【結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、類否を判断することが否定された事例】
投稿日:2026年4月24日 |
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著者:弁護士 木村 広行
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参照条文/キーワード/論点 |
商標法36条1項/商標法36条2項/商標法37条 |
ポイント原判決は、明朝体風の漢字2文字で「恋苺」と縦書きされた本件商標と、「あわ恋いちご」が等間隔にやや円弧状に横書きされた被告標章との類否判断において、被告標章の「あわ」の部分につき、地域名称である「阿波」を意味し、識別力は否定されるとして、被告標章から「恋いちご」部分を抽出して、本件商標と対比して類似性を肯定したが、本判決は、被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じており、「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されないとしたうえ、本件商標と被告標章を対比して、類似性を否定した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 大阪高等裁判所第8民事部 |
| 判決言渡日 | 令和8年2月13日 |
| 事件番号 | 令和7年(ネ)第1750号 |
| 事件名 | 商標権侵害差止請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
森崎 英二
久末 裕子 森 鍵一 |
事案の概要
1 本件商標
【登録番号】第5006976号
【登録日】平成18年12月1日
【出願日】平成18年1月27日
【登録商標】

【役務の区分及び指定役務】第31類 いちご、いちごの種子、いちごの苗
2 被告標章目録

(原判決(大阪地判令和7年7月17日・令和6年(ワ)第5007号の「(別紙)被告標章目録」より引用)
3 被告商品目録
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(上記商品写真は、原判決(大阪地判令和7年7月17日・令和6年(ワ)第5007号の「(別紙)被告商品目録」より引用)
争点
本件商標と被告標章が類似するか。
原審(原々審)の判断
(以下、下線・強調は筆者による)
⑴ 判断手法
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得るかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。
⑵ 本件商標と被告標章の対比
ア 分離観察の可否
(ア)本件商標は、明朝体風の漢字2文字(「恋」「苺」)が縦書きされたものであり、各文字の大きさ及び色彩は同一である。
(イ)被告標章は、やや丸みのあるPOP体風の平仮名2文字(「あわ」)漢字1文字(「恋」)及び平仮名3文字(「いちご」)が、等間隔にやや円弧状に横書きされたもので、各文字の大きさ及び色彩は同一であり、まとまりよく構成されている。他方、被告標章のうち「あわ」部分については、「あわ」には「泡、粟、安房(千葉県南部の旧称)、阿波(徳島県の旧称)」(広辞苑第7版)などの複数の意味があり、平仮名表記であるがゆえに多義的なものといえるところ、指定商品との関係において、「あわ」が、例えば「泡」の意味である場合、「あわ」部分も自他商品の識別力を有し得るとはいえるが、「あわ」が「阿波」及び「安房」の意味である場合、「あわ」部分は地域を示す普通名称にすぎない上、産地表示などが広く行われているいちごを指定商品としていることからも、上記識別力があるとはいえない。そうすると、被告標章については、需要者において、「あわ」部分が上記のように複数ある意味のうち、「泡」のように一定の識別力を持ち得る意味として受け取られるであろう取引の実情があるのであれば、「あわ」の識別力が否定できない結果、「恋いちご」の部分のみを抽出した類否判断が許されないことも想定される一方、被告標章が付されたパッケージの態様など取引の実情に照らし、需要者において、「あわ」が識別力を伴わない地域名称を意味し、産地や販売地を表示するものとして受け取られるのであれば、「恋いちご」の部分を抽出して本件商標と比較検討することが許されるものといえる(標章の分離観察の可否も、需要者の観点から商標類否を判断する過程そのものであるところ、取引の実情を踏まえるべきものといえる。)。
そして、本件の取引の実情をみると、被告各商品のパッケージには、被告標章のほかに、「徳島県産」とのいちごの産地を示す文字や「徳島県産 阿波のいちご」との文字が付記され、徳島県の伝統芸能である阿波踊りの踊り子や「阿波」と記載された提灯のイラストが目立つ態様で描かれている(甲3、4)ところ、被告標章の「あわ」の部分につき、漢字ではなく、平仮名表記とはいえ、需要者に対し、地域名称である「阿波」を意味し、産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえるから、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され、「恋いちご」部分を抽出して、本件商標と比較検討することができるというべきである。
イ 原告商標と被告標章の分離部分の類否の検討
本件商標と被告標章の「恋いちご」部分を対比すると、外観は上記ア(ア)のとおりであり、冒頭の「恋」の漢字において共通する一方、書体や「いちご」部分が漢字であるか平仮名であるかの違いこそあるものの、呼称としては、本件商標が「レンバイ」「レンマイ」「コイイチゴ」であるのに対し、被告標章の「恋いちご」部分も「コイイチゴ」であって、「コイイチゴ」の称呼において同一である。また、観念についても、「恋苺」及び「恋いちご」は造語であり、「一緒に生活できない人に強くひかれて切なく思うこと。思慕の情、恋慕、恋愛」(前掲広辞苑)を意味する「恋」に果物の「いちご」を組み合わせることによって、恋愛のように強くひかれるいちごとの観念が生じ、いずれの観念も同一である。そして、取引の実情として、被告各商品は、被告標章を付したいちご同梱の商品であるから本件商標の指定商品と同一である一方、誤認混同の回避につながるような特段の事情などがあるわけでもないことも考慮すると、被告標章の「恋いちご」部分に接した需要者(商品の取引者や消費者)は、本件商標と出所を誤認混同するおそれがあると認められ、両者は全体として類似するといえる。
そして、1個の商標から2個以上の呼称、観念を生じる場合には、その1つの称呼、観念が登録商標と類似するときは、それぞれの商標は類似すると解される(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)ところ、被告標章における分離観察が許される部分について、本件商標との類似性が肯定される以上、被告標章は本件商標と類似する。
判旨
(以下、下線・強調は筆者による)
(1)被控訴人は、被告標章は「あわ」と「恋いちご」を組み合わせた結合商標であり、「恋いちご」部分が要部であるとして、これを前提に本件商標と類否を判断し類似である旨主張するところ、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。
(2)これにより本件についてみると、被告標章の構成中には、本件商標と同じ称呼を生ずる「恋いちご」という文字部分が含まれているが、被告標章は、「あわ恋いちご」の文字をやや丸みのあるPOP体風書体の文字をやや円弧状に横書きして成されたものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「恋いちご」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。また、引用した前提事実⑵によれば、本件商標は平成18年に商標登録された商標であるが、いかなる態様で使用されているについて明らかにされておらず、これが取引者、需要者に広く知られていることを認めるに足りる証拠は被告各商品が取引されている地域に限ってもないから、本件商標と同じ称呼である被告標章の構成中の「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできない。
これに対して被控訴人は、被告標章の冒頭に付された「あわ」の文字部分は、旧国名としての地名である「阿波」を想起させるもので、商品の産地又は販売地を意味するにすぎないため出所識別機能を有さず、「恋いちご」の文字部分が出所識別機能を担う要部になると主張する。確かに、被告各商品のパッケージの表面のデザインからは、そこに付された被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるといえる。
しかし、被告標章のみで観察した場合、「あわ」の文字からは、「阿波」のみならず「泡」、「粟」、「安房」、「淡」も想起され得ることからすると、被告各商品のパッケージの表面のデザインにおいて被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるのは、被告各商品のパッケージの表面に被告標章と共に「徳島県産」の表記、阿波踊りの踊り手及び「阿波」と記載された高張提灯のイラストが描かれ、さらに本件各商品2には「徳島県産 阿波のいちご」と記載され、これらの記載類から、被告標章の「あわ」の文字部分が地名である「阿波」の意味を有することが示唆されているからというべきである。そして、このようにいえることは、証拠(甲8)によれば、被告各商品のように商品名の冒頭に地名の「阿波」を意味するものとして平仮名の「あわ」が用いられている商品では、パッケージ等に商品名の冒頭の「あわ」の文字部分が地名の「阿波」であることを示唆する記載を伴うことが一般的であると認められることから裏付けられているといえる(なお、各商標の説明は、同表「説明等(裁判所認定)」欄記載のとおりである。また、前掲証拠によれば、同表に列挙したとおり、サービス、サービス提供場所等の名称にも「あわ」の文字部分を地名の「阿波」で用いられている例が多数あるが、これらの場合には、そのサービス提供者、サービス提供場所自体が徳島に関連することが明らかな状態で使用されているので、そのことによって「あわ」の文字部分が地名の「阿波」を意味することが示唆されていると認められる。)。
そして、被告標章を付された上記デザインのパッケージがいちごを同梱した被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情を考慮すると、被告標章の構成中の「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であるということになるから、その部分は、商品を普通に記述しているにすぎないと理解され、その余の部分である「あわ恋」という言葉は、既存の言葉に「淡い恋心」、「淡い恋」などがあり、また、被告標章の外観が柔らかな印象が与えられるようデザインされていることと相まって「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されるものと考えられるから、前説示のとおり、「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったとはいえないことも考え併せると、被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じているというべきである。
そうすると、被告標章が上記デザインのパッケージに付されることによって、「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるとしても、上記デザインのパッケージがいちごを同梱商品とする被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情の下においては、被告標章は、「あわ恋」と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の文字部分に被告各商品の産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないと考えられることになるから、被告標章と本件商標の類否を判断するに当たっては、被告標章を「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されないというべきである。
したがって、被告標章の冒頭に付された「あわ」の文字部分は出所識別機能を有さず、「恋いちご」の文字部分が出所識別機能を担う要部になるとして、被告標章の構成中の「恋いちご」の文字部分を抽出し、この部分だけを本件商標と比較して商標そのものの類否を判断しようとする被控訴人の主張は採用することができないというべきである。
(3)そこで以上を踏まえて本件商標と被告標章の類否を判断すると、本件商標は、漢字を縦書きしているのに対し、被告標章は「恋」以外を平仮名で表記し、やや丸みのあるPOP体風書体の文字を等間隔にやや円弧状に1行かつ一連で横書きしたものであって外観において明らかに異なり、また本件商標は「コイイチゴ」の称呼を生ずるのに対し、被告標章は「アワコイイチゴ」の称呼を生ずるものであって重なる部分はあるものの、文字数が異なり称呼が類似しているとはいえない。そして、いずれも果実の名称であるいちごに、本来、味覚を表現しない心理、感情状態の語を組み合わせて、当該果実の味覚を表現するという手法で造られた言葉であるが、「恋」と「淡い恋」で違う観念が想起されるから、これといちごを組み合わせることで生ずる観念も類似するとはいえず、したがって、本件商標と被告標章は全体として類似するということはできない。
解説/検討
原判決は、「あわ恋いちご」のうち、「あわ」の部分が、地名である「阿波」を意味し、産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるとして、「恋いちご」の部分を抽出したものである。
他方、本判決も、「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されることは認めている。しかし、本判決は、被告標章の構成中の「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であることや、「あわ恋」という言葉は、「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されることなどを考慮して、被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じていると評価したものである。
この点、被告標章の「いちご」の部分が商品の普通名称であることから、この部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと考えられるため、「あわ恋」の部分の識別力を検討することは合理的な判断と考えられる。そして、本判決は、「あわ」の部分から「阿波」の地名が想起されるとしても、「淡い恋」を略した造語とも理解されることから、「あわ」の部分も含めた「あわ恋」の部分に識別標識としての称呼、観念が生じるとした点も妥当であるように考えられる。
ただ、本判決は、「恋」と「淡い恋」で違う観念が想起されるとして、本件商標と被告標章の観念の類似性を否定したものであるが、「恋」と「淡い恋」は「恋」という観念で共通しており、「淡い」はあくまで「恋」の態様を示すものであることも考えると、両者の観念の類似性を否定するにあたっては、その理由をもう少し丁寧に示す必要があったように思われる。
