【「日本食育防災士」は「防災士」と非類似であって11号非該当だが15号に該当し無効とした事件】

 

投稿日:2026年9月17日

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著者:弁理士 井出 麻衣子
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

4条1項6号、7号、10号、11号、15号及び19号

ポイント

「防災士」を資格名称として使用する原告が、「日本食育防災士」の登録に対し無効審判を請求した事案である。「日本食育防災士」の標準文字からなる本件商標につき、無効審判請求を不成立とした審決について、商標法4条1項11号、10号にそれぞれ該当しないとした判断に誤りはないが、本件商標は「防災士」の商標を使用する原告の業務に係る役務と広義の混同を生ずるおそれがあり、同項15号に該当するとして、審決を取り消した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和7年4月24日
事件番号 令和6年(行ケ)第10095号
事件名 審決取消請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 響
菊池 絵理
頼 晋一
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

商標登録無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。
 原告である特定非営利活動法人日本防災士機構は、「防災士」の登録商標を有しており、防災士資格の認証・普及活動を行っている。
 これに対し、被告は「日本食育防災士」の商標登録を保有していた。原告は、本件商標が自己の「防災士」商標との関係で商標法4条1項6号、7号、10号、11号、15号及び19号に該当すると主張して無効審判を請求したが、特許庁は請求不成立審決をしたため、その取消を求めて提訴した。

         原告商標            被告商標    
画像
41類「技芸・スポーツ又は知識の教授
(防災専門知識及び技能・防災又は災害
情報公表の知識及び技能・救急救命知識
及び技能・避難誘導知識及び技能の検定
試験,防災専門知識及び技能・防災又は
災害情報公表の知識及び技能・救急救命
知識及び技能・避難誘導知識及び技能の
教授,防災専門知識及び技能・防災又は
災害情報公表の知識及び技能・救急救命
知識及び技能・避難誘導知識及び技能の
質の証明を含む。)」他
「日本食育防災士」(標準文字)

41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」他
平成15年4月22日 出願
平成17年1月21日 登録
令和3年11月2日 出願
令和4年3月3日 登録

本件審決の判断

特許庁の無効審判では以下のように判断され、本件商標はいずれにも該当せず、本審判請求は成り立たないと審決された。

・「防災士」は、防災関係者の間においては、ある程度の周知性を獲得していたものと認められる。

「請求人が認定する防災分野における民間資格である「防災士」は、2003年以降、本件商標の登録出願時まで約18年の活動実績があり、その研修の実施地域も我が国の広い地域を網羅しており、認証者数も21万人を超えているから、一定規模の活動実績があるもので、その活動内容も冊子や新聞記事等を通じて一定程度報道又は紹介されているから、引用商標及び引用使用商標「防災士」は、その専門分野や事業分野の特殊性や限定的な事業規模を鑑みれば、我が国の一般需要者の間において広く親しまれた著名な民間資格の一つとまではいえないが、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、少なくとも消防や警察などを中心とする防災関係者の間においては、ある程度の周知性を獲得していたものと認められる。」
・「日本食育防災士」は全体として一体不可分の造語と把握される。
・「防災士」は自他商品役務の出所識別標識としての機能は高くはないため、当該部分のみを抽出して類否判断を行うのは適切でない。
・「防災士」は防災関係者の間では一定の周知性があるものの、一般需要者に広く知られた著名商標とはいえない。
・独創性の程度は高くはない
・本件商標と引用商標の類似性の程度は低い。
・引用使用商標又は請求人を連想、想起し、役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
・仮に公益に関する事業であって営利を目的としないものであるとしても、著名なものとはいえない。
・引用使用商標又は原告を連想、想起し、役務の出所について混同を生ずるおそれはないから、「防災士」の信用を毀損するなど社会公共の利益に反したりすることはない。
・構成自体が不快な印象を与えるものものではなく、出願に不正の目的があることを示す証拠はない。
・不正の目的をもって使用するものではない。

判旨

⑴商標法4条1項11号該当性について(非該当)
 本件商標と引用商標は、外観、称呼を異にする。本件商標からは「我が国における食育と防災に関する何らかの資格、その資格を有する者」という観念を、引用商標からは「防災に関する何らかの資格、その資格を有する者」という観念を生じ、観念においても異なる。原告は、「防災士」は原告が認証する民間資格、その有資格者及び原告による「防災士」の育成・普及事業等を指し示す語として周知著名な語であるから、本件商標の「防災士」の文字部分を分離して観察することが許される旨主張する。
 しかし、「防災士」の語は、「防災又は防災に関する資格について関心を有する者」以外の需要者を含めて高い周知性を有しているとまではいえないし、本件商標の構成、語の組合せは独自の識別機能を有するというべきであるから、分離観察は相当ではない。
 そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念を異にし、その一部において共通するといえるとしても、本件商標を一連一体の商標とみるべきことからすると、その差は大きく、判別は容易であるから、本件商標と引用商標が与える印象、記憶、連想等を総合し、本件商標と引用商標との類似性を全体的に考察した場合、本件商標は、商標法4条1項11号に該当する商標ではない。

⑵商標法4条1項10号について(非該当)
 原告の業務に係る役務を表示する「防災士」の文字からなる商標は、実質的に引用商標と同一であるから、前記⑴と同じ理由により、本件商標とは類似しない。

⑶商標法4条1項15号について(該当)
 本件商標と本件各使用商標との類似性の程度についてみると、外観、称呼及び観念の一部において共通し、本件商標の指定役務の需要者のうち「防災又は防災に関する資格について関心を有する者」において本件各使用商標「防災士」は周知であることからすると、需要者からみれば、「防災士」と何らかの関連性を有する資格という連想を生じさせ得る。本件各使用商標の周知性は前記のとおりであり、独創性の程度は高いとはいえない。
 本件商標の指定役務と原告の業務に係る役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度は、高いというべきであり、需要者の共通性も認められる。以上の事情を総合すると、本件商標をその指定役務に使用するときは、その需要者の普通に払われる注意力を基準としても、その役務が原告の「防災士」と何らかの関係を有する防災関係の資格であって、原告又は原告が認めた関係機関が運営・管理するものの業務に係る役務であるとの混同(広義の混同)を生ずるおそれがあるということができる。

⑷結論
 よって、その余の点を判断するまでもなく、本件審決は取り消されるべきものである。

 

解説/検討

 知財高裁は、「日本食育防災士」と「防災士」について、商標としては一体不可分のものと把握されるとして商標法4条1項11号該当性を否定した。しかし、「防災士」の文字部分を含むことにより需要者に原告との関係を連想させるとして、同項15号該当性を認めた。
 商標法4条1項15号について、審査基準及び最高裁「レールデュタン事件」(最判平成12年7月11日・平成10年(行ヒ)第85号)は、他人の商品・役務そのものとの混同だけでなく、その他人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務であると誤認する、いわゆる「広義の混同」も含まれるとする。そして、その判断に当たっては、①商標の類似性の程度、②引用商標の周知著名性・独創性、③商品・役務の関連性、④需要者の共通性その他取引の実情等を総合考慮すべきものとされている。
 本件において裁判所は、「防災士」が防災又は防災資格に関心を有する需要者層において周知であること、「日本食育防災士」が「防災士」の文字部分及び「ボウサイシ」の称呼部分を共通にし、さらに「防災に関する何らかの資格又はその有資格者」との観念的共通性を有することを認定した。また、双方の役務が教育・資格認定・セミナー等の分野で密接に関連することも踏まえ、需要者は「防災士」と何らかの関係を有する防災関係の資格であると認識するおそれがあるとして、広義の混同を認めた。
 本件判決は、レールデュタン事件の判断枠組みに従い15号該当性を認めたものと理解できる。しかしながら、レールデュタン事件では商標同士の類似性が比較的高い(称呼同一)一方で商品・役務の関連性が問題となったのに対し、本件では指定役務の関連性は極めて高いものの、裁判所自身が11号の判断において商標非類似と結論付けている。
 この点については、「15号の考慮要素の中でも、とりわけ『商標の類似性の程度』の比重は大きい」と指摘されており(佐藤俊司「混同の判断における類似性の程度」パテント76巻11号)、商標非類似とされた事案においてどこまで15号による保護を認めるべきかについては議論の余地があると思われる。他方で、15号における「類似性の程度」は混同判断の一要素にすぎず、11号における商標の類似と同一水準である必要はないと解されている。本件も、その考え方を前提として、11号では保護できない事案について15号による救済を認めたものと位置付けることができる。
 なお、商標は非類似であるものの15号該当性が認められた事例として、「SUBARIST/スバリスト」事件(知財高判平成24年6月6日)、「Sunlop」事件(無効2019-890037)及び「YAHAHA」事件(異議2020-900195)があるが、これらはいずれも引用商標である「SUBARU」「DUNLOP」「YAMAHA」に極めて高い周知著名性が認められる事案である。
 本件では、原審と知財高裁とで需要者層の捉え方が異なり、その結果として「防災士」の周知性判断も異なる結論となった点が興味深い。
 資格名称、認証制度、団体名称等のように、特定分野の需要者層において強い信用や周知性を獲得している標章については、商標自体は非類似であるとしても、15号の広義混同によって登録や使用が制限され得ることを示した事例として参考になるものと考える。

 

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