【技術的制限手段】

 

投稿日:2026年8月17日

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著者:弁護士 山口 裕司
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

技術的制限手段

ポイント

※復号後の影像の記録・保存を防止し、本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラムGの機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり、これを無効化するF3は、技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認定した。

 

判決概要

裁判所 最高裁判所第一小法廷決定
決定言渡日 令和3年3月1日
事件番号 平成30年(あ)第10号
事件名 不正競争防止法違反被告事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
裁判官
裁判官
山口 厚
池上 政幸
小池 裕
木澤 克之
深山 卓也
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 被告人Aは、横浜市内に本店を置きコンピュータのソフトウェアの開発及び販売等を業とする株式会社Cの代表取締役(当時)として、その業務全般を統括する者、被告人Bは、同社にプログラムソフト販売責任者として勤務する者であるが、被告人両名は、同社のプログラマーと共謀の上、株式会社Dが、E形式ファイルにより電子書籍の影像を配信するに当たり、営業上用いている電磁的方法により上記影像の視聴及び記録を制限する手段であって、視聴等機器が、同社が提供する影像表示・閲覧ソフトであるD電子書籍ビューア(以下「本件ビューア」という。)による変換を必要とするよう、上記影像を変換して送信する方式によるもの(以下「本件技術的制限手段」という。)により、ライセンスの発行を受けた特定の視聴等機器にインストールされた本件ビューア以外では視聴ができないように上記影像の視聴及び記録を制限しているのに、不正の利益を得る目的で、法定の除外事由がないのに、平成25年9月10日頃及び同年11月23日頃、顧客2名に対し、Windows対応版の本件ビューアに組み込まれている影像の記録・保存を行うことを防止する機能を無効化する方法で本件技術的制限手段の効果を妨げることにより、ライセンスの発行を受けた特定の視聴等機器にインストールされた本件ビューア以外でも上記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムである「F3」を、上記の用途に供するため、東京都内のサーバコンピュータから電気通信回線を通じて上記顧客らのパーソナルコンピュータにそれぞれダウンロードさせて提供し、もって不正競争を行った。
  

争点

「技術的制限手段の効果を妨げる」の趣旨

原審・原々審の判断

京都地裁平成28年3月24日判決(平成26年(わ)405号)
 H社が本件技術的制限手段を施した意図は、単に、電子書籍を暗号化して、正当にライセンスを受けた者がビューアでしか視聴できないようにするというにとどまらず、コンテンツのコピー防止にあったことが認められ(甲6、E供述)、ひいては、電子書籍が無断でコピーされ第三者に頒布されて、何人でもビューアを用いずに視聴できるという状態になることを防ごうとしたものと考えられる。このような意図は、平成11年改正や平成23年改正の背景に照らしても、コンテンツ提供事業者として通常有すべき意図といえるだけでなく、電子書籍の出版社や著作権者等も、H社とコンテンツ配信契約を結ぶ際、コピー防止を意図したDRMを施すことを義務付ける条項を入れた上で、著作物の使用を許諾しているから、合理的な意図と評価されるべきものである。そして、本件電子書籍の暗号化が、コンテンツへのアクセス管理技術とコピー管理技術の双方の側面を有すると解することは、平成11年改正解説や合同会議報告書が前提とした考え方にも沿うものである。
 さらに、本件電子書籍の暗号化だけでは上記の意図が完全に実現できないことから、本件技術的制限手段の機能を補完すべく、ビューアにはQガードが組み込まれている(E供述)。そして、Qガードにはキャプチャソフトの持つコピー機能を無効化する機能があるだけでなく、Qガードなくしてビューア単体では起動しないようになっており、Qガードがない状態ではコンテンツ視聴もできないようになっているのであるから、本件電子書籍の暗号化とQガードとはその目的を共通にし、機能的にも一体性を有しているといえる。
 したがって、視聴等機器の画面上に表示された本件電子書籍の内容を、キャプチャを含めた意味におけるコピー等をすることができないという機能、ひいては、何人も、ビューア以外ではその内容を視聴することができないという機能は、客観的にみて、本件技術的制限手段の効果であるといえ、コミスケ3がキャプチャ防止措置を無効化したことは、「技術的制限手段の効果を妨げる」という要件に当たるといえる。

大阪高裁平成29年12月8日判決(平成28年(う)598号)
 そして、「営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能」とは、営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像、音の視聴、プログラムの実行、影像、音、プログラムの記録を可能とする機能を指すものと解するのが相当である。本件において、E社がF形式ファイルにより電子書籍の影像を配信するにあたり、その閲読のために本件ビューアによる復号化が必要になるようコンテンツを暗号化しているのが、技術的制限手段に該当することは明らかであるところ、この技術的制限手段の効果は、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということであるというべきである。
 そして、本件ビューアに組み込まれたプログラムであるソフトウェアIは、本件ビューアがインストールされた機器が表示する電子書籍の影像がキャプチャされて、他の機器でも自由にコンテンツが表示できるようになるのを防ぐ目的で、電子書籍の影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであって、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果が妨げられる事態のより確実な防止を目指すものである。すると、このソフトウェアIが行った制御と反対の制御を行うことによって影像のキャプチャを再度可能ならしめるH3は、結局のところ、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果を妨げるものにほかならないプログラムということができる。
 したがって、H3が、法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム」に該当するとした原判決は正当であって、電気通信回線を通じてH3を他者にダウンロードさせて提供する行為は、不正競争行為にあたるというべきである。

判旨

 本件技術的制限手段は、ライセンスの発行を受けた特定の視聴等機器にインストールされた本件ビューアによる復号が必要となるよう、電子書籍の影像を暗号化して送信し、影像の視聴等を制限するものであった。
 Windows対応版の本件ビューアには、復号後の影像の記録・保存を防止する機能を有し、本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラムである「G」が組み込まれていた。Gは、本件ビューアを構成するプログラムの一つとして、本件ビューアと同時にインストールされ、Gのない状態では、本件ビューアは起動せず、ライセンスの発行を受けることも送信された影像の視聴もできないようにされていた。
 F3は、Gの上記機能を無効化し、復号後の電子書籍の影像を記録・保存することにより、本件ビューア以外での上記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムであった。

4 以上の事実関係によれば、Gの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり、これを無効化するF3は、技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。したがって、F3を提供した被告人両名の行為は、法2条1項10号の不正競争に当たり、法21条2項4号に該当する。同号の罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は、結論において正当である。

解説/検討

 不正競争防止法上の「技術的制限手段」に対する不正行為についての規制は、平成11年改正で設けられたが、「技術的制限手段」に関する裁判例はまだ限られている。
 民事事件では、マジコン事件において、知財高裁平成26年6月12日判決が、「実行が制限される前者のプログラムが,技術的制限手段とともに記録媒体に記録される後者のプログラムよりも広義である場合も,法2条7項所定の『技術的制限手段』に該当することとなることから,承認を受けたプログラムを除きプログラム一般(前者のプログラム)の実行を制限するために,技術的制限手段を特定のプログラム(後者のプログラム)とともに記録媒体に記録するような形態(『検知→可能方式』)も,法2条7項所定の『技術的制限手段』に含まれるとの結論が導かれることになる。」と判断している。
 平成23年改正で刑事罰が設けられたが、刑事事件では、被告人が「技術的制限手段」該当性を争わない場合もあり、「技術的制限手段」に関して具体的に判示するものがなかった。コミスケ3事件では、「技術的制限手段の効果を妨げる」の意義について、合理的な意図に限られる旨判断した地裁判決の判断を是認する判断を最高裁が行ったという点で意味があると言える(桑島翠「特別刑法判例研究(控訴審の判例評釈)」法律時報90巻13号242頁参照)。

   

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