【応用美術の著作物性(量産実用品)に関する新たな判断基準の定立(TRIPP TRAPP第3号事件)】
投稿日:2026年6月15日 |
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著者:弁護士 曽我 響
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参照条文/キーワード/論点 |
著作権法2条1項1号/著作物性/応用美術/応用美術の著作物性/TRIPP TRAPP |
ポイント
※本件は、原告が、製品名を「TRIPP TRAPP」とする子供用の椅子の著作権侵害を主張して被告を提訴した事案である。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 最高裁判所第二小法廷判決 |
| 判決言渡日 | 令和8年4月24日 |
| 事件番号 | 令和7年(受)第356号 |
| 事件名 | 不正競争行為差止等請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 裁判官 |
岡村和美
三浦 守 尾島 明 高須順一 |
事案の概要
・ 事案の概要
本件は、オプスヴィック社及びオプスヴィック社から独占的利用権を取得したストッケ社が原告となり、子供用の椅子、製品名「TRIPP TRAPP」について、国内メーカーNozを著作権侵害・不正競争防止法違反で提訴した事案である。
【原告製品】(本判決 別紙「製品目録」より抜粋)

【被告製品1】(本判決 別紙「被告製品目録」より抜粋)

【被告製品2】(本判決 別紙「被告製品目録」より抜粋)

・ TRIPP TRAPP判決の歩み
TRIPP TRAPPをめぐる訴訟は本件のほか、2件存在する。各判決におけるTRIPP TRAPP(幼児用椅子)の著作物性、とりわけ応用美術の著作物性に関する判断基準及び当てはめを紹介する。
(1) TRIPP TRAPP第1号事件(東京地裁平成22年11月18日(平成21年(ワ)第1193号))
上記判決は、応用美術の著作物性について、「それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り,著作権法による保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。」としたうえで、「本件デザインは,いすのデザインであって,実用品のデザインであることは明らかであり,その外観において純粋美術や美術工芸品と同視し得るような美術性を備えていると認めることはできない」として著作物性を否定した。(純粋美術同視説/段階理論)
(2) TRIPP TRAPP第2号事件(知財高裁平成27年4月14日判決(知財高判平成26年(ネ)第10063号))
上記判決は、応用美術の著作物性について、「応用美術に一律に適用すべきものとして,『美的』という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは,相当とはいえない」としたうえで、「個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」と規範定立した。(非区別説/美の一体説)
この規範定立につき判例は、「応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければなら」ず、「作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され」ることが想定されるため、「表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い。」とした。
そして、当てはめにおいて、控訴人製品の形態的特徴が、選択の余地のないものでなく、著作者の個性が発揮されているか否かを重視し、著作物性を肯定した。
争点
応用美術の著作物性
第一審の判断
1 規範定立
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであり(著作権法2条1項1号)、美術の著作物には、美術工芸品が含まれる(同条2項)。そして、美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当すると解するのが相当である。
2 あてはめ
これを本件についてみると、原告製品は、前記説示に係る特徴①ないし⑥を全て組み合わせることによって、身体に接触する背板部分並びにこれに対応する座面板及び足置板の後部波状部分を除き、側木、脚木、横木、座面板、足置板及び背板という椅子を構成すべき最小限の要素を直線的に配置し、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を空間上に形成したところに、表現としての特徴があるものと認めることができる。
他方、被告各製品は、前記において説示したとおり、座面板及び足置板を固定するために原告製品よりも複数の部材を利用する点において、原告製品のような究極的にシンプルな印象を与えるものではなく、かつ、曲線的形状を数多く含む点において、原告製品のような直線的でシャープな印象を与えるものではなく、原告製品が表現する直線的構成美を明らかに欠くものといえる。
そうすると、原告製品と被告各製品は、その形態が表現するところにおいて明らかに異なるものといえる。そして、原告製品の上記直線的構成美は、究極的にシンプルであるがゆえに椅子の機能と密接不可分に関連し、当該機能といわばマージするといえるものの、仮に、これに著作物性を認める立場を採用した場合であっても、基本的にはデッドコピーの製品でない限り、製品に接する者が原告製品の細部に宿る上記直線的構成美を直接感得することはできず、まして、複雑かつ曲線的形状を数多く含む被告各製品に接する者が、原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないことは明らかである。
したがって、被告各製品の製造販売等は、明らかに原告製品を複製又は翻案するものではなく、原告らの主張を前提としても著作権侵害を構成するものとはいえない。
3 検討
第一審判決は、「美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当すると解するのが相当である。」としており、この判断基準は分離可能性説に沿ったものであるといえる。
一方で、第一審判決は、「原告製品の上記直線的構成美は、究極的にシンプルであるがゆえに椅子の機能と密接不可分に関連し、当該機能といわばマージするといえるものの、仮に原告製品に著作物性が認められるとすれば、基本的にはデッドコピーの製品でない限り、製品に接する者が原告製品の細部に宿る上記直線的構成美を直接感得することはできない」としている。
かかる認定は、アイディア表現二分論からすれば、椅子の機能というアイディアの領域により、創作性を検討すべき領域が限定されているから、デッドコピー品でない限り、原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができないとしていると解することができ、基本的に、知財高裁平成27年4月14日判決(知財高判平成26年(ネ)第10063号)の判断を踏襲しているものと見ることができるとする見方もある(判タ1526号231頁)。
原審の判断
1 規範定立
原告らが主張するように、作成者の何らかの個性が発揮されていれば、量産される実用品の形状等についても、著作物性を認めるべきであるとの考え方を採用したときは、これらの実用品の形状等について、審査及び登録等の手続を経ることなく著作物の創作と同時に著作権が成立することとなり、著作権に含まれる各種の権利や著作者人格権に配慮する必要から、著作権者の許諾が必要となる場面等が増加し、権利関係が複雑になって混乱が生じることとなり、著作権の存続期間が長期であることとも相まって「公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法の目的から外れることになるおそれがある。立法措置を経ることなく、現行の著作権法上の著作権の制限規定の解釈によって、問題の解決を図ることは困難といわざるを得ない。他方、著作権法2条1項1号によれば、「著作物」ということができるためには「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があるところ、実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は、専ら実用に供することであって、鑑賞ではない。実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。
2 あてはめ
本件について検討すると、原告製品については、特徴①から特徴③まで及び側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインという本件顕著な特徴があり、これにより原告製品の直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとなっていると認められることは、前記のとおりである。しかし、本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び足置板がある点(特徴①)、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点(特徴②)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定する点(特徴③)からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものである。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているのであって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
判旨
4(1)著作権法2条1項1号は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義している。もっとも、量産実用品については、その形状等が思想又は感情を創作的に表現したものであるということができれば、直ちに美術の範囲に属するものとして著作物に当たるとの解釈を採ることは相当ではない。
すなわち、我が国には、産業の発達に寄与することを目的として、視覚を通じて美感を起こさせる量産実用品の形状等を保護する意匠法があり、量産実用品の形状等について、意匠登録出願をして所定の審査を経て設定の登録がされることで意匠権が発生する。意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し、意匠権の存続期間は原則として意匠登録出願の日から25年とするなどとされている(1条から3条まで、6条、16条、20条、21条、23条等)。これに対し、著作権法では、登録等の手続を経ることなく著作権が発生し、業として行われる行為以外にもその効力が及び、その存続期間は原則として著作物の創作の時から著作者の死後70年を経過するまでの間とし、著作者は著作権に加えて著作者人格権も享有するなどとされている(第2章第3節第1款から第3款まで、第4節等)。以上のような我が国の意匠法及び著作権法における権利の発生要件、内容及び存続期間等に鑑みれば、上記解釈を採り、量産実用品の形状等について、意匠法に加えて著作権法により保護されることを広く認めた場合には、あえて費用等を投じて意匠登録を受けなくとも、同法によって、より長期間、広範に保護が受けられることとなる可能性があり、意匠法の存在意義を損なうおそれがある。
また、量産実用品の形状等について広く著作権法の保護が及ぶとすると、著作者人格権により権利関係が複雑化して量産実用品の利用が妨げられたり、意匠権の存続期間満了後も長期間にわたって量産実用品の形状等を自由に利用することができなくなったりすることにもなりかねず、産業の発達に寄与するという意匠法の上記目的が阻害されるおそれもある。
(2)もっとも、量産実用品の形状等は、通常、実用目的に必要な機能(以下、単に「機能」という。)との関係で一定の制約を受けて決定されるものであり、機能に由来する構成と別個にこれを把握することができないものであるけれども、その中には、例えば、表面に単なる模様や表面加工の域を超える装飾が付加されているもののように、当該付加部分の形状等が、機能と関連せず、観念上、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるものがある。このようなものは、量産実用品に「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)が単純に付加されたものということができ、当該付加部分に同法の保護が及ぶことは当然である。
また、量産実用品の中には、例えば、全体として彫刻等とも看取できるもののように、その全体又は部分における形状等が、当該実用品としての機能と関連してはいるものの、観念上、機能に由来する構成とは別個の彫刻等として把握できるものがある。このような形状等は、機能に由来する構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現を把握できるという点において、「美術の著作物」が単純に付加された上述の場合と同様であるということができるから、著作権法の保護を及ぼすのが相当である。上記のような形状等は、機能との関係で一定の制約を受けるのが通常である量産実用品の形状等としては例外的なものであるということができるのであって、これに著作権法の保護を及ぼしても、上記でみたような弊害が生ずるおそれは小さい。
以上によれば、量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。
(3)これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件椅子は、量産実用品であって、上告人らは、大要、約66度の略L字型を成して床面から立ち上がっている2本の脚を有し、当該2本の脚の間に座面板及び足置板が床面と平行に固定されるようになっている点において創作性が認められるから、本件椅子が著作物に当たると主張する。しかしながら、上記の点は、子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。
解説/検討
本判決は、応用美術の著作物性について、「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合」には著作物に該当するという規範を定立したうえで、機能に由来する構成とは別に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合の例として、以下の2つの類型を挙げた。
①「当該付加部分の形状等が、機能と関連せず、観念上、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるもの」
②「量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるもの」
本判決に至るまで、応用美術の著作物性の判断基準を明示した最高裁判例は存在しておらず、とりわけTRIPP TRAPPの著作物性についても、判断の異なる二つの知財高裁(知財高裁平成27年4月14日判決(知財高判平成26年(ネ)第10063号)及び本判決第二審)が存在していた。
本判決は、応用美術の著作物性の判断基準、とりわけ意匠法との棲み分けが問題となる事案に関する判断基準を明示した点で極めて意義のある判決である。
但し、本判決は、判断基準中で「量産実用品の」と記載しているため、量産実用品以外の全ての応用美術の著作物性に関する判断基準といえるかという点には留意が必要である。
また、本判決には、尾島明裁判官の補足意見が付されており、第二審(知財高裁)判決と本判決の示した判断基準の際について補足意見が述べられている。以下、一部引用する。
「原判決は、『原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られる』としている。一方、法廷意見は、『量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合』とし、『美的鑑賞』という語を用いていない。その趣旨は、本件で問題になっているのは、美術の著作物該当性であり、また意匠の定義の中に『視覚を通じて美感を起こさせるもの』という要素があることから(意匠法2条1項)、何らかの『美』の存在が措定されるものではあるが、『美的鑑賞』の語からはあたかも高度な創作性や芸術性が必要であるかのような誤解が生じかねず、また、そもそも美的な芸術としての鑑賞に値するか否かを裁判所が判断するのは不適当と思われるからである。」
本判決は、実用的に必要な機能と美的特性を分離して把握することができる場合に著作物性を認める点で、従来の分離可能性説とされる裁判例の判断基準と共通するようにも思える。
しかしながら、従来の分離可能性説とされる裁判例の判断基準には、「美的鑑賞」という語が用いられており、補足意見においてこの点に相違があることが明らかに指摘されたことで、本判決は、従来の分離可能性説とは異なる新たな判断基準を定立したものとして、実務上きわめて意義のある判決といえる。
