【不使用取消審判における登録商標の「使用」は商標的使用に限られないと判示した事例(「たべるん」)】

 

投稿日:2026年9月17日

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著者:弁護士 盛田 真智子
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

商標法第50条第1項/不使用取消審判/商標的使用

ポイント

※ 本判決は、不使用取消審判における商標法50条2項本文の「登録商標の使用」について、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識し得る態様(商標的使用)での使用まで要するものではないと判示した。
※ 本件では、商標権者のウェブサイト上で、登録商標と社会通念上同一の文字である「たべるん」がキャラクターの名称として表示され、当該キャラクターがプライベートブランド商品の宣伝広告を行っていたことから、飲食料品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供について、商標法2条3項8号に該当する「使用」があったと認定した。
※ 本判決は、商標法50条の趣旨や、同法26条1項6号が商標的使用のされていない商標について商標権の効力が及ばないことを明文で定めているのに対し、商標法50条にはそのような限定がないことを挙げ、商標的使用の使用までは不要と判示した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和8年6月29日
事件番号 令和8年(行ケ)第10009号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
森冨 義明
菊池 絵理
頼 晋一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本件は、登録商標の不使用取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、争点は、審判の請求の登録前3年以内における当該登録商標の使用の事実の存否である。

1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、「たべるん」の文字を横書きに表して成り、第35類の区分に属する役務を指定役務(以下「本件指定役務」という。)とする登録商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
⑵ 原告は、商標法50条1項に基づき、本件指定役務のうち別紙「商標目録」の【役務の区分及び指定役務】欄の下線を付した部分(以下「請求役務」という。)について、本件商標の登録の取消請求(「本件審判請求」という。)をし、令和6年12月17日、本件審判請求の登録がされた。
⑶ 特許庁は、令和7年12月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
⑷ 原告は、令和8年1月22日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【被告HP】わたしのこだわり| こだわり商品STORY | 東都生協の商品 | 産直の東都生協 | TOHTO CO-OP
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2 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件商標の商標権者である被告のウェブサイトにおいて、「るんるんズ」と称するキャラクターの1人の名称として「たべるん」の文字(以下「使用商標」)が表示されていることから、要証期間内に使用商標が使用されたといえる。
 本件ウェブサイトにおいては、被告のプライベートブランドに係る、飲食料品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(以下「使用役務」ということがある。)につき、Q&A形式で広告が行われているといえる。使用役務は、請求役務の範ちゅうに属する役務である。
 本件商標と使用商標は、社会通念上同一の商標といえる。また、本件ウェブサイトにおいて、「たべるん」を含む「るんるんズ」と称するキャラクターは、ブランドの商品の宣伝広告を行う役割のものとして表示されていると見るのが相当であり、使用商標は、本件ウェブサイトにおいて、使用役務に関する広告につき使用されているといえる。
 そうすると、商標権者は、本件ウェブサイトにおいて、使用役務に関する広告を内容とする情報に使用商標を付したということができ、これは、商標法2条3項8号の「役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当する。
⑵ 原告は、使用商標は、専ら当該キャラクターの名称として用いられているにすぎず、出所識別標識としての機能を有しない旨の主張をするが、本件ウェブサイトにおいては、「たべるん」を含む「たべるんズ」と称するキャラクターが、Q&A形式で商品の宣伝広告を行うものとして表示されていると見るのが相当であり、使用商標は、出所識別標識としての機能を有するといえる。被告は、要証期間に、日本国内において、本件商標と社会通念上同一の商標を、本件指定役務中の請求役務について使用していたことを証明したものと認められる。

争点

審判の請求の登録前3年以内における当該登録商標の使用の事実の存否
(キャラクターの名称として表示された「たべるん」の文字が、請求に係る指定役務についての「登録商標の使用」(商標法2条3項8号)に該当するか)

   

争点に関する当事者の主張

(原告の主張)
 商標法50条にいう「使用」は、標章が表示されているのみでは足りず、需要者が当該標章により商品又は役務の出所を識別し得る態様で使用(商標的使用)されていることを要する。したがって、「使用」の事実の存否は、単に標章が表示されているという事実のみならず、需要者の通常の理解等の事情を総合的に考慮し、当該表示が需要者にとって出所識別標識として理解されるか否かという観点から判断されるべきである。
 しかるに、本件ウェブサイトに表示された「たべるん」の文字は、「「わたしのこだわり」調査隊。」等と題する企画の文脈において、キャラクターの図像と結び付いた態様で表示され、あるいは、キャラクターの名称又はキャラクター群の一員として表示されるにすぎず、需要者は、これを役務の出所表示ではなく、案内役のキャラクターの名称として理解する。
 かかる表示は、需要者に対し商品又は役務の出所を表示する標識として機能するものでなく、商標的使用として理解されない。
 需要者が役務の出所を識別するのは、事業者名(「東都生活協同組合」)、プライベートブランド又は企画名(「わたしのこだわり」)であり、「たべるん」の文字は、これに従属する装飾的、付随的表示にとどまる。
 「たべるん」の文字の表示が独立した出所識別標識として反復継続的に用いられた事実はなく、「たべるん」の文字を表示したことは 商標的使用に該当しない。

(被告の主張)
 商標法50条1項にいう「使用」は、登録商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、出所表示機能を果たす態様での使用(商標的使用)に限定されるものではない。
 本件ウェブサイトには、被告のプライベートブランド(「わたしのこだわり」)の概要(理念、品質、包装デザイン等)を説明し、Q&A形式で上記ブランドの商品を紹介する記載がある。本件ウェブサイトの記載からすると、「わたしのこだわり」ブランドの商品は、少なくとも飲食料品を含む商品であると推認でき、そうすると、本件ウェブサイトにおいて、本件指定役務の範ちゅうに属する、上記ブランドに係る「飲食料品」の「小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(使用役務)について広告が行われているといえる。
 また、本件ウェブサイトの記載に照らすと、3人のキャラクターは、「わたしのこだわり」ブランドの商品の宣伝広告を行う役割を果たすものとして表示されていると見るのが相当であり、キャラクターの名称である「たべるん」の表示は、「飲食料品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に関する広告について使用されているといえる。

判旨

1 商標法50条1項は、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判の請求をすることができる旨を、同条2項本文は、当該審判の請求があった場合においては、その審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない旨を定める。これは、不使用の登録商標に対して独占排他的な権利を付与することは国民一般の利益を不当に侵害するとともに、権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなって、公益上適切でないことによるものと解される。
 そして、かかる商標法50条の趣旨に加え、同法26条1項6号が、同法2条の定める「商標」のうち、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」、すなわち商標的使用のされていない商標については、商標権の効力が及ばない旨を明文で定めるのに対し、同法50条では、かかる限定がされていないことにかんがみると、 同条2項本文にいう「登録商標の使用をしている」というためには、その文言のとおり、当該登録商標が、請求に係る指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、需要者において何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識し得る態様により使用されていることまで要しないと解するのが相当である。

2 これを本件について見ると、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、要証期間(令和3年12月17日から令和6年12月16日まで)における使用商標の使用に関して、次の事実が認められる。
⑴ 被告は、消費生活協同組合法に基づく消費生活協同組合であり、組合員の生活に必要な物資を購入して、これを加工し、あるいは加工せず、または生産して組合員に供給する活動等を行っている。被告の令和6年3月20日時点における組合員数は、約26万人である。(甲4)
⑵ 被告が日本国内の一般の消費者に向けて令和3年12月15日に公開した本件ウェブサイト(これは、要証期間における被告のウェブサイトと同一の内容である。)には、被告のプライベートブランド(「わたしのこだわり」)について、「新PB「わたしのこだわり」のコンセプトは、いつまでも、安心で、おいしく、楽しい食卓のために、作る人と食べる人が一緒に考え、あなたの食のこだわりに応える商品」です。」、「新しくなった/東都生協のプライベートブランド商品が、/食卓をおいしく、幸せにします!」、「…組合員の疑問に答えるべく、「るんるんズ」が徹底調査。…プライベートブランド「わたしのこだわり」の秘密に迫ります。」などと記載されているほか、「「わたしのこだわり」調査隊。」及び「みんなの疑問に答えます!」の赤色文字が上下2段に、その右側上段に、3人のキャラクターの図像が、中段の同図像の直下に、各キャラクターに対応して「くばるん」、「たべるん」、「つくるん」の黒色文字が、下段に、「さんぼんすぎキャラクター「るんるんズ」」の黒色文字がそれぞれ表示され、これに続いて、Q&A形式で、プライベートブランド商品である複数の飲食料品の画像等と共に、プライベートブランドの理念、政策、考え方、プライベートブランド商品の品質、特徴、包装デザインやロゴマークの選定理由等に係る説明が記載されている(甲1、2、7)。

3 使用商標と本件商標は、いずれも「たべるん」の文字を横書きに表して成るもので、社会通念上同一のものと認められる。
 そして、前記認定事実によれば、本件商標の商標権者である被告は、本件ウェブサイトの公開により、要証期間内に日本国内において、請求役務の一つである「飲食料品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について、役務に関する広告に使用商標を付して電磁的方法により提供する行為により商標法2条3項8号1に該当する「使用」をしたと認めることができ、そうすると、同法50条2項本文により、請求役務について本件商標の登録を取り消すことはできないというべきである。
 原告は、本件ウェブサイトにおいて、「たべるん」の文字は、キャラクターの図像と結び付いた態様で表示され、又は、キャラクターの名称又はキャラクター群の一員として表示されるにすぎないから、商標法50条にいう「使用」とはいえず、請求役務についての使用に当たらない旨の主張をするが、同条にいう「使用」は、商標的使用に限られず、請求に係る指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足りることは、前記のとおりであって、原告の主張は採用できない。

4 以上のとおり、本件商標の商標権者である被告は、要証期間内に日本国内において請求役務の一つについての本件商標の使用をしていることを証明したのであるから、本件審決の、要証期間における本件商標の使用の事実の存否に係る判断に誤りはない。


1 2条3項 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。 8号 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

 

解説/検討

 本件のキャラクター名「たべるん」について、審決では「使用商標は、出所識別標識としての機能を有する(すなわち、商標的使用がされている)」と判断した。一方で、本判決は、「使用商標が出所識別標識として機能しているか」を判断するのではなく、そもそも、「50条2項本文にいう『登録商標の使用をしている』というためには、当該登録商標が、請求に係る指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り、需要者において何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識し得る態様により使用されていること(すなわち、商標的使用)までは要しない」と判断している。本判決は、商標法50条の趣旨(不使用の登録商標に独占排他的な権利を付与することは公益上適切でないこと)に加え、商標法26条1項6号が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」については商標権の効力が及ばない旨を明文で定めているのに対し、50条にはそのような限定が置かれていないことを踏まえたものと解される。
 ただし、現状では、50条の「使用」に商標的使用を要するとした裁判例と、要しないとした裁判例の両方が存在するため、今後の裁判例の動向に注意が必要である。
 商標的使用を要する旨が判示された裁判例には、池麵事件(知財高裁令和7年10月20日(令和7(行ケ)10032号等)、Value Investing Academy事件(知財高裁令和7年10月21日(令和7(行ケ)10052号などがある。(なお、池麺事件は、旧店舗名が書かれた箱を一時的に店の隅に置いたのみであったという事実関係があり、2条3項5号・8号の「使用」に当たらないと判断された。Value Investing Academy事件は、原告の開催によるオンライン講演で画面に表示される資料に本件商標が表示されていたことなどにより、商標的使用が認められた。)

 

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