【JPドメイン名紛争処理方針4条a項の要件充足の有無】
投稿日:2026年8月14日 |
![]()
著者:弁護士 山口 裕司
|
参照条文/キーワード/論点 |
JPドメイン名紛争処理方針4条a項の要件充足の有無 |
ポイント※ドメイン名「venosanshop.jp」の登録者について、JPドメイン名紛争処理方針4条a項(ii)号、(iii)号の要件を満たすと判断した。 |
判決概要 |
| 裁判所 | 東京地方裁判所民事第29部 |
| 判決言渡日 | 令和5年4月28日 |
| 事件番号 | 令和3年(ワ)第14272号 |
| 事件名 | 登録ドメイン名使用権確認請求事件 |
| 裁判長裁判官
裁判官 裁判官 |
國分 隆文
間明 宏 小川 暁 |
事案の概要
本件は、株式会社日本レジストリサービス(以下「JPRS」という。)にドメイン名「venosanshop.jp」(以下「本件ドメイン名」という。)を登録している原告が、被告の申し立てたJPドメイン紛争処理手続において本件ドメイン名の登録を取り消せとの裁定が下されたことから、同裁定に基づいて本件ドメイン名の取り消される事態を回避するため、本件ドメイン名を使用する権利を有することの確認を求める事案である。
争点
(1) 紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たすか(争点1)
(2) 紛争処理方針4条a項(ⅲ)号の要件を満たすか(争点2)
判旨
1 争点1(紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件を満たすか)について
(1) 判断枠組みについて
証拠(乙6の1)によれば、紛争処理方針の解説には、申立人により要件①ないし③のいずれもが立証されたときは、登録者が、紛争処理方針4条c項(ⅰ)ないし(ⅲ)号に例示されている事情があるなどとして、「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を有することを主張立証すべきと記載されていることが認められる。これは、紛争処理方針4条a項(ⅱ)号が、申立人に、登録者における「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」の不存在の立証を要求していることを踏まえ、登録者に「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」があることを基礎付ける典型的な事情として、①登録者の氏名又は法人名とドメイン名とが一致すること、②ドメイン名と一致する登録者の日本における登録商標とが一致すること及び③ドメイン名を用いることについて登録者が申立人から許諾を得ていることを挙げ、これらの各事情がいずれもないことを申立人が立証すれば、登録者が紛争処理方針4条c項(ⅰ)号ないし(ⅲ)号に例示されている事情があることなどを指摘して反証しない限り、登録者が「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を有しないことが推定されるとの解釈を示すものであるところ、かかる解釈は紛争処理方針4条a項(ⅱ)号の要件該当性の判断枠組みとして相当なものと解される。
(2) 紛争処理方針の解説所定の要件①ないし③の存否について
ア 原告の現商号のうち、「株式会社」の部分は、会社の種類を表す普通名称であるから、原告の現商号の要部は「メディライン」であると認められる。他方、本件ドメイン名のうち、「.jp」の部分は、日本を示す国コードトップレベルドメインであり、「shop」の部分は、「店」を意味する一般的な英単語であるから、本件ドメイン名の要部は「venosan」であると認められる。そうすると、原告の現商号の要部と本件ドメイン名の要部とは一致していないというべきである。このほか、原告の現商号や本件ドメイン名をどのように対比しても両者は一致しないし、原告の過去の商号である「有限会社スペクトラム」及び「株式会社スペクトラム」についても同様である。したがって、紛争処理方針の解説所定の要件①が立証されているといえる。
また、本件全証拠によれば、原告は、本件ドメイン名又はその要部と一致する登録商標に係る商標権を有していないと認められるから、紛争処理方針の解説所定の要件②が立証されているといえる。
さらに、原告は、被告が、本件ドメイン名に関し、原告にライセンスを付与する権原を有しないと主張していること、本件販売契約1及び2は既に終了していると認められること(前提事実(4)ウ、弁論の全趣旨)からすると、原告は、被告から、本件ドメイン名を用いることについて許諾を得ていないと認められるから、紛争処理方針の解説所定の要件③が立証されているといえる。
イ 以上によれば、紛争処理方針の解説所定の要件①ないし③のいずれもが立証されているといえるから、原告による反証のない限り、原告が、本件ドメイン名について、「ドメイン名に関係する権利または正当な利益」を有しないことが推定されるといえる。
(3) 紛争処理方針4条c項所定の各事情の有無
ア 証拠(乙1ないし5)によれば、本件販売契約2の終了後である令和3年2月8日当時、本件サイトにおいて、ヘッダー部分に本件サイトを運営する会社又は店舗の名称と解し得る態様で「ベノサン」との標章を付した上で、「VENOSAN」ブランドの被告の医療用弾性ストッキングが販売されていたことが認められる。
本件被告商標1及び3と「ベノサン」との標章を対比すると、両者は外観上相違するものの、称呼上同一であるといえる。また、「VENOSAN」も「ベノサン」も造語と解され、通常、何かしらの意味を有する語であると理解できないから、いずれも特定の観念を生じない。これらの事情を総合考慮すると、「ベノサン」との標章は本件被告商標1及び3と類似する。
そうすると、本件被告商標1及び3と類似する「ベノサン」との標章を使用して、医療用弾性ストッキングである「VENOSAN」ブランドの被告の商品を販売することは、本件被告商標権1及び3を侵害するものとみなされる行為に当たる(商標法37条)。
したがって、原告は、正当な目的をもって本件ドメイン名を使用していたとはいえず、紛争処理方針4条c項(ⅰ)号所定の事情があるとは認められない。
イ このほか、本件全証拠によっても、紛争処理方針4条c項(ⅱ)号及び(ⅲ)号所定の事情があると認めることはできない。
2 争点2(紛争処理方針4条a項(ⅲ)号の要件を満たすか)について
当事者の主張に沿って、紛争処理方針4条b項(ⅳ)号所定の事情の有無について検討する。
(1) 商業上の利得を得る目的の有無について
原告が「商業上の利得を得る目的」で本件ドメイン名を使用していることは当事者間に争いがない。
(2) 商品の出所について誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを本件サイト等に誘引するために、本件ドメイン名を使用しているか否かについて
ア 証拠(乙1ないし5)によれば、本件販売契約2の終了後である令和3年2月8日当時、本件サイトにおいて、「VENOSAN」ブランドの被告の商品が販売されていたことが認められる。
そして、本件サイトには、当該商品の商品名として「VENOSAN5000」、「VENOSAN6000」、「VENOSAN7000」などと記載されるとともに(乙1・1頁、乙2・6頁、乙3・1頁)、当該商品に関連して、「スイス医療ブランド」(乙3・4頁)、「スイスのデザイン力」(乙3・4頁)、「区分スイス製・一般医療機器(医療機器届出番号13B3X10094000001)」(乙3・6頁)、「最新の弾性ストッキングがスイスから上陸しました。」(乙4・2頁)と記載されていたことが認められる。
イ(ア) 加えて、令和3年2月8日当時、本件サイトにおいて、次の記載がされていたことが認められる(乙5)。
「2020年、ベノサンから新しくFOOTNURSEが誕生します!」「FOOTNURSEは、医療用着圧ソックスとして大ブレイクした『ベノサン』から新しく誕生したブランドです。もともと『医療用』に開発されていたベノサンの着圧ソックスが、このたび『健康な女性用』に新たなブランドを立ち上げました。」
(イ) また、令和3年9月22日当時、ベノサンジャパンが開設していたウェブサイトには、次の記載がされていたことが認められる(乙13)。
「FOOTNURSEは、…一般医療機器としてもしっかり認定されています(医療機器届出番号13B3X10094000001)。」(同3枚目)、「その点FOOTNURSEは、創業1883年の医療用弾性ストッキングを50年以上にわたって製造している着圧ソックスの本場『SWISSLASTIC社』と、『ベノサン・ジャパン』が企画力・技術力を結集させて、丁寧に編み込まれていますので…」(同4枚目)。
(ウ) そして、原告は、令和3年9月3日当時、被告と関係のない「FOOTNURSE」ブランドの商品をインターネット上のオンラインストアで販売していたことが認められる(乙7)。
ウ 前記アにおいて認定した本件サイトの記載を見た需要者は、「VENOSAN」という標章は、本件サイトで販売されている医療用弾性ストッキングについてのスイス所在の製造元又は同製造元が使用するブランド名を示すものと理解するのが通常と考えられる。また、「ベノサン」は「VENOSAN」の日本語読みに相当することからすると、前記イ(ア)の記載を見た需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品についても、「VENOSAN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると理解するといえる。また、前記1(3)アにおいて認定したとおり、本件サイトのヘッダー部分に本件サイトを運営する会社又は店舗の名称と解し得る態様で「ベノサン」との標章が付されていたことも考慮すると、上記記載を見た需要者は、「FOOTNURSE」ブランドの商品も、「VENOSAN」ブランドの医療用弾性ストッキングと同じ製造元の商品であると誤信したり、本件サイトが当該製造元、当該製造元の正規販売代理店又は当該製造元と提携する者などによって運営されていると誤信するおそれがあると認められる。
そして、前記イ(イ)のとおり、「FOOTNURSE」ブランドの商品は被告と何ら関係がないにもかかわらず、ベノサンジャパンが開設していたウェブサイトに、「FOOTNURSE」ブランドの商品に被告が関与していると理解できる程度の記載がされていることからすると、本件サイトの前記イ(ア)の記載は、原告が、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出所について誤認混同を生ぜしめることを意図して掲載したものと認めるのが相当である。
エ 以上によれば、原告は、「FOOTNURSE」ブランドの商品の出所について誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを本件サイト又はベノサンジャパンが開設していたウェブサイトに誘引するために、本件ドメイン名を使用していると認められる。
解説/検討
JPドメイン名紛争処理事件では、委任契約や代理店契約が終了した後に、第2要件や第3要件が認められずに、請求棄却となるケースもあった。本件は、JPドメイン名紛争処理事件で申立が認められたが、紛争防止の観点からは、取消請求ではなく、移転請求をした方が良かったのではないかとも思われる。
JPドメイン名紛争処理の後に出訴されたケースにおける請求の立て方や訴訟上の争点は、まちまちで、裁判所の判断も、JPドメイン名紛争処理方針よりも、商標法や不正競争防止法と関連付けて判断する裁判例が多かったが、本件は不正競争行為の成否には全く言及せずに、JPドメイン名紛争処理方針に沿って判断した点に特色がある。
JPドメイン名紛争処理申立事件の申立人である被告が商標を登録しているだけでなく(第10類)、ドメイン名を登録していた原告も商標を登録していた(第25類、2件のうち1件は取消審決が出ており、もう1件は2023年5月に取消審判が申し立てられている)事案であった点は珍しいが、裁判所は、販売契約の終了等の事情に基づいて、登録者の権利または正当な利益を否定した。
