【使用許諾契約の成否と損害賠償請求の権利濫用】

 

投稿日:2026年5月20日

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著者:弁護士 山口 裕司
*本記事は、筆者の個人的見解であり、当事務所を含め、筆者が所属する如何なる団体の見解も表示するものではありません。
*判決等に筆者が適宜下線や太字強調等を付している場合があります。


参照条文/キーワード/論点

損害額/契約の成否・解除/権利の濫用


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 権利濫用を認めた原判決を変更し、原告各商標権の侵害を主張することが権利濫用に当たり許されないものと認めることはできないとして、使用料相当額の損害を賠償する義務があると判断した。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和6年4月10日
事件番号 令和4年(ネ)第10117号
事件名 商標使用料等請求控訴事件
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
清水 響
浅井 憲
勝又 来未子
 

判決へのリンク(裁判所HPへ)


事案の概要

 本件は、原告各商標権を有する控訴人(原審原告。以下「原告」という。)が、①主位的に、被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)に対し、本件商標使用許諾契約(本件商標使用許諾契約書による契約)所定の使用料が支払われておらず、また、同契約終了後も被告が無断で原告各商標(原判決別紙原告商標権目録記載の各商標)の使用を継続していると主張して、被告に対し、本件商標使用許諾契約に基づき平成28年4月1日から同年9月末日までの商標使用料453万6000円及びこれに対する約定の支払期日の翌日である同年6月1日又は同年9月1日から支払済みまで商事法定利率年6分(平成29年法律第45号4条3項によりなお従前の例によることとされる場合における同法による改正前の商法514条)の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、契約終了後の原告各商標権侵害(平成28年10月1日から令和元年9月末日まで)の不法行為に基づき、損害賠償金2721万6000円及びうち226万8000円に対する不法行為の後である平成29年4月21日(訴状送達の日の翌日)から、うち2494万8000円に対する不法行為の後である令和元年11月29日(同年10月7日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで平成29年法律第44号附則17条3項によりなお従前の例によることとされる場合における同法による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、②予備的に、仮に本件商標使用許諾契約が有効に成立していないとした場合、被告が無断で原告各商標を使用していたと主張して、原告各商標権侵害の不法行為に基づき、使用料相当損害金3175万2000円及びうち680万4000円に対する不法行為の後である平成29年4月21日(訴状送達の日の翌日)から、うち2494万8000円に対する不法行為の後である令和元年11月29日(同年10月7日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。


争点

(抜粋)
⑼ 原告による本件商標使用許諾契約に基づく商標使用料支払請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権の行使がいずれも権利の濫用として許されないか(争点9)

原審の判断

「本件各物件の貸与業務については、これまで、被告を事業主として、又は原告と被告の名称が併記された上で、広告が出され、宣伝されていたと認められることからすると、原告各商標によって表示される本件各物件の貸与業務の主体、すなわち、当該役務の出所は、被告であるか又は被告及び原告であるといえる。
 他方で、原告は、被告との関係において、本件各物件を利用した事業及び本件各物件の管理の委託を受けた受託者にすぎないものであり、原告が原告各商標の周知に貢献したことがあるとしても、それは受託業務の一環として位置付けられるものにすぎない。このような立場にあるにすぎない原告が業務の委託者である被告に対して原告各商標に係る排他的かつ独占的な権利を主張できるとする正当な理由は認め難い。」
「しかも、本件各物件の管理業務は、依然として全般的に原告又はその関連会社が行っており、被告が被告ウェブサイト上で本件各物件の賃借等の申込みを受け付けていることはうかがわれず、被告は、事実上これらの物件の管理ができない状態に陥っているといえるから、当該役務の出所の混同が生じることにより、原告が、現に損害を被っているとは認め難く、かつ、将来的にも損害を被るおそれがあるとも認め難い。
 以上のような事情を総合考慮すると、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求を認めることは、公正な競争秩序を害するといえ、権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。」

判旨

「A、B、C及びDは、Aを被相続人とする相続時の税金対策のために、被告において不動産事業を営むこととし、被告の株式の評価額を減少させようとしていたところ、節税等の目的で、知的財産権を含む資産を関係会社や子会社に分配して保有させるなどして利益を関係会社等に分散させることは、企業経営者の経営判断として一般に採用し得る手法であって、商標権を、事業主体である被告ではなく、その事業運営を請け負う原告が取得し、被告からその商標使用料の支払を受けることは直ちに不自然であるとはいえない。また、原告と被告との間の本件商標使用許諾契約において定められた商標使用料は、平成25年9月期から平成27年9月期までの3年間の本件各物件に係る事業の売上額(甲A421)の平均に対し、商標権の全分類平均の使用料率2.6%(甲A422)を乗じた額と比べても相当程度に低廉であり(本判決別紙「本件各物件売上額等」参照)、原告各商標が一般的な普通名詞から構成されるものであってそれ自体の顧客吸引力が高いとまではいえないことを考慮しても、不相当に高額であるとはいえない。そして、本件商標使用許諾契約の効力が認められないのは、Dが利益相反取引についての会社法所定の手続を経ていなかったからであって、D以外の他の取締役らが、被告の不動産事業の経営を事実上Dに任せていたという事情が認められる本件において、本件商標使用許諾契約書が作成された平成20年10月当時、Dが当該手続に従って被告の取締役会の承認を得ることが困難であったような事情は見当たらないし、仮に取締役会の承認を得ておれば、原告は、被告に対し、本件商標使用許諾契約に基づき原告各商標の使用料を請求することができたはずである。しかも、平成21年8月20日から平成28年2月10日までの間、被告は原告に対し、現に本件商標使用許諾契約に定められた原告各商標の使用料の支払を行っていたことが認められ(補正の上引用した原判決の第2の2(7))、取締役であるA、B及びCは上記支払について容易に知り得たといえるところ、この間、平成25年11月に死亡したAが生前異議を述べていた事実は認められないし、B及びCにおいても、平成28年5月に被告が本件各業務委託契約(原告と被告との間で締結された、被告が本件各物件の管理等の事業全般に関する業務を原告に委託する旨の契約)等を解除する旨の意思表示をするまでの間、本件商標使用許諾契約が有効であるという前提で行動していたことが推認され、これに反する証拠はない。
 これらの事情・・・を総合すると、原告が被告に対し、原告各商標権の侵害を主張することが権利濫用に当たり許されないものと認めることはできない。そして、被告は、少なくとも過失により、契約上の権限を取得することなく原告各商標の使用を開始し、継続したことになるというべきであるから、被告は、原告に対し、不法行為に基づき、使用料相当額の損害を賠償する義務があるというべきである。」

解説/検討

 同族等の間の争いで、権利濫用を認めて商標権の権利行使を否定した例は過去にもあり、本件第一審判決はそれに類する考え方で、権利濫用を認めたが、本件控訴審判決は、本件商標使用許諾契約が有効であるという前提で従前行動していたことを重視して、使用料相当額の損害を賠償する義務があることを認め、権利の濫用に関する第一審の結論をひっくり返した点で興味深い。

       

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