【「基礎コンクリート及び水切り部」の立体商標の識別力】

 

投稿日:2026年4月24日

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著者:弁理士 大塚 啓生
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

立体商標の識別力/商標法3条1項3号/商標法3条2項

 

ポイント

※本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。
※商標法3条1項3号の該当性が争われ、原告は本願商標が単なる役務の提供の用に供する物の形状ではないことを主張したが、裁判所は審決の判断を維持し、商標法3条1項3号に該当すると判断した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和8年2月26日
事件番号 令和7年(行ケ)第10095号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
中平 健
今井 弘晃
水野 正則
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 原告が36類及び37類の役務を指定して「基礎コンクリート及び水切り部の立体商標」(商願2022-135735)を出願したところ、商標法3条1項3号に該当するとの拒絶査定を受け、当該査定に対して拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁の審判において請求不成立の審決がされたため原告が審決取消を請求した事件。裁判所は、原告の請求は理由がないとして審決を維持した。
 


争点

住宅の基礎コンクリート及び水切りの部分からなる立体商標の識別力


争点に関する当事者の主張

原告の主張:
①本願商標に接した需要者が、本願商標のような凹凸形状を美観のためのものであると認識することはあり得ず、建築物の基礎は、住宅部分と比較して、機能や美観と関係なく識別力を発揮する。
②本願商標は、凹凸のある型枠によりコンクリートを成型するという特異な工程を経ることで、本来平坦である基礎(コンクリートの打ちっぱなし)そのものを敢えて凹凸の形状にしており、住宅の基礎としては極めて特異な形状をしているから、平面形状である塗装や基礎保護材と同列に扱うこと自体が誤りである。
③木造住宅に加え、軽量鉄骨住宅の基礎に、本願商標をおよそ25年間統一して用いており、本願商標が識別機能を十分機能していることは客観的に明確である。

   

判旨

1 取消事由1(本願商標が商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について
(1)…
 商標法上、商標登録を受けようとする商標が立体的形状からなる場合であっても、所定の要件を満たす限り、登録を受けることができる(商標法2条1項、5条2項2号)。
 しかし、商品(役務の提供の用に供する物を含む。以下、特に断らない限り同様である。)の形状は、多くの場合、商品に期待される機能をより効果的に発揮させることや、商品の美観をより優れたものとすること等の目的で選択されるものであって、直ちに商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように、商品の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能又は自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また、商品の形状を見る需要者の観点からしても、商品の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するのであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。
 加えて、商品の機能又は美観に資することを目的とする形状は、同種の商品に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標登録出願したことのみを理由として特定人に当該形状の独占使用を認めることは、公益上適当でない。
(中略)
…建物の基礎部分の機能又は美観向上のために、石材を用いたり、塗装や化粧モルタル施工等を行い表面に装飾をすることは一般に行われており、その中には、石調の素材等を使用し、その質感・素材感を再現したり重量感・ボリューム感があることを謳うものや、縦線や横線を施したものや目地による線を用いた意匠を施すもの、凹凸をつけたものなども存在する。また、一般の水切りの形状に比して、本願商標のうちの水切り状の部分に、特段の特徴があるものとは認められない。
 そうすると、本願商標の立体的形状は、建物の基礎部分について、機能又は美観に資することを目的として採用されたと認められるものであり、建物の基礎部分の形状として、本願商標の需要者において、機能の向上又は美観の向上を目的とする形状の変更又は装飾等を施したものと予想し得る範囲のものということができるから、それを超えて、本願商標の形状の特徴をもって、役務の出所を識別する標識として認識させるものとはいえない。そして、これら機能又は美観に資することを目的とした立体的形状の採用について、特段の事情も認められない。
 したがって、本願商標に係る立体的形状は、商品の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当するというべきである。

2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する判断の誤り)について
(1)…立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の存否、当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、立体的形状が需要者の目に付き易く、強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で、立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断するのが相当である。
(中略)
 本願商標が付されたとする商品(本願の役務の提供に供する物である建物の基礎。ただし、前述のとおり、本願商標のように、建築物の全周において、どこからでも視認可能な態様で基礎部分が構成された完成建物に係る証拠は、本件訴訟において、一つも提出されておらず、そのように本願商標が表示された建築物が存在することやその数を認めるに足りる証拠があるとはいえない。)の販売開始から約25年が経過していること及び販売地域が全国であること、原告の事業規模や売上高等を考慮しても、原告による宣伝広告の態様は、本願商標の出所識別標識としての認知度の向上に直ちにつながるものと認められないし、本願商標も、既に述べたとおり、需要者の目に付き易く、強い印象を与えるものであったということもできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至ったと認めることはできない。
 そうすると、本願商標の商標法3条2項該当性を否定した本件審決の判断に誤りはないというべきである。

 

解説/検討

 令和2年の商標審査基準の改訂により、店舗の外観・内装について「立体商標」として保護されることとなった。
 しかしながら、審査基準を見る限りでは、テクニカルに商標登録出願ができるようになるものであって、店舗等の外観等の登録要件が緩和されたわけではない。現行の審査基準では、「建築や不動産等の建築物を取り扱う役務を指定役務とする場合に、商標が立体商標であり、その形状が建築物の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎないときは、その役務の『提供の用に供する物』を表示するもの」として商標法3条1項3号に該当するとされ、「立体商標について、商標が、指定商品又は指定役務を取り扱う店舗等(建築物に該当しないものを含む。例えば、移動販売車両、観光車両、旅客機、客船)の形状(内装の形状を含む。以下同じ。)にすぎないと認識される場合」は商標法3条1項6号に該当するとされている。
 本来、こうした建物の外観等は意匠として保護されるべきであって、永続的な保護を可能とする商標制度には馴染まないと考える。もちろん、建物の外観等が出所識別標識として認識される可能性はあると思うが、登録のハードルは高く設定すべきであろう。基本的には商標法3条2項の適用がなければ商標登録すべきではないと考える。
 本判決のポイントは、需要者を、住宅建築や基礎工事に関する専門的な知識を有している者に限定することなく、住宅購入や建設工事を検討する一般消費者を含むと判断したことにある。一般需要者が対象になるとすれば、斬新な形状であったとしても、建物の外観等の一部として認識するに過ぎないケースは多いように思われる。特に本件のような「基礎コンクリート及び水切り部」が一般需要者にとって出所識別標識として認識されることは考え難い。本判決が建物の外観の立体商標のメルクマールとなるのであれば、その登録のハードルは極めて高く設定されたことになると考える。
 なお、ざっと調べたところ、審査基準改訂後、建物の外観等に関して登録が認められたのは下記2件であるが、いずれも識別力のある文字を有している(「ろばたやき/山ろく」と「SEKISUI HOUSE」)。すなわち、外観等の形状のみから成る立体商標の登録はまだ認められていない。

6859184号
43類:飲食物の提供
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6911463号
36類:建物の管理,等
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