【権利濫用に当たる商標権の行使の態様】

 

投稿日:2026年8月14日

ohno&partners

著者:弁護士 山口 裕司
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

損害額(38条2項・3項)/権利の濫用

ポイント

※長年にわたり本件商標権を行使してこなかった控訴人が、本件商標権の取得以前から正当に行われてきた「守半」標章の使用行為と同一又は社会通念上同一といえる被控訴人による被控訴人標章の使用行為に対し、本件商標権を行使することは、権利の濫用に該当するというべきであるが、本件商標の登録以前から使用していた「守半」標章とは社会通念上同一視することができない「守半總本舗」を、商標権者たる控訴人の承諾なく使用するという、被控訴人標章の使用行為に対して、控訴人が本件商標権を行使することは、権利濫用に該当するものではないというべきであると判断した。

 

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和4年11月30日
事件番号 令和2年(ネ)第10017号
事件名 商標権侵害差止等本訴、虚偽事実告知・流布行為差止反訴請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
本多 知成
浅井 憲
勝又 来未子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)

事案の概要

 本訴事件は、原判決別紙1本件商標権目録記載の登録商標(本件商標)を有する控訴人が、被控訴人に対して、被控訴人が「守半」の文字を含む別紙被控訴人標章目録記載の各標章(被控訴人各標章)を使用する行為は、本件商標に類似する標章を本件商標権の指定商品又はそれに類似する商品若しくは役務に使用する行為であり、商標法37条1号により本件商標権を侵害する行為とみなされると主張して、①同法36条1項に基づき、被控訴人各標章の使用の差止めを求め、②同条2項に基づき、被控訴人の包装容器・パンフレットの廃棄を求め、③平成20年4月8日から平成30年4月7日までの10年間についての商標権侵害の不法行為による損害賠償請求として、損害賠償金4500万5000円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年4月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 反訴事件は、被控訴人が、控訴人に対し、控訴人のウェブページ上で、「守半」の標章に関し、原判決別紙8告知事実目録記載1の各括弧書内の文章の表示(本件表示)をすることは、競争関係にある被控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為として不正競争防止法2条1項21号の不正競争に該当し、その侵害の停止又は予防に必要であるとして、同法3条1項に基づいて本件表示に係る事実及び同目録記載2の事実の告知の差止めを求めた事案である。

争点

控訴人の本件商標権に基づく本訴請求が権利濫用に該当するか(争点2)

   

判旨

ア 被控訴人標章2、5、9、10、12の使用について

(エ) 本件で問題となっている被控訴人標章のうち、「守半」に「粋の極み」、「特選」、「の海苔」といった文字を付加した標章(被控訴人標章2、5、9、10)や、大きな文字で横書きにした「守半」の上下に小さな文字で「海苔の老舗」、「蒲田」と書した標章(被控訴人標章12)の使用については、①前記(1)エ(ア)のとおり、被控訴人の前身であるEの個人事業の時代から、「守半海苔店蒲田支店」、「守半海苔店」といった屋号が使用されてきたこと、及び、②「粋の極み」、「特選」、「の海苔」、「海苔の老舗」、「蒲田」といった文字は、商品であるのりなどの性状や品質、普通名称を表すか、「守半」を修飾する付加的なものとして取引者、需要者に認識されるもので、後述する「總本舗」のように「守半」に新たな異なる意味合いを与えるようなものではないことに照らすと、社会通念上、本件商標権の取得以前からEや被控訴人によって行われてきた「守半」標章の使用の延長線上にある行為と評価できる。
(オ) そうすると、前記(ア)のとおりの客観的状況があり、かつ前記(イ)のとおり、それを認識しながら、長年にわたり本件商標権を行使してこなかった控訴人が、本件商標権の取得以前から正当に行われてきた「守半」標章の使用行為と同一又は社会通念上同一といえる被控訴人による被控訴人標章2、5、9、10、12の使用行為に対し、本件商標権を行使することは、権利の濫用に該当するというべきである。

イ 被控訴人標章1、3、4、6~8、11の使用について
(ア) 前記(1)エ(エ)のとおり、被控訴人は、平成18年から新たに「守半總本舗」という商号及び標章を使用するようになったものであるが、「總本舗」とは、「ある特定の商品を製造・販売するおおもとの店」を意味する語であり(甲73)、そのような語を「守半」に結合させた「守半總本舗」は、従前、Eや被控訴人がしていた「守半」の商号や標章の使用とはその意味合いを異にする。
 すなわち、前記(1)ア、ウ~オからすると、従前、控訴人ら及び被控訴人の三者間では、守半本店(補助参加人)が「本店」という中心的な地位を占める屋号、商号を一貫して用いており、控訴人及び被控訴人もそれを是認してきたということができる。しかし、被控訴人が上記のような意味合いを持つ「總本舗」を「守半」に結合させた「守半總本舗」の商号や標章を用いた場合、取引者、需要者に対し、あたかも被控訴人が三者の中で新たに「本店」としての地位を獲得したかのような印象を与えることとなり、平成18年以前に長年にわたって構築されていた三者の関係性を変質させるものといえる。
 そうすると、被控訴人によって平成18年以降、開始された「守半總本舗」の商号・標章の使用は、本件商標権の取得以前から、長年にわたってEや被控訴人によって行われてきた「守半」標章の使用とは、社会通念上、同一に考えることはできない。
(エ) 以上からすると、被控訴人が、本件商標の登録以前から使用していた「守半」標章とは社会通念上同一視することができない「守半總本舗」を、商標権者たる控訴人の承諾なく使用するという、被控訴人標章1、3、4、6~8、11の使用行為に対して、控訴人が本件商標権を行使することは、権利濫用に該当するものではないというべきである。

 

解説/検討

 本件判決は、権利濫用の抗弁を認めて、商標権者の請求を棄却した原判決を取り消し、請求を一部認容したもので、「長年にわたり本件商標権を行使してこなかった控訴人が、本件商標権の取得以前から正当に行われてきた『守半』標章の使用行為と同一又は社会通念上同一といえる被控訴人による被控訴人標章2、5、9、10、12の使用行為に対し、本件商標権を行使することは、権利の濫用に該当する」が、「本件商標の登録以前から使用していた『守半』標章とは社会通念上同一視することができない『守半總本舗』を、商標権者たる控訴人の承諾なく使用するという、被控訴人標章1、3、4、6~8、11の使用行為に対して、控訴人が本件商標権を行使することは、権利濫用に該当するものではない」とする判断枠組みは、かなりユニークなものであるように思われる。
 「総本舗」、「総本家」といった語に関連する裁判例として以下のものがある。
 株式会社千鳥屋宗家(「千鳥屋」創業者の三男の家系・関西地域)対株式会社千鳥饅頭総本舗(「千鳥屋」創業者の二男の家系・福岡地域)の事件で、原告は、競合避止義務違反に基づく差止請求等を行ったが、大阪地裁平成30年6月11日判決(平成28年(ワ)第5374号)、大阪高裁平成30年11月9日判決(平成30年(ネ)第1605号)ともに、請求を認めなかった。
 株式会社東京フード、BOTEJYU Groupホールディングス株式会社対北山食品工業株式会社の「ぼてぢゅう」商標事件で、東京地裁令和4年3月18日判決(令和元年(ワ)第34096号)は、「本件商標2は、別紙商標目録記載2のとおり、『ぼてぢゅう総本店』という標準文字から成り、『ぼてぢゅう』と『総本家』とを組み合わせた結合商標であるといえる。そして、前者は、お好み焼き店のために創作された極めて特徴的な造語であるのに対し、後者は、『おおもとの本店』を意味する一般的な日本語であって、その前後に接続する語句がある場合には、その語句に関連する『総本店』であると理解されるのが通常であるから、『総本店』の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生ずるものとはいえない。」と判断し(判決文中、「総本店」と「総本家」が混同されている)、権利濫用の抗弁についても、「和解契約は、Cが、大阪ぼてぢゅう株式会社及び同社の『暖簾分け』を受けた同社の役職員等について、一定の条件の下、本件商標権の使用を認めたものにすぎず、その内容を精査しても、A及び株式会社ぼてぢゅう総本家との関係に何ら触れるものではないことが認められる。」等の認定をして、一部を除いて、商標権侵害を認めている。

 

PAGE TOP