【商標の剥離抹消行為】
投稿日:2026年8月14日 |
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著者:弁護士 山口 裕司
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参照条文/キーワード/論点 |
商標の剥離抹消行為 |
ポイント※商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なるといわざるを得ないとして、上記のような登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められないと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 大阪高等裁判所第8民事部 |
| 判決言渡日 | 令和4年5月13日 |
| 事件番号 | 令和3年(ネ)第2608号 |
| 事件名 | 商標権侵害差止等請求控訴事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
山田 陽三
池町 知佐子 渡部 佳寿子 |
事案の概要
控訴人は、控訴人が製造している車輪付き杖である原判決別紙商品目録記載の商品(本件商品)を「ローラーステッカー」との商品名(控訴人標章)で販売し、控訴人標章につき令和元年12月6日に商標登録を得たが、卸売業者又は小売業者である被控訴人らが、本件商品を「ハンドレールステッキ」(被控訴人ら標章)との名称で販売した行為が、上記登録商標に係る商標権(本件商標権)の侵害に該当するとして、被控訴人らに対し、本件商品に対する被控訴人ら標章の使用の差止めを求めるとともに、控訴人が被控訴人フジホームとの取引を停止した令和元年8月以降、上記登録商標の公報が発行されるまで(前半期間)の被控訴人らの上記行為が、控訴人標章に化体する信用及び出所表示機能を毀損する共同不法行為に該当し、また、上記登録商標の公報が発行された令和2年1月7日から同年3月31日まで(後半期間)の被控訴人らの行為は、本件商標権侵害の共同不法行為に該当するとして、損害賠償300万円及びこれに対する共同不法行為後である同年4月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めたが、原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は、これを不服として、本件控訴を提起した。
争点
後半期間における被控訴人らによる商標権侵害の成否(争点2)
判旨
3 後半期間における被控訴人らによる商標権侵害の成否(争点2)について
(1) 控訴人は、商標権者である控訴人が控訴人標章を付した本件商品について、その譲渡を受けた卸売業者等である被控訴人らが、梱包箱に被控訴人らシールを貼付し、本件商品とともに梱包されていた控訴人説明書を被控訴人ら説明書に差し替えた行為は、本件商標の出所表示機能及び品質保証機能を積極的に毀損するものとして、商標の剥離抹消行為と評価し得る本件商標権侵害に当たる旨主張するとともに、上記譲渡によって本件商標権が消尽するとみるべきではないとして原審の判断を非難する(前記第2の5(1))。
(2) 商標法の目的は、信用化体の対象となる商標が登録された場合に、その登録商標を使用できる権利を商標権者に排他的に与え、商品又は役務の出所の誤認ないし混同を抑止することにあり、商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標と同一又は類似の商標を使用する場合に成立することが基本である(商標法25条、37条)。すなわち、商標法は、登録商標の付された商品又は役務の出所が当該商標権者であると特定できる関係を確立することによって当該商標の保護を図っているということができる。
商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なるといわざるを得ない。したがって、上記のような登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められないというべきである。
(3) また、その点を措くとしても、後半期間における被控訴人らの行為(被控訴人らの行為②及び③に関する。)は、以下のとおり、控訴人標章の剥離抹消行為と評価し得る行為には当たらないと解される。
ア 前記第2の2で補正した上で引用した前提事実によれば、控訴人が被控訴人らに納入した本件商品の梱包箱の外側にはそもそも控訴人標章は表示されていないから、被控訴人らが仕入れ後に貼付した被控訴人らシールによって控訴人標章が覆い隠されたという事実はない。控訴人が被控訴人らシール①によって覆い隠されたのを問題としているのは、控訴人の屋号であって、控訴人標章ではない。また、被控訴人らの行為によって、本件商品本体に英文字で印字された「Roller Sticker」という標章(称呼及び観念において控訴人標章と同一のもの)に何らかの変更が加えられたという事実もない(本件商品の品質にも変更はない。)。
イ そうすると、控訴人標章の剥離抹消行為として問題となり得る行為は、被控訴人フジホームが、控訴人から本件商品を仕入れた際に梱包箱に同梱されていた控訴人説明書を被控訴人説明書に差し替えた行為のみ(被控訴人ら行為②に関する。)であるが、控訴人説明書は、取引によって納入された本件商品の梱包箱の中に、本件商品の使用方法を説明する書面として、本件商品に貼付等されずに単に同梱されていたものにすぎないから、本件商品に標章を付した(商標法2条3項1号)とはいえず、控訴人説明書が取引書類(同項8号)に当たると認めるに足りる事情も窺われない。したがって、控訴人説明書に「ローラーステッカー使用説明書」との記載があるのは、控訴人標章を商標として使用したものとは認められず、控訴人説明書を差し替えたことが控訴人標章の剥離抹消行為と評価すべきものとは認められない。
ウ 以上のとおり、後半期間における被控訴人らの行為は、そもそも控訴人標章の剥離抹消行為と評価される行為には当たらないから、その余の点を判断するまでもなく、商標の剥離抹消を理由として商標権侵害をいう控訴人の主張は採用できない。
なお、被控訴人らの行為②及び③における本件商品について、控訴人が本件商品本体に付した標章(称呼及び観念において控訴人標章と同一のもの)と、被控訴人らが梱包箱に付した被控訴人ら標章とが併存しているとしても、控訴人から適法に本件商品を仕入れた被控訴人らが、再販売業者としての出所を明らかにするため本件商品に併存して自らの標章を付すことが一般的に禁止される理由もない。
(4) したがって、後半期間における被控訴人らの行為について、本件商標権侵害は成立しないから、商標権侵害の不法行為は成立しない。
解説/検討
大阪地裁平成6年2月24日判決[マグァンプK事件]では、小分け品販売の商標権侵害について、以下のように判断している。
「そうすると、被告は、本件商標と類似するイ号標章を、指定商品(肥料)と同一の商品である被告小分け品について、その出所表示機能及び品質表示機能等の自他識別機能を果たす態様で使用しているものと認められる。たとえ被告小分け品が原告販売にかかる本件商品(大袋)を開披してその内容物を詰め替えただけのものであったとしても、被告がイ号標章を被告小分け品に使用する行為はいずれも本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。
また、実質的にみても、本件商品のような化成肥料は、その組成、化学的性質及び製造方法に関する知識を有する原告や製造者以外の者がこれを小分けし詰め替え包装し直すことによって品質に変化を来すおそれが多分にあり、その際異物を混入することも容易であるから、被告の被告小分け品販売行為が許されるとすると、商標権者たる原告の信用を損い、ひいては需要者の利益をも害するおそれがあるので、被告の被告小分け品販売行為は本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。」
「しかしながら、登録商標権者は指定商品について登録商標の使用をする権利を専有し(専有権)、また登録商標に類似する標章の他人による使用を禁止する権利(禁止権)を有し、第三者はこれらを使用することができないことが法により保障されているのは、登録商標は権利者により適法に使用されてはじめてその出所表示機能及び品質保証機能等の自他商品識別機能を発揮し得るからであり、権利者以外の無権限の者に登録商標の使用を許すと、権利者の信用が権限なき者の手に委ねられ、その結果、登録商標に対する信頼の基礎が失われ、抽象的には常に権利者の信用が毀損のおそれに哂されることになって、登録商標の右機能を発揮し得ないことが明らかであるからである。したがって、当該商品が真正なものであるか否かを問わず、また、小分け等によって当該商品の品質に変化を来すおそれがあるか否かを問わず、商標権者が登録商標を付して適法に拡布した商品を、その流通の過程で商標権者の許諾を得ずに小分けし小代に詰め替え再包装し、これを登録商標と同一又は類似の商標を使用して再度流通に置くことは、商標権者が適法に指定商品と結合された状態で転々流通に置いた登録商標を、その流通の中途で当該指定商品から故なく剥奪抹消することにほかならず、商標権者が登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ、その商品標識としての機能を中途で抹消するものであって、商品の品質と信用の維持向上に努める商標権者の利益を害し、ひいては商品の品質と販売者の信用に関して公衆を欺瞞し、需要者の利益をも害する結果を招来するおそれがあるから、当該商標権の侵害を構成するものといわなければならない。・・・」
マグァンプK事件では、小分け品に本件商標に類似するイ号標章を使用しているが、本件では、「ローラーステッカー」に代えて、「ハンドレールステッキ」というシールを貼り付けて販売しており、事案には相違がある。
眞島宏明「商標の剥奪抹消と商標権侵害の成否について−商標の冒用以外の行為にも商標権侵害は成立するか―」パテント2008年4月号120頁は、商標の剥奪抹消行為による商標権侵害を否定するが、不法行為に基づく損害賠償請求は認め得るとする。
本件判決が、不法行為の成否という形で事案を処理したのは妥当だと思われ、結論にも賛成できる。
