【日本語の読みをアルファベット表記した商標の識別力】

 

投稿日:2026年7月16日

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著者:弁理士 大塚 啓生
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

識別力/商標法3条1項3号/商標法3条2項

ポイント

 本件は、拒絶査定不服審判の請求不成立審決に対する取消訴訟である。商標法3条1項3号の該当性が争われ、原告は本願商標「HANASUI」から「鼻吸い」は認識されないことを主張したが、裁判所は審決の判断を維持し、商標法3条1項3号に該当すると判断した。 


判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和8年4月21日
事件番号 令和7年(行ケ)第10118号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
中平 健
今井 弘晃
柵木 澄子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 原告が10類「家庭用鼻水吸引器」を指定して「画像」(商願2023-18341)を出願したところ、商標法3条1項3号に該当するとの拒絶査定を受け、当該査定に対して拒絶査定不服審判を請求したが、特許庁の審判において請求不成立の審決がされたため原告が上訴した事件。裁判所は、原告の請求は理由がないとして審決を維持した。


争点

・「HANASUI」のレタリングが特徴的か。
・「HANASUI」のアルファベット表記から「鼻吸い」の意味が観念されて指定商品の品質表示と認識されるか。

争点に関する当事者の主張

原告の主張:
・本願商標は「鼻吸い」の語を欧文字で「HANASUI」と表示したものであるところ、用いられているフォントは一般に販売ないし使用されているものではなく、原告がデザイナーにデザインを依頼して納品されたものである。本願商標は、単に欧文字を並べたものではなく、デザイナーにより納品された角を丸めた柔らかい書体を採用し、文字間隔を調整することで、鼻水吸引器という商品の堅さ・無機質さを緩和し、親和的で柔らかなイメージを付与する図形的特徴(創作性)を備えたものとなっている。
 したがって、本願商標は、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施して表示するものであり、普通に用いられる方法で表示する標章に該当しない。
・本願商標は、鼻水という一種の汚物としてのイメージや医療器具である堅いイメージを払拭すべく、前記アのとおり、多少丸みを帯びたやや手書き風の優しい書体を用いることで、その称呼から「鼻吸い」の文字(語)を連想させるとともに、「花水」や「花吸い」のような文字(語)をも連想させ、商品のイメージを上品で柔らかいものとしている。このように、本願商標は、「鼻吸い」のみならず、「花水」や「花吸い」をも連想させるものである。
 また、本願商標が「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記したものと理解されるとしても、取引者において「鼻水を吸引すること」を説明するときに、デザイン性を有する欧文字で「HANASUI」と表記することはおよそあり得ない。
・被告は、「HANASUI」という欧文字表記が家庭用鼻水吸引器の品質等表示として一般に使用されている例を示しておらず、「HANASUI」が、取引者、需要者において、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を表示する標章として一般に認識されていることを立証し得ていない。また、被告が示す例の多くは、「鼻吸い器」、「鼻すい器」、「はな吸い器」など、「器」を伴う表示であり、器具一般のカテゴリー又は用途を示す表現として理解されるにとどまるから、これらの例から、「鼻吸い」単独又は「HANASUI」が、品質又は用途を表示するものとして普通に用いられているという取引の実情を認めることはできない。さらに、被告は、日本語の語を欧文字で表記することが一般に行われているという事情を示すにとどまり、取引者、需要者において、「HANASUI」を家庭用鼻水吸引器の品質又は用途の表示として理解することまで裏付けるものではない。

原審(原々審)の判断

(1)商標法3条1項3号該当性
 本願商標は、ややデザイン化された書体で「HANASUI」の欧文字を横書きしてなるところ、本願商標の構成全体として「HANASUI」の文字を書したものと容易に認識できるものであり、格別特異なものとはいい得ないから、本願商標は普通に用いられる方法の範囲内で表してなるものである。
 そして、本願商標からは、「ハナスイ」の称呼を生じるところ、「ハナスイ」の読みを漢字及び平仮名で表した「鼻吸い」の文字(語)は、「鼻水を吸引すること」を表す文字(語)として広く一般に使用されており、「鼻水吸引器」を表す文字(語)として、「鼻吸い器」や「鼻吸い」の文字(語)が使用されている実情も認められる。さらに、日本語(漢字、仮名)の読みを欧文字つづりにより表記することはごく普通に行われており、本願の指定商品に関連する分野においても、商品を表す日本語の名称が欧文字つづりにより表記されている実情がある。
 そうすると、本願商標を本願の指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記したものと理解し、当該商品が「鼻水を吸引するための商品」であることを認識するにとどまるというのが相当である。このことは、「家庭用鼻水吸引器」においても、「鼻吸い」の文字(語)が商品の説明等に使用されている実情が認められることからも裏付けられる。
 以上によれば、本願商標は、単に商品の品質及び用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項3号に該当する。
(商標法3条2項に関しては省略)

判旨

1.取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について
(1)判断基準
 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。
 そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標の需要者、取引者によって、当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。そして、当該商標の需要者、取引者によって、当該商品に使用された場合に商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の事情を考慮して判断すべきである。

(2)本願商標の構成
 ア 前記第2の1(1)のとおり、本願商標は、「HANASUI」の欧文字をデザイン化された書体で横書きに書してなる商標であり、各構成文字が同じ大きさ、等間隔で表されており、外観上一体のものとして把握されるから、本願商標からは「ハナスイ」の一連の称呼が生じる。
 イ 本願商標に用いられているフォント(やや縦長で、端部の角を丸めたもの。)は、原告がデザイナーに依頼して制作されたものであって、一般に販売されているものではなく、また、本願商標の欧文字は、文字間隔をやや詰めて記載されており、丸みを帯びた文字の使用と相まって、外観全体として、丸みを帯びた柔らかなイメージを持たせるようにデザイン化されているといえる。
 しかしながら、商取引において、標章のデザイン化は一般に広く行われていることからすると、上記の程度のデザイン化がされていることをもって、表示として特殊なものであるとはいえず、本願商標は、「HANASUI」の欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであると認められる。

(3)本願商標の指定商品の需要者
 本願商標は、指定商品を第10類「家庭用鼻水吸引器」とするものである。
 そして、家庭用鼻水吸引器については、原告が販売する商品(その包装に本願商標に相当する構成文字及び書体からなる「HANASUI」の文字が表示されている。)が、「0歳からお年寄りまで 大人の鼻水もよく取れる!家族みんなの必需品に」などと、乳幼児のみならず大人の利用にも適する旨をうたっているほか、他社製品にも、乳幼児のみならず大人の利用を想定する商品が複数存在する。また、商品比較サービスサイトである「マイベスト」のウェブサイトにおいて、「大人も使える鼻吸い器のおすすめ人気ランキング」との記事情報が掲載され、「大人も使える鼻吸い器は、副鼻腔炎になりやすい人や花粉症持ちの人にあると便利なアイテム。ピジョンをはじめとしたさまざまなメーカーから販売されています。」などとして、原告商品を含め数多くの商品がランキング形式で紹介されている。
 そうすると、上記指定商品の需要者は、乳幼児を育児中の保護者に加え、花粉症やアレルギーによる鼻水や鼻づまりの症状に悩む大人も含む一般消費者であると認められる

(4)本願商標の指定商品に関する取引の実情
 以下に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件審決がされた時点における本願商標の指定商品に関する取引の実情として、次の事実が認められる。
 ア 医療や育児の現場における「鼻吸い」という用語の使用状況
(ア)小児科や耳鼻咽喉科を標榜する複数の医療機関のウェブサイトにおいて、自ら鼻をかむことのできない乳幼児について、鼻水により惹き起こされる症状に対する治療行為や予防行為として吸引器により鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称しており、市販の器具を利用して自宅で行うか、上手に吸えない場合には、受診の上で病院に設置されている吸引器で行うよう推奨している。
(イ)育児関連の情報を発信する複数のウェブサイトにおいて、自ら鼻をかむことのできない乳幼児について、鼻水や鼻づまりへの対処として吸引器により鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称しており、当該処置を市販の「鼻吸い器」を利用して自宅で行う方法を紹介している。
(ウ)「GOOD DESIGN AWARD」のウェブサイトにおいて、2018年にグッドデザイン賞を受賞したピジョン株式会社(以下「ピジョン社」という。)の「電動鼻吸い器」の受賞概要を紹介するページでは、「鼻をかめない赤ちゃんのための鼻水や鼻づまりを快適にする電動の鼻吸い器です。鼻吸いの行為は赤ちゃんも保護者の方も大変な育児ケアの一つです。」、「赤ちゃんの鼻吸いはとてもデリケートで加減が難しく、また、鼻吸い器の手入れにも手間がかかる。」などと、乳児について鼻水や鼻づまりへの対処として鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称し、当該処置を行う器具を「鼻吸い器」と称している。
 イ 家庭用鼻水吸引器に係る商取引の状況
(ア)「アマゾン」のウェブサイトには、多数の商品が「鼻吸い器」との表示を付して掲載されている。
(イ)「マイベスト」のウェブサイトにおいて、「大人も使える鼻吸い器のおすすめ人気ランキング」、「電動鼻吸い器のおすすめ人気ランキング【2025年11月】」あるいは「徹底比較 鼻吸い器」との見出しの記事情報に、多数の商品(家庭用鼻水吸引器)が「鼻吸い器」として掲載、紹介されている。
(ウ)「アカチャンホンポ Online Shop」のウェブサイトにおいて、「しっかりお鼻ケア鼻吸い器」の見出しの記事情報に、多数の商品(家庭用鼻水吸引器)が掲載されている。
(中略)
 ウ 鼻吸い器の略称としての「鼻吸い」の使用状況
(ア)「CARADA健康相談」のウェブサイトには、相談内容に対する回答として「市販の鼻吸いで鼻水を吸いとってあげて下さい。」との記載がある。
(イ)「Smile中井小児科・アレルギー科」のウェブサイトに掲載された「子どもの副鼻腔炎はどのくらいで治る?」との記事中には、「電動鼻吸いを活用することは治癒を早めることにつながります。」との記載がある。
(ウ)「てらにしこどもクリニック」のウェブサイトの「よくある質問」に掲載された「赤ちゃんのとまらない鼻水、家で安静にしていれば治りますか?」との質問に対する回答として「当院では「吸引器(鼻吸い)」で鼻の奥にある鼻水を吸引することができます。鼻吸いだけでご来院頂いても大丈夫です。」との記載がある。
(中略)

(5)検討
 ア 鼻水を吸うことを意味する語として用いられる「鼻吸い」は、辞書に掲載されている語ではないものの、前記(4)アによれば、本件審決がされた時点において、小児医療や育児の現場では、鼻をかめない乳幼児について吸引器で鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称し、「鼻吸い」については、自宅でできる市販の器具を利用するか、上手くできないときは、受診のうえ病院に設置された吸引器で行うよう推奨されていたことが認められ、「鼻吸い」の語は、鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使用されている実情があるものと認められる
 また、前記(4)イによれば、本件審決がされた時点において、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、「鼻水吸引器」と称されるほか、「鼻吸い器」(「鼻すい器」又は「はな吸い器」と表示されることもある。)と称され、広く市販され、流通している実情があるものと認められ、鼻水を吸う処置に用いる器具については、単に「鼻吸い」と略称されることもあること(前記(4)ウ)が認められる
 そして、商取引における実情として、商品名や品質又は用途に係る表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一般に広く行われているものと認められる。
 イ 本願商標は、前記(2)のとおり、外観上一体のものとして把握され、「ハナスイ」の一連の称呼が生じるものと認められるところ、前記アのとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情を踏まえれば、本願商標をその指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用するときは、それに接する需要者、取引者において、「鼻吸い」(鼻水を吸うこと)の表音をローマ字表記したものと認識されるものということができる。
 そして、「鼻吸い」が鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使用されていることや、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、「鼻水吸引器」と称されるほか、「鼻吸い器」とも称され、一般に広く流通しており、「鼻吸い」は当該器具の略称としても用いられる語であることからすれば、本願商標は、その指定商品との関係で商品の品質又は用途(「鼻吸い」に用いられる器具であること)を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標が指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用された場合に、需要者、取引者によって当該商品の品質又は用途を表示したものであると一般に認識されるものであると認められる
 したがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当する。

(6)原告の主張に対する判断
 ア 原告は、本願商標は、デザイナーにより納品された角を丸めた柔らかい書体を採用し、文字間隔を調整することで、図形的特徴を備えたものとなっており、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施して表示するものであるから、普通に用いられる方法で表示する標章に該当しない旨主張する。
 しかし、商品に標章を表示する際にデザイン化が施されたフォントを用いる例が一般にみられることからすれば、本願商標に用いられるフォントをもって、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施したものとまでいうことはできない。また、本願商標は、デザイン化されたフォントの使用及び文字間隔の調整がされているといっても、これにより構成全体が図形を表してなるものと看取されるような図案化がされているとはいえず、欧文字を横書きしてなるものと看取されるにとどまるというべきであるから、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊な構成で表示するものともいえない。
 本願商標が、「HANASUI」の欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであると認められることは、前記(2)イのとおりであり、原告の上記主張は採用することができない。
 イ 原告は、本願商標は、多少丸みを帯びたやや手書き風の優しい書体を用いることで、その称呼から「鼻吸い」の文字(語)を連想させるとともに、「花水」や「花吸い」をも連想させるものであり、家庭用鼻水吸引器の品質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当しない旨主張する。
 しかし、本願商標からは「ハナスイ」の一連の称呼が生じるものと認められるところ、前記(4)のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の実情を踏まえれば、本願商標をその指定商品である家庭用鼻水吸引器に使用するときは、それに接する需要者、取引者において、「鼻吸い」(鼻水を吸うこと)の表音をローマ字表記したものと認識されるものということができる。
 他方、原告の主張する「花水」や「花吸い」の語の意味するところも不明であって、ましてや指定商品である家庭用鼻水吸引器に関し、需要者、取引者が、「花水」や「花吸い」のような語句を想起するものとは直ちにいえない(それにもかかわらず、家庭用鼻水吸引器との関連で、需要者、取引者が「花水」や「花吸い」の語を想起するであろうことを裏付ける取引の事情があるともいえない。)。また、前記アのとおり、本願商標に用いられているフォントは、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレタリングを施したものとはいえないことからすれば、当該フォントが用いられているからといって、需要者、取引者に、特に「花水」や「花吸い」等の語を想起させるものであるともいえない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
 ウ 原告は、本願商標が「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記したものと理解されるとしても、取引者において「鼻水を吸引すること」を説明するときに、デザイン性を有する欧文字で「HANASUI」と表記することはおよそあり得ないから、本願商標は、家庭用鼻水吸引器の品質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当しない旨主張する。
 しかし、前記(5)アのとおり、商取引において、商品名や品質又は用途の表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一般に広く行われていることに加え、商取引において標章のデザイン化は一般に広く行われるものであることからすると、将来において、「鼻吸い」に用いられる家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を表示記述する場合に「HANASUI」と表記することはおよそあり得ないなどとはいえない
 また、本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには、本件審決がされた時点において、本願商標がその指定商品との関係で商品の品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標の需要者、取引者によって、本願商標がその指定商品に使用された場合に、将来を含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるものであれば足り、それが一般に用いられていた実情があったことまでを要するものではないというべきであるから、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を「HANASUI」と表示する例が、本願商標の指定商品に属する分野において現実に使用されていないからといって、本願商標の同号該当性が否定されるものではない
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
 エ 原告は、①「HANASUI」という欧文字表記が家庭用鼻水吸引器の品質等表示として一般に使用されている例が示されていないから、「HANASUI」が、取引者、需要者において、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を表示する標章として一般に認識されていることを立証し得ていない、②被告が示す例の多くは、「鼻吸い器」などと「器」を伴う表示であり、これらの例から、「鼻吸い」単独又は「HANASUI」が、品質又は用途を表示するものとして普通に用いられているという取引の実情を認めることはできない、③日本語の語を欧文字で表記することが一般に行われているという事情は、取引者、需要者において、「HANASUI」を家庭用鼻水吸引器の品質又は用途の表示として理解することまで裏付けるものではない旨主張する。
 しかし、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を「HANASUI」と表示する例が、本願商標の指定商品に属する分野において現実に使用されていないからといって、本願商標の同号該当性が否定されるものではないことは前記ウのとおりである。
 また、前記(4)のとおりの本願商標の指定商品に係る取引の実情に照らせば、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、「鼻水吸引器」と称されるほか、「鼻吸い器」等と称され、広く市販され、流通している実情があるものと認められ、鼻水を吸う処置に用いる器具については、単に「鼻吸い」と略称されることもあることが認められること、商取引における実情として、商品名や品質又は用途に係る表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一般に広く行われているものと認められることは、前記(5)アで認定したとおりである。
 そして、「鼻吸い」が鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使用されていることに加え、本願商標の指定商品に係る上記取引の実情を踏まえれば、本願商標が指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用された場合に、需要者、取引者によって当該商品の品質又は用途を表示したものであると一般に認識されるものであると認められることは、前記(5)イで説示したとおりである。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
 オ 原告は、真偽の不明なウェブサイト等の記載に基づいて商標法3条1項3号該当性を判断するのは相当性を欠くだけでなく、出願人間の公平性を欠く旨主張する。
 しかし、ウェブサイト等の情報を取引の実情を認定する際の証拠とすることが、一般的に相当性を欠くなどとはいえないところ、本件全証拠によるも、前記(4)に掲記した証拠に係るウェブサイト等やその記載に、本願商標の指定商品に係る取引の実情の認定に用いるのを不相当とすべき事情があることはうかがわれない。
 また、指定商品に係る取引の実情の認定は、事案ごとに個別的に行われるものであるから、取引の実情を認定するのに要するウェブサイト等の情報数について画一的な基準が設けられていないからといって、同号該当性についての審査官の判断が恣意的であるなどと断ずることはできないし、出願人間の公平性を欠くというものではない。
 カ 原告は、本件訴訟において被告が示す証拠の相当部分は、本件審決がされた時点より後の令和7年12月又は令和8年1月に収集、印刷されたものであり、本件審決時点における取引の実情を直ちに示すものではない旨主張する。
 しかし、前記(4)アに掲記した証拠は、令和7年12月19日から令和8年1月19日までの間に印刷されたものであるものの、このうち乙第6号証ないし第8号証は、更新日の記載から、本件審決日前から公開されていたものと確認することができるものである。他の証拠については、本件審決がされた日から2か月ないし3か月程度の間に、医療の現場における「鼻吸い」の語の使用状況に変化があったなどの事情はうかがわれないから、上記証拠をもって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記(4)アの事実を認定することができるというべきである。
 また、前記(4)イに掲記した証拠は、令和7年12月19日又は令和8年1月15日に印刷されたものであるものの、当該ウェブサイト中に記載された情報又は併せて掲記した甲号証に記載された情報を参照すれば、本件審決日前から公開又は商品として販売されていたことを確認することができることから、上記証拠をもって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記(4)イの事実を認定することができるというべきである。
 さらに、前記(4)ウに掲記した証拠のうち、乙第54及び55号証は、令和8年1月14日又は同月15日に印刷されたものであるものの、本件審決がされた日から3か月程度の間に、医療の現場における「鼻吸い」の語の使用状況に変化があったなどの事情はうかがわれないから、上記証拠をもって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記(4)ウの事実を認定することができるというべきである。
(以下、省略)

3.結論
 以上によれば、原告の取消事由1及び2の主張はいずれも理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法はない。
 よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

解説/検討

 登録を受けようとする商標が、使用する商品又は役務との関係でその具体的な品質を直接的に表すものでない場合は、識別力を有すると考えられる。特許庁の商標法3条1項3号に関する審査基準では、「商標が、商品又は役務の特徴等を間接的に表示する場合は、商品又は役務の特徴等を表示するものではないと判断する。」と記載されている。
 本件のように、日本語の読みをアルファベット表記した場合、当該アルファベット表記から由来する日本語が容易に理解できるか否かがポイントとなる。この点、原告が指摘するように、「HANASUI」が「鼻吸い」を示す語として一般的に使用されていない場合は、「HANASUI」から直ちに「鼻吸い」が理解されないと考える余地はある。しかし、本件において裁判所が識別力を認めなかった理由としては、①本願指定商品の分野において「鼻吸い(器)」が広く一般的に使用されていること、及び、②原告自身が「HANASUI」が「鼻吸い器」に由来しているような表示をしていること、が大きく影響したように思われる。
 下記は原告HPの抜粋である(https://hana-sui.jp/feature/)。
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 識別力の判断は、その語が現に使用されているか否かによって判断されるものではないことは最高裁で判示されており、「鼻吸い」の使用状況等を考慮すると裁判所の判断は妥当と考える。とはいえ、実務的には、原告の主張も理解はできるため、識別力の判断の難しさを改めて認識した判決である。

 

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