はいずれも造語であるため、「パクとモグ」を「と」を抜いた上アルファベットで記載したとしても、その表記が必ずしも「PAKUMOGU」となるわけではないこと、原告商標1はゴシック体様かつ黒色であるのに対し、被告標章1は野菜のイラストのように文字を図案化している上、各文字に八種類の異なる着色がされており、その外観は大きく異なることも踏まえると、その需要者である一般消費者において、「PAKUMOGU」が「パクとモグ」をアルファベット表記にしたものであると容易に認識できるとはいえず、原告商標1と被告標章1の外観の差異は、需要者に異なる印象を強く与えるものということができる。
 これに対し、原告は、被告ウェブページ等には片仮名の「パクモグ」という標章が被告標章1と併せて存在することから、原告商標1と被告標章1の外観の相違は類似性を否定するものではないと主張する。
 しかしながら、証拠(甲3ないし6、13)及び弁論の全趣旨によれば、被告ウェブページ等で主に使用されているのは、図案化されたものを含むアルファベットの「PAKUMOGU」であり、片仮名の「パクモグ」は補助的に使用されているにすぎないことが認められ、このことからすれば、被告ウェブページ等に片仮名の「パクモグ」の記載が存在することは、上記の判断を左右するような事情ではないというべきである。
(カ) 以上によれば、原告商標1と被告標章1とが同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。
 したがって、原告商標1と被告標章1が類似するとは認められない。

イ 原告商標1と被告標章2ないし4、6及び7の類否について
(ア) 被告標章2は、上段には図案化されたアルファベットの「PAKU」という文字が横書きされ、下段には同様の「MOGU」という文字が横書きされて、それらが二段に配置されたものであって、各文字には八種類の異なる着色がされていることから、被告標章1を二段に分けて記載したものといえる。
 また、被告標章3はゴシック体様のアルファベットの「PAKU MOGU」が横書きされたものであり、被告標章4はアルファベットの「PAKUMOGU」が横書きされたものであり、両者はいずれも基本的に黒色であるところ、これらと被告標章1の差異は、主に上記の文字が図案化されているか否か及び着色されているか否かという点にすぎない。
 さらに、前記(4)カ及びキのとおり、被告標章6においては「pakumogu」の部分を、被告標章7においては被告標章1と同一の「PAKUMOGU」の部分を、それぞれ要部として抽出し、それらと原告商標1との類否を判断することができる。
 そうすると、原告商標1と被告標章2ないし4、6及び7の類否については、文字の図案化や着色の点を除き、前記アの説示が同様に妥当するというべきである。
(イ) そして、取引の実情について、証拠(甲3ないし6)及び弁論の全趣旨によれば、被告ウェブページ等において最も目立つ位置に記載されているのは被告標章1であり、被告標章2ないし4、6及び7はそれと併せて使用されているものであることが認められ、需要者としては、被告標章2ないし4、6及び7が被告標章1と同様の内容を意味するものと認識する可能があるものといえる。
 そうだとすれば、前記(ア)の共通点を踏まえても、需要者が商品の出所を誤認混同するおそれがあるとまでは認められず、むしろ、原告商標1と被告標章2ないし4、6及び7の外観の差異は、需要者に異なる印象を強く与えるものということができる。
(ウ) 以上によれば、原告商標1と被告標章2ないし4、6及び7とが同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。
 したがって、原告商標1と被告標章2ないし4、6及び7が類似するとは認められない。

ウ 原告商標1と被告標章5の類否について
(ア) 原告商標1は、ゴシック体様の片仮名及び平仮名から成る「パクとモグ」という文字が横書きされたものであり、文字は全て黒色であって、被告標章5は、ゴシック体様の片仮名の「パクモグ」という文字が横書きされたものであり、文字は基本的に黒色である。両者の外観を比較すると、片仮名の「パク」と「モグ」の間に平仮名の「と」が含まれるか否かという点において相違するものの、その点以外の大部分においては共通している上、原告商標1において、「と」が他の文字と比べてやや小さく記載されていることも考慮すれば、両者の外観は類似するというべきである。
(イ) 原告商標1と被告標章5において、その称呼において類似し、同一の観念を想起させるものであることは、前記ア(イ)及び(ウ)で説示したとおりである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおり、原告商標1と被告標章5は、その外観及び称呼において類似しており、同一の観念を想起させるものであるということができるから、前記ア(エ)及びイ(イ)で説示した取引の実情を踏まえても、原告商標1と被告標章5とが同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれ生じるものと認められる。
 したがって、原告商標1と被告標章5は類似するものと認めるのが相当である。
(エ) 被告は、①被告の調査によれば、ツイッターやインスタグラムといったSNSでの投稿において、「パクとモグ」と「パクモグ」を誤認した投稿がほとんど存在しないこと、②「パクモグ」が被告ミールキットを示すものとして周知となっていることなどから、需要者は商品又は役務の出所を実際に誤認混同していないと主張する。
 しかしながら、上記①については、証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば、被告の調査は、約3か月間の投稿を調査したものにすぎないこと、調査の対象となった投稿(被告が無関係と判断したものを除く。)は、合計で300件弱と少数であったこと、調査の対象になった投稿には、原告自身が行った投稿や同一のアカウントからの投稿が含まれていたこと、被告の調査によっても、「パクとモグ」と「パクモグ」を誤認した投稿が確認されていたことが認められる。これらの事実に照らせば、上記の被告の調査の内容のみをもって、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないと評価することはできないというべきである。
 また、上記②については、証拠(乙21、22)及び弁論の全趣旨によれば、被告ミールキットは販売1年で40万食を販売しており、テレビ番組で紹介されたことがあることが認められるものの、被告ミールキットは、令和4年2月1日に販売開始されているところ(前提事実(3)ア)、訴状送達の日である同年5月25日までは4か月足らずであり、口頭弁論終結日である令和6年10月21日でも2年9か月足らずであって、その販売期間が長期間にわたるとまでいえないことを踏まえると、被告ミールキットの販売数等は上記(ウ)の判断を左右する事情ではないというべきである。
 したがって、被告の上記主張はいずれも採用できない。

(6)原告商標2と被告各標章との対比
ア 原告商標2と被告標章1の類否について
(ア) 外観について、原告商標2と被告標章1は、アルファベットの「P」、「M」及び「O」という文字を含み(ただし、「О」の文字について、原告商標1は小文字の「о」が使用されているのに対し、被告標章1は大文字の「О」が使用されている。)、横書きである点が共通するといえるが、その文字列全体を比較すると、原告商標2は、アルファベットの「PaQ to MoG」という文字を図案化したものであり、文字の色は全て黒色であるのに対し、被告標章1は、アルファベットの「PAKUMOGU」という文字を図案化したものであり、各文字には別々の色が付されている点で、両者は相違する。
 そうすると、原告商標2と被告標章1は、その文字の構成、色彩及び図案化の態様が異なるものといえるから、両者の外観が類似するとはいえない。
(イ) 称呼については、原告商標2のうち2文字目の「a」に相当する部分は左を向いて口を開けた様子を、同8文字目の「G」に相当する部分は右を向いて口を閉じた様子を、それぞれ示すキャラクターのように図案化されており、アルファベットの「a」及び「G」の文字とは大きく相違しているところ、「PaQ」及び「MoG」は一般的に使用されている英単語ではないことも踏まえると、原告商標2のうち2文字目及び8文字目に相当する部分をアルファベットの「a」及び「G」と認識することは困難である。
 このような事情に加え、原告商標1のうち1文字目ないし3文字目の「PaQ」と6文字目ないし8文字目の「MoG」はいずれもローマ字表記ではなく、4文字目及び5文字目の「to」について、これをローマ字表記の「ト」と認識することも困難であることを併せ鑑みると、必ずしも原告商標2自体から「パクトモグ」という称呼が生じるとまでは認められない。
 そうすると、原告商標2の称呼が、被告標章1の称呼(パクモグ)と類似するとは認められない。
(ウ) 観念については、前記(イ)で説示したとおり、そもそも原告商標2を「パクとモグ」と認識することは困難であるといえるから、原告商標2から物を食べることを意味する「ぱくぱく」及び「もぐもぐ」を想起させるということはできないというべきである。
 そうすると、原告商標2と被告標章1の観念が類似するとは認められない。
(エ) 以上のように、原告商標2と被告標章1は、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するとはいえないから、原告商標2と被告標章1とが同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、原告商標2と被告標章1について、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。
 したがって、原告商標2と被告標章1が類似するとは認められない。

イ 原告商標2と被告標章2ないし4、6及び7の類否について
 原告商標2と被告標章2ないし4、6及び7の類否については、各文字着色の点を除き、前記アの説示が同様に妥当する。そして、文字の色が共通する点についても、当該共通点は単に文字の色が同一であることを意味するものにすぎず、そのような事情のみをもって両者の外観が類似するということはできない。
 したがって、原告商標2と被告標章2ないし4、6及び7は、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するとはいえないから、両者が類似するとは認められない。

ウ 原告商標2と被告標章5の類否について
(ア) 外観については、原告商標2は「PaQ to MOG」という文字を図案化したものであるのに対し、被告標章5は片仮名の「パクモグ」という文字からなる点で相違している。
 このように、原告商標2と被告標章5は、その文字の構成、色彩及び図案化の態様が大きく異なるものであるから、両者の外観が類似するとはいえない。
(イ) 原告商標2と被告標章5において、その称呼及び観念が類似するとはいえないことは、前記ア(イ)及び(ウ)で説示したとおりである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおり、原告商標2と被告標章5は、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するとはいえず、原告商標2と被告標章5とが同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、原告商標2と被告標章1とは、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。
 したがって、原告商標2と被告標章5が類似するとは認められない。

(7) 小括
 以上によれば、原告商標1と被告標章5は類似するものと認められるが、原告商標1とその余の被告各標章及び原告商標2と被告各標章についてはいずれも類似するものと認めることはできない。

2 争点2(原告各商標の指定役務と被告各標章が使用される商品又は役務の類否)について
(1)原告商標1の指定役務
 前提事実(2)のとおり、原告商標1に係る商標権が設定登録された時点での原告商標1の指定役務は、「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」であり、そのうち「パンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」については、その後、不使用取消審判により、その指定役務についての商標登録が取り消すべき審決が確定しているから、同指定役務に係る商標権は本件請求登録日に消滅したものとみなされる(商標法54条2項)。
 そこで、まず、上記取消し後の原告商標1の指定役務である「菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と被告標章5が使用される商品又は役務との類否について検討する。

(2) 被告標章5が使用される役務
 証拠(甲3ないし6、8、13)及び弁論の全趣旨によれば、被告ミールキットは、①被告が子どもたちの意見を基にメニューの開発等をした上で、②一般消費者は、被告ウェブページやコールセンターからミールキットの注文を行い、③被告は、上記の注文に基づき、定期的にミールキットを注文者宅に送付し、④注文者は、被告から送付されたミールキットを利用して食事を完成させるという形で提供されていること、被告標章5に関して、被告ウェブページ(甲3)には、「PAKUMOGU(パクモグ)は、子どもたちが「おいしい!」と認めたメニューをお届け。好き嫌いの多い子どもたちの完食を目指したミールキットです。」という記載が、被告ミールキットのパンフレット(甲5)には、「PAKUMOGU」の上部に「パクモグ」という記載が、検索サイトでの検索を促す記載として「ワタミ パクモグ」という記載が、被告ミールキットのチラシ(甲6)には「PAKUMOGU(パクモグ)を一度も利用したことがない方に「PAKUMOGU」をぜひご紹介ください!」という記載が、被告チャンネルには、動画のタイトルとして「パクモグ新登場!」、「パクモグ 生活応援キャンペーン」という記載が、それぞれ存在することが認められる。
 このような事情からすれば、被告標章5は、被告ミールキットという商品のみならず、被告による一般消費者へのミールキットの提供という役務に対しても使用されていると認めるのが相当である。

(3) 対比
 菓子とミールキットとは、いずれも飲食物の範疇に含まれることから、原告商標1の指定役務と被告標章5が使用される役務は、いずれも飲食物の販売に係る顧客に対する便宜の提供を目的とする役務であるといえ、提供の目的は一致する。
 また、上記の役務の提供の場所及び手段について、前記(2)のとおり、被告ミールキットはインターネットやコールセンターにおける注文に基づき注文者宅に送付されるものであるところ、証拠(甲7、139、乙12)及び弁論の全趣旨によれば、原告商標1の指定役務である「菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」も、インターネット上のショッピングサイトを通じてされる場合があると認められるから、両者の役務の提供の場所及び手段は一致する場合がある。
 そして、証拠(甲3ないし8、139、155)及び弁論の全趣旨によれば、被告標章5が使用される役務に関連する物品は、食材、調味料、レシピ、食器、スプーン等であり、上記の物品のうち少なくとも食材や食器については、原告商標1の指定役務である「菓子の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」にこれらの物品が関連する場合もあり得ることが認められ、原告商標1の指定役務と被告標章5が使用される役務とで関連する物品が一致する場合があるといえる。
 さらに、前記1(2)のとおり、原告商標1の指定役務及び被告標章5が使用される役務の需要者は、いずれも飲食物の提供を求める一般消費者であるから、両者の需要者の範囲は一致する。
 加えて、証拠(甲66ないし70)及び弁論の全趣旨によれば、ミールキットを提供している事業者が菓子の提供を行う場合もあることが認められるから、原告商標1の指定役務と被告標章5が使用される役務が同一の事業者によって提供される場合もあるといえる。
 以上の事情を総合的に考慮すると、ミールキットは、主に食事のために提供されるものであるため、食事以外の嗜好品として提供される菓子とは同様の形で提供されない場合があり得ることを踏まえても、原告商標1の指定役務と被告標章5が使用される役務に同一又は類似の商標が使用されたときには、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあるといえる。
 したがって、商標登録が取り消された原告商標1の指定役務である「パンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と対比するまでもなく、原告商標1の指定役務と被告標章5が使用される役務は類似するものと認められる。

5 争点5(損害の発生及び額)について
(1)商標法38条3項による損害額の算定
ア 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、経済産業省知的財産政策室編の「ロイヤルティ料率データハンドブック~特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ~」には、第35類「広告、事業の管理又は運営及び事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の指定役務に係る商標の使用料率(ロイヤルティ料率)は、平均3.9パーセント、標準偏差3.5パーセント、最大値11.5パーセント、最小値0.5パーセントと記載されていることが認められる。
 この点について、上記の使用料率は、菓子やミールキット以外に係る使用料率の例が含まれると推認されることに加え、前記1ないし3で説示したとおり、本件では、被告各標章のうち被告標章5(片仮名の「パクモグ」)のみが原告商標1を侵害すると認められるところ、このような一部の標章のみの使用を前提に使用許諾契約を締結することは通常考え難く、本件全証拠によっても、そのような契約が締結され得るような例外的な事情を認めることはできないから、本件において上記の文献で記載されている使用料率がそのまま妥当するということはできない。
 そして、前記1(5)ア(オ)のとおり、被告ウェブページ等で主に使用されているのは、アルファベットの「PAKUMOGU」であり、片仮名の「パクモグ」は補助的に使用されているにすぎない上、証拠(乙35ないし38、41)及び弁論の全趣旨によれば、被告が令和6年2月頃までに被告ウェブページ等から被告標章5を削除した後も、被告ウェブページのユニークユーザー数は減少しておらず、むしろ増加傾向にあることが認められる。そうだとすれば、被告標章5の使用が被告ミールキットの売上げに与える影響は極めて限定的なものにとどまるものというべきである。
 なお、原告は、インターネット上の検索サイトで被告ミールキットを検索する需要者としては、片仮名の「パクモグ」を使用して検索するのが通常であることから、被告標章5の使用が被告ミールキットの売上げに大きく寄与していることを主張する。
 しかしながら、需要者が平仮名等ではなく片仮名の「パクモグ」を使用して検索するのが通常であるとの事実を認めるに足りる証拠はない。しかも、仮に需要者が上記の方法で検索を行うとしても、それは既に別の方法で被告ミールキットの名称を把握しているからであるとも考えられ、そうだとすれば、原告の指摘するような事情から被告標章5の記載が被告ミールキットの売上げに大きく寄与しているということはできない。
 したがって、原告の上記の主張は採用できない。
イ 他方、商標権侵害をした者に対して事後的に定められるべき登録商標の使用に対し受けるべき使用料率は、通常の使用料率に比べて自ずと高額になるものと解される。
ウ 以上の事情を総合考慮すると、本件において、原告商標1の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を算定する際の使用料率は、被告ミールキットの売上高の1パーセントとするのが相当である。
 したがって、商標法38条3項により算定される損害額は、510万3740円(5億1037万4025円×0.01)と認められる。
エ これに対し、被告は、①原告サイトにおいては、原告商標1そのものは使用されていない上、原告が販売しているのは菓子であり、ミールキットの販売はしていないことなどを踏まえると、原告商標1は顧客誘引力を有するものではなく、また、②被告は、アルファベットの「PAKUMOGU」を中心に使用しており、被告標章5はアルファベット表記に続く読み仮名として、ごくわずかな部分で補助的に使用されているだけであり、被告ウェブページから被告標章5を削除した後も、被告ウェブページのアクセス数に影響はなく、被告標章5は被告ミールキットの売上げに全く寄与していないことから、損害不発生の抗弁が成立すると主張する。
 しかしながら、上記①については、証拠(甲7、139、159)及び弁論の全趣旨によれば、原告は「パクとモグ」という名称のインターネット上のショッピングサイト(原告サイト)を運営しており、原告サイトには、その字体や文字の色は原告商標1とやや異なるものの、原告サイトのことを意味するものとして「パクとモグ」という記載が存在すること、原告サイトは、令和3年1月に日本マーケティングリサーチ機構が実施した調査において「ギフトにぴったりな菓子通販NO.1」に選ばれたことが認められる。このような事情からすれば、菓子とミールキットが必ずしも同様の形で提供されるものではないことを考慮しても、原告商標1に顧客誘引力が全く認められないということはできない。
 また、上記②については、前記2(2)及び3で説示したとおり、被告標章5は、その余の被告各標章と併せて、被告の提供する役務の出所を示すものとして使用されていることが認められ、このような事実を前提に検討すると、本件全証拠によっても、被告標章5の使用のみが被告ミールキットの売上げに全く寄与していないことが明らかであるとまでは認められないというべきである。
 したがって、本件において損害不発生の抗弁が成立するとはいえないから、被告の上記の主張は採用できない。


(2) 弁護士費用に係る損害額
 事案の難易及び前記(1)で認定した損害額並びにその他本件で現れた諸般の事情に照らすと、本件において被告による原告商標権1の侵害と相当因果関係を有する弁護士費用は50万円とするのが相当である。

(3) 小括
 以上のとおり、原告に生じた損害額は合計560万3740円となる。

第5 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告による被告標章5に係る使用行為の差止め及び被告標章5を付したミールキットに係る包装等の廃棄並びに560万3740円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年5月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、原告の請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

 

解説/検討

 本件においては、被告標章1~7のうち、被告標章5(「パクモグ」)のみが原告商標と類似すると判断された。しかし、被告標章3(「PAKU MOGU」)および被告標章4(「PAKUMOGU」)は、いずれも被告標章5(「パクモグ」)をローマ字表記したものにすぎない。片仮名表記をアルファベット表記に変更すること自体はありふれたものであり、需要者に与える印象が大きく異なるとはいえない。そのため、本件判断は一貫性を欠くようにも思われる。

 また、本件においては、菓子の小売等役務とミールキットの販売・提供が類似すると判断されている。これは、提供の目的、提供の場所および手段、需要者の範囲が一致することを理由とした判断であったが、これらの要素は飲食料品に関する役務であれば一般的に共通し得るものであるため、類似性を比較的容易に肯定しているように思われる。とりわけ侵害判断の場面においては、より慎重な検討が求められるべきではないかと考える。

 

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