【位置商標】
投稿日:2026年8月17日 |
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著者:弁護士 山口 裕司
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参照条文/キーワード/論点 |
位置商標/商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標/自他商品の識別標識 |
ポイント※商標法3条1項3号該当性及び商標法3条2項該当性についての本件審決の判断に誤りはないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
| 判決言渡日 | 令和2年2月12日 |
| 事件番号 | 令和元年(行ケ)第10125号 |
| 事件名 | 審決取消請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
森 義之
佐野 信 熊谷 大輔 |
事案の概要
本件は,石油ストーブの燃焼部の三つの略輪状の炎の立体的形状からなる位置商標の登録出願についての拒絶査定の不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
争点
(1) 商標法3条1項3号の該当性
(2) 商標法3条2項の該当性
判旨
1 取消事由1について
(1) 商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けることができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許さないとしたものである。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえるのであり,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。
したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
(2) 本願商標は,前記第2の2(1)に記載の商標であり,「三つの略輪状の炎の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標である。
そして,本願形状を採用することにより,対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状の炎が四つあるように見え,これにより対流形石油ストーブの美感が向上するから,本願形状は,美感を向上するために採用された形状であると認められる。また,原告特許は,特許請求の範囲を「1 燃焼室や赤熱体を囲繞する様に位置せしめ,かつ燃焼室の外殻を構成する燃焼筒をリング状の表面凸凹部を形成するとともに耐熱性の透明もしくは半透明物質で造製し,この燃焼筒の表面にTi,Zr,Fe等の金属もしくは金属化合物被膜を付着きせてなる暖房器。2 燃焼炎や赤熱体から発する光が,金属被膜による干渉と屈折特性により多重かつ虹状に見ることが出来る特許請求範囲第1項記載の暖房器。」とするものであって,「また燃焼筒をリング状の表面凸凹部を形成せしめたから,前記発熱・発熱部が多段に見えるのを,凸凹部がレンズ状に拡大して観者に対して大きな炎の輪を多段に確実に詔めさせる効果がある。この様にこの発明は透明もしくは半透明燃焼筒に金属被膜もしくは金属化合物被膜を形成する簡単な構造によって暖房に最も適する波長の熱線を良好に透過せしめると共に,該被膜によって燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向から届く様になり,見せると共にリング状の凹凸部によるレンズ効果により,暖房効果を高めるものであり,更に各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像は非常に美しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効果を生むものである。」(4段落の8行~24行)との効果を生じさせるものであり,特許公報には別紙図面が第1図として付けられているから,本願形状は,暖房効果を高めるという機能を有するものと認められる。
そうすると,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。
2 取消事由2について
(1) 前記1のとおり,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予想される範囲を超えるものではないから,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標というべきであるが,このような商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合は,商標法3条2項により,商標登録を受けることができる。
そして,本願商標のように立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
(イ) そこで,自然通気形開放式ストーブ(対流形石油ストーブと反射形石油ストーブ)に占める原告使用商品の販売シェアを見るに,平成23年度以降の平均シェアは2%程度であり,石油ストーブ全体から見ると,そのシェアはさらに低いものとなる。また,原告使用商品の出荷台数も,平成24年度以降の平均は約2万9000台と決して多いとはいえない。
本願形状は,原告使用商品を使用していないときは現れないのであるから,店頭で石油ストーブを選び,購入しようとして来店した者は,展示されている原告使用商品を見ただけでは本願形状を認識することはできず,このような本願商標の特殊な事情から,需要者が本願商標を認識する機会は限定されるということができる。
(オ) 以上の事情からすると,本願形状を有する商品である原告使用商品が約30年もの長期間販売されており,OEM商品を除いて本願形状を有する他の商品は存在しないこと,本願形状は,比較的特徴的であるといえること,原告使用商品は,グッドデザイン賞を受賞したことを考慮しても,本願商標について原告の事業に係る商品であることを認識することができるとまで認めることはできないというべきである。
(3) 以上のとおり,商標法3条2項該当性についての本件審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由2についての主張は理由がない。
解説/検討
商標法4条1項18号について、判決中に言及がある(当事者の主張を含む)裁判例には、本件判決のほか、以下のものがある。
知財高裁令和元年11月26日判決・令和元年(行ケ)第10086号[ランプシェード]
知財高裁令和元年7月24日判決・平成31年(行ケ)第10017号[コンクリート製杭]
東京地裁平成30年12月27日判決・平成29年(ワ)第22543号[ランプシェード]
知財高裁平成30年1月15日判決・平成29年(行ケ)第10155号[杭(くい丸)]
知財高裁平成20年6月24日判決・平成19年(行ケ)第10405号[ZEMAITISギターの駒(ブリッジ)]
知財高裁平成20年5月29日判決・平成19年(行ケ)第10215号[コカ・コーラ瓶]
知財高裁平成19年6月27日判決・平成18年(行ケ)第10555号[ミニマグライト]
東京高裁平成14年7月18日判決・平成13年(行ケ)第418号[金塊(インゴット)を模した六面体チョコレート]
東京高裁平成14年7月18日判決・平成13年(行ケ)第446号[ガンチーニ]
東京高裁平成14年7月18日判決・平成13年(行ケ)第447号[ガンチーニ]
本件審決は、「立体商標における商品等の形状については,以下のとおり判示されているところ,本願形状のような位置商標における商品の形状についても,これと同じことがいえる。」として、知財高裁平成20年5月29日判決(ZEMAITISギターの駒(ブリッジ))、知財高裁平成20年5月29日判決(コカ・コーラ瓶)、知財高裁平成19年6月27日判決(ミニマグライト)と同様な判断枠組に沿って判断をした。
本件判決は、上記判断枠組のうちの一部の、「商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当する」という判示を行って、商標法3条1項3号該当性を認めた。
本件は、原告使用商品が長期間販売されていて、本願形状を有する他の商品は存在しない場合であったが、需要者が本願商標を認識する機会は限定されているなどの理由により、3条2項該当性は認められなかった。
上記裁判例の中では、知財高裁平成30年1月15日判決(杭(くい丸))の事案でも、原告が実用新案権と意匠権を有していたが、「原告は,平成23年9月2日に原告意匠権の存続期間が満了するまでは,原告実用新案権又は原告意匠権に基づき原告商品を独占的に実施していたことを推認できるところ,実用新案権や意匠権の権利者が,考案や意匠を一定期間独占できることは当然であり,実用新案権や意匠権に基づく一定期間の独占の結果として,その権利範囲に含まれる商品の形状又はこれに類似する商品の形状について,権利者の業務に係るものとして知られたことをもって,直ちに商標登録に必要な自他識別力を備えたことにはならない。商標権は,存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができることを踏まえると,実用新案権や意匠権の対象となっていた立体的形状について商標権によって保護を与えることは,実用新案法や意匠法による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じかねず,事業者間の公正な競争を不当に制限することになる。」として、「実用新案権や意匠権の対象となっていた立体的形状について権利による独占とは無関係に自他識別力を取得した等の特段の事情の認められない限り,使用による自他識別力を取得したと認めることはできない。」と判断されている。
