【物品「チュニック」に係る本意匠と物品「スカート」及び「パンツ」に係る関連意匠が非類似と判断された事例】
投稿日:2026年6月15日 |
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著者:弁理士 土生 真之
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参照条文/キーワード/論点 |
意匠法第10条第1項/物品の類否/意匠の類否 |
ポイント
物品の類否と「意匠登録を受けようとする部分」の類否も含めて総合的な判断を行うという判断手法により、物品「チュニック」に係る本意匠と物品「スカート」及び「パンツ」に係る関連意匠が非類似と判断された。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第1部 |
| 判決言渡日 | 令和8年3月24日 |
| 事件番号 | 令和7年(行ケ)第10093号(A事件) 同第10094号(B事件) |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
増田 稔
伊藤 清隆 天野 研司 |
事案の概要
【手続の経過】
(A事件)
原告は、令和3年9月30日、意匠に係る物品を「スカート」とする意匠の物品の部分について、本意匠を意願2021-21205(意匠登録第1722780号。意匠に係る物品は「チュニック」。意匠の形態について別紙1参照。以下「本件登録意匠」といい、意匠登録を受けようとする部分を「本意匠部分」という。)とする関連意匠の意匠登録出願(意願2021-21208。意匠の形態について別紙2参照。以下、この出願に係る意匠を「本願意匠A」といい、意匠登録を受けようとする部分を「本願部分A」という。)したところ、令和5年3月28日付けで拒絶査定を受けた。
原告は、令和5年6月30日、拒絶査定不服審判を請求したところ、特許庁は、同請求を不服2023-10889号事件として審理し、令和7年8月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件A事件審決」という。)をし、その謄本は同月29日に原告に送達された。
原告は、令和7年9月26日、本件A事件審決の取り消しを求める訴えを提起した。
◆本意匠


◆本願意匠A(関連意匠)


(B事件)
原告は、令和3年9月30日、意匠に係る物品を「パンツ」とする意匠の物品の部分について、本意匠を本件登録意匠とする関連意匠の意匠登録出願(意願2021-21209。意匠の形態について別紙3参照。以下、この出願に係る意匠を「本願意匠B」といい、意匠登録を受けようとする部分を「本願部分B」という。)したところ、令和5年3月28日付けで拒絶査定を受けた。
原告は、令和5年6月30日、拒絶査定不服審判を請求したところ、特許庁は、同請求を不服2023-10890号事件として審理し、令和7年8月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件B事件審決」といい、本件A事件審決と併せて「本件各審決」という。)を、その謄本は同月29日に原告に送達された。
原告は、令和7年9月26日、本件B事件審決の取り消しを求める訴えを提起した。
◆本意匠


◆本願意匠B(関連意匠)


【本件各審決の理由の要旨】
(A事件)
本願意匠Aの意匠に係る物品は「スカート」であるのに対し、本意匠の意匠に係る物品は「チュニック」であって、相違する。
本願部分Aと本意匠部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は相違する。
共通点であるジグザグの編み目模様をほぼ等間隔に形成した点は、両意匠に視覚的なまとまりを与え、需要者に強い共通の美感を起こさせるものであるから、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められる。また、着用時から非着用時への変化態様は、縦方向の長さは保ちつつ、横方向のみ縮む変化は両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものと認められる。
相違点である着用時と非着用時の編み目模様間の変化態様について、本願意匠Aはスカートであるため、ウエストベルト部分の影響で、本願部分Aの編み目模様間の態様が上方の平行から下方へ向かって漸次窄んでいく態様に変化するのに対して、本意匠はチュニックであるため、本願意匠Aのような構造上の影響はなく、本意匠部分の編み目模様間の態様は上方下方いずれも平行のため、一定程度の相違があると言える。他方、編み目模様の本数について、本願部分Aは23本であるのに対して、本意匠部分は12本である点については注視することでようやく気付く程度の差異であり、それら差異のみによって、両部分を別異のものとするほどの大きな相違といえず、いずれの相違点も両部分の類否判断に与える影響は小さい。
以上によると、本願意匠Aと本意匠は、意匠に係る物品が相違し、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が相違し、その相違が形状等に影響を与えているといえるため、意匠登録を受けようとする部分の形状等は類似したとしても、意匠登録を受けようとする部分全体として総合して判断した場合には、本願意匠Aは本意匠に類似するとは認められない。
(B事件)
本願意匠Bの意匠に係る物品は「パンツ」であるのに対し、本意匠の意匠に係る物品は「チュニック」であって、相違する。
本願部分Bと本意匠部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は相違する。
共通点であるジグザグの編み目模様をほぼ等間隔に形成した点は、両意匠に視覚的なまとまりを与え、需要者に強い共通の美感を起こさせるものであるから、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められる。また、着用時から非着用時への変化態様は、縦方向の長さは保ちつつ、横方向のみ縮む変化は両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものと認められる。
相違点である着用時と非着用時の編み目模様間の変化態様について、本願意匠Bはパンツであるため、ウエストベルト部分の影響で、本願部分Bの編み目模様間の態様が上方の平行から下方へ向かって漸次窄んでいく態様に変化するのに対して、本意匠はチュニックであるため、本願意匠Bのような構造上の影響はなく、本意匠部分の編み目模様間の態様は上方下方いずれも平行のため、一定程度の相違があると言える。編み目模様の本数について、本願部分Bの上方では17本、下方では19本であるのに対して、本意匠部分のそれは12本である点は、注視することでようやく気付く程度の差異であり、それら差異のみによって、両部分を別異のものとするほどの大きな相違といえない。他方、本願部分Bの中央の模様を、下方約3分の1の高さで略倒立V字状に二股に分かれたものとした点は、比較的小さな部分といえども、全体が平行に配された編み目模様の中にあって、その具体的な編み目模様の構成態様が特徴であり、需要者の注意を強く引く部分といえ、両意匠の視覚的印象に大きな影響を与える。したがって、物品等の違いから生じる着用時と非着用時の編み目模様の変化態様と相俟って、本願部分Bの中央下方の略倒立V字状模様の有無により、両部分の形状等は類似しない。
本願意匠Bと本意匠は、意匠に係る物品が相違し、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が相違し、その相違が形状等に大きな影響を与えているといえるため、意匠登録を受けようとする 部分全体として総合して判断した場合には、本願意匠Bは本意匠に類似するとは認められない。
争点に関する当事者の主張
【原告主張の審決取消事由(意匠法10条1項の意匠の類否に関する判断の誤り。A事件・B事件)】
1 部分意匠の類否判断は、物品の用途及び機能、物品の部分の用途及び機能、物品の部分の位置・大きさ・範囲、そして物品の部分の形状等といった美感に影響し得る諸要素を総合的に考慮して、両部分意匠が需要者に起こさせる美感が共通するかどうかで判断すべきである。
2 チュニックとスカート及びパンツは、トップス(チュニック)とボトムス(スカート、パンツ)で相違するものの、いずれも被服であるから、着用の目的は身体を装うこと、すなわち、身体にまとい、身体を保護し、身なりを整え、身体を着飾ることなどにある点で共通する。そして、それぞれの用途及び機能を詳細かつ厳密に対比した場合に認定され得る相違が、こと本件においてはそれぞれの美感に大きな影響を与えない以上、本願意匠A及び本願意匠B(以下「両本願意匠」という。)と本意匠とは、いずれも物品の用途及び機能が共通し、物品が類似する。
スカートの前身頃とチュニックの前身頃とは、両部分意匠が需要者(女性であって、「装い」の使用目的でこれを着用する者)に共通の美感を起こさせる可能性が十分にあるものと類型的に評価できる。したがって、本願意匠Aと本意匠に係る物品の部分の用途及び機能は共通し、両「物品の部分」は類似する。また、パンツ(とりわけ女性向け)の前身頃とチュニックの前身 頃の中央上方部分とは、両部分意匠が需要者に共通の美感を起こさせる可能性が十分にあるものと類型的に評価できる。したがって、本願意匠B及び本意匠に係る物品の部分の用途及び機能は共通し、両「物品の部分」は類似する。
両本願意匠の物品の部分と本意匠の物品の部分とは、位置、大きさ及び範 囲に若干の相違はあるものの、軽微なものであり、いずれも前身頃という正面の中央上方部分に広く位置するものであるから、位置、大きさ及び範囲は共通する。
両本願意匠の物品の部分と本意匠の物品の部分とは、形状等の共通部分が需要者の目を引く大きな視覚的特徴であり、他方、需要者が形状等の相違点 を重視して意匠の美的価値を評価するとは言い難い。
3 両本願意匠と本意匠とは、意匠に係る物品が類似し、意匠に係る物品の部分も類似し、部分の位置・大きさ・範囲も共通し、部分の形状等も類似する。
よって、両本願意匠と本意匠とは、それぞれ類似する。
本件各審決は、形状等の類似性よりも物品の相違に重点を置いて意匠の類 否判断を行っているが、両本願意匠が物品固有の形状に関係しない装飾的な部分意匠であることに鑑みると、両本願意匠について物品の類否に重点を置いて類否判断を行うことは妥当でない。
4 以上により、本件各審決には、意匠法10条1項の意匠の類否に関する判断の誤りがあるから、取り消されるべきである。
【被告の反論(A事件・B事件)】
1 部分意匠の類否判断は、「物品」全体の類否判断を行うとともに、出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、対比する意匠(具体的には、本意匠又は公知意匠)における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲、そして形状等について比較・評価を行い、最終的に物品の類否も含めて総合的な判断を行うことになる。
2 そこで、「物品」の類否についてみると、本意匠は意匠に係る物品が「丈が長めの上衣」である「チュニック」であるのに対して、本願意匠Aの意匠に係る物品は「腰より下を覆う筒状の下衣」である「スカート」であり、また、本願意匠Bの意匠に係る物品は「足を片方ずつ包む二股に分かれた下衣」である「パンツ」である。胴体と腕を通して上半身に着る「チュニック」と、腹部と脚を通して下半身にはく「スカート」及び「パンツ」とは、一般需要者が通常混同しない相違があるから、本意匠と本願意匠A及び本願意匠Bの用途及び機能がいずれも類似せず、「物品」は類似しない。
「意匠登録を受けようとする部分」の類否についてみても、両本願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、本意匠の「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲、そして形状等について比較・評価を行うと、両本願意匠と本意匠の「意匠登録を受けようとする部分」には、用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が相違する上、着用時と非着用時の編み目模様間の変化態様や編み目模様の本数 についても差違がある。
以上を踏まえて、物品の類否と「意匠登録を受けようとする部分」の類否も含めて総合的な判断を行うと、両本願意匠は、本意匠に類似すると認めることはできない。
3 以上により、両本願意匠は本意匠に類似せず、意匠法10条1項の規定に該当しないから、本件各審決に誤りはなく、取り消されるべき違法はない。
判旨
1 A事件についての判断
⑴ 証拠(甲15、16)及び弁論の全趣旨によると、本願部分Aは、別紙2のとおり、意匠に係る物品がスカートで、青色で着色した部分以外の部分であり、本意匠部分は、別紙1のとおり、意匠に係る物品がチュニックで、緑色で着色した部分以外の部分であると認められる。
⑵ スカートは下半身を覆う筒状の衣服(下衣)であるのに対し、チュニックは丈が長めの上衣である。腹部と脚を通して下半身にはくスカートと、胴体と腕を通して上半身に着るチュニックとは、用途及び機能がいずれも類似しないから、本願意匠Aの意匠に係る物品と本意匠の意匠に係る物品が類似するとはいえない。
⑶ 本願部分Aはスカートの一部であり、腹部を覆う用途及び機能を有するものであるのに対し、本意匠部分はチュニックの前身頃の一部であり、胸部を覆う用途及び機能を有するものであるから、本願部分Aの用途及び機能と本意匠部分の用途及び機能とはいずれも相違する。
⑷ 本願部分Aの物品全体の形状等の中での位置、大きさ及び範囲と本意匠部分の物品全体の形状等の中での位置、大きさ及び範囲とは、別紙1及び2のとおりであるから、これらは相違する。
⑸本願部分Aと本意匠部分との形状等を見るに、ジグザグの編み目模様をほぼ等間隔に形成し、着用時から非着用時への変化態様において、縦方向の長さは保ちつつ、横方向のみ縮む変化であることは共通する。他方、着用時と非着用時の編み目模様間の変化態様について、本願意匠Aの物品はスカートであるため、ウエストベルト部分の影響で、本願部分Aの編み目模様間の態様が上方の略平行から下方へ向かって漸次窄んでいく態様に変化するのに対し、本意匠の物品はチュニックであるため、本意匠部分の編み目模様間の態様は上方下方いずれも略平行であり、この相違はスカート及びチュニックという物品の構造による影響によるものと認められる。
⑹ 以上を総合すると、本願意匠Aと本意匠とは、意匠に係る物品が類似しないこと、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が相違し、それらの相違が形状等の相違に影響を与えていることなどからすると、意匠登録を受けようとする部分の形状等に共通する点があることを考慮しても、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するとはいえず、本願意匠Aが本意匠に類似すると認めることはできない。
2 B事件についての判断
⑴ 証拠(甲15、20)及び弁論の全趣旨によると、本願部分Bは、別紙 3のとおり、意匠に係る物品がパンツで、緑色で着色した部分以外の部分であり、本意匠部分は、別紙1のとおり、意匠に係る物品がチュニックで、緑色で着色した部分以外の部分であると認められる。
⑵ パンツは、股下で二つに分かれ、足を片方ずつ覆う衣服(下衣)であるのに対し、チュニックは丈が長めの上衣である。腹部と脚を通して下半身 にはくパンツと、胴体と腕を通して上半身に着るチュニックとは、用途及び機能がいずれも類似しないから、本願意匠Bの意匠に係る物品と本意匠の意匠に係る物品とは類似しない。
⑶ 本願部分Bはパンツの股上部分の一部であり、腹部を覆う用途及び機能を有するものであるのに対し、本意匠部分はチュニックの前身頃の一部であり、胸部を覆う用途及び機能を有するものであるから、本願部分Bの用途及び機能と本意匠部分の用途及び機能とはいずれも相違する。
⑷ 本願部分Bの物品全体の形状等の中での位置、大きさ及び範囲と本意匠部分の物品全体の形状等の中での位置、大きさ及び範囲とは、別紙1及び3のとおりであるから、これらは相違する。
⑸ 本願部分Bと本意匠部分との形状等を見るに、ジグザグの編み目模様をほぼ等間隔に形成し、着用時から非着用時への変化態様において、縦方向の長さは保ちつつ、横方向のみ縮む変化であることは共通する。他方、着用時と非着用時の編み目模様間の変化態様について、本願意匠Bの物品はパンツであるため、ウエストベルト部分の影響で、本願部分Bの編み目模様間の態様が上方の略平行から下方へ向かって漸次窄んでいく態様に変化するのに対し、本意匠の物品はチュニックであるため、本意匠部分の編み目模様間の態様は上方下方いずれも略平行である。また、本願部分Bの中央の模様は、下方約3分の1の高さで略倒立V字状に二股に分かれているのに対し、本意匠部分はそのような模様にはなっていない。これらの相違はパンツ及びチュニックという物品の構造による影響によるものと認められる。
⑹ 以上を総合すると、本願意匠Bと本意匠とは、意匠に係る物品が類似しないこと、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が相違し、それらの相違が形状等の相違に影響を与えていることなどからすると、意匠登録を受けようとする部分の形状等に共通する点があることを考慮しても、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するとはいえず、本願意匠Bが本意匠に類似すると認めることはできない。
3 原告の主張に対する判断
⑴ 原告は、チュニックとスカート及びパンツは、着用の目的が身体を装うこと、すなわち、身体にまとい、身体を保護し、身なりを整え、身体を着飾ることなどにある点で共通することなどから、両本願意匠と本意匠とは、いずれも物品の用途及び機能が共通し、物品が類似すると主張する。
しかし、チュニックとスカート及びパンツの用途及び機能が類似しないことは前記判示のとおりであり、これらの着用の目的が身体を装うことであったとしても、その用途及び機能の相違が需要者の視覚を通して起こさせる美感に影響する以上、両本願意匠と本意匠の物品が類似するとはいえない。
⑵ 原告は、チュニックの前身頃とスカート及びパンツの前身頃とは、需要者に共通の美感を起こさせる可能性が十分にあるものと類型的に評価できることから、両本願意匠及び本意匠に係る物品の部分の用途及び機能は共通すると主張する。
しかし、チュニックの前身頃とスカート及びパンツの前身頃の用途及び機能が相違することは前記判示のとおりであり、その用途及び機能の相違が需要者の視覚を通して起こさせる美感に影響する以上、両本願意匠及び本意匠に係る物品の部分の用途及び機能が共通するとはいえない。
⑶ 原告は、両本願意匠の物品の部分と本意匠の物品の部分とは、位置、大きさ及び範囲に若干の相違はあるものの、軽微なものであり、いずれも前身頃という正面の中央上方部分に広く位置するものであるから、位置、大きさ及び範囲は共通すると主張する。
しかし、両本願意匠の物品の部分と本意匠の物品の部分の位置、大きさ及び範囲が相違することは前記判示のとおりであり、これらが前身頃という点で共通するとしても、それらの位置、大きさ及び範囲が相違することに変わりはない。
⑷ 原告は、①両本願意匠の物品の部分と本意匠の物品の部分とは、形状等の共通部分が需要者の目を引く大きな視覚的特徴であり、他方、需要者が形状等の相違点を重視して意匠の美的価値を評価するとは言い難いこと、②両本願意匠について物品の類否に重点を置いて類否判断を行うことは妥当でないことを主張する。
しかし、前記判示のとおり、原告が指摘する形状等の共通点を考慮したとしても、その他の諸点を併せて総合評価した結果として、両本願意匠と本意匠の需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通するとはいえず、両本願意匠が本意匠に類似すると認めることはできないのであるから、原告の上記主張は採用することができない。
4 結論
以上によると、原告主張の取消事由には理由がないから、本件各審決に取り消すべき違法はない。
解説/検討
審査基準において、意匠の類否は、物品が同一又は類似することが前提とされており、裁判例においてもそのような判断手法がとられている(下記参照)。
【意匠審査基準】
対比する両意匠の意匠に係る物品等の使用の目的、使用の状態等に基づき、意匠に係る物品等の用途及び機能を認定する。
意匠の類似は、対比する意匠同士の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であることを前提とする。
物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合も同様であり、例えば、カメラのグリップ部分について意匠登録を受けようとする意匠が意匠登録出願された場合、権利の客体となる意匠に係る物品は、当該グリップ部分を含む「カメラ」であることから、新規性の判断の基礎となる資料は、「カメラ」及びそれに類似する物品等に係る意匠となる。
【化粧用パフ事件(平成16年(ワ)第6262号)】
意匠とは,物品(物品の部分を含む。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいい(意匠法2条1項),物品と一体をなすものであって,物品が異なれば意匠も異なることになるから,登録意匠と「類似する意匠」(同法23条)というためには,その意匠に係る物品が同一又は類似することを要する。そして,意匠の類否は,一般需要者を基準とし,登録意匠と類似の美観を生じさせ,両意匠に混同を生じさせるおそれがあるか否かによって決すべきものであることにかんがみると,意匠に係る物品の類否も,一般需要者を基準とし,両物品が同一又は類似の用途,機能を有すると解される結果,両物品間に混同を生じさせるおそれがあるか否かという観点からこれを決すべきものと解される。
しかし、本件においては、特許庁自身「部分意匠の類否判断は、『物品』全体の類否判断を行うとともに、出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、対比する意匠(具体的には、本意匠又は公知意匠)における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲、そして形状等について比較・評価を行い、最終的に物品の類否も含めて総合的な判断を行うことになる。」と主張しており、「物品の類似」を意匠の類否の前提条件としてではなく、一考慮要素として位置付けていることが興味深い。
近年の特許庁の審決においても物品が非類似であることのみを以って、直ちに意匠が非類似であるとの判断は行っていないようである(パテント2022 Vol.75 No.10 「意匠の類否判断における『物品の類否』についての考察と提言」)。
意匠登録を受けようとする部分の創作価値を評価するという観点からは、「物品」自体の類似を必ずしも前提としない立場も理解できるが、総合的な判断を行うとしても、クリアランス負担軽減という政策的観点から、「物品」の類似を軽視することには慎重であるべきと思われる。
