【キャラクターの著作物性】

 

投稿日:2026年5月20日

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著者:弁護士 山口 裕司
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

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ポイント

 一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターは、著作権法2条1項1号に言う著作物ということはできないと判断した。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第40部
判決言渡日 令和5年12月7日
事件番号 令和5年(ワ)第70139号
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
中島 基至
小田 誉太郎
古賀 千尋
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 B(以下「故B」という。)は、「木枯し紋次郎」シリーズの連載小説(別紙本件書籍目録記載1及び2の各書籍〔以下「本件書籍」という。〕を含む。)を執筆した。その後、本件書籍は、Cの作画により漫画化され、「赦免花は散った」、「湯煙に月は砕けた」、「女人講の闇を裂く」、「川留めの水は濁った」の4作品が収録された単行本(以下「本件漫画作品」という。)が発行された。そして、本件書籍は、Dの主演によりテレビ化され、第1話「川留めの水は濁った」から第18話「流れ舟は帰らず」までのテレビシリーズ(「本件テレビ作品」という。)が放映された。さらに、本件書籍は、Eの主演により映画化され、「木枯し紋次郎」及び続編の「木枯し紋次郎 関わりござんせん」(以下「本件映画作品」といい、本件漫画作品、本件テレビ作品と併せて「本件各作品」という。)が全国公開された。
 そして、原告Aは、本件各作品その他の故B創作に関する著作権を全て相続し、原告会社に対し、上記著作権一切に関する独占的な利用を許諾した。
 本件は、原告らが、被告に対し、被告が別紙被告図柄目録記載の図柄(以下「被告図柄」という。)及び「紋次郎」という語を別紙被告商品目録記載の各商品(以下「被告商品」という。)に付して製造販売し、その画像を公衆送信することは、本件各作品に係る複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲渡権を侵害すると主張するとともに、被告図柄等を付して被告商品を製造販売することは、不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる「不正競争」に該当すると主張して、著作権法112条1項及び2項並びに不正競争防止法3条1項及び2項に基づき、被告商品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、民法709条及び著作権法114条3項並びに不正競争防止法4条及び5条3項1号に基づき、1億5126万1000円(損害額1億3751万1000円及び弁護士費用1375万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年4月8日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 

争点

(抜粋)
⑴ 著作権侵害の有無(争点1)

判旨

「著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載小説においては、当該登場人物が描かれた各回の文章表現それぞれが著作物に当たり、上記登場人物のいわゆるキャラクターといわれるものは、小説の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない。そうすると、一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターは、著作権法2条1項1号にいう著作物ということはできない(連載漫画についての最高裁平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。
 したがって、著作権者は、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定する必要があるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、原告らは、特定論において、著作権が侵害されたと主張する著作物につき、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人という記述(以下「本件渡世人」という。別紙本件紋次郎表示目録参照)であると特定するにとどまり、本件渡世人を個別の写真や図柄等として特定するものではなく、その他に主張する予定もないと陳述している(第1回口頭弁論調書参照)。
 そうすると、原告らは、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定するものではない。
 したがって、原告らの特定論に係る主張を前提とすれば、原告らは、本件書籍において著作権が侵害されたという著作物を具体的に特定しないものとして、その主張自体失当というほかなく、この理は、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物として主張される本件渡世人についても、異なるところはない。
 仮に、原告らが、本件渡世人という記述に加え、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物という趣旨をいうものとして特定しているとしても、上記中心人物は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念をいうものであるから、原告らが特定するものは、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないことからすると、これを著作物であると認めることはできない。
 さらに念のため、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る本件渡世人は、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人というものである。そして、証拠(乙1ないし15)及び弁論の全趣旨によれば、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿としてありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述自体は明らかにありふれたものである。仮に、本件渡世人に対しその後本件テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立って、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもなく、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると認めることはできない。
 仮に、原告らが、特定論における上記主張にかかわらず、例えば本件テレビ作品の映像の一部(本件紋次郎表示目録参照)に係る人物写真に著作権を有することを前提として、著作権侵害を主張するとしても、被告図柄(被告図柄目録参照)との同一性を検討し得る部分は、結局のところ、本件渡世人に係る上記記述部分にとどまるものとなるから、当該記述部分が、ありふれた事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、創作的表現に該当しないことは、上記において説示したとおりである。そうすると、本件テレビ作品の映像の一部に係る人物写真と、被告図柄との同一性を検討し得る部分は、明らかに創作的表現がない部分にとどまることからすれば、被告図柄の製作が複製又は翻案に該当しないことは、自明である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。のみならず、被告図柄で記述された渡世人の姿についてみると、三度笠の大きさは、概ね背丈ほどもある巨大なものであり、江戸時代の渡世人の姿とは異なるものである。また、口にくわえるものも顔の数倍程度もあるものであり、これを直ちに竹の楊枝であると認識し得るものとはいえない。そうすると、被告図柄の記述自体からは、本件渡世人のような江戸時代の渡世人を直接感得することはできないことからすると、上記において同一性を検討し得るとした部分についても、著作権法の観点から仔細に検討すれば、そもそも同一性を欠くものといえる。」

解説/検討

 キャラクターについては、最近、「小説ドラゴンクエストV天空の花嫁」という題名の小説を執筆した者(久美沙織)が、「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」という題名の映画(本件映画)の製作委員会の構成員である東宝、スクウェア・エニックス及び白組並びに本件映画の監督、全体監修者及び原作者を訴え、原告が本件ゲームの主人公の名称を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」、その通称を「リュカ」と設定したところ、原告の許諾なく、被告らが本件映画で主人公の名称として「リュカ」を用い、作中で「リュカ・エル・ケル・グランバニア」を主人公の名称として用いるシーンもあるとして、著作権侵害や協議履行請求権の債権侵害が争われた事件において、東京地裁令和5年10月20日判決(令和3年(ワ)第27154号)は、登場人物名の著作物性を否定し、請求を棄却している。
 最高裁平成9年7月17日判決(ポパイネクタイ事件)の「具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。」という判示からすれば、本件で、被告図柄が、木枯らし紋次郎の漫画の中の特定の図柄とほぼ同じであったりする事情があれば、異なる結論になった可能性もあるが、原告による著作物の特定では、著作権侵害を認めるのは難しかったであろうと思われる。
 東京地裁平成2年2月19日判決(前記最高裁平成9年7月17日判決の第一審)は、「たとえ、原告ハーストのライセンシーがポパイの絵を種々の表情、姿態でその商品に表示していたとしても、それが本件漫画の主人公であるポパイの絵であると認識しうる限り、取引者又は需要者は、その商品をポパイの商品表示が付された商品と認識しうるのであるから、原告ハーストのライセンシーが使用しているポパイの絵が図柄として統一されていないとしても、その図柄は商品表示としての出所表示機能を有しないものということはできない。」と判示しており、商品等表示として認められる余地はより高かったと思われるが、本件では、「ありふれた江戸時代の渡世人をいうにすぎない」と認定されてしまったために、商品等表示性も否定されてしまった。
 原告の株式会社スーンは、知的財産権の版権管理及びライセンスエージェント業務等を行う会社であるので、本件判決は、「紋次郎」の商品化権という観点からは、受け入れ難いものと思われる。

   

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