【海賊版掲載サイトの広告料振込先の外国会社の取締役の責任】
投稿日:2026年5月20日 |
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著者:弁護士 山口 裕司
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参照条文/キーワード/論点 |
海賊版/広告料収入/法人格の形骸化/取締役の責任 |
ポイント
サイトに掲載された広告に係る広告料収入を得ていた者は、サイトの開設・運営に深く関与していたと推認できると判断し、逸失利益等の損害賠償を認めた。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第4部 |
| 判決言渡日 | 令和7年8月28日 |
| 事件番号 | 令和7年(ネ)第10015号 |
| 事件名 | 損害賠償請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
増田 稔
岩井 直幸 安岡 美香子 |
事案の概要
本件は、控訴人らが、被控訴人に対し、被控訴人又は被控訴人が代表者兼取締役として登記されているレッド社(米国ハワイ州の法律に基づいて設立された米国法人)が、インターネット上に開設された本件サイトに、控訴人らの著作物である本件漫画を許諾なく掲載し(以下、この掲載行為を「本件掲載行為」という。)、控訴人らの著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して、民法709条(主位的請求)及び会社法429条1項(第1次予備的請求として現任の取締役としての責任、第2次予備的請求として退任した取締役としての責任)に基づく損害賠償として、控訴人三輪につき、95万8869円(一部請求)及びこれに対する令和元年9月17日(本件漫画1に係る最後の掲載行為がされた日)から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金、控訴人宮原につき、430万6596円(一部請求)及びこれに対する平成30年3月12日(本件漫画2に係る最後の掲載行為がされた日)から支払済みまで同割合による遅延損害金、控訴人土方につき、793万4535円(一部請求)及びこれに対する令和3年4月15日(本件漫画3に係る最後の掲載行為がされた日)から支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
原審は、被控訴人又はレッド社が本件掲載行為をしたとは認めるに足りず、仮にレッド社が本件掲載行為に関与していたとしても、被控訴人は、本件掲載行為当時、レッド社の業務に関与していた、あるいは業務執行状況や会計状況等を把握していたとは認められないから、取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとはいえないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴を提起した。
争点
(抜粋)
(2) 会社法429条1項所定の責任の有無(争点2)
ア 現任の取締役としての責任の有無(争点2-1)
(3) 原告らの損害の有無及びその額(争点3)
原審の判断
「本件住所変更届が提出された平成16年2月18日から、本件サイトに本件漫画の掲載が開始された平成27年8月15日まで、約11年半も経過しており、その間、被告が、レッド社の業務に関与していたとも、同社の業務執行状況や会計状況等の実情を把握していたとも認めることができない。そうすると、このような状況にある被告において、レッド社が何らかの形で本件サイトの運営、管理等に関与しているといった抽象的な事象についてまで監視、監督義務を尽くすことは困難であるといわざるを得ない。
したがって、被告において、レッド社が何らかの形で本件サイトの運営、管理等に関与していることを看過したとしても、会社法346条1項及び同法351条1項所定の権利義務に基づくレッド社の取締役の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとはいえない。」
判旨
「本件サイトは、本件漫画を含む大量の漫画を無料で公開し、サイトの訪問者を増やすことによって、より高い広告料収入を得る目的で開設・運営されていたと推認することができる。そうすると、本件サイトに掲載された広告に係る広告料収入を得ていた者は、本件サイトの開設・運営に深く関与していたと推認できるところ、・・・レッド社は、令和3年以降、広告代理店であるどんぐり社から、本件口座に入金させることによって、上記広告料収入を得ていたと認められる。」
「被控訴人は、レッド社の唯一の取締役として、その業務状況を把握し得る立場にあったとともに、本件口座の存在を認識し、どんぐり社から本件サイトに係る広告料の入金がされた令和3年当時も、本件口座からレッド社の業務に必要な支払をしていたと認められる。そうすると、被控訴人は、本件口座にどんぐり社から広告料が入金されていた理由が、仮にレッド社が本件サイトの開設・運営に関与していたこと以外にあるのであれば、それを主張・立証することが可能な立場にあるといえ、それにもかかわらず、何らこれを主張・立証していないのであるから、レッド社が本件サイトの開設・運営に深く関与していたとの上記推認は妨げられない。
したがって、レッド社は、自ら、あるいは第三者と共謀して、本件掲載行為を行ったと認めるのが相当である。」
「取締役は、会社に対し、善管注意義務を負い(会社法330条、民法644条)、会社の事業において第三者の著作権等の権利を違法に侵害しないよう注意する義務を負うところ、被控訴人が、レッド社による本件掲載行為(本件漫画に係る公衆送信権侵害行為)を防止する措置を何ら講じなかったことは、取締役としての任務懈怠に当たる。
また、・・・本件口座に入金された広告料は、1か月分で26万2578円であり、年に換算する300万円近くに上ると推認されるところ、被控訴人が、レッド社のこのような多額の広告料収入につき、その広告掲載先である本件サイトを調査しなかったとすれば、少なくとも重大な過失が認められるというべきである。
したがって、被控訴人は、会社法429条1項に基づき、控訴人らに対し、損害賠償義務を負う。」
「当該著作物に係る電磁データを、公衆が望むときにいつでも受信して閲覧できる状態で公衆送信することは、公衆にとって、当該電磁データをダウンロードして手元に置くことと大差のない状況を作出し、著作権者による正規品の販売を阻害する点で、当該電磁データの複製物が作成された場合と変わるところはない。これに加え、同法114条の趣旨が、著作権者による損害額の立証の負担の軽減を図る点にあることからすれば、同条を類推適用して、当該著作物が掲載されたウェブページの閲覧数等の一定割合をもって「侵害受信複製物」の数量とすることができると解するのが相当である。」
「本件漫画3の侵害受信複製物の数量は、総PV数の5%と認めるのが相当であ」る。
「本件漫画1及び2の侵害受信複製物の数量は、マイページ登録数の10%と認めるのが相当であ」る。
解説/検討
本判決は、原判決を変更して、漫画の海賊版掲載ウェブサイトの広告料収入の振込先の外国会社の代表者に会社法上の取締役の責任を認めた判決である。同じ原告代理人による同種事件として、知財高裁令和7年7月28日判決・令和7年(ネ)第10029号(原審東京地裁令和7年1月30日判決・令和5年(ワ)第70115号、同70146号)がある。
本判決では、「被控訴人は、本件口座にどんぐり社から広告料が入金されていた理由が、仮にレッド社が本件サイトの開設・運営に関与していたこと以外にあるのであれば、それを主張・立証することが可能な立場にあるといえ、それにもかかわらず、何らこれを主張・立証していないのであるから、レッド社が本件サイトの開設・運営に深く関与していたとの上記推認は妨げられない。」として、銀行口座を管理する外国会社が、海賊版サイトの開設・運営に関与していることの推認を認めた点が注目される。
また、損害額の算定に当たり、侵害受信複製物の数量を、Similar Web社の推計に基づく総PV数の5%と認めたり、マイページ登録数の10%と認めたりした点や、外国の銀行に対するディスカバリの費用を2割の限度で、被控訴人の任務懈怠との間に相当因果関係がある損害と認めた点が興味深い。
